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ルーパス号に到着したミリー、エリナ、クルミ、そして、ギンの3人と一匹は、Zカスタム、そして、プラチナ・リリィの2機を別々の格納スペース・・・ガレージへ、片付ける。
エリナは、すぐにでもプラチナ・リリィに手を出したくてどうしようもないといった感じだったが、とりあえず、一旦は部屋に戻って落ち着こうというミリーの言葉に、素直にしたがった。
『ロウム、それとソラン・・・お留守番ありがとう、お友達を連れてきたから、あたしたちは、部屋に戻ります』
ミリーが、船内全体に通じるマイクに口を近づけて伝える。
『おう、おかえり・・・お友達ってのは美人か?』
『とびっきりだよ・・・後で、ソランも来てね。あたしの部屋で、ゲームやってるから』
「ちょっと、ミリー、いつゲームやるってことになったのよ」
「さっき・・・」
ミリーは、短く答える。
「あ・・・エリナは、プラチナ・リリィの整備を、よろしく・・・」
「言われなくても、そのつもりだから」
「悪いね・・・さっき、ミリーちゃんが・・・ゲームの中で会いたい人がいるんだっていうから・・・それに、あたしも、ちょっと飲みなおしたいしね」
クルミが、手をジョッキを持つ形にして、にこりと笑う。
「ゲームの中で、お酒飲んで、なにが楽しいのか、わからないけど」
「あとで、エリナちゃんも、いっしょに飲もう・・・ゲームの中なら、酔っ払い運転にならないから、安心して、いっぱい飲めるよ」
「クルミさん・・・確認しますけど・・・とにかく、最高速度を眼一杯上げるチューニングにします・・・決勝進出した時の保証はできませんが、予選組のポールポジションを、うちのチームと争えるようにします。」
「ああ・・・それでいいよ。エリナちゃんの気にいるまで、いくらでも手を加えてちょうだい・・・」
「ほんとうに、見てなくっていいんですか?」
「ああ、そういうことか・・・いいよ、信用してるから」
「わかりました・・・好きにします」
エリナは、それ以上はなにも言わずに、ミリーの部屋から出て行った。
「では、クルミさん、うるさいのも消えたので、さっそく行きましょうか?」
「うるさいの・・・とか言ったら、かわいそうなんじゃないの?」
「でも、ほんとうに、うるさいんだから・・・あたしは、ゲーマーが本職だっていうのに、今日みたいに、運転を手伝えとか・・・人遣い荒いし、自分の思うようにならないと、すぐ拗ねるし」
ミリーは、エリナの悪口を言いながら、GD21にログインをする。クルミも同様に、手馴れた手つきで、もう一台のゲーム用端末を使って、ゲストログインをする。
ミリーの使うスクリーンには、昨日の夜、アルカンドの港町で、ハルナと会った時のままの風景が再現される。
クルミの操作するキャラがいるのは、人混みでにぎわう、大きな街の居酒屋だった。
「どうしようか・・・あたし、クルミさんのところへ行ったほうがいいよね」
「う~ん」
ミリーの問いかけに生返事を返したクルミは、自分のバッグから、なにやら怪しげなリング状のオプションパーツを取り出して、右手の薬指に取り付ける。
「さっそくですか?ほんとにクルミさん、お酒が好きなんですね」
「ミリーちゃんも持ってるよね」
「一応、あります」
ミリーが操るキャラの容姿は、ミリーに似た顔に作られている。さらに、身長も、ほぼ同じサイズになっていて、リアル世界で顔を合わせたら、絶対に一目で本人であることがわかる設定になっていた。
それに対し、クルミのキャラクターは、本人が比較的、成人女性としては小さめであるのと対照的に、ゲーム世界では、大柄な体で、髪や眼の色も、まったく違うように設定されていて、名前も『クルミ』ではなく、『ミルク』と表示されていた。
「アルカンドにいるなら、あたしが、そっちの酒場に移動する。漁師ギルドの傍に、小さいけど酒場があったはずだから、ミリーちゃんは、そこで待っててよ」
「はい・・・」
「待ち合わせは、例のメインパイロットの彼かな?」
