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「イチロウ・・・そろそろミッション行こうよ」
ミユイとの会話を邪魔するように、ハルナが割って入る。
「えっと・・・ミユイさんのジョブを確認したいんだけど・・・『科学者』でいいんだよね」
「うん!!」
ミユイが、これ見よがしに、パーティメンバーへの防御魔法を発動させる。
「回復役は任せてね・・・召喚士さん」
ミユイが、ハルナにウインクをする。
「後は、いつものメンバーだから・・・確認の必要はないよね」
ミユイのウィンクには応じずに、ハルナは、いつものメンバーを、それとなく見回しながら、簡単に済ませようとする。
「ちょっと・・・俺は、今日始めてやるんだから・・・ジョブの確認くらいはさせてくれよ」
「面倒くさいよ・・・さっきまで、一緒に飲んでいたんだからさ・・・ちゃんとジョブの確認くらいしときなさいよ」
「ハルナってさ・・・ゲームの世界だと、キツイよね・・・」
「うんうん・・・」
ユーコとセイラが、囁きあう。
「そこ・・・何こそこそ悪口言ってるの?」
「とりあえず・・・みんなのジョブだけは確認しておこうよ。初めての人もいるし」
セイラが、いつになくツンケンとしているハルナをなだめる様に言ってみる。
「しょうがないなぁ・・・えっと、ユーコは『踊り子』で、セイラが『吟遊詩人』・・・エイクは、『格闘家』・・・で、ハルナは、もちろん『召喚士』」
ハルナが、早口で仲間の紹介をする。
続けて、ミリーが自分のパーティを紹介する。
「イチロウは、一応、そのまま『戦士』でいいよね。あたしが、『狙撃手』・・・今日知り合った、こっちのクルミさんは、『狩人』です。で、ミユイさんは『科学者』」
「あたしは・・・『家政婦』ってことで・・・」
最後にミナトが、自己紹介をして、その場で料理をしてみせる。そして、次々と合成し、作り出される料理を、パーティメンバーそれぞれに配る。
「全員で、9人?」
「回復役・・・少なくない?」
「う~ん、まぁ、『家政婦』も居るし、問題ないんじゃないかな?」
「はい・・・もう、つきっきりで癒しまくりますから・・・どんどん、瀕死になってくださいね。みなさん」
「いや、瀕死は避けないと・・・」
「どう?イチロウ、わかったかな?」
「なんとなく・・・」
「もしかして、ミッションの段取りも説明しなくちゃならないのかな?面倒くさいから、さっさと行って、ちゃちゃっとドラゴン殺しちゃおうよ」
「やっぱり、ハルナって・・・」
「普段と、まったくキャラ違うよね・・・」
「うん、普段は、『面倒くさい』とか、絶対言わないからね」
「なんで、そこの二人は、いつも、悪口ばかり言うのかなぁ」
ハルナは、ユーコとセイラの無駄口をたしなめるように言う。
「いえいえ、悪口なんて滅相もないですよ。ではリーダー・・・とりあえず、徒歩で行きますか?」
今度は、ユーコが、なだめてみる。
「イチロウは、レベル、いくつだったっけ?」
(自分で確認しろって言っておいて・・・)
「なによ・・・言いたいことがあるなら、はっきり言ってよね。
・・・で、レベルいくつだっけ?」
「11だよ」
「じゃ、歩いてくしかないよね」
(だから、そのドラゴンライドのライセンスを取りに行くミッションをやろうって、話だったような気がするんだけど)
「とりあえず、フィールドに出たら、強制的にレベルシンクロで、全員、イチロウと同じ11レベルになるから、一応、気をつけてね」
完全にパーティリーダーとなっているハルナが、命令口調で、告げる。
