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届け物は優勝杯  作者: 新井 富雄
第2章 公式予選開始
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-8-

「では・・・制限速度は30kmで・・周回は2周・・・公式練習なので、レインボースクリーンは消えないから、100ポイントゲート狙いのコース取りで、総合得点が多いほうが勝ち・・・っていうルールでいいかな?」

 シマコが、念のために、メインモニターに映るカナリに確認をする。

『わたしは、かまわない・・・制限速度があろうが、ルールが同一なら、なんら問題はないからな』

 カナリの返事もすぐに返ってくる。

「ヒトミコちゃん・・・大変なことになったね」

 エリナが、ヒトミコを気遣うように、モニター越しに話しかける。

『みんな、女性パイロットなのに、こんなに頑張ってるんです・・・それに、なにごとも経験ですから』

「あたしは、パイロットじゃないから・・・あ・・・」

「どうした?」

「イチロウから電話が」

「出たほうがいいんじゃないの?言い訳くらいは、聞いてあげたほうがいいと思うけどな」

「いいよ・・・これが終わったら、あたしから電話するから」

 エリナは、敢えてイチロウからの電話着信を無視して、ため息をつく。

(今、電話なんか出たら・・・イチロウの声なんか聞いたら、集中力が切れちゃうじゃない・・・ほんとうに、タイミングが悪いんだから)

「ため息つくくらいなら、出ればいいのに・・・がまんは身体に毒だよ」

『どうした・・・エリナ?調子が悪いのか?』

「どうってことないよ」

『後が詰まってるみたいだから、カタパルトの発射セットを、2分後にした。同時射出になるから、舌をかまないように気をつけるように』

 2分後・・・

カナリとヒトミコの乗るポリスチームのポルシェと、シマコとエリナの乗るオータチームのF14トムキャットが、燃料満タンで宇宙空間へ高速射出された。

2機とも、カタパルトレールから解き放たれた瞬間に、メインバーニアに点火・・・

ブシランチャー1号機から、美しい平行線を描いた2機は、そのまま加速し、第1ゲート方向へと直進する。

「エリナ集中して・・・そろそろ30kmだよ」

「うん・・・オノデラさん・・・機体に異常信号はないですよね」

『ああ・・・まったく問題はない』

 メインメカニックのオノデラが、エリナに返事をする。

「制限速度を保つために集中しますが、サポートはよろしくお願いします。いくら、公式練習の客分扱いとは言っても、やっぱり負けたくないですから」

『その負けん気の強さは相変わらずだね・・・エリナちゃんは』

やや苦笑気味のオノデラの声が届く。

『シマコ・・・制限速度がある以上、違反したらスピード違反で、しょっ引くからな』

カナリの冗談とも本気とも取れる言葉が、F14のスピーカーに届く。

「心配には、及びませんよ。こっちは、メインメカニック2名体制ですから」

バーニアを操るフットバーは、確かにシマコの乗るメインコックピットにあるのだが、そのコントロールについては、ナビゲータも手元の制御スイッチを使用することで簡単に操作できるようになっている。もちろん、パドックのメインメカニックの操る制御盤でも、ナビゲータ以上に細かい制御をすることができる仕様になっている。

太陽系レースでのメインメカニックの役割は大きく、当たり前のことではあるが、カタパルトに乗せるまでの機体調整は全て、メインメカニックが責任を持つ。

さらに、レースが開始された後も、制御盤から一瞬たりと眼を離すことなく、自分が整備した機体の状況把握をする。どんな、小さい異常であっても、それが宇宙空間では、パイロットの命を奪う要因となるからである。

