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届け物は優勝杯  作者: 新井 富雄
第5章 GD21
24/73

-19-


 そして、次のエリアへと一同が、足を踏み入れる。エリアチェンジにより、風景が歪み、先のほうが螺旋状に続く長い回廊のエリアに風景が変化する。

「次の中ボス、俺たちが倒してもいいか?」 エイクが、イチロウに直接話しかける。

「それは、かまわないけど・・・」

「さっきのミリーちゃんとユーコの会話で、思い出したんだけどさ・・・」

 エイクは、人懐っこい笑顔を、イチロウに向ける。ユーコも、同じような笑顔で、イチロウを見る。

「俺達のサテライト・キャノン・シュートは、どっちかというと偶然の産物なんだ・・・成功したのは、一回だけだったしな・・・全日本代表でも狙ってみるつもりだけど、成功確率は低いんだ・・・相手もいることだし」

「その時のビデオ・・・今度、観させてもらうよ」

「ちなみに、サテライト・キャノン・シュートは、ウィイレの製作スタッフが付けてくれた名前で、俺達は、ちょっと恥ずかしくて、口に出せないよ」

「うん・・・けっこう恥ずかしい」

 ユーコも照れる。

「でも・・・ミリーちゃんは、公式の賞金がかかっているゲーム大会の決勝で、それを狙って成功させているんだ」

「それって、凄いことなんだろうな・・・実感沸かないけど」

「ゲームが好きでゲーマーをやってるプロも多いけどさ・・・ミリーちゃんのプロ根性は、はっきり言って、俺から言わせてもらえれば、とんでもないレベルだよ」

「プロ根性・・・?」

「一言で言えば・・・そうだな、『見せる』ことにこだわってるって言えばいいかな」

「『見せる』ためのゲームプレイってことか?」

「サッカーの試合でも同じだと思う・・・勝つことにこだわって、つまらない試合しかできなくなったら、やってるほうも、見てるほうもつまらなくなって、そんな試合が続いたとすれば、きっとサポーターは離れて行ってしまうんだと思う・・・俺だけかもしれないが、あの時のミリーちゃんのプレイからは、一瞬たりとも目を離すことができなかったよ」

「『太陽系レース』も見せるレースをしろって言いたいのか?」

「察しがいいじゃないか・・・ぶっちゃけちゃえば、その通りだ。

 勝つことにこだわるのは、プロとして、当然のことだ・・・しかし、見せて勝つということに、俺達はこだわりたいと思ってる。余力を残さず、サポーターの見たいと希望するプレイを、迷わずに実行する・・・そこに、こだわりたいと思ってる」

