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届け物は優勝杯  作者: 新井 富雄
第6章 帰艦
28/73

-23-

「ハルナという、一人の女に興味はありませんか?」

「もうしわけありませんが、僕は、好きとか嫌いとかいう感情で、女性を見たことがありませんので・・・ハルナさんのように可愛らしい女性を見ても、新しい生命を創り出す一個の母体としてしか扱えないのですよ」

「それは、とても残念です・・・ところで、ミユイさんとは、血が繋がっていないんですよね」

「よく、面差しが似てると言われましたが、ハルナさんが、おっしゃるように、血は繋がっていません・・・というか、父は、僕やミユイのように、科学者としての素質を持った子供を、政府から引き取って研究者として独立させることを政府から命じられていましたから・・・同じように、この研究所に集められた子供達も多くいますが、父が子供として引き取ったのは、僕とミユイの二人だけなのです・・・父の意図はわかりませんが、父が成そうとしていたことはわかります」

「難しい話を難しい言葉で言われても、ハルナは理解できないです・・・ミユイさんと結婚したり、ハルナと結婚したりとか、そういうことをライトさんは考えないのですか?」

「結婚ですか・・・考えたことはないですね」

 ハルナは、途端にがっかりした顔になる。

「ライトさんは、社交辞令という言葉を知ってますか?」

「知っていますよ・・・今、社交辞令が必要だったのですか?」

「そうです・・・『僕は、研究の虫なので、女性の扱いは不得手ですが、ハルナさんのような女性となら結婚してもいいですね』というのが正解です」

「そういうものなのですか?」

「そういうものです・・・イチロウと言い、ライトさんといい、どうして、こうハルナをぞんざいに扱う男ばっかりなのか・・・ハルナは悲しいです」

「資金の援助とかは、いただけないということですか?」

「そういうものが必要でしたら、もっとハルナを喜ばせてくださいね・・・女の身体の構造を理解していたとしても、女の心を理解できなかったら、研究に必要な資金は集まりませんよ」

「そういうものなのですか?」

 ライトは、先ほどと同じ言葉を繰り返す。

「そういうものです・・・でも、ちょっとだけ、ライトさんに興味を持ちました。今日は、もう時間がありませんが、また、遊びに参ります・・・その時、いろいろ教えてあげます」

「この研究所では、超高速ワープ通信が可能なので、世界中全てのデータベースへのアクセスが許されていますから、知りたい情報は全て手に入ります・・・教えていただかなくても、僕が知りたい情報を得ることは可能です」

「ライトさんが知りたいことと、ハルナが教えたいことと言うのは全く違うものなんですよ」

「そういうものなのですか?」

 ハルナは、三度めの同じ台詞を聞かされて、思わず吹き出してしまった。

「イチロウの世間知らずっぷりも凄かったけど・・・ライトさん・・・本当に研究以外に興味はないようなんですね」

「はぁ・・・」

「機械が計算して導き出す相性だけが、判断基準ではないこと・・・今度、よく、教えてあげますよ・・・でも、今日はありがとうございました・・・親友のセイラを喜ばせてくれたことについては、素直に、お礼を言います」

「僕は、ミユイから頼まれて、コンピュータに間違いがないという事実を伝えたかっただけですが」

「ミユイさんは、とても人の心を理解できていますね・・・セイラを安心させるのに、ベストなタイミングを、よくわかっている」

「ミユイの脳は、世界のどのコンピュータよりも優秀ですからね」

「もう・・・」

 ハルナは苦笑する。

「ほんとに・・・おかしな人ですね、ライトさんって」

「よく言われます」

「セイラも、ちゃんとお礼を言ってね・・・イチロウと未来の幸せを掴むことが夢の一つになったんでしょ」

「あ・・・」

 セイラは、ハルナの言葉に促されて、ソファから立ち上がり頭を下げる。

「ありがとうございました・・・いろいろと漠然と抱いていた不安が、解消されました」

 ハルナとイチロウも、セイラに続いてソファから立ち上がる。

「ヘルメットありがとうございます。大切に使いますね」

「ライトさん・・・ありがとうございました。来週の太陽系レース・・・がんばりますよ」

 ハルナに続き、イチロウも、ライトに礼を告げる。

「また、遊びに来てください・・・ミユイもそうだったけれど、僕も、この研究所から勝手に外出をすることを許されているわけではないので、自分から出向くことは難しいですが、来ていただけるなら、何時間でも、会うことはできます」