「安全面は、オノデラさんがいるから、とにかく、シマコさんは、機体の制御に専念してください」

「そうだね・・・速度制限が30kmってことは、ブシランチャーへのストップ&ゴーで減速しなくていいってことだしね」

 舞台が、どの惑星となった時でも1周が44,444kmと決められている太陽系レースのコースを、秒速30kmでフライトした場合、およそ25分弱で1周することになる。

コース上に設置されたレインボースクリーンは、スペースデブリを完璧に除去したコース上に、8基設置されてあり、ゲート間の距離は、それぞれ約5,000km弱である。

スタート地点のブシランチャーから発射された後、3分後には、第1ゲートを通過することになる。

「エリナ・・・そろそろ第1ゲートだよ」

「うん・・・仕掛けてくるとすると、第1ゲート直前15秒前くらいかな?」

『今、ポリスチームの機体は、F14の右翼6kmの位置・・・速度は30kmジャスト・・・スラスター反応はまだない・・・F14が第1ゲートを通過するまで、後32秒』

 メインメカニックのオノデラから・・・ポルシェの位置と第1ゲートまでの到達時間を知らせる通信が入る。

シマコが、いち早くスラスターによる姿勢制御を実行する。わずかに機首をスライドさせるだけで、方向は、第一ゲートの100ポイントコースであるレッドゾーンを的確に捉える。

「カナリなら、きっと第1ゲートから仕掛けてくるはず・・・」

 シマコが静かに呟く。当然ながら、この段階でポリスチームとの通常通信回線はカットしてあるから、F14でのシマコとエリナの会話が、カナリに伝わることはない。

一方、カナリとヒトミコの乗るポルシェも、F14とまったく同じタイミングで、スラスターによる姿勢制御を実行していた。

「どう?カタパルト射出のGには耐えられたみたいだけど・・・」

「平気です・・・これくらいは」

 ヒトミコは、少し脳髄がハイになってしまってることを自覚しつつも、元気に応えた。

「偉いね・・・射出時の、わたしの表情は、ちゃんと撮れたかな?」

「それなら・・・もちろん、バッチリです」

「上等!!・・・コンバットフライトするけど、身体は付いてこれる?」

「付いていきます・・・断言はできませんが」

「素直でよろしい・・・行くよ」

 カナリが言うところのコンバットフライトとは、当然、相手機体への接近による追い出しフライトを試みることを意味している。

 決勝レースでは、燃料制限があり、必要以上のスラスターの濫用は、ガス欠となる危険性を伴うため、ご法度とされている。しかし、このシマコたちと取り決めた今回のルールでは、むしろ、スラスターを効果的に使用できる体当たり攻撃を常に仕掛けられることに、カナリは、喜びを感じていた。

「ゲート通過のたびに悲鳴を上げさせてあげるからね」

 カナリは、そう独り言を呟いて不敵に笑う。その表情も言葉も、ヒトミコが持ち込んだCCDカメラが捉え、記録していく。

(これが、一流のパイロットの表情・・・なんて凄いんだろう)

 右舷スラスター一回の噴射で、ポルシェは、30kmのスピードを維持したまま、F14に最接近を果たす。

当然ながら、オータコートの磁力バリアが、F14を逆方向に追いやるための仕事を忠実にこなす。

ポルシェ自体にかかる磁力の反作用をスラスターの噴射によって無効化することで、ポルシェの進入コースは、100ポイントのレッドゾーンを外れることはない。

「ストレートに突っ込んでくるとは・・・」

「カナリらしい?」

「もう1回来るはず・・・こっちは、まだコースアウトしていないから」

F14の目の前に、レインボースクリーンの鮮やかな虹色の光が迫ってくる。

シマコは、上方のスラスターを噴射することで、次のカナリの体当たりを回避する方法を選択する。

「下に逃げるか?狙い通りだ」

 カナリは、機体を傾け、F14を下方向に抑え付けるように、プレッシャーをかける。

「やばいよ・・・逃げ切れない」

 シマコの顔が歪む。

「じゃ・・・無理しないで行こう」

 エリナが潔く上方のスラスターの出力を上げ、あっさりと、ポルシェからの離脱を図る。

「とりあえず、今回は、80ポイントで、よしとしようね」

 シマコからコントロールの主導権を奪ったエリナは、冷静にF14をダークゾーンを回避させ、オレンジゾーンまで到達させて、オレンジ色に輝くスクリーンを一気に突破していく。

