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「ありがとう・・・としか言えないけど」
「言いたいこと言ったら、すっきりしちゃった・・・あのさ、こういうのって、どう?」
「こういうのって?」
「今から、イチロウと、あたしの子供を人工子宮で育てるの・・・そうすれば、7年後には、二人の遺伝子を受け継いだ子供達に会うことができるよ」
「・・・」
「あたし、何か変なこと言ったかな?」
「それって・・・俺と結婚するってこと?」
「?」
セイラは、イチロウの質問に小首を傾げる。
「ほんとうに、イチロウくんは、昔の人なんだね」
「あたしには、親もいないし、兄弟もいないんだ・・・
ハルナも、本当のお母さんとは会っていないし、もちろん、ハルナのお父様も、まだ、結婚はしてないんだよ。
別に、それは、この時代では、不思議なことじゃなくってね・・・優れた遺伝子の結合については、特別枠で人工子宮の使用が許されるの・・・
産まれた子供は、全て、教育指導士が教育するから・・・
その教育指導士の手を離れた子供達は、仕事に就いて、それぞれ自活していくってことは、知ってるよね」
「ああ・・・そのことは聞いた」
「そのまま、あたしみたいに自活する子供も多いけど、自分の遺伝子を受け継いだ子供と一緒に生活する事も、もちろんできるの。その時に、別の人と結婚していても、相手の人の許しがあれば、という条件で、一緒の生活ができるってことになってるの・・・」
「それって・・・」
「ハルナみたいに、頭が良くないから、うまく説明できなくてごめんね・・・
えっと、例えばね・・・」
「・・・」
セイラは、何に例えればいいか、少し考えてから、左右の人差指を一本ずつ立てた。
「イチロウくんとあたしが、ここに、います」
「うん・・・」
「で、この二人が、人工子宮に、受精卵を10人分、預けます。もちろん、この受精卵は、イチロウくんとあたしの子供だからね」
「・・・」
そこで、セイラは、両手を広げ、合計10本の指を立てる。
「この時、預けた10人の子供達が一緒に産まれて・・・それぞれ教育過程を終わらせます」
「・・・」
「こっちの5人は、成績優秀なので、政府が引き取って、引き続き英才教育を施すことに決定しました・・・」
セイラは、そこで右手の5本の指を一旦突き出してから、それをぎゅっと握り締め拳の形にしてから後ろ手にして隠してしまった。
「そして、残った5人を、あたしが全員引き取ります」
左手の5本指を開いて、自分の胸に引き寄せる。
「この時、あたしが、エイクと結婚していたとしても、実の父親でなくても・・・エイクがOKしてくれれば引き取れるんだよ」
「俺が引き取りたいって言ったら?」
「うん・・・イチロウくんが、その時、ハルナと結婚していたとしたら、まず、ハルナがOKすることが条件・・・で、あたしが、どうしてもイチロウくんには渡したくないって主張すれば・・・イチロウくんは引き取れません」
「女親が優先なのか?」
「うん・・・」
「10人一緒に預けるというのは?」
「あたしの卵子は、全て冷凍保存されてるから、男性側の提供者がいれば、いつでも受精させることができるの・・・もちろん、この時代の女性はみんなそうやってるよ。
それがルールだからね
わかりましたか?」
「なんとなく・・・」
「他に質問ありますか?」
「頭の整理がつかなくて・・・なんか混乱してる・・・俺とセイラが、その時、結婚していたら・・・全員、引き取れるのか?」
「全員って・・・10人全員?」
「ああ・・・」
「政府が育てると決めた子供達とは、会うことは許されるけど・・・一緒には暮らせないの」
「エクセレント評価の男女から産まれた子供の半数以上は、政府が引き取るって聞いたよ・・・もっとも、あたしの友だちには、そういう組み合わせの人っていないから」
「俺のほかに、エクセレント評価の相手はいるのか?」
「今のところいません・・・ごめんね、説明が下手糞で・・・一応、ランクでいうとエクセレントの下が『特別A』『A』『B』となって『F』までの8段階
で、その『特A』以上なら、人工子宮の特別枠を使えるの。今現在・・・あたしにとっての『特A』は、3人です・・・」
最後の言葉だけは、小さく、こっそりとセイラが言ったので、イチロウが集中して耳を傾けていなかったら、聞き逃すところだった。
「そろそろ、ハルナが迎えに来る時間かな?」
その言葉と、ほぼ同時に、扉をノックする音が聞こえた。
