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邪馬台国 卑弥呼  作者: レン
小説 邪馬台国 卑弥呼
7/23

朝倉の朝日  吉野ケ里の戦 宇佐の民




筑後川の上流、甘木の平野に「朝倉」の名が与えられたのは、この朝のことだった。



周囲の首長たちが集まり、赤い衣の女王を畏敬の目で見つめていた。

霧が薄く、朝日が早く昇るこの地は、筑後川の流れが穏やかで、山々が天然の壁のように守っていた。

卑弥呼は鏡を掲げた。

朝日が鏡に反射し、平野全体を金色に染めた。

光は強く、遠くまで届いた。

彼女は静かに宣言した。

「この地を、朝倉と名づける。

朝日が最初に差す場所。

ここに、宮を建てよ。

楼観を立て、城柵を巡らせ、田を広げよ。

倭の民は、ここで新しい息吹を得る」

首長の一人が膝をつき、言った。

「女王よ。

朝倉は、狗奴の鉄から遠い。

山門の谷より広く、土は肥え、水は豊か。

ですが……東へ道は続きます。

筑波の山影まで、光が届くという」

卑弥呼は目を細めた。

神の声が、耳に響いた。

「……東へ。

朝倉の光は、東へ伸びる。

倭の未来は、ここから始まり、

いつか、東の地で花開く」

彼女は鏡をゆっくり下ろし、壱与に目を向けた。

妹は船の上で、銅鐸を握りしめていた。

「いよ。

朝倉の宮を、私と共に築け。

山門は守り続ける。

だが、この朝倉は……倭の新しい心臓になる」

壱与は頷いた。

「姉上。

朝倉の朝日は、強いですね。

東へも届く……」

卑弥呼は微笑んだ。

「届く。

鏡は光を映す。

銅鐸は音を運ぶ。

朝倉の光は、いつか東の山々を照らすだろう。

狗奴の鉄が追ってきても、

私たちは、移る。

東へ、東へ……」

その日から、朝倉の開拓が始まった。

高床の宮が建ち、二重の堀が掘られ、物見櫓が立った。

田は広がり、巫女たちは銅鐸を鳴らし続けた。

卑弥呼は毎朝、宮の縁に立ち、鏡を掲げた。

朝日が最初に差すこの地で、光は強く、遠くまで届いた。

東の方向へ、筑波の山影が見える日もあった。

狗奴の斥候は、山の向こうからそれを見ていた。

卑弥弓呼は、菊池の丘で報告を受けた。

「女王が朝倉に入った。

新しい宮を築き、田を広げている。

鏡の光が、東へ伸びているという」

卑弥弓呼は剣を握りしめた。

「……朝倉か。

山門より広い。

東へ道が開ける。

ならば、なおさらだ。

女王の新天地を、鉄で奪う。

東へ逃げようとしても、追う」


朝倉の朝日が昇るたび、卑弥呼は鏡を掲げた。

光が、筑後川を下り、山門の谷へも届くように。

そして、東の遠い山々へも、かすかに伸びるように。

壱与は山門で鏡を掲げ、応えた。

「姉上……朝倉は守れますか?」

卑弥呼は静かに答えた。

「守れる。

ここは、神の選んだ地。

朝倉の朝日は、倭の未来を照らす。

いつか、私たちは……東へ行く。

光を携えて」

銅鐸の音が、朝倉の平野に響いた。

新しい宮の楼観が、朝日に輝いた。


朝倉は肥沃な大地だった。邪馬台国の民は飛躍的に伸び周辺国を抑えた。もはや卑弥呼に並ぶものは居なかった。



朝倉の宮殿が完成した翌春。

卑弥呼は、赤い衣を纏い、巫女たちを連れて旅に出た。

目的は、朝倉周辺の四つの聖地を巡ること。

神の声が告げた言葉は、こうだった。

「夜須、三輪、平群、香山を巡れ。

これらの地に、光を灯せ。未来は、ここから東へ伸びる」


壱与は山門に残り、銅鐸を鳴らし続けた。

卑弥呼は馬に乗り、護衛の兵と巫女を従え、朝倉を出発した。


一、夜須やす

最初に訪れたのは、朝倉の北東、夜須の丘陵地帯だった。

夜須川の流れが穏やかで、土は柔らかく、夜になると星が川面に映る美しい場所。

卑弥呼は丘の上に立ち、銅鏡を掲げた。

朝日が昇り、光が夜須川を金色に染めた。

「ここは、夜須。

闇を照らす地。

神の声は言う。

光は、夜をも越える」

巫女たちが銅鐸を鳴らし、音が川を渡って遠くへ響いた。

地元の民が集まり、女王の前に膝をついた。

卑弥呼は鏡を一つ与え、言った。

「この鏡を、夜須の民に。

闇が来ても、光を忘れるな」


二、三輪みわ

次に、三輪山の麓へ。