「俺には、そんな余裕はないかもしれないけど・・・その言葉は忘れないようにしようと思うよ」

「で・・・本題だ。ミリーちゃんを、次の中ボス戦・・・ダークパンサーデーモンとの戦闘に借りてもいいか?」

「本人には、聞かないのか?」

「だって、ミリーちゃんは、イチロウの未来の花嫁なんだろう?」

「あれは、冗談だって・・・」

「だろうとは思うけど・・・じゃ、イチロウはOKだな」

「ミリーが良ければ、俺は、どっちでもいいよ」

「ちょっと、作戦会議したいんだけどさ」

 エイクが、大声で、みんなに呼びかける。

回廊の入り口で、敵の動向を探りながら、戦闘準備を整え始めた一同は、そのエイクの言葉に反応して、いっせいに、エイクのほうに顔を向けた。

「せっかく、セイラが、ミリーちゃんのパーティに入ったところなんだけど、この回廊を抜けた先に現れる中ボスを倒すために、ちょっとパーティを入れ替えたいんだ」

「とりあえず、どういう編成にしたいか、言ってみて・・・」

 ハルナが、エイクの次の言葉を促すように、声をかける。

「俺とユーコで前衛・・・ハルナは好きな召喚獣を使って、全開攻撃、そして、ミリーちゃんとセイラで後衛をやってもらいたいんだ」

「それって・・・」

「盾がいませんが・・・」

 イチロウ、そしてミリーが、素直に感じたままの疑問を口にする。

「敵は、俺とユーコで引きつける・・・で・・・ミリーちゃんとセイラには、援護をお願いしたいんだ」

「わたしは、全然平気だよ・・・タイミングよく眠らせればいいんだよね・・・あ・・・でも、一つだけ希望があります」

 セイラが、エイクの意図をいち早く理解して、自分がやるべきことを確認するように、言葉に出して言う。

「なぁに?セイラ・・・?」

 ハルナが訊ねる。

「ミナトさんが・・・必要以上に密着してるので、うまく歌を歌えないんです・・・タイミング悪く、身体に触って来たりするので・・・」

「ミナトさん・・・?」

「はい?何か問題でも?」

「セイラから離れて・・・」

「イヤです・・・というか・・・無理です」

「なんで・・・」

「セイラ様の歌を眼の前で、しかも生で、聞かされているんですよ・・・興奮して、じっとしてなんかいられません・・・どうしてもと言うなら、タカシマ様か、エイク様を身代わりに提供してください」

「俺は、無理だ・・・」

 エイクが即答する。

「では・・・タカシマ様を身代わりに・・・」

「身代わりって・・・何をすれば・・・」

 イチロウが訊ねる。

「ミナトさんの玩具(おもちゃ)になれってことだよ・・・そういうことだから、イチロウ、隣に行ってセイラを守ってきてね」

 ユーコが何事もないように言う。

「そんなの・・・俺だってイヤだよ」

「へぇ・・・セイラを守りたくないんだ」

「酷いです・・・イチロウくん」

 ユーコのイチロウを責める言葉に続いて、蚊のなくように小さな声で、セイラがポツリと漏らす。

「セイラも悪乗りしないの・・・・」

 ハルナが、たしなめるように言う。

「はい・・・でも・・・」

 イチロウを責める気持ちがないことを、笑顔で否定したセイラは、それでも、やっぱり、ミナトの存在が気掛かりのようだった。

「えっと・・・もしかして・・・エイトは、この先の中ボス戦で、ノーダメージクリアを狙うつもりなのかな?」

 ミリーが、作戦内容の確認をする。

「さすが、ミリーちゃん・・・協力してくれる?」

「いいよ・・・ちょっとワクワクしてきたし・・・だとすると、セイラさんにも、ちゃんとミスなく行動してもらわないと、あたしだけの援護じゃ、厳しいよね」

「はい・・・それを言いたかったのです」

 セイラが、ミリーの言葉に同意する。

「こういう作戦は、どうかな?」

 ミリーは、そう言ってから、自分の考えた作戦内容について、説明を始めた。

「まず、この回廊の突破の前に、パーティを編成し直すの・・・で、ここが重要なんだけど・・・敵も強いから・・・一応、このままで回廊内の敵を全て倒します。

 そこまでは、セイラさん、ミナトさんのセクハラ攻撃に耐え切ってください。

 回廊の中の全ての敵を時間内で倒しきると、中ボスのダークパンサー・デーモンが出現するので、その相手は、エイトを中心とした、あたし達のパーティメンバーの5人だけで攻撃します」

「ああ・・・なるほど」

 エイクが、納得したように、合いの手を入れる。

「そう・・・それで、ミナトさんは、攻撃参加しなくても済むから・・・そしてら、キャラをイチロウが守れる位置に移動して・・・、セイラさんの部屋から出て行ってください」