「セイラ様・・・タカシマ様・・・オータケ様がお話があるとのことです。
朝食が済んでいるようであれば、お連れするようにと言われております。お食事は、お済みですか?」
「ミナトさんですね・・・すぐ、行きます。イチロウくんも大丈夫だよね」
「ああ・・オータケ会長に、挨拶しなくちゃと思っていたから、ちょうどいい」
セイラとイチロウは、席を立つと、部屋の扉を開け、廊下で待っているミナトと一緒に、オータケ会長の待つ部屋へと向かった。
オータケ会長の待つ私室に通されたイチロウとセイラの二人は、丁寧に挨拶をすると、オータケに促されるまま、席に着いた。
そこには、イチロウを迎えにきたハルナも席に着いていた。
「話というのは、他でもない・・・マリーメイヤ・セイラ・・・キミに、以前から申し入れていることの返事を聞きたくてね」
「あの話は、何度もお断りしているはずですが・・・」
「わたしは、諦めが悪いから、断られることは覚悟している。でも、こうやってチャンスを見つけて言っておかないと忘れられてしまうからな」
「悪い話ではないと思うのに、セイラの頑固さも相変わらずなんだから」
ハルナがにこやかに、コメントをする。
「とても、ありがたい話であることは、よくわかってるんです」
「タカシマくんは、事情がわからないだろうが、わたしは、ずっと、このセイラくんを養女に迎え入れたいとお願いしているんだよ
3年以上になるかな・・・」
「はい・・・でも、お話というのは、それだけなんですか?」
「いや、きみに、プレゼントがあるので受け取って欲しくてな」
「わたくしも、先ほど、お庭で拝見いたしました。とても、素敵なプレゼントでしたが、セイラは、パイロットライセンスを持っていないですよね」
ハルナが、言葉を添える。
「そうだったのか・・・プレゼントというのは、こちらのハルナくんも乗っている、宇宙用ミニクルーザーのスバル製ルージュという機体だ・・・もっとも、標準装備で、ワープ装置もついていないので、買い物に行く時の足代わりくらいにしか使用用途はないかもしれないが・・・どうだね、もらってはくれないか?」
「そのような高価な物をもらうわけには、いきません」
「そうか・・・昨日のゴルフ大会の賞品として用意したものなのだが、こちらのハルナくんのお父上・・・カドクラ社長が優勝してしまったので・・・どうしたものかと・・・カドクラ社長は、知ってのとおり、オーナーズクラブの会長で、既に3機を所有していて、これ以上は必要ないというのでな・・・
そこで、セイラくんなら、第2恒星系をテリトローとしている・・・ルージュがあれば、何かと便利ではないかと言ってくれたのだ・・・はて、困った」
「あの・・・優勝ペアですよね・・・ライラさんは使わないんですか?」
イチロウは、差し出がましいとは思いつつも、訊ねてみた。
「彼女は、しばらく宇宙に行くことは、ないそうだ・・・セイラくんにと言い出したのは、彼女なので・・・ライラさんからのプレゼントだと思ってもらっても良いのだが」
「でも、わたしには・・・もったいないです」
「受け取ったらどうだい?クルーザーの操縦なら、俺が教えられるし、エリナなら、ライセンスの取得方法とか、よくわかってるから・・・すぐに手続きもできるはずだ」
「イチロウが、そんなこと言うなんて・・・ちょっと意外・・・」
ハルナが、イチロウに眼を合わせて言う。
「第2恒星系に自宅があるのなら、俺が届けてあげるから・・・」
「セイラ・・・もらっておきなさいよ」
「わかりました・・・ありがとうございます・・・オータケ様」
「よかった・・・よかった・・・では、さっそくキーを渡しておこう・・・3人とも、今日のマスドライバーで、宇宙に戻る予定だと、言っていたようだが、予約時間は、何時かな?」
「わたしとタカシマさんは、13時のフライトです。自分の機体で宇宙に上がることになりますから・・・」
ハルナが即答する。
「わたしは、16時の定期便です。だから、少し、時間に余裕があります」
セイラは、そう返事をした。
「そういえば、イチロウは、ミユイさんのメッセージ、ちゃんと聞きましたか?」
ハルナが、唐突に話題を変える。
「ああ・・・リューガサキ・シティにプレゼントが用意されてるって・・・」
「オータケ様、昨日は素敵なパーティにお招きいただき、ありがとうございました」
ハルナが、席を立ち、深いお辞儀をする。
「オータケ様が、ご懸念のように、ちょっと宇宙に上がる前に、寄るところがありますので、そろそろ、お別れのご挨拶をさせていただきます」