「レベル11は、きつくないか?」
エイクが、ごくまともな助言をする。
「やめてもいいけどね・・・ハルナだって、あんまり気乗りしてないんだから」
「だったら、やめたら・・・」
ミリーが、ぽつりと言う。
「え?」
「おい・・・ミリー」
「そっかぁ・・・ミリーちゃんは、プロのゲーマーだったよね・・・リーダーやりたかったんだ・・・じゃ、ミッションの司会進行は、ミリーちゃんに任せますよ」
「そういう問題じゃないから・・・」
「ミリー・・・」
「ミユイを呼んだのは、あたしだからさ・・・ハルナは、ミユイが気に入らないんでしょ」
「何を言い出すんだろう・・・この狙撃手さんは・・・ハルナは、いつでも、誰とでも仲良くしたいと思ってるんだから・・・ミユイさんのこと嫌いなわけないじゃない」
「ママと一緒にミッションに行く時とか、全然、でしゃばったりしないじゃない・・・ミッション行くのに、面倒くさいとか、絶対、言ったことないよ・・・あたしが知ってるハルナなら・・・」
「なによ・・・ハルナだって、虫の居所が悪い時だってあるかも知れないでしょ・・・ミユイさんは関係ないよ」
「そうだよ、ミリー・・・別に、ハルナはミユイに何も言ってないじゃないか」
「だからだよ・・何で一度もミユイに話しかけないの?ミユイが、ハルナに何か言おうとしても、ずっと、眼も合わせてないよね。さっきだって、『科学者ね・・・ふん』って感じだった・・・感じ悪いよ」
「何で・・・って」
「ハルナは、イチロウのミッション手伝うのがイヤなわけじゃないんでしょ、だったら、ミユイさんが嫌いなんだって・・・それくらい、あたしにだってわかるよ」
ミリーの言葉に反論することなく、ハルナは、イチロウに身体を寄せたまま、唇を噛んでいる。コントローラを持つ手が、かすかに震えてるのがわかる。
(どうしたんだ・・・ハルナ)
イチロウが、マイクに言葉が入らないように、そっとハルナに問いかける。
(イチロウのこと、鈍い・・・鈍いって、ずっと思ってたよ・・・一日中・・・今でも)
ハルナは、コントローラを、手放すと、イチロウに身を寄せる。
(俺が、ミユイと話していたから・・・か?)
(もう、どうでもいいよ・・・でも、今日は、ハルナとイチロウのデートの日だよね)
(・・・)
イチロウは、寂しそうに呟くハルナの顔をじっと見詰める。
ユーコが、イチロウの背中をつつく。
(あたしたちも、お邪魔虫なんだけど・・・やっぱり、ハルナの気持ちは、無視しちゃダメだよ・・・言えた義理じゃないのは、わかってるんだけどね)
(ちゃんと謝ったほうがいい・・・俺も、言えた義理じゃないが・・・)
エイクも、イチロウの耳元に口を寄せて、ハルナに聞こえないように、囁く。
「ごめん・・・ハルナ」
イチロウが、ハルナの肩を引き寄せて、素直に頭を下げる。
「ほんとに、悪いと思ってる?」
「ああ・・・ほんとうにごめん・・・でも・・・」
「でも?」
「ミユイは、俺達と違って、一人で遠くの星でコントローラ握ってるんだって考えたら、俺が相手しないといけないって・・・そう思ったから」
「そういう一人寂しい女の子を無視できないんだね?イチロウは・・・」
ハルナは、一旦手放したコントローラを、持ち直す。
「ごめんね・・・みんな・・ハルナの嫉妬で、なんか雰囲気壊しちゃって・・・」
ハルナも、全員に向かって素直に頭を下げる。
(でもね・・そんな理由で、みんなを相手にしてたらキリがないよ・・・寂しい思いをしてる女なんて、この世にいっぱいいるんだからね)
ハルナは、イチロウにだけ聞こえる声で、そう告げる。
「ハルナが嫉妬?そんな理由なの?