「そんな・・・」

 ミナトが、泣きそうな声になる。

「別に、この部屋から出てけって言ってるわけじゃないから」

「・・・」

 ミナトを真剣に追い出したかったミリーが、エイクのフォローした言葉に、疑問を抱き、説明を途切れさせる。

「だから、俺達の部屋に来てくれればいいよ・・・それで、イチロウにミナトさんの相手になってもらえばいいわけだ」

「あ・・・そういう部屋の間取りなんだね」

 エイクの説明で、ミリーも、なんとなくイチロウたちのいるゲストルームの構成を思い描くことができた。

「うん・・・そう・・・中ボス戦になったら、イチロウは、攻撃に参加しないで、しっかりと、ミナトさんと、クルミさんを守るんだよ」

 エイクの言葉を肯定してから、ミリーが、イチロウが果たすべき役割を伝えた。

「ミナトさん・・・中ボス戦の間だけ・・・イチロウに好きなことしていいですから、戦闘の邪魔だけはしないでくださいね」

「う~ん・・・不本意ですが・・・はい」

「俺の意思は・・・?」

 イチロウの言葉は、その場の全員が無視する。もう、作戦内容は決まったという雰囲気になったので、ミリーとセイラが、イチロウたちのパーティから外れて、ミナトと入れ替わる。ミナトが、イチロウたちのパーティに加わり、イチロウたちのパーティは、4人編成となった。

戦士のイチロウ、科学者のミユイ、狩人のクルミ、そして家政婦のミナト。

「俺たちのパーティが先行する。できる限り削りながら前進していくから、回廊の敵のトドメはイチロウたちで刺していってくれ」

「了解!!」

 エイクが、両手の拳を握り締めて、回廊の中央を駆け、一番手前で待ち構えている敵に襲い掛かる。

エイクの拳が当たる直前に、ミリーの放ったライフルの一撃が、敵の顔面に命中し、その威力で()け反る。その仰け反って上を向いた顎を、エイクの渾身の正拳突きが、アッパーカットに近い角度で貫く。

どちらもクリティカルとなった二つの攻撃で、敵の体力ゲージの半分以上が削られる。

 間髪入れずに、ユーコが手に握ったトンファーを、敵の顔面に叩きつける。

「あとは、イチロウに任せるからね」

 ユーコが、イチロウにウィンクをして、エイクの後を追いかけていく。

一匹に攻撃を仕掛けたことで、奥のほうに配置されている敵も、回廊の奥のほうから、一行の行く手を阻むように、駆け寄ってくる。

それらの敵を、ミリーが、確実に一体ずつライフルで弾き飛ばし、足止めをしていく。

先頭を突っ走るエイクは、敵の攻撃を巧みに避けながら、確実に、拳、三節棍、そして、得意としている蹴撃を使い分けることにより、ほとんど被弾することなく道を切り開いていく。