朝倉の東、円錐形の美しい山がそびえ、三輪雲堤みわくもづつみと呼ばれる堤が周囲を囲む。

卑弥呼は山麓に下馬し、素足で山道を登った。

巫女たちが銅鐸を鳴らし、音が山に反響した。

三輪山の頂近くで、卑弥呼は立ち止まった。

朝日が山頂を照らし、光が三輪雲堤を黄金に染めた。

「ここは、三輪。

神の住む山。

倭の魂は、ここに宿る」

彼女は銅鏡を山頂に向け、光を反射させた。

光が東へ伸び、遠くの筑波の山影をかすめた。

民たちは息を呑み、卑弥呼の言葉を聞いた。

「三輪の神は、東を見ている。

いつか、光は東の地へ届く」

三、平群へぐり

さらに東へ進み、平群の谷へ。

朝倉の東南、平らな谷間に川が流れ、土は肥え、田が広がっていた。

卑弥呼は谷の中央に立ち、鏡を掲げた。

朝日が谷全体を照らし、光が平群の田を金色に変えた。

「ここは、平群。

平らな地、群れの地。

倭の民は、ここで群れを成す」

巫女たちが銅鐸を打ち、音が谷に満ちた。

卑弥呼は鏡を一つ置き、言った。

「平群の民よ。

群れを一つにせよ。

東へ向かう時が来たら、群れは強くなる」

四、香山かぐやま

最後に、朝倉の南東、香山の丘へ。

丘の上に小さな社があり、香しい花が咲き乱れていた。

卑弥呼は丘に登り、鏡を掲げた。

夕陽が沈む頃、光が香山の花を赤く染めた。

「ここは、香山。

香りの山。

倭の魂は、香りとなって東へ運ばれる」

卑弥呼は鏡を丘に置き、銅鐸を一つ鳴らした。

音と香りが、風に乗って東へ流れていった。

旅の終わり、卑弥呼は朝倉の宮に戻った。

壱与が待っていた。

「姉上……四つの地を巡ったのですね。

光は、東へ伸びましたか?」

卑弥呼は鏡を壱与に渡した。

「伸びた。

夜須の闇を照らし、三輪の神を呼び、平群の群れをまとめ、香山の香りを運んだ。

いつか、倭の民は東へ行く。

朝倉の光を携えて」

壱与は鏡を抱きしめた。

「東へ?」

卑弥呼は静かに微笑んだ。

「神の声は、まだ告げない。

だが、光は東を向いている。

狗奴の鉄が来ても、

私たちは、移る。

東へ、東へ……」

銅鐸の音が、朝倉の宮殿に響いた。

四つの光は、倭の未来を照らし始めていた。





数年後

卑弥呼は急ピッチで邪馬台国を作りあげた。

筑紫朝倉に宮殿を作り

日田に防衛戦略地を吉野ケ里を軍事拠点とした。

太宰府から異国の情報が入るようになり

逐一卑弥呼に届けられる。

「私が死んだら日向西都原に葬って欲しい」

卑弥呼は弟に言った。

「縁起でもない」

「やはり故郷が良いのだ」

卑弥呼は微笑む。

「姉上が居なくなったら邪馬台国はどうなります?」

「私が居なくても滅びはしない」

「そうですか」

卑弥呼は部下の報告を聞きながら次次と指令を出した。いまや邪馬台国は30余の国を纏める大国となっていた。






鉄は、対馬の船で届いた。

弁辰の鉄塊は黒く重く、帯方郡の印が刻まれていた。

山門の鍛冶炉は一晩で十基増え、昼も夜も火が噴いた。

出来上がった鉄鏃は、狗奴のものより細く、鋭く、百本ごとに巫女が銅鏡で清めた。

卑弥呼は宮の最上階から谷を見下ろした。

赤い衣を風に翻し、静かに呟く。




三日後、筑肥山地の峠から黒い煙が上がった。

狗奴国王・卑弥弓呼の軍勢、二千五百。

菊池の鉄を満載した荷車を引き、鉄剣・鉄槍・鉄兜の兵が列をなして南下してきた。

「女王の鉄が来たという。

ならば、我らの鉄で叩き潰す!」

卑弥弓呼は馬上から叫んだ。

阿蘇の火山灰を背に、鉄の軍団は筑後川を越え、吉野ヶ里の環濠へ迫った。

吉野ケ里は、すでに戦闘態勢だった。

二重・三重のV字堀は水を満ち、逆茂木がぎっしり。

物見櫓には弓兵が並び、巫女たちは円陣を組んで銅鐸を構えていた。

第一波が来た。

狗奴の鉄鏃が雨のように降り注ぐ。

木の盾が次々と砕け、悲鳴が上がった。

「撃て!」

壱与の号令で、山門の鉄弓隊が反撃した。

魏の鉄で打った鏃は、狗奴の盾を貫通し、兵を串刺しにした。

「鉄が……鉄が違う!」狗奴の兵が初めて動揺した。

卑弥呼は宮の縁に立ち、銅鏡を高く掲げた。

朝日が鏡に反射し、狗奴の軍勢の目を焼いた。

巫女たちが一斉に銅鐸を打ち鳴らした。