「おうそうか・・・急ぎのところ、引き止めて済まなかったね・・・タカシマくん・・・昨日は、面白い話を、たくさん聞かせてくれて感謝している・・・また、100年前の話をいろいろ聞かせてほしい」
「はい・・・喜んで」
「来週は、うちのカゲヤマとの勝負となるので、キミを大っぴらに応援するわけにはいかないが、聞けば、うちの配送の手伝いもしてくれてるそうじゃないか・・・たいへん、ありがたく思っているよ・・・」
「あれは、うちのミリーという営業が取ってきたものなので、わたしは、言われたまま、運んだだけです・・・でも、会長の、お役に立てているのであれば、嬉しいです。方面が合えば、喜んで、配送のお手伝いさせていただきます」
「うん・・・きみたちのルーパス号より速い機体は、今のところ存在しないからな・・・こちらも当てにしてるよ」
イチロウも立ち上がり、オータケ会長に握手を求める。
「お互い、宇宙を住みやすい環境にするために頑張りましょう」
「来週は、わたしも宇宙に上がって観戦させてもらうよ。2月は水星・・・3月は金星だったから、ちょっと足を運べなかったが、今回は、地球周回だからな」
「ありがとうございます」
イチロウは、握手する手に力をこめる。
「では、オータケ様・・・わたしも帰ります。あの話・・・わたしが、結婚できたら、あらためて、考えさせていただきます」
「結婚するのか・・・?それは、一ファンとしては残念だが・・・」
「その時、新婦の父としてオータケ様に祝っていただけるよう・・・わたしも、がんばります」
セイラが、満面の笑みを浮かべながら悪戯っ子のように言い、小さいガッツポーズのように拳を握る。
「それは、嬉しい申し入れだ・・・是非、早めの結婚を望まずにいられないよ・・・歌手・・・アーチストというのは、早く身を固めたほうが、よりよい曲つくりをできると、わたしも確信しているからな・・・セイラくんには、歌手としての活動に専念するためにも、生活面の援助をしてあげたいと、常々思っていたのだが、いつの間にか、よい人ができていたのだね・・・素直に、おめでとうを言わせてもらうよ」
「ありがとうございます」
セイラはオータケの手を握り締め、さらに満面の笑顔を添えて感謝の礼をする。。
オータケに別れの挨拶を済ませた3人は、とりあえず一度見ておこうということになり、ルージュが置いてあるという自家用ジェットの離着陸場に足を運んだ。
「見た目は、いっしょだけど・・・標準仕様なんだよね・・・ちょっと残念」
「あたしには、過ぎたプレゼントだよ、色も・・・綺麗なライムグリーンだし」
「セイラ専用色になったりしてね・・・一応、ハルナのは専用カラー・・・市販のカラーバリエーションは、パステル系が主流なので、ショッキングピンクは、1機しか存在しないんだよ」
「専用だと目立ち過ぎだよ・・・でも、そうだ・・・イチロウくん、改めてお願いしてもいかな?」
ルージュに背を向けて、イチロウと正面から向き合ったセイラが、その両手でイチロウの手を包み込むように握り締め、少し、見上げるように、イチロウに視線を合わせる。
「改まられると、困るけど・・・俺にできることなら・・・」
「あたしが、パイロットライセンスを取れたら・・・ランデブーフライトで、わたしをジャコビニ・ツィナー彗星に連れてって・・・ください」
「なぁに・・・それ・・・?」
イチロウが、答えを返す前に、成り行きを見守っていたハルナが、不思議そうに言いながら、イチロウの顔を見上げる。
「俺が言い出したことだしな・・・いいよ、ジャコビニだけじゃなくて、他の彗星も追っかけてみよう・・・
そうだ、セイラは、今日定期便で宇宙に上がるって言ってたよね」
「うん」
「これを宇宙に打ち上げる役目、俺に任せてくれないか?」
「イチロウは、自家用クルーザーで宇宙に上がったことないんじゃない?だいじょうぶ?」
ハルナが心配そうに訊ねる。
「セイラに、お礼をしたいんだ・・・今の俺にできることといったら、これくらいだから・・・ハルナは、一人で上がってもらえるか?」
「いいよ・・・でもね、自家用機を上げるのは、マスドライバー施設の人なので、パイロットは、打ち上げ完了後、キャッチャーとドッキングした機体をスムーズに移動させるだけだよ」
「それでも、セイラの役に立ちたい・・・いいかい?セイラもハルナも」
「定期便・・・キャンセルしなくっちゃね」
セイラが、ポツリといい、嬉しそうに、イチロウの手をもう一度握り締める。