そして、唐突に響き渡ったレベルアップを告げるファンファーレによってイチロウのレベルが15に達したことに、全員が気がつく。

パーティメンバーは、それまで、イチロウにトドメを刺させる作戦を取っていたが、その縛りから解き放たれ、各々の得意技を繰り出して、敵を殲滅していく。

特に、ここでイチロウが15に達した後の、ハルナの動きが、それまでと明らかに変化したことに、全員が気づいた。

「ハルナ、相当我慢してたんだねぇ」

 ユーコが、ハルナの肩を叩きながら、声をかける。

「今日の主役は、イチロウだからね。でも、ユーコも、かなり我慢してたんじゃないの?」

 召喚したスカイウォーカードラゴンに、攻撃の指示を与えながら、ハルナが、嬉しそうに微笑む。

「このメンバーで、遊ぶのって、けっこう久しぶりだよね」

「いつも、セイラがいないからねぇ」

「ごめんなさい・・・」

 セイラが、ほんとうに、申し訳なさそうに謝る。

「忙しいのはいいことだよ。そういえば、今日だって、お仕事だったんだもんね。疲れたでしょ」

「お風呂に入ったから、疲れは取れたよ。だから、今日は、このまま徹夜でも平気だよ」

「そういえば、エイクって、あまりイチロウに遠慮してないよね」

「あはは・・・119歳の先輩相手に、あまり恐縮してもしょうがないし、イチロウも、イヤがってないみたいだし・・・」

「こっちの世界で、初めて会った同世代の男だから、タメ口で話してくれるのが、けっこう俺としては、嬉しいよ」

 イチロウが、素直に本心を、みんなに伝える。

「エイクは、ザスパの先輩にも遠慮しないからねぇ・・・遠慮って言葉、知らないんだよね」

「それを言うなよ」

「いいんじゃないか、実力の世界だし」

「そういえば、クルミさん、ちゃんと楽しんでる?」

「・・・・」

「動いてるよね・・・クルミさん」

 オータケ邸の6人は、そこで初めて、クルミが、ずっと無言で矢を放っていることに気づいた。

「ミリーちゃん・・・クルミさん、怒ってるの?」

「怒ってないよ・・・さっき、キリエが帰ってきたので、一緒にお酒飲んでるよ」

「お酒飲みながら・・・あの動きですか?ある意味凄いかも」

「中身が入れ替わってるからね」

「え・・・」

「ごめんね、みんな。今、エリナ、しゃべる余裕ないみたい」

 ミリーの説明で、クルミのキャラを操っているのがエリナであることがわかった。

「さっきのパーティ入れ替えの時に、エリナが、いっしょにやりたいって言ったんだけど、ほら、エイクに誘われちゃったから・・・・クルミさんが、代わってくれることになったの」

「エリナだったんだ・・・けっこう、弓矢の扱い方うまいじゃないか」

 イチロウが、いかにも社交辞令っぽい褒め方をしたが、それでも、エリナからの反応はない。

「イチロウは、とりあえず黙ってたほうがいいよ・・・ほんとに、しゃべる余裕ないから・・・しかも、今のイチロウの言葉で、完全にテンパっちゃってるからね」

「そうなんだ・・・でも、一応言っておく。手伝ってくれてありがとう、エリナ」

「だから・・・そういうこと言っちゃダメなんだってば・・・イチロウはバカなんだから」

「エリナ様・・・あと一体を倒せば、中ボス戦なので、少し、休憩なさってくださいね・・・あ、返事はいいですから」

 ハルナも、念のためにフォローしておくことにした。

「ごめんな、エイク・・・緊張感なくって」

「いいよ、いいよ・・・でも、こいつを倒したら、すぐ、中ボスが現れるから、そしたら、完全、本気モードだからな」

「了解!!」

「ということで、こいつのトドメはイチロウに任せる。ちょっと、回復させてくれ」

 このエリア最後の雑魚デーモン・・・という割には体力ゲージが多かったのだが・・・から、少し距離を取ったエイクに代わって、イチロウが、その敵に対峙する。

「2分だけ、時間を稼いでほしいんだけど・・・ライフルのエネルギーを満タンにしておくから」

 ミリーが、イチロウに伝える。

「あの・・・ミナトさん、やっぱり、このトランペット、元のクラリネットに戻してもらえますか」

「そのほうが、カッコいいのに・・・それに強いし」

「でも、なんか・・・」

 ミナトが、さっきのようにセイラに抱きつくと、金色に光っていたトランペットが、黒いクラリネットに戻った。

「抱きつかなくても、戻せますよね・・・というか、リアルで抱きつくのは、ちょっと」

「ミナトさんも、緊張感なさすぎ・・・もう、いいから、イチロウのとこに移動しちゃっていいですよ。とりあえず、イチロウのことだけは、好きにしていいから・・・気が済むまで(いじ)ってください」

 ミリーが呆れたように告げる。

「何をしても・・・どこを(いじ)ってもいいんですね・・・この21歳乙女の欲望が満たされるまで・・・」

「中ボス戦が済むまで・・・だからね」

「わかりました・・・少し残念です」

 ミナトのキャラが、イチロウの傍に移動し終えた後で、ようやく、ミナトは、イチロウ達のいる部屋にやってきて、イチロウを挟みハルナのいる反対側に、座り込み、さっそく、イチロウに抱きついた。

イチロウのいるほうの部屋の面々は、呆れたように見ていたが、回廊最後の雑魚敵の体力が、あと一撃程度で尽きる状態であったため、何も言わずに、画面に集中することにしたようだった。

「一応、イチロウには、言っておく・・・この中ボスを倒す時、パーティ・メンバーが無傷であれば、EXアイテムが、確実に手に入る・・・」

 エイクが、早口で説明を始める。

「条件付きのトライアルクエストだから・・・成功確率・・・ノーダメージで撃破できる確率は・・・1%以下なの・・・それで、ゲットできるEXアイテムの名前はね・・・

 エメラルド・バルディッシュ・・・両手斧だよ」

 ミリーが、囁くように補足説明する。

「なので、さっきも言ったけど、こっちの5人メンバーだけで、倒すから、イチロウたちは、その位置で、見守っていて欲しい・・・ミユイさん・・・エリナさんも、ここだけは、ちょっと我慢してもらえますか?」