「どう?ちゃんと180ポイントゲット!!だよね・・・オノデラさん」

 オノデラのモニターに、第一ゲートの通過タイムが表示される。100分の5秒差で、F14が先行したことが確認できる。

「あそこで、カナリが機体を傾けてくれたからね・・・充分、1位通過を狙えるタイミングだったよ」

 この時点で、ポリス・チーム160点。オータチームが180点。20点のビハインドとなったカナリは、唇を噛んでいた。

「作戦変更だ・・・」

 やはり、ヒトミコに言うともなく、独り言のように呟くカナリ・・・

(次は、上に追い出すのかな?)

 ヒトミコは、わくわくしながら、余計な言葉をはさむことなく、カメラ映像が捉えたリアル映像と、先ほどの第1ゲート通過の瞬間を捉えた映像のリプレイを手元の携帯端末で確認した。

『カナリ・・・この勝負勝ちたいか?』

 ポリスチームのパドックから、メインメカニックを務めるミッキー・ライヒネンの声が届く。

「当たり前じゃない」

当然、カナリは即答する。

『じゃ、一緒に作戦を立てよう・・・俺が、ここからナビを務める。そのアナウンサーのお嬢ちゃんじゃ、その機体のナビは務まらないからな』

「わかりきったことを・・・」

「ごめんなさい・・・カナリさん」

 ヒトミコが、謝罪の言葉を口にする。

「まぁ、ちょうどいいハンディだ」

『スクリーンは消えないんだから、とにかく、1位通過を狙うんだ・・・それで、20点のビハインドは1回で消える』

「わたしも、今、それを考えていたところだ」

『仕掛けたい気持ちもわかるが、勝ちたいなら熱くなるな・・・F14との距離は、こっちから、情報を送る。必ず、各ゲートを一位通過させてみせる』

「必ず・・・?」

『まぁ、できる限り・・・か』

「よろしい・・・わたしは、嘘が大嫌いだ」

『りょうかい・・・みんな、カナリに賭けてるからな・・・必ず勝たせてやるよ』

「公営施設以外での賭けは、法律違反だぞ・・・それと、必ず勝たせてやるって言葉は、嘘じゃないってことだな」

『はは・・・ポリスが法律違反じゃヤバイよな・・・』

「そうだ」

『必ず勝たせる・・・部長も応援しているからな』

 ミッキー・ライヒネンは、力強く宣言した。

 初めの1周8ゲートは、お互いをけん制するように、ポリスチームが1位を5回、オータチームが1位を4回・・・第5ゲートは、全くの同タイムということで、ポイントは、ポリスチーム1480点に対し、オータチームは、1420点という結果となり、ほぼ、同時にブシランチャーへのタッチ&ゴーも、そつなくこなして、第2周めの第1ゲートへ向かった。

「あっちは、こっちが仕掛けないってタカをくくってるのかな?」

 エリナが、シマコに訊ねる。

「どうかな?どっちにしても、今の時点で、負けちゃってるから」

「エリナは負けたくないんだよね」

「じゃ、シマコさんは負けてもいいって思ってるの?」

「まぁ、まだ練習だし・・・機体に無理はさせたくない・・・それと・・・この機体のポテンシャルを、あまりアピールしたくないってのもあるから」

「そっかぁ・・・」

 エリナが寂しそうに呟く。

「・・・って、そんなわけないじゃない」

言うが早いか、シマコは、F14を大きく傾けて、ゲート前でもないのにポルシェに体当たり攻撃を仕掛けた。

シマコの体当たり攻撃により、ポルシェの機体が左右上下に弾かれる。

「あの猫っかぶりが・・・いよいよ本性現したね」

 ポルシェの姿勢制御のため、操縦桿を操作するカナリ、そして、予期せぬ機体の動きにより、シートベルトで完全固定され身動きできずに呆然とするヒトミコ・・・ポルシェのコトロールは、完全に、シマコの操縦桿に委ねられる結果となっていた。