「イチロウ、心配しなくても、マスドライバーの利用料金は、無料だからね。燃料代もいらないんだ・・・運用・管理は、オータ癒エクスプレスがやってるけど、実態は政府施設なの・・・だから、何回使っても無料」
「そうなのか?」
「うん・・・ところで、リューガサキ・シティに行くんでしょ・・・せっかくだから、これに乗って3人で行こうよ・・・まだ、イチロウに地上での飛行は無理だから、ハルナが運転してあげるよ」
ハルナは、嬉しそうに、2人を誘う。
「そうだな・・・セイラもつきあってくれるかい?」
「もちろん・・・でも、なんでハルナは、そんなに嬉しそうなの?」
「秘密・・・でも、行けばばれちゃうかもね・・・」
「なんとなくわかったかも・・・」
「ふふ・・・じゃ・・・時間も、もう余りないし、行こうか?」
ハルナの手で操縦されたライムグリーンのスバル・ルージュは、ツクバシティからツクバミライシティを経由し、リューガサキシティ上空にやってきていた。
「とりあえず・・・カドクラの研究所に、この機体を着陸させるね・・・そこからは、カドクラの社有車が使えるから、イチロウに運転してもらう・・・いいよね」
「わかったよ」
ミユイが残してくれたメッセージで伝えたプレゼントが用意されているという目的地・・・リューガサキシティにある龍ヶ崎第113研究所施設内に、ハルナとイチロウ、そしてセイラの3人は、足を踏み入れた。
受付で、3人を出迎えたのは、ミユイと、どことなく面差しの似ている若い青年だった。
「ミユイから話は聞いている・・・始めまして、タカシマくん・・・ミユイの兄・・・ライト・リューガサキです」
「タカシマ・イチロウです」
ライトと名乗った、その青年は、気さくに手を差し伸べ、イチロウに握手を求めてきた。
「とりあえず、忘れないうちに渡しておこうか・・・これが、ミユイから依頼されて用意した、ヘルメットだよ」
内部部品を含めて、全てがクリアパーツで作成された、完全な透明シールドで覆われたヘルメットを2つ・・・ライトは、イチロウとハルナに手渡した。
「ハルナさん用は、少しパーツに色を混ぜておいた。透明になっているが、完璧に太陽光を遮断できる構造になってるから、安心してくれていいよ」
確かに、ハルナが受け取ったもののほうは、薄いピンク色の素材が使われていた。
「ハルナさんが使用しているという麻痺薬は、薬物だからね・・・ドーピング検査で引っかかる恐れがあるからレースの本番ではあまり使わないほうがいい。・・・もっとも、太陽系レースは、その辺は甘いから・・・問題ないといえばないんだが・・・このヘルメットの一番の特徴は、その麻痺薬と同等の効果を持ってるということなんだ・・・しかも、麻痺効果解除のタイマーセットも自由自在だ。実用化にこぎつけたのは、ミユイが、父の元に辿り着けたことが大きい。
キミの手柄だよ・・・タカシマくん」
「まだ、おっしゃる意味が、よく分からないのですが・・・」
「まぁ、立ち話もなんだから、一番急ぎの用は果たせたので、少し、腰を落ち着けないか?
興味があるなら、この研究所の案内でもしてあげるけど?」
「ハルナ・・・時間は大丈夫か?」
「そうだね・・・30分くらいなら、問題ないと思うよ。
ライム・ルージュは、スピードが標準仕様なので、榛名山まで10分は見といたほうがいいと思う。
だから13時の出発時間に間に合わせるなら、12時までには、到着させておかないと怒られちゃう」
「結構いそがしいな。じゃ、11時半まで、お茶でも飲んで行くといいよ・・・研究所を説明するのは、またの機会にしよう
どっちかというと、僕は、セイラさん・・・キミに伝えたいことがあるんだ」
「あたしに・・・ですか?」
「ああ・・・だから、やっぱり、中に入ってくれ。見せたいものもあるんだ」
そういうと、ライトは、入り口に近い場所にある比較的広い部屋に、3人を案内した。
その応接セットが置かれ、巨大なモニター画面が壁一面にはめ込まれている部屋に、腰を下ろさせると、すぐに、自身の携帯端末を操作して、壁面のモニターに、DNA模型のような図形のCG映像を表示させた。
「ミユイから聞いていると思うが、このリューガサキという都市は、あらゆる分野の研究開発が行われていて、特に遺伝子工学については、世界でトップクラスの頭脳が集められていることで知られている」
「その説明は聞きました」
「ハルナも、もちろん知っています・・・うちの研究所もありますからね」
