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邪馬台国 卑弥呼  作者: レン
小説 邪馬台国 卑弥呼
17/23

宇佐の八幡




日向の高千穂に新たな宮を築いてから、数年が経っていた。

壱岐は、鏡の破片を胸に、老いた体で馬に跨っていた。

奴婢たちは減り、巫女たちは若返り、銅鐸の音は日向の山々に響き続けていた。

だが、壱岐の瞳には、遠い西の山門と朝倉の記憶が残っていた。

「姉上……いよ……

日向は守った。

だが、倭の光は、まだ東へ伸びねばならない」

彼は最後の旅に出た。

日向から北へ、豊後(大分)の海を渡り、宇佐の地へ。

そこは、神々が降り立つ聖地と噂される場所だった。

八幡の神が宿るという古い社が、丘の上にあった。

宇佐の丘に着いたのは、朝霧の深い朝だった。

壱岐は馬を降り、素足で石段を登った。

巫女たちが銅鐸を鳴らし、音が霧を震わせた。

地元の神官たちが集まり、老いた男の姿に驚いた。

「あなたは……誰ですか?

日向から来たという」

壱岐は鏡の破片を掲げた。

朝日が破片に反射し、宇佐の丘を照らした。

光が八幡の社に落ち、社の木々が金色に輝いた。

「私は壱岐。

卑弥呼の弟。

山門から朝倉へ、日向へ……光を継いできた。

ここ、宇佐に、最後の光を灯す」

神官の一人が息を呑んだ。

「卑弥呼……女王の名を、なぜここで?」

壱岐は静かに語り始めた。

「姉上は鬼道で倭をまとめた。

鏡で光を映し、銅鐸で音を響かせた。

狗奴の鉄に追われ、山門は灰になり、朝倉は光を東へ伸ばした。

日向で、私は新たな邪馬台国を創った。

だが、光はまだ止まらぬ。

東へ、東へ……奈良の地へ、倭の魂を運ばねばならない」

彼は鏡の破片を社の前に置いた。

巫女たちが銅鐸を打ち、音が宇佐の山々に反響した。

朝日が破片を照らし、光が東の方向へ伸びた。

筑紫の海を越え、筑波の山影を越え、遠く大和盆地へ。

壱岐は膝をつき、静かに祈った。

「八幡の神よ。

この光を受け継げ。

卑弥呼の霊は、日向に宿った。

だが、倭の未来は、東にあります。

鏡の破片を、銅鐸の音を、

ここ宇佐に留め、いつか東へ届けよ」

神官たちは息を呑み、壱岐の言葉を聞いた。

老いた男の瞳は、朝日のように赤く輝いていた。

「私はここで終わる。

光は、すでに東へ向かっている。

倭の民は、いつか鏡を見るだろう。

その時、卑弥呼の名は、神として蘇る」

壱岐は鏡の破片を社に納め、銅鐸を一つ置いた。

巫女たちが最後の音を鳴らし、丘は静かになった。

遠く、日向の高千穂では、壱与の使者が銅鐸を鳴らし続けていた。

山門の谷は灰になったが、光は止まらなかった。

宇佐の朝日は昇り、鏡の破片が輝いた。

八幡の神は、静かに東を見ていた。

壱岐は丘の上で横たわり、微笑んだ。

「姉上……いよ……

光は、東へ届いたよ」

風が銅鐸を鳴らし、音が東へ運ばれた。



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