「早い機会にまた伺いますね・・・では・・・失礼します」

 ハルナ、セイラ、そしてイチロウは、ライトへの最後の挨拶を済ませると、研究所を後にした。


榛名山に建造されたマスドライバー『ハルナ』・・・その巨大さを間近で観たイチロウは、完全に圧倒されていた。

「凄いな」

「別に、ハルナが偉いって訳じゃないんだけど・・・でも、このマスドライバーを、ちゃんと活用しているっていうことが、もっと凄いことなんだと思う」

「ああ・・・俺のいた時代は、採算度外視の巨大施設なんていうのも、とても多かった」

「今もないわけじゃないけどね」

「とりあえず、このルージュを射出用カタパルトに乗せないといけないから・・・係りの人を呼んでくるね

 イチロウとセイラは、それまで、適当に愛でも確かめ合っていてくれていいよ」

「うん・・・なるべく早く係りの人連れてきてね・・・このオオカミくん・・・危険な雰囲気いっぱいだから」

 セイラが、珍しく冗談混じりに言う。

先ほどまで会っていたミユイの兄・・・ライトの言葉に、励まされたことが、セイラの気持ちをいつも以上に明るくしていることが、イチロウにも、よくわかっていた。

(セイラさんと、イチロウくん・・・今までに見たことのない相性の良さです・・・このエクセレント評価も、決して評価システムの不具合なんかではありませんよ)

「あ・・・でも、あたしも、16時の定期便のキャンセル手続きをして来ないといけないんだ」

「そう?じゃ、一緒に行こうか」

「うん・・・ハルナ、ちょっと待って」

 セイラも、ルージュのコックピットから降りる。

 セイラが、浮き浮きしながらハルナの手をつかんで手続き用の受付カウンターのある方向へ歩き出す。

「ずいぶん、嬉しそうだね」

 手を捉まれたハルナがセイラに訊ねる。

「そう見える?」

「あのライトさん・・・ミユイさんのお兄さんだったよね」

「うん、ライトさんも、素敵な人だったね・・・ちょっと世間知らずっぽかったけど」

「地球に住みたくなったんじゃない?」

「その言葉、そっくりお返しします。

 第2恒星系には、あたしの歌を聞きに来てくれる人がいっぱいいるから・・・やっぱり、あそこのほうが住み心地いいし・・・1ヶ月後には、ガンダムの撮影も始まるし・・・」

「そうだよね・・・でも、主題歌歌うだけでしょ・・・撮影は関係ないんじゃない?」

「う~ん、そうかもしれないけど、放送は、来年からだから、主題歌は、ぎりぎりまで作品のイメージを作り上げてから作るらしいし・・・歌姫登場のシーンも作ってくれるらしいし」

「挿入歌もあるんだ・・・」

「うん、すごい楽しみ」

「でも、今、セイラがうれしそうなのは、イチロウと何か進展があったからだよね」

「ハルナも聞いていたでしょ・・・イチロウくんの遺伝子の説明」

「聞いていたよ・・・ちょっと信じられなかった」

「イチロウくんにとっての運命の人が誰かは、あたしには分からないけど、でも、あたしにとっての運命の人がイチロウくんだってことがわかった・・・もう、ハルナに嫉妬したりしないよ」