・・・ってことは、結局、イチロウが全部悪いんじゃない・・・」
ミリーが、イチロウに向けて、指を突き出して言う。
「やっぱり、俺が悪いんだよな・・・今回の場合は・・・」
「あたしも、調子に乗っちゃって・・・イチロウとばっかり話し込んじゃったから・・・ハルナさん、ごめんなさい」
ミユイも、頭を下げる。
「ミユイも、悪くない・・・そうだよ・・・イチロウが浮気するのが悪いんじゃない・・・考えてみれば、今日はハルナとのデートの予定なんだし・・・イチロウが、ハルナをほったらかしにして、ミユイとばっかり話してるのは、確かにルール違反だよね
ハルナ・・うん、ごめん、ハルナが怒るのは当然・・・あたしが無神経だった。わざわざ、来てもらって、ミユイにもイヤな気持ちにさせちゃったね・・・ほんとうにごめん。
あたしが、イチロウとハルナの事情をミユイに説明しとかなかったから・・」
「もういいよ・・・ミリー。ゲームの中はともかく、イチロウは、こうやって、ハルナの隣にいるんだし・・・
ミユイさん、ごめんなさいね。せっかく、一番遠くの星から駆けつけてくれたんだから、一緒に楽しもうね」
ハルナは、ミユイの傍に駆け寄るようにして近づき、そのミユイの手をしっかりと握りしめる。
「ごめんね・・・あたし・・・イチロウが、そんなに女の子にモテるって、まったく、全然、これっぽっちも思ってなかったんだ。せっかく、あたしが女の身体になったんだから、あたしが、なんとかしてやらないと、イチロウが寂しさで自殺しちゃうと思ってて・・・」
(なんで・・・イチロウと似たような心配するんだろ?なんか、おかしいよ、イチロウとミユイさんの関係って・・・)
ハルナは、わざと諦めたような、いかにも残念ですという顔つきになってイチロウを、それとなく責める。
「ミユイ・・・その言い方は、フォローになってない・・・」
「だって・・・イチロウは、ほんとにモテなかったんだから・・・ほんとうなんだよ」
「だから、繰り返さなくっていいんだって・・・」
イチロウは、ミユイの口を抑えたい気持ちを前面に出して近寄ろうとするが、ミユイのおしゃべりは止まらない。
「惚れっぽいから、すぐに女の子に告白するんだけど、あたしが知ってる限り・・・全滅だし、お情けで、カナエさんが、イチロウの相手することになったけどさ・・・」
「みんなのいるとこで、話すことじゃないだろう」
「そうかな・・・絶対、みんな、イチロウのこと誤解してるよ・・・ほんと、ハルナさんみたいに、可愛い女の子が嫉妬するような、そんな大した男じゃないんだからさ・・・この男ときたら」
「イチロウが鈍いのは、今日一日つきあって、よっくわかりました・・・」
「う~ん、まぁ、それが、わかれば、大収穫かも・・・」
「うん・・・だから決めたの・・・ハルナに、とことん惚れさせた後で、棄ててやるんだって・・・その時、泣いてすがってきても絶対に許してやらないんだって・・・」
「そうだね・・・なるべく早く棄てちゃってね・・・ハルナ・・・
そしたら、あたしが拾ってあげますよ、イチロウくん」
大きな声で宣言するハルナの言葉を受けて、それまで、成り行きを見守っていたセイラが、冗談混じりの口調で、イチロウに慰めの言葉をかける。
「セイラ・・・そこで、本音を言っちゃだめじゃない」
「あはは・・・本音に聞こえた?
