受け取り拒否
翌朝。
私はボロボロの馬車に乗せられ、王都を離れることになった。
目的地は隣国、エムザード王国の属領である「辺境伯領」。そこは荒くれ者が多く、王女としての尊厳など木端微塵にされるような修羅の国だと聞いている。
「ふふ、ふふふ……。楽しみね。きっと、そこに行けば、毎日が罵倒の嵐……。眠れないほどに責め立てられる日々が待っているんだわ……」
馬車の中で独り言を呟く私を、護衛の騎士たちは遠巻きに見守っている。彼らは一言も口を利いてくれない。おそらく「関わったら呪われる」とでも思っているのだろう。その無視される感じも、悪くないわ。
しかし。
国境付近に差し掛かった時、馬車が急に止まった。
「……何事かしら? ついに、野党に襲われて身包み剥がされるのかしら!?」
期待に胸を膨らませて外を覗くと、そこには武装した一団と、何やら険しい表情をした初老の男性が立っていた。辺境伯の使者らしい。
「――お断りだ! そんな話は聞いていない!」
使者の男性が、私の護衛騎士に向かって激昂している。
「いいか! 我が辺境伯領は、罪人を引き受けるゴミ捨て場ではない! ましてや、婚約破棄の現場であんな狂態を晒した『ドM王女』など、我が領の風紀が乱れるわ!」
「しかし、これはギルバート王子直々の命で……」
「知ったことか! 王子に伝えておけ! 『そんなにあの女をいじめ抜きたいなら、自分で抱えておけ』とな! 我が領の屈強な男たちが、あんな得体の知れない女に、逆にご褒美を与えてしまうような事態になったらどう責任を取るつもりだ!」
……えっ。
ちょっと待って。今、なんて言ったの?
「押し付けるな! 帰れ! 境を越えたら、容赦なく矢を放つぞ!」
まさかの、追放先からの「受取拒否」。
私は愕然とした。そんな殺生な。あんなに楽しみにしていた辺境での地獄生活が、今、門前払いを食らっている。
「……ちょっと、あなた! 私は、私は、あなたたちにひどい目に遭わされるために、わざわざここまで来たのよ!? 早く私を捕らえて、荒れ果てた大地で重労働でも何でもさせなさいよ!」
「ひっ……! 出たな、狂女! 全員、耳を塞げ! あの女の言葉を聞くと理性が狂うぞ!」
使者たちは蜘蛛の子を散らすように去っていった。
残されたのは、私を乗せた馬車と、途方に暮れる護衛騎士たち。
「……隊長、どうします? 辺境伯は本気です。無理に通れば戦争になりかねません」
「かと言って、王都に連れ帰れば王子のメンツが丸潰れだ……。かといって、野に放つわけにもいかん。こんなのを放置して、万が一、一般市民に『罵れ』と絡みついたら大惨事だ」
騎士たちは深刻な面持ちで話し合っている。
そして、出された結論は、私にとって予想だにしないものだった。
「……仕方がねえ。王都の隅にある、今は使われていない離宮に収容しよう。あそこなら、王子の目にも触れないし、他国とのトラブルにもならん。しばらくはそこで『軟禁』だ」
軟禁。
それはつまり、この国に留まるということ。
しかも、王子の怒りによって「存在を抹消された日陰者」として生きるということ……。
「……ふ。ふふ。あはははは!」
私は馬車の中で高笑いした。
婚約破棄されたのに、追放先にすら拒絶される。
国中に「あいつだけは勘弁してくれ」と煙たがられ、行き場を失って、かつての我が国の隅っこでひっそりと、惨めに生き長らえる……。
「最高……! 捨てられた上に、受け取り拒否されるなんて……! 私は、世界で一番いらない子なのね! ああ、なんという屈辱! なんという快感!」
こうして、ノノシリーナ王女の「追放されたかったのに、嫌われすぎて国内に留め置かれる」という、奇妙な軟禁生活が幕を開けたのである。
離宮の庭掃除をさせられる私に、通りがかった侍女が「……ちっ、面倒くさい王女様ね」と舌打ちしてくれる、その輝かしい未来を夢見て。