「いえ・・・ちょっと、遠くの星に住んでる友達です。普通のワープ通信だと、遠すぎて、ノイズが入ることがあるので、ゲーム用のネットワーク通信網のほうが、クリアな音声と映像で、おしゃべりできるんです」
「そうだね・・・便利な世の中になったものだ」
「もう・・・クルミさんって何歳なんですか?」
「女に、年齢を聞くもんじゃないよ」
「いいじゃないですか・・・女同士だし」
「もう、33歳だ」
「え?嘘・・・ママより年上なんですか?」
「おかしいか?」
ミリーは、隣に腰を下ろしているクルミの姿を上から下まで、もう一度マジマジと眺める。
「どうみたって、20台前半にしか見えないですよ」
「ゲームの中のキャラは、それくらいに見えるだろう?」
「そうだけど・・・」
「あたしはさ、背が小さいのがコンプレックスなんだ・・・だから、ゲームの中では、年相応に見えるようにしたかったんだ」
クルミは、テレポートアイテムを使用して、ミリーのいる酒場への移動をすませる。
サイド・スクリーンの映像が、メイン・スクリーンと同じ街の風景に変わる。
「9時には、来てくれる約束になってるんです」
「名前は?」
「ミユイさん・・・ゲームの中で会うのは、今日が初めてなので、キャラ名がどうなっているのかは、聞いていないんです」
オータケ邸で開催されたパーティも、9時半には、散会となり、パーティ参加者のほとんどが、帰り支度を始めていた。
ハルナとのダンスの後、元いたテーブルに戻ったイチロウは、ユーコが面白がって注文する、カクテルを全て飲み干して、すっかり、ただの酔っ払いの姿になってしまっていた。
メイドのミナトの案内で、酒に酔ったイチロウと、そのイチロウを介抱するように付き従うハルナは、オータケ邸のゲストルームの一室に、ようやく辿り着いた。
「イチロウが、あんな無茶な飲み方をするなんて、ちょっと信じられなかったよ」
「ああ・・・ごめん」
「最愛のカナエさんに、お酒勧められたら、断れないもんね」
「ユーコは、カナエとは違うよ」
「でも、悪い気はしなかったんでしょ・・・ほんとうに浮気者なんだから
パーティ会場で、羽目を外さなかったのだけは、偉いと思ったけど・・・ちゃんと、後のことも考えてくれないと・・・せっかく、ミナトさんに、お部屋を用意してもらったのに」
「ごめん、すぐ寝るから・・・これ以上、ハルナに迷惑かけないよ」
「もう、何をわけわからないこと言ってるの?すぐに寝ちゃだめでしょ・・・」
「だって、しばらくは友達でいようって、ハルナが言ったよな」
「今日は、エッチはしないけどさ・・・ハルナも、お酒飲みたくなったから、イチロウも、お酒につきあってくれないと・・・」
「今から、酒を飲むのか?
未成年だから、酒を飲まないんじゃなかったのか?隠れてこっそり飲むのはいいのか?」
「イチロウは、そっか・・・知らないんだ」
「何を?」
「ゲームの世界で、お酒が飲めるんだよ」
「はい・・・タカシマ様の分と、ハルナ様の分、きちんとゲームのセッティングをしてありますから、気が済むまで、お飲みください」
メイドのミナトは、部屋に設置されたオンラインゲームを開始させる。
「でも・・・イチロウ様も、ハルナ様も、部屋着に、着替えたほうがいいですよ・・・クローゼットに着替えを用意してありますので、ご自由に、お使いくださいね」
「じゃ、俺は一旦、部屋から出るから、先に着替えてくれていいよ」
「別に、着替えを見ててもいいんだよ・・・ハルナは、気にしないからさ・・・ハルナは、お嬢様なので、自分で着替えとかしないし、イチロウに脱がしてもらえなかったら、ずっと、このドレスでいなきゃならないし・・・」
「ハルナお嬢様のお言葉はありがたいですが・・・さすがに、ハルナの裸とか見ちゃったら、自分を抑えきれる自信はないからさ・・・一旦出るから、えと、ミナトさん、ハルナの着替えを手伝ってもらえますか」
「はい・・・喜んで・・・でも、着替えの衣装は、イチロウ様が選んでください・・・ぐっと来るやつを」
そう言いながら、ミナトは、クローゼットの扉を開いた。
誰が取り揃えたのか、その中には、想像した以上の枚数の女性用の服が用意されていた。