ということで・・・ミッションどうする?」
セイラが、明るい表情でみんなの顔を眺め回して、問いかける。
「行こうか・・・」
ハルナが、恥ずかしそうにミユイの顔を見てから、ぽつりと呟く。
「そうだね・・・」
ミユイは、ハルナの握ってきた手を自分のほうから握り返してみる。
「ハルナさんは、イチロウには、もったいないから・・・できれば、リョウスケの恋人になってあげてね・・・
じゃ、ということで、行こう」
そのミユイは、みんなに声を掛けると、ハルナの手を握ったまま、酒場から、アルカンドの街の通りに一旦出て、アルカンド門から、そのまますたすたと外のデーモンたちがうろつき回ってい外へ出て行ってしまった。
その姿を追いかけるように酒場に残された残りのメンバー全員も、外に出る。
そして、フィールドに出た瞬間、ハルナが、事前に説明したとおり、全員のレベルが引き下げられ、イチロウと同じレベル11になってしまった。
「やっぱり、リーダー、あたしがやってもいいかな?と言っても、道案内するくらいしかできないけどね」
ミリーが言う。
「そうだね、さっきは意地悪ないい方してごめん・・・ミリーに任せるから・・・ハルナにできることがあれば、遠慮なく指示していいよ」
「ハルナに、そういってもらえるなら、じゃ、遠慮なく・・・特に、イチロウ・・・ちゃんと聞くんだぞ・・・
まず、最終目的地は、『神々の庭園』・・・そこに、ドラゴンライドのライセンス発行所があるので、その発行所の係員に、5つのアイテムを渡せば、バトルフィールドへのパスをもらえる。
後は、最終決戦のバトルフィールドで、自分が乗りたいと思うドラゴンを選んで、勝利すれば、ミッションクリア」
「最終のバトルフィールドは、15レベルの5人パーティが適正だから、11レベル9人のアライアンスなら、作戦さえミスらなければ、ギリギリ勝利できるはず」
「5つのアイテムは?」
イチロウが確認する。
「2つは、お店で買うか、モンスターが普通にドロップするから、入手するのは、それほど難しくないよ」
「うん・・・そっちのほうは、まったく問題ない・・・とりあえず、1個は、あたしが持ってるしね」
ミユイは、握ったハルナの腕を放さず、嬉しそうに言う。
「残り3つは、エクスクルーシブ属性だから、イチロウが、ちゃんと1個ずつ手に入れないとダメだよ」
『エクスクルーシブ属性』・・・アイテム属性に『EX』とマークが表示されるアイテムは、1人のプレイヤーが1個しか所持することができない。もちろん、ショップで購入することができないので、そのアイテムをドロップするモンスターを倒してゲットする必要がある。
必ず、そのアイテムをモンスターが持っているわけではないので、基本的には、同じ種類のモンスターを何体か・・・アイテムが出現するまで、根気良く倒していかなければならない。
何分の1かの確率で出現するアイテムを、そのアイテムを必要としているプレイヤー・・・この場合はイチロウが、自分の戦利品とすることで、所有権を得ることができる。
「必要なEXアイテムは、『ドラゴンの餌』『ドラゴンの鞍』『ドラゴンの手綱』の3つ」
「まずは、手っ取り早く『餌』から行きますか?」
エイクが、拳を握り締めて、ミリーの説明に合いの手を入れるように、口を挟む。
「そうだね・・・『餌』を落とすブルーリザードデーモンは、この近くの洞窟にいるから」
「途中の雑魚デーモンは、蹴り殺しちゃってかまわないんだよな」
「うん、時間は、たっぷりあるから、少しでも、イチロウの経験値を増やしながら洞窟まで行こう」
ミリーの言葉を待つまでもなく、エイクが、目の前に現れた盾と剣で武装したデーモンに、蹴り技を繰り出す。
「普通に殴ればいいのにね」
ユーコが、イチロウに笑いかける。
「俺も、戦っていいか?」
イチロウがミリーに話しかける。
「どうしようか・・・ハルナ・・・」
ミリーは即答せずに、ハルナに確認をしてみる。
「もう遅い時間だから、自分からは言い出せなかったんだけど・・・実は、ハルナも戦いたくなっちゃったんだ・・・ちょっと、時間かかるけど・・・レベル上げも楽しまない?