「そういうことなら・・・OKです・・・でも、ちょっとだけ、トラップ仕掛けといてもいいですか?」

 いち早く返事をしたミユイが、自分の足下に、手をかざし、さらに、回廊の壁の3箇所ほどにも手をかざして、なにやら細工をしてから、すっと、イチロウが戦ってる場から、ほど遠いところへ移動していく。

ミナトは、既にイチロウにターゲットロックして、部屋移動も済ませているため、残され放置されたキャラのほうは、イチロウの動きに合わせて、戦う意思がなくフラフラしている。

そして、エリナからは、相変わらず返事がない。

「エリナ・・・もういいよ、ホーク・アイでトドメを刺してちょうだい」

 ミリーから言われて、無言の狩人から、必殺技のホーク・アイが発射される。

その攻撃により回廊の最後の敵が、消え去った瞬間、回廊中に、新たな敵の声が響き渡る。

「イベント開始だ・・・ちょっとセリフがあるけど、我慢して聞いてやろう」

『我を守る守護者を葬り去ったことで、いい気になってる愚か者達よ・・・その程度の守護者を倒したからと増長しているようでは、このダークパンサーの斧の前に、ひれ伏す結果となろう・・・

 良いか・・・雑魚どもと、このダークパンサーの格の違い、その貧弱な身体に刻み込んでやろうではないか・・・よいか、覚悟せよ・・・』

 ダークパンサーのセリフが終わりに近づき、戦闘が開始されるであろうことが、ミリーとセイラが戦闘態勢になったことで、イチロウにもわかった。

敵のセリフが終わった瞬間・・・ダークパンサーは、自慢の両手斧を片手で軽々と操り、その右腕を天空高く振り上げ、真正面で構えているエイクに、その腕を振り下ろしてくる。

その刹那・・・セイラの歌が、ダークパンサーの動きを停める。

敵の持つエメラルド・グルーンに光り輝く巨大な両手斧が、おそらく、ミリーが教えてくれた『エメラルド・バルディッシュ』であることは、イチロウにも容易にわかった。

そのダークパンサーの振り下ろした腕が、勢いを失い虚空をゆらゆらと漂う。

動きを停めたダークパンサーデーモンの鼻っ面に、ミリーのビームライフルが的確にヒットする。

顔面直撃砲で、眼を覚ました敵デーモンは、すぐに、次の攻撃態勢を取るため身構えようとする。

が、身構えるより早く、エイクは三節棍による3連撃を繰り出す。まず、敵デーモンの顔を捉え、次に剣を持つ腕をなぎ払い痺れさせた後で、最後に足払いをかけ、その巨体をぐらつかせる。

ぐらついてふらふらとするダークパンサーの足に、ユーコの左右両手に握られたトンファーによる、容赦のないワン・ツーの2連撃が襲い掛かり、追い討ちをかけるように、大きなダメージを与える。

さらに、ユーコの攻撃とタイミングを合わせるように、ハルナの召喚したスカイウォーカードラゴンの灼熱の炎が、敵の胸を焦がす。

猛り狂った敵の振りまわす斧を、エイクが、髪一重でかわす。

この第1ラウンドの攻防のターンの中では、パーティ全体の被ダメージをゼロで乗り切ることができた。

「へぇ・・・いけるかもしれないよ」

 ミリーが、感心して、呟く。

続けて、セイラが、歌の再詠唱を実行し、第2ラウンドが開始される。あれだけの連続攻撃で削った敵の体力は、およそ、ダークパンサーが持つ全ての体力ゲージの7分の1程度であり、敵を倒すには、最低でも、後、7回は、同じ攻撃で同等のダメージを与えなければならないだろうと、イチロウは、感じていた。それを、敵の攻撃をかわしながら、成功させなければならないのであるから、容易なトライアルではないことがイチロウにも、よくわかった。