「これとか・・・ハルナ様に、絶対似合います」
ミナトが取り出したのは、胸元が大きく開いて極端にすそ丈の短いピンク色のチャイナドレス。
「それは・・・似合うと思うけど・・・俺が眼のやり場に困る」
「そうですか?では、もっと露出が少ないほうがよろしいですか?でも・・・恋人同士で、これからエッチするのに、眼のやり場を気にするのって変ですよね」
「もう、ミナトさんは、変な想像しすぎです・・・しょうがないな・・・とりあえず、服は、ハルナが選ぶから、イチロウは、奥の部屋で待ってて」
「あ・・・奥の部屋は・・・」
ミナトが、ハルナの言葉に従って、奥の部屋に行こうとしたイチロウを引き止めた。
「奥の部屋になにか?」
「確かに・・・なんか、人の気配がする」
スタスタと、ハルナが、奥の部屋に向かい、扉を勢い良く開ける。
そこには、それぞれ、部屋着に着替えを済ませた男女3人が、ゲームに興じていた。
「ユーコ・・・エイク・・・セイラまで・・・何してるの?」
「ゲームしてるんだけど・・・」
ユーコが即答する。
「パーティが終わった後、さっさと帰ったと思ったのに・・・なんで、ハルナたちの部屋に、みんな揃ってるの?」
ハルナは、少しキツイ表情になって、ユーコを問い詰める。
「えっと・・・ミナトさんに、最高の覗きスポットがあると聞いたので・・・でも、なかなか二人とも来ないからさ・・・ゲーム始めたところなんだけど」
「ミナトさん・・・どういうこと?」
「いえ・・・わたくしは、オータケ様から、二人だけの部屋を用意するようにと言われたので・・・ギャラリーは多いほうがいいかと思いまして、ユーコ様に、お声を掛けたら・・・」
「ギャラリーってなに?」
「ほら、あの・・・他の人に見られたほうが燃えるというか・・・興奮するんじゃないかと・・・」
「何を勘違いしているの?」
「勘違いと言われますと?」
「3人を追い出してください・・・というか、ユーコ・・・」
「ん?なんか問題ある?」
ユーコは、しれっと言うと、ハルナの言葉を無視した。出て行く気はないらしい。
「みんなが出て行かないなら、ハルナたちが、部屋を変えます」
「それはできません・・・本日は、満室です」
ミナトも、ハルナの言葉に従う気がなさそうである。
「ほら・・ハルナも着替えて、いっしょにゲームしようよ」
ユーコとは異なるテンションで、セイラが明るい口調で、ハルナに笑いかける。
「一応、みんなGDのアカウント持ってるからさ、酒場で飲みなおそうよ」
「俺達がいれば、ハルナが、イチロウに襲い掛かることもないんじゃないかって結論になったんだよ・・・お邪魔虫でごめんな」
エイクが、ハルナたちを振り返ろうともせずに言う。
「なによ・・・みんなして、ハルナを、危険動物みたいに」
「そういうことだからさ・・・今日は諦めなさい」
ユーコが腰を挙げ、ハルナの傍までやってきて、肩をポンと叩いて笑いかける。
「イチロウも、今日は、もう少しだけ、あたしたちにつきあって・・・いいでしょ?」
「ハルナが、それでいいなら・・・俺は」
「じゃ、決定!!」
「イチロウくんとは、今日、あまり、おしゃべりできなかったからさ・・・」
セイラが上目遣いでイチロウの瞳を凝視する。
「明日の昼の便で宇宙に上がっちゃったら、また会えなくなっちゃうでしょ・・・だから、今夜はオールナイトで楽しもうよ」
「ハルナは、ルーパス号のクルーになるんだから、チャンスは無限にあるわけじゃない・・・だから、今日は、せっかく滅多に直接会えない仲間が集まったんだから、もったいないでしょ・・・
だいじょうぶだよ。イチロウの心は、50%がエリナさん・・・45%はハルナのものだから・・・わたしは、隙間の5%くらいもらえれば充分だからね・・・ね、イチロウくん」
「何が大丈夫なんだか・・・」
相変わらず不満そうなハルナだが、セイラに冗談交じりの告白をされたイチロウは、困った顔をしながらも、成り行きを見守っている。
「とりあえず・・・ハルナは、お風呂に入ってきたほうがいいよ・・・汗くさいよ」