どうかな?みんな」
「イチロウ、ハルナの、お許し出たよ・・・あ、できれば、ミユイとペアで戦って・・・回復してもらえるから・・・いいよね、ハルナ」
「ジョブのバランスで言えば、当然の組み合わせだし・・・気を使わせちゃってごめんね。もう大丈夫だよ・・・イチロウとハルナは、今、二人羽織状態だから・・・ぴったりくっついてるからね・・・じゃ、ミユイさんと一緒に、がんばってね、イチロウ」
「わかった・・・」
イチロウは、両手斧を取り出して構える。
「科学者の回復魔法のほうが、戦士とは相性がいいから、戦い易いはずだよ・・・ミユイも、それでいいかな?」
「了解」
「他の人は、もう適当にガチャガチャやっちゃっていいと思うから」
デーモン族は、変身・合体能力を持つという設定であるため、身体は、手足を持つ戦士タイプのスタイルでありながら、顔は、様々な動物の顔がアレンジされている。
特に、雑魚デーモンは、豚やトカゲ、狼などの顔のバリエーションだけで区別されている。
中ボスや大ボスのデーモンは、衣装なども派手に装飾されているが、このエリアには、そういった派手な衣装の強敵は存在しない。
イチロウのレベルでも楽に倒せるレベルなのだ。
さっそく、手ごろなトカゲ面のデーモン騎士に、イチロウは、両手斧を叩きつける。
さすがに、一撃では、倒れない。そのデーモン騎士に、パーティメンバーの遠隔攻撃が襲い掛かる。
ミリーのスナイパービームライフルと、クルミの弓矢による攻撃が同時に当たる。
前線に立って敵の攻撃を受けるのは、戦士役のイチロウであるため当然ながら、一番大きくダメージを受けることになる。しかし、その削られた体力ゲージは、すかさず、ミユイが、治癒アイテムで満タンに戻してしまう。
「さっきあげた焼肉定食・・・よかったら食べて」
ミナトの言葉に促され、家政婦のミナトから受け取った『焼肉定食』とアイテム名が書かれている食事を、戦闘中にも関わらず、イチロウは、口に入れてみる。
その食事の効果で、打撃による戦闘力のパラメータが急上昇する。
「これは、なかなか・・・」
気分をよくしたイチロウのとどめの斧の一撃で、トカゲデーモンが霧散する。
「遠隔攻撃凄いな」
「うん・・・この距離なら外さないよ・・・ね、クルミさん」
「あたしは、飲んだくれてばかりだから、百発百中というわけにいかないけど・・・こういうのも、悪くないな・・・次、行っていいぞ」
パーティリーダーのミリーは、経験値の振り分け設定を、トドメを刺した者が50%得られるようにしている。1体のデーモン騎士を倒して得られる経験値を、イチロウが多めにゲットすることができるための配慮なのである。
ハルナ・ユーコ・エイク・セイラにミナトを加えた5人パーティのほうは、それぞれ、1体ずつ個別に敵を撃破していくが、イチロウ・ミユイ・ミリー・クルミの4人パーティは、なるべくイチロウが経験値を多く得られるように、1体を集中して攻撃し、トドメをイチロウが刺して行くという戦法で、どんどんイチロウの経験値を増やしていく。
あっという間に、イチロウのレベルが13まで上がる。
「ふぅ・・・」
一息ついたミユイのそばに、ハルナが寄ってくる。
「どう、ミユイ楽しんでる?」
「見てわからない?」
「わかるよ・・・ミユイさんが一番楽しそうです・・・イチロウは、どっちかというと必死すぎだよね」
「そうだね」
ミリーも、二人の会話に割って入る。
「このパーティ・・男一人を女がサポートしてる・・・まさにハーレムパーティ?」
近寄ってきたミリーは、それでも攻撃の手を休めずに、軽口を叩く。
「あっちのパーティは、男1人に、女4人だよ」
ミユイが、その軽口を受け止めて、返事を返す。
「まさか、エイクとユーコがGDやってるとは思わなかったけど、けっこうやりこんでるよな」
イチロウが、ぽつりと感想を漏らす。
「うん、戦い慣れてる」
ミユイも素直に認める。
「また、誘いたいなぁ」
ミリーが、付かず離れず、常に一緒に行動しているエイクとユーコをまぶしそうに見ながら、ぽつりと無意識に呟く。
「二人とも、ハルナの親友だから、試合がない日だったら、いつでも召喚できるよ」
ハルナが、ミリーの言葉に反応して、自慢げに言う。
「・・・・って、エイクとユーコって・・・だれ?」
