留守番電話
スマホが震えた。
《新しい留守番電話があります》
知らない番号だった。
再生する。
最初は何も聞こえない。
ザー……
ザー……
古いカセットテープみたいなノイズ。
切ろうとした瞬間。
「……聞こえる?」
女の声だった。
「お願い。気づいて」
そこで途切れる。
いたずらかと思って削除した。
翌日。
また留守番電話。
ザー……
「まだ、消さないで」
心臓が止まりそうになる。
同じ番号ではない。
非通知でもない。
毎回違う番号から届く。
三日目。
ザー……
「あと少しだから」
四日目。
ザー……
「もう、すぐ後ろ」
思わず振り返る。
誰もいない。
その夜から、家の中で音がし始めた。
カツ。
カツ。
裸足ではない。
硬い靴音。
廊下を歩く音だけがする。
ドアを開けると止まる。
閉めると、また歩く。
カツ。
カツ。
カツ。
眠れなくなった私は、最後の留守番電話を再生した。
ザー……
女は泣いていた。
「やっと届いた」
そのあと、小さく笑う。
「今度はあなたが録音する番」
プツッ。
その瞬間、スマホが勝手に録音を始めた。
画面には赤いランプ。
私は触っていない。
スピーカーから流れてきたのは、
今、この部屋で震えながら息をする、
私自身の呼吸だった。
その呼吸のすぐ後ろで、
硬い靴が一歩だけ鳴る。
カツ。
録音時間は、まだ増え続けている。