「国家を形成するトップクラスの頭脳の数と、それを上回る、未来の頭脳集団・・・いわゆる、最高の性能の遺伝子を保存し、産み出すことのできる設備に関しても、世界一の水準を維持している」
「それが、セイラにどう関係しているのですか?」
「そちらのセイラさんは、世界でも稀な最高水準の遺伝子を持っているのですよ」
「あたしが・・・ですか?」
「そうです・・・セイラさんは、遺伝子の検査をもちろんしていますよね」
「はい・・・嘘か本当か、あたしには、なんの取り得もないのに・・・遺伝子だけは優秀だって・・・」
「タカシマくん・・・そのセイラさんの遺伝子にとって最高に相性のいい遺伝子を持つのが、実はキミだと言ったら、この偶然を、素直に認めることができますか?」
「冗談ですよね・・・としか言えないですよ。嘘でも、そう言われれば、嬉しいのは間違いないですけど」
「タカシマくんは、セイラさんの歌声を聞いたことはあるよね?」
「昨日も聞いています・・・それと、驚いたのは、ワープステーションで行われたコンサートの中で聞いた時です」
「ワープステーション・セカンドインパクトのコンサートホールの中ということだね」
「そうです・・・」
「セイラさんの声の質は、CD音源では、その効果が殺されてしまいがちですが、直接、空気を振動させた場合・・・他人の脳をコントロールすることができる振動波を産み出すことができるのです」
「それは・・・」
「こう言えば・・・少しは、分かりやすいかな?セイラさんの声は・・・歌は・・・マインドコントロールに最適なんですよ」
「はっきり言うんですね」
「言い方が悪かったかな?」
「いいんです・・・事実ですから」
セイラは、少し寂しそうに言う。
「悪用されない限りは、まったく問題ないレベルだから、そんなに、みんなを言うとおりに操るとか、そういう心配や不安を感じることはないんだが・・・」
「ライラに言われたことがあります」
「知ってるんだね」
「セイラさんの遺伝子・・・血を受け継ぐ後継者は、その特殊な声の質を受け継ぐことになる・・・だから、しっかりと、その遺伝子を受け止める強い相手が必要になる」
そこで、セイラの顔が、急に明るく変化する。
「まさか・・・エクセレントというのは」
「気づいたようだね・・・」
「中央政府の遺伝子データバンクが結論付けた評価・・・エクセレントというのは、『特A』レベルを上まわる相性の良さなんだ」
「あたしの直感は、間違ってなかったんだ」
「タカシマくんが好きかね?」
「はい!!」
「セイラさんと、タカシマくん・・・今までに見たことのない相性の良さですよ・・・このエクセレント評価も、決して評価システムの不具合なんかではありません・・・それを、きみには知って欲しかった」
「はい・・・ありがとうございます」
セイラは、素直に喜びを顔に出す。
「タカシマくんのほうは、複雑そうだね・・・まぁ、無理もないが・・・それに、誰かから聞いているかも知れないが、タカシマくんの場合は、エクセレント評価されている相手は、セイラさん一人だけじゃないから」
「・・・」
イチロウは、そのことを、セイラから聞いたことを思い出した。
「残念ながら・・・ハルナとイチロウの相性は、『特A』止まりなんだよね・・・それでも、いいとは思ってたんだけど・・・セイラを助ける為なので、ハルナは、イチロウから手を引きます・・・同じ、特Aのイイ男が目の前にいますしね・・・」
「それって・・・・」
「はじめまして・・・ライトさん・・・門倉榛名です。ライトさんは、まだ独身ですよね・・・よかったら、また、会っていただけますか?」
ライトは、ハルナの言葉を予期していたように、にっこりと微笑んだ。
「こちらから、お願いしたいくらいですよ。今日も、こんなに忙しいスケジュールでなければ、本当に、ゆっくりとお話をしたかったのですが、末永い、おつきあいができることを願っています」
「ライトさんは、ビジネスのパートナーとしてのカドクラにしか興味がないようですね」
「研究をするには、資金は必要です。そこで、きれいごとを言ってもしかたありません。紙とペンだけで、研究を続けることもできるのは確かですが、人工子宮を1基増やすにも、購入費用は発生します。科学者などと、もてはやされて、このような研究施設をあてがわれてはいますが、実際には、発明した物・・・発見した物を研究成果として発表するだけでは意味がないのです。
万人とは言いませんが、ビジネスが成立するだけの需要を産みだせない発明品などは、ただの科学者の自己満足にしか過ぎないですからね・・・だから、スポンサーは多いほうが嬉しい」