ハルナの傍に寄ってきたセイラが、わざとらしくハルナの胸元に鼻を寄せる。
「シャワールームも、このゲストルームにありますけど、今なら、ゲスト用のお風呂も空いていますから、そちらをお使いになればゆっくりできますよ・・・ハルナ様の、お着替えは、わたしが見繕っておきますので、どうぞ、そのまま、お風呂に入ってきてください」
ミナトが、ハルナの肩に手を掛けて、さっそく、風呂場へ連れて行こうとする。
「そういえば、さっきは、他のゲストが入っていたから、あたしたちもシャワーで汗を流しただけだったよね」
「うん・・・空いてるんなら一緒に入ろうか?」
セイラとユーコも立ち上がる。
「では、お嬢様方、ご案内いたします」
ミナトの案内で、ユーコ、セイラ、そして、いかにもしぶしぶという雰囲気を作りながら、ハルナも部屋から出て行こうとする。
部屋の扉を開けた時、セイラが振り向く。
「エイク・・・絶対に覗きに来ちゃダメだよ」
「覗かねぇよ」
「イチロウくんは、覗きに来てもいいからね・・・ハルナ・・・着やせするけどさ・・・わたしと違って、そうとう胸大きいから・・・見ごたえあるよ」
セイラが小悪魔的な笑顔を作って、イチロウを挑発するように笑う。
イチロウの返事は聞かず、3人は、部屋から出て行った。
「イチロウ、ユーコたちが戻るまで、一緒に飲もう・・・GDのログインIDは憶えてるか?」
「携帯端末で、アクセスすれば入れると、船の仲間からは言われたけど、悪い・・・そのやり方、教えてもらえるか?」
「じゃ、ログインしておくから、携帯を貸してくれ・・・イチロウは、その服を脱いだらどうだ?クローゼットを探せば、ジャージくらいはみつかるだろ」
「ああ・・頼む」
イチロウは、さきほど、ミナトが開けて、そのまま開けっ放しになっているクローゼットの中を見て、呆れ顔になってしまった。
(誰の趣味なんだか・・・まさか、オータケ会長の趣味とは思えないんだが・・・)
クローゼットの中には、たくさんの女性用の衣装が吊るされているのだが、決して、部屋着に適してるとは言えないものばかりだった。
色鮮やかな衣装を掻き分けながら、ビンテージっぽいジーパンを見つけると、それを引っ張り出した。
(上は、とりあえず、このシャツでいいか・・・)
蝶ネクタイを取り、上着とズボンをハンガーに引っ掛け、ジーパンを身につけたところで、イチロウは、人の気配に気づいた。
「エイクか・・・?」
「いえ・・・」
振り返ったイチロウの目に、メイドのミナトの姿が映る。
「お嬢様方に追い返されちゃいました・・・自分達で行けるから、戻って、タカシマ様たちのお世話をしてきてと言われました」
「あの・・・ノックとかしないんですか?」
「ノックしたら気づかれちゃうじゃないですか?」
ミナトは、当然のことのように言い放つ。
「いきなり後ろに立たれたらびっくりするよ」
「タカシマ様の着替えを見たかったので、できる限り、静かに部屋に入ってきましたが・・・お陰で堪能できました・・・いいタイミングで、部屋に戻ることができたこと、お嬢様方に感謝です」
「俺の着替え見たって、面白くもなんともないだろう」
「いえ・・・感動しました」
ミナトは、異常なくらい眼を輝かせて、イチロウを見詰める。
「このクローゼットの衣装・・・全て、あたしの手作りなんです。まず、どれをタカシマ様が選ぶか・・・ってとこでドキドキしちゃいました」
(ずいぶん、偏った趣味だとは思ったけど・・・この人のだったんだ)
「イチロウ様が、セーラー服とか手に取ったりしたら・・・たぶん、感動で失神しちゃってたとこです」
「もしかして・・・・コスプレとか好きなんですか?」
「もちろんです・・・こうやって、家政婦をやっているのも、堂々とメイド服が着られるからですから」
あいかわらず、眼をキラキラと輝かせているミナトに、ちょっと怖いものを感じて、イチロウは、エイクがいる奥の部屋へ戻ろうとした。
「そうだ、タカシマ様、ほんとはハルナ様に、どういう衣装を着せたいですか?」
「いや・・・どれでもいいと思うよ」
「そう言わずに選んでください・・・ハルナ様、ドレスのまま行ってしまったので、着替えを届けないと・・・」
