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血塗られた未来

西暦249年。洛陽は血と静寂に包まれていた。

三日間にわたる激変は終わり、大将軍・曹爽とその一派はことごとく捕らえられ、まもなく処刑される運命にあった。

司馬懿は、かつて自身を幽閉同然にした曹爽の屋敷を、今は自身の拠点としていた。

広間には、冷たい月の光が差し込み、彼の顔を青白く照らす。


玉座のような大椅子の背もたれに深く身を沈めた司馬懿は、静かに、そして高らかに、虚空に向かって語り始めた。その言葉は、まるで東の海の彼方まで届かせるかのように、確信に満ちていた。

「……見たか、卑弥呼よ」

彼の右手には、あの時床に叩きつけたはずの、しかし今は欠け一つない、磨き上げられた銅鏡が握られている。鏡面には、血のように赤い月が映り込んでいた。

「お前は、この私を『鏡の呪い』で縛り、未来を予言することで、私の行く手を阻もうとした。私が動けば、すぐにその眼に映し、『こうなる』と定めようとしたな」

司馬懿は立ち上がり、鏡を胸の高さに掲げる。

「だが、どうだ? 私のこの手で、曹氏の簒奪者を葬り去り、魏の朝廷を手中に収めたぞ! お前の見た『濁流の終わり』とは、まさにこのこと。そして、その終止符を打つ者が、他ならぬこの司馬仲達だ!」

彼の顔には、狂気にも似た歓喜と、長年の抑圧からの解放感が混じり合っていた。

狂気と解放

「お前は、この私が『幻を現実にする』と言った。その通り、私はこの洛陽の現実に血を流し、新たな秩序を築き上げたのだ。お前の予言は当たった。だが、それはお前が望んだ未来ではなかっただろう!」

司馬懿は鏡を強く握りしめた。彼の指の力が強すぎて、鏡がミシリと音を立てる。

「お前が死んだ瞬間の、あの『光』は、この私を縛る鎖が断ち切られた音だった! 私は、お前の『未来を覗く眼』から逃れるために、痴れ者を演じ、自らの野心を泥の中に埋め続けた。だが、もう必要ない。私を阻むものは、この世にはもはや存在しないのだ!」

彼の笑い声が、静まり返った屋敷に響き渡る。その声は、勝利の雄叫びであり、同時に、何かが決定的に壊れてしまった者の悲鳴のようでもあった。

「もはや、私に『静寂』など訪れぬ。訪れるのは、この司馬仲達が作り上げる、永遠なる『血の時代』よ! 見よ、卑弥呼! お前が恐れた真の怪物とは、この私だったのだ!」

司馬懿は、鏡を床に投げつけた。しかし、鏡は砕けることなく、ただ冷たい光を放ち続けている。

その輝きの中、司馬懿は、来るべき「晋」の時代へと続く、血塗られた未来を確信していた。

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