表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

地下の楽園

「おい、歩け! この……この、恥知らずの狂女め!」


 ああ、なんて素敵な響き。

 衛兵さんに両脇を抱えられ、引きずられるようにして地下へと続く階段を下りる。カツン、カツンと響く軍靴の音。湿り気を帯びた空気。そして何より、私を「狂女」と呼ぶ彼の、心底気味が悪いものを見るような視線!


「……はぁっ、はぁっ……。もっと、もっと強く掴んでいいのよ? 私の腕に、あなたの指の跡が残るくらい……。それが、罪深き私への相応しい報いだわ……!」

「ひっ……! 黙れ! ぶつぶつと気持ちの悪いことを言うな!」


 衛兵さんが露骨に顔を引きつらせ、私を突き放すように牢屋の中へ放り込んだ。

 ガチャン! と重々しい鉄格子が閉まる音。これよ、これ! 自由を奪われ、冷たい石床に転がされるこの屈辱。これこそが王女である私に足りなかった「スパイス」なの。


 私は床に頬をすり寄せ、ひんやりとした感触を楽しんだ。

 そこへ、一人の男が近づいてくる。腰に大きな鍵束をぶら下げた、いかにも「叩き上げ」といった風貌の看守だ。


「……お前がノノシリーナ王女か。話は聞いているぞ。婚約破棄された挙句、この地下牢で沙汰を待つ身だそうだな」


 看守は低く、濁った声で私を見下ろした。

 私はドレスを汚すのも厭わず、這いつくばったまま彼を見上げる。


「ええ……。見ての通り、私はもう、誰にも顧みられない惨めな女。さあ、あなた。その鍵で私を縛るの? それとも、私の愚かさをその汚い言葉でなじってくれるのかしら……?」

「……は?」


 看守の眉がピクリと動く。

 いいわ、いい表情よ。もっと困惑して、そして最後には怒りに任せて私を罵倒して!


「何をしているの! 早く、私に食事でも投げ与えてちょうだい! 『豚に食わせる餌だ』って言いながら、地面にぶちまけてくれてもいいのよ!? 私はそれを、涙を流しながら拾って食べるんだから!」

「……おい。お前、頭は大丈夫か?」

「大丈夫なわけないでしょう! 私は、私を愛してくれない男に捨てられた、空っぽで、愚鈍で、救いようのないメス豚なんですもの!」


 私が叫ぶと、地下牢に静寂が訪れた。

 他の独房にいた罪人たちさえもが、鉄格子の隙間から「……えっ、何この人……」という視線を送ってくる。

 最高。この、牢屋中から浮いているような疎外感。たまらないわ。


「……ちっ。面倒なのを押し付けやがって」


 看守は吐き捨て、持っていたスープの器を、案の定、雑に差し出した。

 

「ほらよ。さっさと食え。……まったく、王女様がこんな汚ねえ牢屋で、地べたを這いずり回って……。見てるこっちが吐き気がするぜ。お前みたいな出来損ないは、一生ここで泥でも啜ってりゃいいんだ」


 出来損ない!! 吐き気がする!!

 

「あああ……っ! 素晴らしいわ! その、心底ゴミを見るような目! もっと、もっと蔑んで! 私を人間だと思わないで!」

「……警備を交代する。おい、誰か代われ! 誰か!! こいつの相手はもう無理だ!!」


 看守が逃げるように去っていった。

 あら、残念。もう少し語彙力を引き出してあげたかったのに。

 でも大丈夫。私にはまだ、これから始まる「追放」というビッグイベントが待っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