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邪馬台国 卑弥呼  作者: レン
小説 邪馬台国 卑弥呼
16/23

日向の新王 ― 卑弥呼の弟の建国




山門の谷は、狗奴の鉄に囲まれ、魏の使者はまだ帰らなかった。

壱与は宮殿の奥で震えていた。

兄の壱岐を呼んだ。

「兄上……もう、山門は持たない。

狗奴の鉄が環濠を埋めている。

私はここに残り、民を守る。

兄上は……日向へ行ってください」

壱岐は跪いた。

三十を過ぎた異母弟は、剣の柄を握りしめていた。

「いよ……

私が残って戦うべきでは」

壱与は首を振った。

瞳に涙を浮かべながら、卑弥呼の遺した銅鏡を兄に渡した。

「姉上の声が聞こえます。

『壱岐よ、日向へ行け。

高千穂の峰の下に、新たな邪馬台国を創れ。

私の霊はそこに宿る』と。

鏡の破片を携え、奴婢百余人と巫女たちを連れて。

朝倉の光を、東へ……」

壱岐は鏡を受け取った。

鏡の表面には、細かなひびが入っていた。

彼は静かに頷いた。

「わかった。

私が、日向に新たな邪馬台国を創る。

姉上の霊を、倭の民を、守ってみせる」

その夜、壱岐は密かに山門を離れた。

奴婢百余人、巫女十数人、鍛冶師と兵五十人を連れ、筑後川を下り、有明の海を渡った。

狗奴の斥候を振り切り、筑肥山地を越え、ようやく日向の地へ辿り着いた。

高千穂の峰が朝日に輝く場所。

阿波岐原のみそぎ池のほとり。

そこは、神々が降り立つ聖地だった。

壱岐は土を踏み、鏡の破片を掲げた。

「ここだ。

卑弥呼の霊が待つ地。

私は卑弥呼の弟、壱岐。

ここに、新たな邪馬台国を創る」

地元の首長たちが集まった。

壱岐は鏡の破片を地面に並べ、銅鐸を一つ鳴らした。

音が峰に反響し、朝日が破片を照らした。

「朝倉の光は東へ伸びた。

山門は失われたが、邪馬台国は滅びぬ。

ここに宮を建て、楼観を立て、城柵を巡らせよ。

田を広げ、鉄を呼び、鬼道を継ぐ。

私は王となり、卑弥呼の霊を守る」

首長たちは膝をついた。

奴婢たちは自ら塚を掘り、卑弥呼の遺髪と鏡の破片を納めた。

巫女たちは銅鐸を打ち続け、音が日向の山々に響いた。

壱岐は高床の宮の縁に立ち、鏡の破片を掲げた。

朝日が反射し、光が西の山門方向へ、そしてさらに東の奈良盆地へ伸びた。

「姉上……見ていてください。

私は、日向に新たな邪馬台国を創りました。

狗奴の鉄が来ても、魏の影が伸びても、

ここで、倭の光を絶やしません」

遠く、菊池の丘で卑弥弓呼は報告を受けた。

「卑弥呼の弟が、日向に新しい国を創ったという。

鏡の光が、高千穂の峰から東へ伸びている」

卑弥弓呼は剣を握りしめ、笑った。

「……新たな邪馬台国か。

ならば、追う。

鉄で、光を遮る」

だが、日向の峰では、銅鐸の音が止まなかった。

壱岐は鏡の破片を掲げ続け、静かに誓った。

「邪馬台国は、滅びぬ。

ここ、日向に、新たに生まれ変わる」

朝日が昇るたび、日向の宮殿は輝いた。

卑弥呼の弟は、新たな王として、

倭の光を東へ、東へ……繋いでいった。

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