「嫉妬してたんだ」

「ここだけの話だからね」

「ハルナと一緒にいるときは、あんな、とろけそうな優しい表情しなかったのにな・・・イチロウは・・・

 イチロウも、まんざらでもなかったみたいだし・・・よかったね・・・セイラ」

「ハルナは、ほんとうのところ・・・イチロウくんのこと、どう思ってるの?」

「いきなり、深窓の社長令嬢にナビゲータになれと言い出した空気の読めない世間知らず・・・ってところかな?」

「イチロウくんとハルナ、昨日・・・ゲームしてた時は、とても親密で、恋人同士にしか見えなかった」

「それで、嫉妬しちゃったんだ」

「うん・・・・ごめんね」

「そこで、謝らないの・・・いい男をゲットするのに遠慮してちゃダメだよ」

「ハルナも、イチロウのこと、いい男だって思ってる?」

「空気の読めないイイ男・・・女の子の気持ちに無頓着で、女の子から強引に迫られたら、絶対に墜ちちゃうタイプの優柔不断なスケコマシかな?」

「ひどい言い方・・・」

「セイラが聞いたんでしょ」

「そうだけどさ・・・今朝は、ありがとうね」

「ハルナは、何もしてないよ」

「二人だけの時間を作ってくれたから、イチロウくんに、好きだって、伝えることができた」

「・・・」

「ありがとう・・・ハルナ」

「いっそ、セイラも一緒に暮らそうか?」

「だめだよ・・・そんなことしたら、歌が(おろそ)かになっちゃう・・・今は、少しでも、イチロウくんにふさわしい女になるために、歌の勉強とお仕事をがんばらなくっちゃ」

「もう、じゅうぶんだよ・・・じゅうぶん、ふさわしいと思うよ」

「ハルナは、平気なの?」

「平気もなにも・・・ハルナは、イチロウにとっては、ただの賞金稼ぎみたいだから・・・まったく脈なしみたいだし・・・他に、イイ男見つけるよ」

「ハルナのほうが、あたしなんかより、ずっとイイ女なのにね・・・ごめんね」

「エリナ様と、ミリーちゃんが、恋のライバルなんだよ。ハルナは、もう降参です。絶対、勝てるわけないしね・・・セイラは勝つ自信ある?」

「あたしが負けず嫌いなの、ハルナが一番知ってるはずでしょ」

「まぁね・・・100年前の過去から突然やってきた最高の遺伝子を持った宇宙飛行士かぁ・・・諦めるのは、ちょっと早いのかなぁ」

「ハルナが、恋のライバルになったら、あたしのほうが、即降参だから・・・ハルナの事大好きだし・・・絶対に争いたくない・・・どんなことでも」

「とりあえず、今日は、そのライバル二人に、宣戦布告しないとだね」

「やめてよ・・・そういうの苦手なんだよ」


 マスドライバー『ハルナ』の受付窓口で、それぞれに必要な手続きを済ませた二人は、イチロウの待つ、ライム・グリーンの機体に戻ってきた。

「イチロウ・・・時間になったら、呼び出されるから、一旦降りて」

「わかったよ」

 イチロウが、スバル・ルージュのコックピットから降りてくる。

「カタパルトまでは、係りの人に任せるから、ロビーで、呼ばれるのを待とうか・・・イチロウは、お腹減ってない?」

「朝が、遅かったから・・・減ってはいないよ」

 イチロウと入れ替わるように、係員の一人が、ルージュに乗り込み、牽引用の車両が、それを連結して、カタパルトデッキのある方向へ移動させていった。

「直接、機体ごと上がる人は多くないからね・・・この時間で、セイラの機体を打ち上げることができて、ラッキーだった。ハルナのピンク・ルージュは、お父様が、持ち込んでくれていたから、もう、スタンバイは済んでるんだって・・・そっちは、ハルナが乗って行くから・・・

