地下の楽園
「おい、歩け! この……この、恥知らずの狂女め!」
ああ、なんて素敵な響き。
衛兵さんに両脇を抱えられ、引きずられるようにして地下へと続く階段を下りる。カツン、カツンと響く軍靴の音。湿り気を帯びた空気。そして何より、私を「狂女」と呼ぶ彼の、心底気味が悪いものを見るような視線!
「……はぁっ、はぁっ……。もっと、もっと強く掴んでいいのよ? 私の腕に、あなたの指の跡が残るくらい……。それが、罪深き私への相応しい報いだわ……!」
「ひっ……! 黙れ! ぶつぶつと気持ちの悪いことを言うな!」
衛兵さんが露骨に顔を引きつらせ、私を突き放すように牢屋の中へ放り込んだ。
ガチャン! と重々しい鉄格子が閉まる音。これよ、これ! 自由を奪われ、冷たい石床に転がされるこの屈辱。これこそが王女である私に足りなかった「スパイス」なの。
私は床に頬をすり寄せ、ひんやりとした感触を楽しんだ。
そこへ、一人の男が近づいてくる。腰に大きな鍵束をぶら下げた、いかにも「叩き上げ」といった風貌の看守だ。
「……お前がノノシリーナ王女か。話は聞いているぞ。婚約破棄された挙句、この地下牢で沙汰を待つ身だそうだな」
看守は低く、濁った声で私を見下ろした。
私はドレスを汚すのも厭わず、這いつくばったまま彼を見上げる。
「ええ……。見ての通り、私はもう、誰にも顧みられない惨めな女。さあ、あなた。その鍵で私を縛るの? それとも、私の愚かさをその汚い言葉でなじってくれるのかしら……?」
「……は?」
看守の眉がピクリと動く。
いいわ、いい表情よ。もっと困惑して、そして最後には怒りに任せて私を罵倒して!
「何をしているの! 早く、私に食事でも投げ与えてちょうだい! 『豚に食わせる餌だ』って言いながら、地面にぶちまけてくれてもいいのよ!? 私はそれを、涙を流しながら拾って食べるんだから!」
「……おい。お前、頭は大丈夫か?」
「大丈夫なわけないでしょう! 私は、私を愛してくれない男に捨てられた、空っぽで、愚鈍で、救いようのないメス豚なんですもの!」
私が叫ぶと、地下牢に静寂が訪れた。
他の独房にいた罪人たちさえもが、鉄格子の隙間から「……えっ、何この人……」という視線を送ってくる。
最高。この、牢屋中から浮いているような疎外感。たまらないわ。
「……ちっ。面倒なのを押し付けやがって」
看守は吐き捨て、持っていたスープの器を、案の定、雑に差し出した。
「ほらよ。さっさと食え。……まったく、王女様がこんな汚ねえ牢屋で、地べたを這いずり回って……。見てるこっちが吐き気がするぜ。お前みたいな出来損ないは、一生ここで泥でも啜ってりゃいいんだ」
出来損ない!! 吐き気がする!!
「あああ……っ! 素晴らしいわ! その、心底ゴミを見るような目! もっと、もっと蔑んで! 私を人間だと思わないで!」
「……警備を交代する。おい、誰か代われ! 誰か!! こいつの相手はもう無理だ!!」
看守が逃げるように去っていった。
あら、残念。もう少し語彙力を引き出してあげたかったのに。
でも大丈夫。私にはまだ、これから始まる「追放」というビッグイベントが待っている。




