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邪馬台国 卑弥呼  作者: レン
小説 邪馬台国 卑弥呼
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筑紫の盟約 ― 女王の選定


筑紫の七王会議 ― 卑弥呼の選定

筑紫の丘陵、奴国の集落に近い高台の広間。

霧が立ち込める朝だった。

七つの国の王たちが集まっていた。

対馬王つしま:海を渡る船の主。

一支王いき:対馬と末盧の間、交易の中継地。

末盧王まつら:北九州の海辺、倭の玄関口。

伊都王いと:鏡と銅鐸の交易で富む。

奴国王なこ:漢の金印を持つ古い勢力。

不弥王ふみ:奴の東、筑紫の要衝。

投馬王とうま:筑後川流域の水運を握る。

広間の中央に、粗末な高床の座が設けられていた。

そこに座るのは、まだ女王ではない卑弥呼。

赤い紐で髪を束ね、銅鏡を膝に置いている。

彼女は静かに七王を見回した。

奴国王が最初に口を開いた。

声は低く、疲れていた。

「倭国大乱は、もう限界だ。

狗奴の鉄が南から迫り、末盧の海路は塞がれ、伊都の交易は途絶えた。

このままでは、倭はすべて灰になる」

対馬王が頷いた。

「我らの船は、狗奴の影に阻まれ、弁辰の鉄が届かぬ。

魏の名を借りぬ限り、鉄は狗奴のものだ」

一支王が続けた。

「男王では争いが続く。

奴と伊都がまた剣を抜き、末盧と投馬がまた争う。

王を立てねばならぬ。

だが、誰が王か?」

広間に、重い沈黙が落ちた。

末盧王が、卑弥呼を指さした。

「……女を立てよ。

鬼道の女を。

神の声を聞く者なら、皆が従うかもしれない」

視線が卑弥呼に集まった。

彼女はゆっくり立ち上がった。

小さな銅鏡を手に持ち、朝日を反射させた。

光が広間を照らし、七王の顔を一つ一つ撫でた。

「私は卑弥呼。

奴国の巫女として育てられ、鬼道を学んだ。

神の口は言う。

鉄は血を呼ぶ。

血は争いを呼ぶ。

争いは倭を滅ぼす。

だが、鏡は光を映す。

銅鐸は音を響かせる。

私が女王となれば、皆の争いを鏡に映し、銅鐸で静めよう」

対馬王が問うた。

「卑弥呼よ。

お前は神の声を聞くという。

本当に、倭の争いを止められるのか?」

卑弥呼は鏡を掲げ続けた。

光が、広間の外の筑紫の海へ伸びた。

「止められる。

対馬の船を呼び、一支の交易を活かし、末盧の海路を開き、伊都の鏡を広め、奴の金印を輝かせ、不弥の要衝を守り、投馬の水運を繋ぐ。

倭は一つになる。

神の声に従い、皆を守る」

七王は息を呑んだ。

伊都王が立ち上がり、漢の鏡を掲げた。

「ならば、卑弥呼を女王に立てる。

伊都は従う」

奴国王が槍を地面に突き立てた。

「奴も従う。

鬼道の女王なら、魏の名を借りて鉄を呼び、狗奴を抑えられる」

末盧王、不弥王、投馬王も、次々と槍を地面に立てた。

対馬王と一支王も頷いた。

「対馬も、一支も従う。

倭の船は、女王の元で海を渡る」

広間に、銅鐸の音が響き始めた。

卑弥呼は鏡を掲げ続け、静かに宣言した。

「私は卑弥呼。

倭の女王となる。

争いを止め、田を耕し、海を渡り、倭を一つにしよう。

神の声に従い、皆を守る」

七王は一斉に膝をついた。

筑紫の丘に、朝日が昇った。

光が、卑弥呼の鏡に反射し、谷全体を照らした。

倭国大乱は、終わったかに見えた。

だが、一つの影が、広間の外に立っていた。




肥後国球磨郡にある

狗奴国王・卑弥弓呼。

彼は使者を送らず、自ら丘の麓まで来ていた。

鉄の兜を被り、槍を握りしめ、静かに見つめていた。

卑弥弓呼の側近が囁いた。

「王よ……女王が立てられた。

七王が従った」

卑弥弓呼は低く笑った。

「従う?

鉄を持たぬ女王に、何が出来る。

狗奴は従わぬ。

これからも、相攻伐す」

彼は槍を地面に突き立て、丘に向かって叫んだ。

「卑弥呼よ!

お前の鬼道は、我らの鉄に勝てぬ!

狗奴は女王に属さぬ!」

声は丘に響き、銅鐸の音をかき消した。

卑弥呼は鏡を掲げたまま、静かに答えた。

「狗奴よ。

神の声は言う。

鉄は強い。

だが、光は鉄を映す。

いつか、お前も鏡を見る日が来る」

卑弥弓呼は馬を返した。

狗奴の軍勢は、北へ去っていった。

七王は互いに顔を見合わせた。

奴国王が呟いた。

「……狗奴だけは、従わぬか」

卑弥呼は鏡をゆっくり下ろし、微笑んだ。

「従わぬなら、抑える。

倭は一つになる。

神の口は、そう言う」

朝日が、谷を完全に照らした。

銅鐸の音が、再び響き始めた。

倭国大乱は、終わった。

だが、新たな争いの火種は、すでに灯っていた。

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