「体力が半分以下になると、ガードの小竜が飛び出してくるから、そこまでは、この攻撃でいける。やっかいなのは、その小竜の攻撃を、いかに防ぐかってことなんだけど・・・」

「それで、あたしをパーティに入れてくれたんだよね」

 敵の斧の攻撃をかわしながら、攻撃する手を休めずに、エイクとミリーが、イチロウに説明をしてくれる。

若干、敵のパターンが変化はするが、敵が繰り出す通常攻撃を100%避けるエイクの防御技術に、イチロウはさらに感心する。当たれば確実にダメージを受けてしまうはずのダークパンサーが短い間隔で繰り出す必殺技攻撃も、当たる直前に、セイラの歌がタイミングよく無効化してしまう。睡眠効果を持つ歌の詠唱・・・そして麻痺効果を持つ歌の詠唱を巧みに使い分けるセイラの行動は、さっきまでの緩慢な動きとは、明らかな違いを見せていた。

「セイラさんの詠唱タイミング・・・プロでも真似できないと思うよ」

 ミリーの素直な感想が、戦闘中のパーティメンバーに伝わる。

「エイク・・・そろそろ、出てくるよ・・・」

 ハルナが、スカイウォーカードラゴンを一旦戻し、範囲攻撃可能な魔法を使用することができるブリザード・ウィッチを召喚する。

ブリザード・ウィッチが出現した瞬間、回廊の中に、冷気が充満し、ダークパンサーデーモンも、その冷却効果により動きが鈍る。

「ここからは、しっかり声を出して行くからな・・・特に、小竜の攻撃パターンはランダムだから、予測がつかない」

「武器・・・変えます」

 ミリーは、それまで使用していた大型のスナイパービームライフルを、速射可能なアサルトビームライフルに持ち替えた。

「小竜が出現した瞬間が一番、危険だから・・・出てきた瞬間、撃ち落とせるヤツは、しっかり撃ち落して欲しい・・・キミの力を信じてる」

 エイクも、格闘用武器を三節棍に持ち替えて、敵との距離を取りながら、ミリーを励ます。

「うん・・・」

 小さく返事をしたミリーは、アサルトビームライフルの照準を敵の腹付近に狙い定める。

「行くよ・・・」

ユーコの攻撃で、ダークパンサーの体力が半分を切った瞬間・・・その腹の中から、12体の小型の有翼竜が解き放たれた。

先頭の3匹をミリーのアサルトライフルが一瞬で撃ち落す。残りの10匹のうち5匹までは、セイラの歌が麻痺させる。

「ごめん・・・5匹しか・・・」

 セイラの歌によって、攻撃間隔が短縮されているものの、ミリーが、次の射撃をするには、まだ数秒の待機時間が必要だった。

無傷で飛び立った4匹の小竜は、迷うことなく戦闘の中心になって三節棍を振るうエイクに襲い掛かっていく。

かろうじて、ユーコのムーンサルトキックが、1匹を撃ち落したものの、残りは3匹・・・

「先頭の1匹に集中して!!」

 ミユイの声が、回廊に響く。

その声が発せられるのと、ほぼ同時に、回廊の壁面から2本の光が飛び出し・・・さらに、床から1本の光が、上昇した。

事前に、ミユイが仕掛けたトラップから放たれた3本の光は、今まさに、エイクに牙を突きたてようとして大口を開けた小竜3匹の顎を狙い、誤ることなく一直線に貫いた。

エイクの三節棍の一撃が、トラップ攻撃でスピードを極端に減速された先頭の小竜一体を後退させる。

「よっしゃ!!」

 ダメージゼロ表示が継続されていることを画面のスコア表を見ることで、確認することができたエイクが、短く叫ぶ。

「ミユイ・・・ありがとう」

 ミリーも、そのごく短い言葉に、最大の感謝の気持ちをこめる。

「リモートコントロールトラップで、3匹をいっぺんになんて・・・」

「俺も、見たことない・・・このパーティ・・・ゲームバランス無視もいいところじゃないのか?セイラといい、ミユイさんの技も、とんでもないと思う」


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