 ライムのほうは、イチロウとセイラが乗って行くんだよ・・・大丈夫?」

「大丈夫だと思う」

「大丈夫だよ・・・あたしは、初めてじゃないし・・・ハルナと、何度か上がってるから。まったく、問題ないと思うよ」

「まぁ、コックピットに乗ったら、後は寝てるだけで・・・いいんだから。打ち上げ後は、オータ(ケアル)のカゲヤマさんが、キャッチしてくれるらしいから、大船に乗ったつもりで、ゆっくり熟睡してていいからね」

「うん・・・全然、平気」

「イチロウ・・・梅の林を案内できなくって・・・楽しみにしてたとしたら・・・ごめんね」

 ロビーに向かう通路を歩きながら、ハルナが、突然、思い出したようにイチロウに謝罪の言葉を伝えた。

「いいよ、いいよ、さっき、ここに来る時も上から見るだけで、充分楽しめたから」

「あのさ・・・イチロウがよかったら、来週の日曜日、レースの後で、もう一回、地球に降りてみない?」

「もう1回か・・・」

「さすがに、来週の月曜日は、仕事の予定は入れてないんでしょ」

「それは、まぁ・・・月曜は特別休暇と言われているけど・・・予選を通過しないと、それもパァなんだけど」

「あたしは、月曜日・・・声楽レッスンがあるから、地球には、来れないよぉ」

「セイラは、そこで情けない声を出さないの

 じゃぁ、決まりね・・・草津温泉にスノーテルメ・クサツってホテルがあるから、そこで祝勝会しましょ・・・もっとも、混浴じゃないけどね」

「スノーテルメ・クサツ?・・・俺、そこに泊まったことあるよ・・・」

「ほんとに?」

「あそこって、カドクラのホテルだったんだ」

「お祖父ちゃんが買い取ったホテルなんだよ・・・そんな前から営業していたんだ」

「温泉か・・・悪くないな・・・混浴じゃないのは残念だけど」

「へぇ、そういう気の効いた冗談が言えるようになったんだ。イチロウも・・・

 夫婦用の貸し切り温泉はあるんだけどね・・・イチロウとハルナは夫婦じゃないから借りられません」

「わかってるよ」

「もっとも、1時間5万ドル払ってくれれば、ハルナのヌードは見放題だよ」

「高すぎだろう?」

「あはは・・・昨日だったら、タダだったのにね・・・損しちゃったね、イチロウ。

 あ・・・それと、エリナ様は、イチロウが誘ってね・・・地球が嫌いなんでしょ・・・エリナ様って」

「そうなんだよな」

「でも、エリナ様が使ってる、あのテレポートスーツって、大気のある場所からでもワープできるんだよね・・・実用化すれば、完全な『どこでもドア』になるよね・・・そうなると、このマスドライバーも、お払い箱かぁ・・・ちょっと寂しいな」

「ほんとうに実用化できればだけどな・・・」

「2111年・・・『どこでもドア発明される』ちょうど、今年なんだよ・・・今年・・・イチロウが目覚めたことも・・・イチロウとエリナ様が、一緒に生活してることも・・・もしかしたら、意味があるのかもね」

「どうかな・・・そんなものが、簡単に実用化できるものなのか・・・」

「それを言ったら、このマスドライバーだって、人を打ち上げるのは、不可能だって言われていたんだから・・・ミユイさんやライトさんみたいな優秀な人たちが、一生懸命、研究をしてるんだよ・・・不可能なことなんて・・・絶対ないよ」

「そうだな・・・エリナにも頑張ってもらおう」

「ハルナも応援するからね」


 ライム・グリーンのルージュに、再び乗り込んだイチロウは、隣で、眼を閉じているセイラの顔を眺めていた。

「あんまり見詰めると、あたしの顔に穴が開いちゃうよ」

 ヘルメットを着け、眼をつぶったままのセイラが、独り言のような小さい声で囁くのが、イチロウの耳に届く。

「セイラは・・・かわいいな」

「今頃、気づいたの?」

 相変わらず眼を瞑ったまま、セイラは、口元に笑みを浮かべて答える。

「もうすぐ出発だから、ちゃんとヘルメットを着けて、お薬を飲んでね。5分で催眠効果が現れるから・・・意識が残ってると・・・発射の衝撃でパニックになっちゃう人もいるから・・・気をつけてね」