イチロウは、とりあえず、1枚を取り出すと、ミナトに渡した。ピンク色の衣装は少なかったので、初めに眼についたものを手に取った。
それは、胸元に、宝石をあしらったような装飾のついたちょっと長めのワンピースだった。
「これを、お選びになるとは・・・わたくし、感動で声が出ません。さっそく、届けて来ますね」
ワンピースを手にしたミナトが部屋から出て行った後で、イチロウは、奥の部屋に戻ってきた。
「あのミナトさんて・・・変わってるね」
イチロウは、エイクの横に腰を下ろして、コントローラを手にする。
「ああ・・・けっこう有名人だよ」
「変わってることで?」
「覗きが趣味らしいから・・・」
「へ?」
「そっちの部屋の声が、こっちにも聞こえていたからな・・・今頃は、こっそり風呂場で、あいつらを覗いてる最中じゃないかな」
「覗きって・・・犯罪じゃないですか・・・いいんですか、そんな人を雇ってて」
「まぁ、いいんじゃないか・・・実害は皆無だし・・・」
「ミナトさんに、着替えを覗かれたイチロウは、どんな気分だった?」
「どんなって・・・気まずいって言うか・・・びっくりしたっていうか」
「だろ・・・彼女のキャラだから、許されちゃってると思う」
「でも・・・風呂を覗くのは、まずいんじゃ」
「セイラが言ってたじゃないか・・・俺に覗かれるのはイヤだけど・・・イチロウには覗きに来て欲しいって」
「それは、拡大解釈しすぎじゃ」
「基本的に、あいつら、見られることに慣れてるからさ・・・コンサートの早着替えだって、いちいち恥ずかしがっていられないだろ・・・見られるのが仕事なんだからさ
ミナトさんのことは、あまり気にするなよ。それより、飲もうぜ」
エイクは、イチロウに、ゲーム用のオプションパーツを手渡した。
「右手のどの指でも効果は一緒だから、それを着ければ、効果が得られる」
部屋の立体スクリーンに映し出される港町アルカンド・・・イチロウが、ログインした瞬間、眼に入ったのは、ミリーの顔だった。
「ようやく、やってきたね」
待ち構えていたようにミリーが声を掛ける。
「ミリー・・・」
なぜか、ミリーの手には、大ジョッキが握られている。
「とりあえず、クルミさんとリョウスケと3人で飲んで待っていた」
「クルミ・・・さん?」
「さっき、会ったばかりなんだけど、予選組のメカニックさん」
確かに、ミリーの顔は、酒に酔ったように赤くなっている。
エイクの存在するエリアと、イチロウとミリーのいるエリアが、部屋の中で重なる立体スクリーンの中で、微妙にシンクロしている。
「イチロウも飲め!!」
一度も聞いたことのないミリーの命令口調に、イチロウは戸惑った。
面食らったまま、突き出されたビールジョッキを受け取り、イチロウは、ジョッキに浮かぶ泡を、じっと見詰める。
「いいから、飲め・・・あたしの酒が飲めないっていうのか?」
イチロウは、受け取った大ジョッキの中のビールを、口に流し込む。
「ミリー・・・キャラ変わってるぞ」
「あんたが、イチロウくんかい?ルーパスのメインパイロットだよね」
「ええ・・・あなたが・・・クルミさん?」
「そうだぞ、イチロウ!!・・・こいつが大酒飲みのクルミだ・・・イチロウは、このクルミと、酒の飲み比べをして勝つ自信はあるか?」
クルミに代わって、ミリーが答える。
「まったくないよ・・・なんで、飲み比べなんか・・・」
「あたしは、負けた・・・悔しいから、次は、イチロウが挑戦するんだ」
「俺、そっち行っていいか?」
隣で、イチロウとミリーのやり取りを見ていたエイクが、イチロウに耳打ちをする。
「それは、かまわないけど・・・やばいぞ、この二人」
「それは、なんとなくわかったが・・・面白そうだ」
エイクは、酒場を探して、ふらふらしていたようだったが、アイテム袋からドラゴンライド・ライセンスを取り出すと、目の前に、青紫色の鱗に覆われた、ワイバーンを、召喚した。
エイクは、颯爽とそのワイバーンにまたがると、アルカンド方向に、馬首ならぬ竜首を巡らせ、大地を蹴り、飛び立たせた。