ドS尋問官
ドS公爵が去った数日後。
私の快進撃(?)を聞きつけたギルバート王子が、ついに「最終兵器」を送り込んできた。
現れたのは、全身を黒い皮の法衣で包んだ、痩身の男。
王宮直属の「最強のドS尋問官」、ゼノスである。
彼は肉体的な苦痛ではなく、精神的な拷問に特化したスペシャリスト。数々のスパイを、たった一晩の対話で廃人にしてきたという伝説の持ち主だ。
「……ノノシリーナ様。私は公爵のような甘い男ではありません。あなたのその歪んだ精神を、根本から破壊しに来ました」
ゼノスは、窓のない地下室……ではなく、私の豪華な客間に、自前の拷問器具(精神干渉用の魔導具)を持ち込んで設置した。
「今からこの装置で、あなたの『最も知られたくない醜い過去』を増幅し、無限ループで脳内に流し込みます。あなたは己の浅ましさに耐えきれず、自ら死を望むことになるでしょう」
「まあ……! 知られたくない醜い過去を、大音量で? それってつまり……私の黒歴史を、あなたという観客の前で延々と上映会するということかしら?」
私は興奮のあまり過呼吸が止まらなくなり、椅子から身を乗り出した。
「最強の尋問官に、私の醜態を隅々まで観察され、分析され、冷たく批評される……。ああ、なんて贅沢な放置プレイ……いえ、精神拷問なの! さあ、早くやってちょうだい! 逃げも隠れもしないわ、私の脳内をあなたの好きなように蹂躙して!」
「……ふん。すぐにその余裕もなくなりますよ。……スイッチ、オン」
魔導具が起動し、私の脳内に、かつての私が「騎士団の馬小屋で、わざと馬の糞を踏んで『ああ、私にふさわしいわ……』と呟いているシーン」が鮮明に映し出された。
ゼノスが冷徹な声で実況を始める。
「見なさい。王女でありながら、馬の糞を愛でる貴様の姿を。これを醜いと言わずして何と言う。貴様は高貴な血を汚す汚物そのものだ。どうだ、死にたくなったか?」
「あ、あああああ……っ!! 恥ずかしい! 恥ずかしすぎて、顔から火が出そう!! それを、あなたのような知的な殿方に実況解説されるなんて……っ! 最高のご褒美だわ! ゼノスさん、もっと! もっとその、軽蔑しきった声で、私の性癖を論理的に批判して!!」
「……なっ! なぜ脈拍が上がる!? なぜ脳波が幸福感で満たされているんだ!? 嫌悪感はどうした! 羞恥心による自己崩壊はどこへ行った!?」
ゼノスは必死に魔導具の出力を上げた。
次々と映し出される、私の変態的エピソードの数々。それを、彼は職務として真面目に一つずつ罵倒し、批判し続けなければならない。
「……貴様は、その……雨の日にわざと泥溜まりに飛び込み……ええい、もういい! 読むだけでこっちの精神が削られるわ! なんだこの記憶の貯蔵庫は! 変態のデパートか!?」
「ああっ、ゼノスさん! 止まらないで! あなたのその、呆れ果てた溜息……。私の魂を洗浄してくれる最高の聖水だわ……!」
一晩中、離宮からはゼノスの絶叫と、私の恍惚とした吐息が漏れ聞こえていたという。
翌朝、ゼノスは真っ白に燃え尽きたような顔で離宮から出てきた。
「……王子に伝えてくれ。あの女は、人間ではない……。あれは、概念だ。……あらゆる悪意を快楽に変換する、無敵の永久機関だ……」
最強の尋問官さえもが、敗北を認めた瞬間であった。
私は、窓から朝日を浴びながら、清々しい表情で伸びをした。
「ふふ……。昨夜は本当に素晴らしい『尋問』だったわ。……でも、これだけ豪華な設備と、一流の罵り手たちが集まってくるなんて。……私、もしかして、追放される前より愛されているのかしら?」




