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漏れる本音

「ふん、泣いて許されると思うな。お前のような性根の腐った女は、王室から追放するのが妥当だ。父上にもすでに話は通してある!」


 王様、話が早すぎない? でも感謝するわ。追放! つまり、守ってくれる身分も、跪いてくれる使用人もいない、ただの「汚れた女」として野に放たれるということでしょう? 

 そこには、私を容赦なく罵り、蔑んでくれる見知らぬ人たちが溢れているに違いない。


「お聞きなさい、皆様! この女は王女の面汚しです! 今ここで、彼女がいかに醜悪な魂の持ち主であるか、存分に罵ってやりなさい!」


 ギルバート様、あなたって実は最高の天才プロデューサーなんじゃないかしら?

 彼の合図をきっかけに、今まで様子を伺っていた貴族たちが、堰を切ったように口を開き始めた。


「そうだ! 以前から気味の悪い女だと思っていたのだ!」

「『美しい顔』をして、中身は化け物か!」

「ミーナ様をいじめるなんて、なんて残酷な!」

「汚らわしい! 今すぐここから消え失せろ!」


 怒号。罵声。嘲笑。

 それらが四方八方から降り注ぎ、私の耳を、心を満たしていく。

 ああ、すごい。まるで全身を冷たい滝に打たれているような、それでいて芯のほうが熱くなるような……。


「ああっ……! もっと……もっと言って……! あなた方のその、蔑みに満ちた言葉で、私をズタズタにして……!」


 思わず本音が漏れたが、幸いにも会場の喧騒にかき消されたようだ。

 私は顔を上げ、潤んだ瞳でギルバート様を見つめた。


「ギルバート様……。私を、どうなさるおつもりですか? 家を追い出され、着の身着のままで、路頭に迷う私を……。通りすがりの男たちに『おい、この元王女の成り下がりが』なんて指を刺される私を、想像して……。ああ、なんて無慈悲な……!」


「……え、あ、ああ。そうだ。貴様はこれから北の果ての極寒の地、監獄塔へ幽閉だ! そこで一生、己の罪を悔いて過ごすがいい!」


 「幽閉」! 「監獄塔」!

 素晴らしいわ! そこには、冷酷な看守とかがいるのよね? 毎日、食事を差し入れられるたびに「食え、このクズが」なんて言ってもらえるのかしら。それとも、石壁に向かって独り言を呟く孤独な日々? どちらにせよ、私の「属性」にはたまらないご褒美だわ。


「ひどい……ひどすぎますわ……! ああ、幸せ……じゃなかった、不幸すぎて死んでしまいそう!」


 私は恍惚の表情を浮かべた。しかし、周囲にはそれが「絶望のあまり精神を病んだ」ように見えたらしい。

 さっきまで罵っていた貴族たちが、少しだけ引いている。いけない。ここで引かれては困るわ。もっと、もっと私を追い詰めてもらわないと!


「皆さん、どうしたんですか! もっとあるでしょう? ほら、私のファッションセンスが最悪だとか、性格がひん曲がってるとか、実は影で変な儀式をしてるんじゃないかとか! 根も葉もない噂でも構わないわ、ぶつけてちょうだい!」


 私は立ち上がり、両手を広げた。


「さあ! 遠慮はいらないわ! 私を言葉の礫で血まみれにして!」


 静まり返る会場。

 ギルバート様が、一歩、後ずさる。

 隣のミーナ嬢は、怯えたように彼にしがみついている。


「……ギ、ギルバート様。この方、なんだか……不気味です」

「ああ。正気ではないな……。おい、衛兵! この狂女を今すぐ連れて行け! 地下牢へ叩き込め!」


 キタ!! 地下牢!!

 衛兵たちが私を取り囲み、両脇を掴む。

 

「離して! いえ、もっと強く掴んで! あ、痛い、痛いわ! 骨に響くようなこの痛み、最高よ!」


 衛兵たちはドン引きしていたが、構うものですか。

 私は引きずられながら、最後に振り返って会場の全員に最高の笑顔を向けた。


「皆様! 今日は本当にありがとうございました! 最高の婚約破棄パーティーでしたわ! いつかまた、私を蔑んでくれる日が来るのを、心から楽しみにしています!」


 こうして、私は意気揚々と地下牢へと向かった。

 婚約破棄。追放。幽閉。

 私の輝かしいドMライフは、今、幕を開けたばかりなのだ。


 ……さて、地下牢の看守さんは、どんな罵倒のボキャブラリーを持っているのかしら? 期待に胸を膨らませながら、私は重い鉄格子の音を子守唄に、夢見心地で暗闇へと足を踏み入れた。

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