『くっ・・・やってくれる』

 パドックで、ポルシェのコントロールをしようとしながらも、シマコの予測不能の体当たりの繰り返しで、翻弄される機体を制御しきれないでいるメカニック担当のミッキー・ライヒネンが口を歪める。

シマコは、ポルシェのコントロールを完全に手中に収めた感触を得て、F14のポルシェの鼻先への移動を、絶妙な機体コントロールにより、静かに・・・それとなく激しい旋回を繰り返す中で、達成することに成功した。

すかさず、シマコは、メイン・バーニアに点火する。

繰り返される体当たりによるオータコートの磁気反動の影響で2機の機体が、速度が僅かながら30kmを下回った瞬間を狙って、シマコはバーニアによる加速をしたのだ。

つまり減速しながらの、機体の体当たりで、徐々に、F14の速度を落とし、そのオータコートの反発作用を巧みに操ることで、ポルシェにも自然制動をかけ、スピードを殺すことに成功したというわけである。

 制限速度のあるルールの中での一瞬の速度差を産ませた事が結果的に勝敗を決めることになった。


『カナリさん・・・あなたらしくなかったね・・・隙を見せるなんて』

 その後は、形式的に2周めのゲートを全て1位通過した後で、シマコは、直接カナリに話しかけた。

『本番では、こうはいかないからな・・・それに、速度制限もないし・・・でも、いいのかな?そっちには、エリナが乗ってるんだろう・・・手の内を知られることになったんじゃないか?』

『ふふ・・・シマコさんとは1年間いっしょに戦った仲だからね・・・想定の範囲内ですよ・・・ところで、ヒトミコちゃんは大丈夫かな?』

 そのカナリからの質問にはシマコに代わりエリナが応え、エリナは、一番の気がかりだったヒトミコの身体の様子を尋ねた。あれだけのおしゃべりな少女が、模擬レースの最中、ずっと、言葉を発していなかったからだ。

『だいぶ、参ってるみたい・・・後1周ガチバトルやっていたら、きっと精神崩壊してたかもね』

 事もなげに、カナリが応える。

『カナリさん・・・優しいよね』

 エリナが、声を弾ませ、安堵の表情になって正直な気持ちを言葉にする。

『カナリさんったら・・・あなたが、それを言ったら、台無しじゃないの・・・』

『まぁ、真剣に戦った結果だからな・・・ヒトミコも、根性見せてくれたし』

『本当に、ありがとうございました・・・カナリさんも、シマコさんも・・・エリナさんも・・・後、エリナさんは、午後も公式練習出るんですよね・・・また、取材させてもらってもいいですか?』