「ああ・・・わかったよ」

 イチロウも、セイラの言葉に従い、ヘルメットを被り直す。

「もっとも、NASAの訓練を経験したイチロウなら、お薬必要ないかもね」

イチロウも、係員から手渡された、催眠効果を持つ1粒の麻酔薬を口に入れ、セイラのように目を瞑る。

『では、テイクオフまで、後35分です・・・テイクオフの直後、メインロケットの点火は、こちらで執り行いますので、ごゆっくりと睡眠を取ってください』

 管制官の事務的だが明るく朗らかな、案内のアナウンスを告げる声が、コックピットの通信用スピーカーから聞こえた。

「わかりました・・・後は、お任せします」

(ロケットの打ち上げについては、パイロットは、確かにまな板の上の鯉だ・・・何もすることはないんだよな)

「よろしくお願いします」

『歌手のマリーメイヤ・セイラさんですよね・・・今度、地球でもコンサートやってくださいね。絶対、聞きに行きますから』

 突然、事務的だった管制官の声の口調が変化して、セイラに、そのように話しかけてきた。

「はい・・・次に来る時は、オータ・シティで屋外コンサートとかやってみたいです」

『屋外だと、自家用飛行機で空が満席になっちゃいそうです』

「はい・・・できる限りたくさんの人に来てもらいたいから・・・誰からも見てもらえるよう・・・聞いてもらえるように、屋外で・・・」

『絶対、応援行きます・・・では、もう一度、シートベルトを確認してください。

 5分後に、カドクラ様の機体を打ち上げた後、30分後に、そちらを打ち上げます

打ち上げ後は、弊社のキャッチャー担当がトムキャットでドッキングしますから、そのドッキング信号を感知して、そちらのコックピットのウェイクアッププログラムが作動します・・・無事、宇宙に到達したら、すぐに、眼を覚ますことができます・・・安心して、お休みくださいね』

「ありがとう・・・」

管制官の説明に礼を言った後、パイロットシートに、深く腰を収めたところで、イチロウは、強烈な睡魔を感じた。

そして、意識が遠くなり、セイラと二人、完全なるスリープ状態となって、打ち上げの瞬間を待った。


ハルナが乗るショッキングピンクのスバル・ルージュが、まず射出される。

超高速のカタパルト移動の後、宇宙に向けて射出されたルージュは、外部からのコントロールにより、メインロケットが点火され、加速される。

あっと言う間に、第ニ宇宙速度を越えるスピードを得たルージュは、そのまま、大気圏を突破し、宇宙空間へ飛び出していく。

打ち上げられた機体は、パイロットが睡眠状態であることから、スペースコンテナと同様に、宇宙空間で待機するキャッチャー係員により受け止められる。

今回のキャッチについては、オータ(ケアル)エクスプレスのシマコとカゲヤマが担当し、初めにハルナの機体をシマコがキャッチした。

キャッチと同時に、慣性フライトとなっているルージュのスピードを緩和するため、シマコは、ドッキング・プロセスのプログラムを起動する。

このドッキング・プロセスにより、ドッキングが成功すると、ハルナの機体のウェィクアッププログラムが作動し、パイロットをスリープ状態から目覚めさせることができるのである。

定期便の場合には、乗船客は、全員、同じようにスリープ状態になるが、射出Gに耐えられるベテランが機体を操縦するため、パイロットは眠らずに、、こういった手順・プログラムを必要としないのだが、自家用機体での大気圏突破を要望する顧客に、万一の事態が起こることを考慮し、ベテランも初心者も、全てが、このプログラム手続きを取ることが義務付けられている。さらに、睡眠状態のパイロットを、揺り籠の要領で揺らすことにより、身体にかかるGの軽減を図る。

