最終章:鏡の破片と、永遠の眠り
西暦280年、呉を滅ぼし天下統一を成し遂げた司馬炎は、かつての英明さを失っていた。
彼の寝室には、台与から送られたあの「赤い筋の入った鏡」が、粉々に砕かれた状態で飾られている。司馬炎はその破片を愛でながら、夜な夜な一万人の後宮の美女たちと酒池肉林に溺れた。
「見たか、台与。お前の国を灰にし、私は天下を統べた。私の勝ちだ……」
しかし、鏡の破片に映る司馬炎の顔は、爛れたように歪んでいた。台与が予言した通り、彼の心は内側から腐敗し、晋の宮廷は奢侈と権力争いにまみれていった。司馬炎が死を迎え、凄惨な**「八王の乱」**によって洛陽が火の海に包まれるまで、そう時間はかからなかった。司馬一族は、自らが放った「征伐の炎」に焼かれるように滅びの道を辿ることとなる。
一方、張政によって徹底的に破壊された邪馬台国の跡地は、誰も住まぬ死の地となったはずだった。
しかし、戦火が収まると、どこからともなく人々が集まり始めた。彼らは、晋の手によって奴隷とされることを免れた生き残りの民や、台与の霊力を密かに慕う周辺の国々の者たちであった。
「ここは、かつて女王様が天と繋がった場所……」
人々は、焼け跡から拾い集めた鏡の破片や、台与が大切にしていた遺物を聖なる依代として祀り始めた。国家としての邪馬台国は滅んだが、「卑弥呼と台与の信仰」は、より深く、より静かに人々の血に刻み込まれていったのである
月日は流れ、信仰はひとつの巨大な形を成していく。
かつての戦場であり、聖域であった九州の平野——現在の宮崎県・西都原。
そこには、台与を慕う信者たち、そして彼女の意志を継ぐ有力者たちによって、無数の「山」が築かれた。それが、後の世に語り継がれる西都原古墳群である。
その中心に位置する巨大な前方後円墳の奥深く。
そこには、「真の鏡」と共に、静かに眠る巫女の姿があったという。
エピローグ
大陸で晋が崩壊し、司馬氏の名が歴史の闇に消えていく中、東方の島国では、土を盛り、石を積む音が絶えなかった。
司馬炎が求めた「力による支配」は霧散したが、台与が遺した「祈りと眠りの地」は、千年以上の時を超えて大地に刻まれ続けた。
西都原の丘に風が吹くたび、今もどこかで、小さな鏡の破片が鈍く光を放っている。