 ヒトミコは、元気いっぱいに、3人それぞれに礼を言った。

『午後は、ダメかな・・・』

『そうですか・・・それは、残念です』

『ヒトミコちゃんは、ほんとにエリナが好きなのね』

『はいっ、もちろんです』

 シマコの言葉に、ヒトミコの元気な声が応じる。


「もういいんじゃないかな?電話してあげたら」

 ナビゲータシートで、そわそわしだしたエリナにシマコが、優しく声をかける。

「わたしのほうは、後1周したら、パドックにマシンを戻すから・・・そしたら、モンドとチェンジして、後の調整を任せるつもり」

「あ・・・はい、ありがとうございます」

 エリナは、シマコの言葉に促されるまま、イチロウを、電話で呼び出す。

果たして、イチロウは、すぐに電話口に出た。



カドクラ邸では、エリナからのコールに、朝食の後で雑談を交わしていた三人が、即時に反応する。

『イチロウ?』

 エリナの声を聞いて、イチロウの身体が硬直するのを、ハルナは見逃さなかった。

「ごめん、着信があったことに気がつかなかったんだ・・・さっき電話したんだけど」

『あたしだって、何かと忙しいの・・・それに、今日が、何の日か、わかってるの?』

「公式練習の日だってことはわかってる」

『じゃ、すぐ帰ってきて・・・今から帰ってくれば、午後の予選組の練習には間に合うから』

「それは・・・」

「イチロウさん・・・代わって」

 ハルナが、立ち上がってイチロウの左手の携帯端末に口元を寄せる。

「エリナ様・・・何も言わずに出てきてしまったことは申し訳ないと思っています

 でも、朝が早かったから、イチロウさんが、エリナ様を起こすのは可哀想だって言ったので、そのまま、地球に降りちゃったんです」

『ハルナさん?どうして、あなたは、そうやって、あたしを怒らせるようなことばかり』

「エリナ様、怒ってはいけません・・・」

『怒らせてるのは、あなたでしょ・・・今回は、あたしがナビゲータをやります。メカニックは、オータ・チームにお願いしたので、あなたに手伝ってもらう必要はありません』

「お言葉ですが・・・エリナ様がナビゲータをやったのでは、優勝できないのではないですか?」

『あなたに、お願いするくらいなら、別に優勝なんかできなくても・・・』

「それは間違ってます。レースに出るからには、勝つことを最優先に考えないといけません・・・それが、テレビ局のバラエティコンテンツであったとしても、そのレースを楽しみに観てくれるファンに失礼です」

『うるさいわね・・・そんなこと・・・』

「うるさいって言われても、言わせてください・・・イチロウは、エリナ様のために、エリナ様の価値を、テレビを観てくれる人たちに伝えたくって、こんな、わたしなんかに頭を下げてるんですよ」

「ハルナ・・・それくらいにしてくれ」

 イチロウは、左手の携帯端末を引き寄せたが、ハルナは、その左手にしがみついて、尚も、エリナへの問いかけを停めない。

「エリナ様・・・何を勘違いしているかしれませんが、イチロウは、昨日も今日も、いつでも、エリナ様のことしか考えていないんですよ・・・エリナ様は、ずっと、イチロウといっしょにいるのに、そんなことも気づいてないんですか?」

『イチロウは・・・あなたは知らないことだと思うけど、カナエさんという女性が好きなの・・・だから、あたしのことなんか・・・』

「それは、エリナ様が、そう思い込もうとしてるだけです・・・ちゃんと、イチロウの本当の気持ちを確かめたことがあるんですか?」

『だから、もういいです・・・あなたと話してると疲れるだけだから・・・イチロウと代わって』

「いやです・・・いくら尊敬するエリナ様でも、その命令には従えません」

『とにかく、一刻も早く、イチロウに宇宙に上がるように言ってください』

「それは、無理です」

『なんで?』

「今日は、土曜日ですから・・・レジャーの日です。日本では、マスドライバーは、使用できません。地球のルールくらい覚えておいてください」

『そう・・・』

「エリナ様、切らないで・・・大事な話があるんです」

 エリナの沈黙に、ハルナが慌てて言った。

『あなたと話すことなんか・・・』

「エリナ、いろいろとごめん・・・でも、レースに参戦する以上、勝ちたいんだ・・・それと、今、話をしたかったのは、ここにいるカドクラ社長が、エリナと話がしたいっていうことなので・・・」