一度は、『また、誘いたいなぁ』と呟いておいて今更ながらだったが・・・ミリーが質問する。
「プレイヤー名は、エイトがエイク・・・で、コットンが、ユーコだよ」
「ごめん・・・さっきも、ちょっと引っかかったんだけどさ・・・エイクって・・・ザスパ・クサツのエイクとかじゃないよね・・・絶対違うよね」
「なんだ・・・ミリー、エイクのこと知ってたのか?そうだよ」
「嘘でしょ・・・イチロウ!!」
「嘘言ってどうするんだよ」
「じゃ・・・コットンさんて・・・ユーコ・ハットリ?」
「へぇ、ミリーがサッカーに詳しいとは知らなかった・・・そうだよ」
「イチロウ・・・あんた、エイクとユーコと一緒の部屋でゲームやってるの?」
「言わなかったっけ」
「言ってないよ」
「で・・・なんで、そんなに興奮してるんだ」
ミリーが必要以上に興奮している様子なのが、イチロウには不思議に感じられた。
「いい?イチロウ・・・世間知らずもいい加減にしないと、ほんとうに恥かくことになるよ・・・全然、知らないで、普通にプレイしていたじゃない、あたし・・・第一、ちゃんと挨拶もしてないんだし・・・」
「世間知らずも・・・って、俺が、こっちの世界のこと知らないのはしょうがないじゃないか」
「だから・・・もう・・・ほんとうにイチロウはバカなんだから」
「あの・・・ミリー」
「いい?エイクとユーコと言えば、『ウィナーズイレブン2111』で、日本代表に組み込まれてる二人なんだよ」
「『ウィナーズイレブン』シリーズって、まだ続いてるんだ」
「当たり前じゃない!!超ヒットコンテンツだよ・・・特に去年の『2110年版』とか、ザスパ・クサツに、その二人が入っていたんだから・・・・ダントツで、世界最強のクラブ・チームだったんだから・・・」
あまりのミリーの興奮ぶりに、話題の中心となってしまったエイクとユーコの二人は、会話に入れず、呆然とした表情で、画面を見ていた。
「あたしが、プロの『ウィナーズイレブン』の大会で、必ず使っていたのが、ザスパチームなんだよ!!なんで知らないの?」
「そんなの、知らねぇよ」
イチロウが、返事を返した後で、ユーコが、逆にミリーに話しかける。
「もしかして、ミリーちゃんって、去年の12月の『ウィ・イレ2110クラブチーム選手権』優勝者のミリーちゃん?」
「そうです・・・ユーコさんだったんですか?あたし、知らないで、ずっと失礼なことばかり言っちゃって、もう、恥ずかしいです」
「これから、仲良くしていきましょう。あの大会は、柄にもなくゲスト解説で呼ばれていたから、よく憶えてますよ」
「はい!!あたしも、よく憶えてます」
「あれだけ、サテライト・キャノン・シュートを綺麗に決められるプレイヤーは、ミリーちゃんだけだったし・・・」
「すっごい、練習したんですよ・・・選手権モードだと、全然、エイクがセンターまで上がってくれないので、どうしたら、エイクが、ユーコと付かず離れずに移動してくれるか・・・5分に1回の接触チャンスでは、必ず、サテライトを狙って・・・」
(ごめん・・・ミリーが何を言ってるのかわからないだけど・・・)
イチロウが、こっそりとエイクに訊ねる。
「あはは・・・去年のクラブチーム選手権で、俺とユーコが1回だけ成功させた『サテライト・キャノン・シュート』ってのがあるんだけどさ・・・俺の背中を跳馬台に見立てて、ユーコが、そこから2回転伸身宙返りのオーバーヘッドシュートするんだけど・・・」
「なんだそれ・・・」
「それが、ウィイレの隠し要素みたいになってて・・・シュートの成功確率3%以下のはずなんだけど・・・このミリーちゃん・・・決勝戦の1試合で6回決めちゃったんだ・・・ユーコ・ハットリのハットトリック・ダブルで・・・ゲーム大会も圧勝で優勝・・・って結末」
「それって、ミリーも凄いけど・・・その前に、エイクとユーコが実際、ゴールを決めてるんだよな」
「ああ・・・狙ってやったことだけど・・・まぁ、あの時は、ノーマークだったし・・・自分でやっておいてなんだけど・・・自分が凄いと思ったよ・・・9割はユーコの才能だけどな」
男二人の、こそこそと話し合う会話は、響き渡るミリーの大音声に消されて、まったく、他のプレイヤーの耳に届いていないようだった。