スバル・ルージュだけでなく、他の大気圏脱出が可能な性能を持った機体には、この揺

り籠式コックピットの採用が義務付けられていて、このコックピットの揺り籠性能が基準に満たない機体は、大気圏脱出が認可されない。

 30分後、ハルナの機体に続いて、イチロウとセイラの乗る機体が打ち上げられる。

こちらもプログラム通りに、無事、カゲヤマがキャッチすることに成功した。

「例のオオカミくん・・・無事キャッチできた?」

 シマコが、カゲヤマに話しかける。

「無事・・・1機だけの予定だったのに・・・3機とはな・・・会長も、よっぽど、このイチロウが気に入ったんだな」

「そうみたいね」

 午前中に射出されたスバル360のキャッチも担当し、その車両を収めたコンテナボックスは、オータ(ケアル)エクスプレス所有のコンテナ収容専用の宇宙ステーションの一時預かり用ドッキングユニットに接岸されている。

「そろそろかな?」

 シマコが、カゲヤマに問いかけながら、ハルナの様子を伺う。

『お世話になりました・・・オータ(ケアル)のシマコ・ハセミさんですね』

「さすが、慣れてるみたいね・・・オオカミくん達のウェイクアップ・プログラムも、そろそろ起動する頃だから、カレが起きるまで、もう少し待っててね」

『日曜日なのに、お仕事させてしまって、申し訳ありません』

「全然・・・ちゃんと休日手当ては出るんだから、どっちかというと、わたしたちには美味しい部類の仕事なんですよ」

『恐れ入ります・・・そちらのルージュは、わたしのほうで引き取ります』

「特に急いでるわけじゃないんでしょ・・・だったら、少し、わたしたちと、おしゃべりしない?いくつか、聞きたいこともあるし・・・うちの会長からも、よろしくって頼まれてるから」

『聞きたいこと・・・ですか?』

「まず一つは、カドクラのご令嬢が、なぜ、ルーパスの連中に肩入れしてるのかってこと」

『わたし・・・エリナ様・・・エリナ・イーストの大ファンなんです』

「へぇ・・・モンドといっしょだね・・・あと、昨日の練習をさぼった理由も聞いていいかな?」

『さぼったわけじゃないですよ・・・父に、タカシマさんを会わせたかっただけで・・・父も多忙なので、昨日しか都合がつかなかったんですよ』

「なるほど・・・昨日は、そのエリナちゃんの機嫌を(なだ)めるのに、けっこう骨が折れたんだよね」

『それは、失礼いたしました』

「責めてるわけじゃないから・・・まぁ、来週は、よろしく・・・モンドは、何か聞きたいこと・・・ない?」

『そうだな?なんて呼べばいいのか、ハルナちゃんでいいのかな?』

『あの・・・それって、ちょっと馴れ馴れしいんじゃないですか?』

『それじゃ・・・ハルナお嬢様?』

『それでもかまいませんが・・・普通にハルナさんじゃだめなんですか?』

『それは、あまりにも他人行儀なんじゃないか?』

『だって、他人ですよね?』

『俺は、キミともっと親密になりたいんだが・・・』

『エリナ様に、そう伝えておきますね』

『そういえば、エリナと一緒に暮らすって情報が入っているんだけど・・・よく、あのエリナが、そういうことを許してくれたね』

『まだ・・・許された訳ではないんです・・・ルーパスにいらっしゃいと誘われただけなので』

『エリナも相変わらずだ・・・

会ったら、カゲヤマ・モンドがよろしく言っていたと伝えてくれ・・・お、ようやく・・王子様と王女様が、お目覚めのようだよ』


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