『イチロウ・・・カドクラ社長?』

「カドクラさんと代わってもいいかな?ルーパスに戻ったら、エリナの気が済むまで、ちゃんと謝るから」

『そんなこと言われたら・・・怒れないじゃない』

「代わってもいいかな?」

 イチロウの疑問符が付けられた質問に対して、数秒の沈黙の後、エリナの搾り出すような声が聞こえた。

『いいよ・・・』

 イチロウは、左手の携帯端末を外して、カドクラに手渡す。

「はじめまして・・・あなたの活躍は、テレビでよく眼にしています・・・ハルナの父です・・・娘の失礼な言葉は、私が謝罪したいと思います・・・申し訳ありません」

『いえ・・・そんな、お父様に謝っていただくことではありませんから』

「タカシマくんに、お願いしたのは、私なのでね」

『あ・・・はい』

「実は、エリナさんを最高のメカニックと見込んで、改造を頼みたいマシンがあるんだ」

『改造ですか?わたしは、宇宙生活しか経験したことがないので、地球の乗り物は専門外です』

「エリナさん、あなたはスバル360という乗用車をご存知ですか?」

『もちろん知っています・・・乗ったことはありませんが・・・まさか、あれを改造?』

「親の代から受け継いだ車なんだが、AIナビを搭載し、若干のシートアレンジをしたこと以外は、購入当時の状態を維持している・・・何度かオーバーホールしてあるが、ショールームの飾りではなく、今も実用に耐えられる物だ・・・製造年式は・・・1964年」

『そんな貴重なものを宇宙用に改造ですか?』

「エリナさん・・・あなたの存在を知ったからこそ、頼む気になった」

『興味はあります・・・』

「改造費用と報酬は、いくらでも必要なだけ出せるはずだ・・・あなたの都合がよければ、明日にでも、マスドライバーコンテナに載せて、送り届けることも可能だ」

『カドクラ社長・・・』

「これを機会に、あなたと友人となれることを望んでいるのだが、私のことは、シンイチと呼んでもらえると・・・私が、喜ぶ」

『シンイチ様・・・ですか?』

「真実のシンと、数字のイチだ・・・あなたたちがエントリーネームを付けるとすると、トゥルー・ファーストになるのかな?」

「お父様・・・娘の眼の前で、女性を口説くのはどうかと思うのですが・・・」

『わたし・・・口説かれていたのですか?』

「はい・・・エリナ様、ハルナの過ぎた言動は、お許しください・・・全て、ハルナが、エリナ様を愛するが故の言葉なのです・・・だから、ハルナのこと、嫌いにならないでください・・・エリナ様の作った機体・・・必ず、イチロウと力を合わせて、必ず絶対、間違いなく優勝します。

 ルーパスチームの一員として、勝ち取った優勝カップを必ず、エリナ様にお届けします」

『イチロウが、無事、ルーパスに帰って来れたら許します』

「ありがとうございます・・・やっぱり、ハルナの愛するエリナ様・・・心が太平洋のように広いですね」

『その形容・・・宇宙をテリトリーとするあたしにとっては、とっても、微妙なニュアンスなんですけど・・・』

「気にしないで、褒めているんですから

 では、イチロウに戻します」

「なにか、いろいろあったけど、明日には、必ず帰る・・・今日の練習は、エリナに任せる・・・エリナを信じてるから」

『相変わらず、イチロウはずるい言い方ばっかり』

「今度は、ちゃんと呼び出しに応じるから、必要な時は連絡してくれ」


 かなり・・・間が開きましたが、ようやく第2章を掲載することができました。

 5月以降、けっこう仕事が過密になってしまってレギュレーション設定の段階でストップしていました。

 という言い訳は、今後も続きそうなので、この辺で、終わりに致します。


 で、シマコとヒトミコの「マ○見て」コンビが登場することになって、いよいよミユイの存在が危うくなってきています。

 フルダチさんは、あの超有名なフルダチさんがモデルです。

 これから、レース実況のシーンも書くことになるはずなので、あまりハードルを上げたくなかったのですが、名前のインパクトで、登場することになりました。

 血縁もないまったくの別人設定ですので、そのあたりは、ルーパス世界の実況アナウンサーということで大目に見てください。


 第3章は、なるべく8月中に掲載できればいいなぁと思っています。


 前作から続けて読んでくれた方・・・この作品が初めての方も、この後書きまで読み進めてくださったことに感謝いたします。


 ほんとうに、ありがとうございます。


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