低く、重く、谷全体を震わせる音。

その響きは、狗奴の兵の耳に直接響き、平衡感覚を狂わせた。

何人かがよろめき、堀に落ちた。

卑弥弓呼は歯を食いしばった。

「怯むな! 鉄の楔を打ち込め!」

狗奴の先鋒が環濠の外柵に殺到。

鉄斧で柵を叩き割り、鉄槍で突き上げる。

山門の兵が次々と倒れるが、鉄剣を持った第二陣が飛び出した。

刃と刃が激突し、火花が飛び散った。

戦いは三刻(約六時間)続いた。

環濠の堀は血と鉄で赤く染まり、死体が堀を埋め始めた。

狗奴の鉄兜は強靭だったが、山門の鉄鏃は角度をつけて撃ち、兜の隙間を貫いた。

卑弥呼は目を閉じ、神の声に耳を傾けた。

「……今だ。

台与、鏡を」

宗女の台与が、小さな銅鏡を太陽に向けた。

二枚の鏡が連動し、強烈な光の束が狗奴の本陣を直撃した。

卑弥弓呼の馬が驚いて暴れ、王は地面に投げ出された。

その隙に、山門の鉄剣隊が総反撃。

「女王の鉄だ!」という叫びとともに、狗奴の陣列を切り裂いた。

卑弥弓呼は這い上がり、血まみれの顔で叫んだ。

「退け! 今日は……退く!」

狗奴の軍勢は、鉄の荷車を捨てて北へ逃げた。

筑後川を渡る頃には、半数近くが失われていた。

山門の谷は、勝利の銅鐸で満たされた。

卑弥呼は宮の縁に座り、静かに息を吐いた。

「……鉄は得た。

だが、狗奴の炉はまだ燃えている。

次は、もっと大きな鉄が来るだろう」

壱与が血に染まった剣を下げ、姉を見上げた。

「女王……これで、守れますか?」

卑弥呼は微笑んだ。

「守れる。

魏の鉄と、神の鏡があれば。

だが、いつか……墓は南へ移さねばならない」

谷の向こう、菊池の方向から、遠く鉄を打つ音がまだ響いていた。

戦いは、終わっていなかった。


山門の宮殿、最奥の間。

卑弥呼は鏡を掲げ、朝日を反射させていた。

谷の向こう、筑肥の峠から、狗奴の鉄を打つ音が遠く響いてくる。

壱与が不安げに姉を見上げた。

「姉上……狗奴の斥候が増えています。

峠の向こうで、鉄の雨がまた降るかも」

卑弥呼は鏡をゆっくり下ろし、静かに言った。

「神の声が告げている。

山門は守るが、光は一つでは危うい。

分身を、東へ送らねばならない」

壱与が目を丸くした。

「分身……?」

卑弥呼は巫女たちに命じた。




「宇佐の地へ、選ばれた者を送れ。

巫女十人、鍛冶師五人、農民とその家族三十人。

鏡の破片を一つ、銅鐸を一つ携えて。

そこで、新たな光を灯せ」

選ばれた者たちは、夜陰に紛れて朝倉を離れた。

日田の地から宇佐へ

宇佐の海岸に上陸したのは、霧の深い朝だった。

宇佐の丘は、朝日が早く差す聖地だった。

古い社が一つあり、周囲は豊かな田と森に囲まれていた。

移住者たちは土を踏み、鏡の破片を掲げた。

朝日が破片に反射し、光が丘全体を照らした。

リーダー格の巫女(卑弥呼から託された者)が、静かに宣言した。

「ここを、宇佐と名づける。

姉上の光を、この地に分身させる。

鏡の破片を社の下に納め、銅鐸を鳴らし続けよ。

いつか、この光が東へ、西へ、倭全体に広がる日が来る」

彼らは小さな宮を建て、田を開き、鍛冶炉を焚いた。

銅鐸の音は、毎日朝夕に響き、

鏡の破片は、朝日を反射して遠く山門へ届くように輝いた。

卑弥呼は山門の宮で、その音を聞いた。

遠く宇佐から響く銅鐸が、風に乗って届く。

「分身は、無事に灯ったか……」

彼女は鏡を掲げ、朝日を反射させた。

光が宇佐へ、そしてさらに東の奈良盆地へ伸びるように。

狗奴の斥候は、宇佐の丘の光を見た。

卑弥弓呼に報告した。

「女王が、光を分けた。

宇佐に、新しい鏡が輝いている」

卑弥弓呼は剣を握りしめ、笑った。

「……分身か。

ならば、すべてを鉄で潰す。

女王の光を、根こそぎ」

だが、宇佐の銅鐸は止まらなかった。

小さな音だったが、

山門の音と共鳴し、倭の空に響き続けた。

卑弥呼は静かに微笑んだ。

「光は、分かれても消えない。

宇佐の分身は、いつか東へ伸びる。

倭は、必ず一つになる」

朝日が昇るたび、

山門と宇佐の二つの光が、

遠く大和の地を照らし始めた。



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