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鏡の城の魔導士 ~魔法が効かない少女と時空の謎~  作者: 宵町あかり


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第9話 封印された聖域

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

「鏡の城の魔導士 ~魔法が効かない少女と時空の謎~」第9話をお届けします。


ついに聖域への扉が開かれ、アイリスは古代の観測者たちの記録を目にします。

世界の秘密と自らの宿命を知った彼女の決意、そして迫り来る新たな脅威。

物語はいよいよ大きな転換点を迎えます。


お楽しみください!

 地下四階の最奥、薄暗い通路の先に、それまでとは明らかに異なる扉があった。


 重厚な石造りで、表面には見たこともない複雑な文様が刻まれている。扉全体が淡い青い光を帯び、まるで生きているかのように脈動していた。


「これが......聖域への扉」


 ジークが息を呑む。彼の手にある古い羊皮紙には、この扉の存在が記されていた。リオが残した最後の記録に従って、彼らはようやくここまで辿り着いたのだ。


「すごく重そうな扉ですね」アイリスが無邪気に首をかしげる。「鍵は必要なんでしょうか?」


「いや、この扉は特別だ」レイナが扉の文様を注意深く観察する。「魔導文字が刻まれているが......これは古代語だ。現在使われているものよりもずっと古い」


 ジークが羊皮紙を広げる。「リオの記録によると、この扉は観測者にのみ反応するという。アイリス、君が触れてみてくれないか?」


「私が?」アイリスは少し戸惑ったが、素直に扉に近づいた。


 彼女が扉に手を伸ばした瞬間、文様が激しく光り始めた。青い光は波紋のように扉全体に広がり、やがて重い石音と共にゆっくりと開かれていく。


「やっぱり......」ジークが小さくつぶやく。「君は本当に観測者なんだ」


 扉の向こうには、今まで見てきたものとは全く異なる空間が広がっていた。


   * * *


 聖域は、まるで別世界のような場所だった。


 高い天井は見えないほどの闇に包まれ、床と壁は光る石で作られている。その石は青白く輝き、空間全体を幻想的な光で満たしていた。


「すごく綺麗です」アイリスが目を輝かせる。「まるで星空の中にいるみたい」


 レイナは興奮を隠せずにいた。「この光る石......ルミナイトじゃない。もっと純粋な魔素結晶だ。こんなに大量に見たのは初めて」


 ジークは警戒を怠らない。「美しいが、この場所は危険かもしれない。気をつけよう」


 彼らが足を踏み入れると、壁に並んだ古い装置が次々と光り始めた。レバーやボタンのようなものがいくつも見える。


「これは......制御装置?」レイナが近づこうとした瞬間、アイリスが何の気なしに装置の一つに触れた。


 すると、空間中央に巨大な光の柱が現れた。その中に、古代文字がゆっくりと浮かび上がる。


「アイリス! 何をした?」ジークが慌てるが、彼女は不思議そうに首をかしげるだけだった。


「あの、普通に触っただけなんですが......」


「でも、文字が読める」アイリスが光る文字を見つめる。「なんだか、頭の中に意味が浮かんでくるんです」


 レイナとジークは驚愕した。古代語を現代人が読むことなど、通常は不可能だ。


「何と書いてある?」ジークが尋ねる。


 アイリスは少し困ったような表情を浮かべた。


「えーっと......『世界を見守る者たちへ』という題で始まって......『我らは始まりの時より、この世界の秩序を保つ使命を受けた』......何だか難しいことが書いてあります」


 光の文字は次々と変化し、より多くの情報を表示していく。


「『観測者の力は、現実そのものを安定させる』......『しかし、その力は諸刃の剣でもある』」アイリスが読み上げていく。「『力の制御を誤れば、世界そのものが......』」


 突然、アイリスの顔が青ざめた。


「どうした?」ジークが心配そうに声をかける。


「あの......『世界そのものが消滅する危険性がある』って書いてあります」アイリスが震え声で読み上げる。「そんな恐ろしいこと、私にできるはずありません」


 ジークは彼女の肩に手を置いた。「大丈夫だ。君は一人じゃない」


 その時、新たな光の柱が現れた。今度は映像のようなものが浮かび上がる。


   * * *


 映像には、遥か昔の観測者たちの姿が映し出されていた。


 彼らは現在のアイリスと同じような能力を持ち、世界の各地で現実の安定化に努めていた。しかし、映像が進むにつれて、その表情は次第に疲弊していく。


「観測者の人たち......とても辛そうです」アイリスがつぶやく。


 映像の中の観測者たちは、やがて一人、また一人と姿を消していく。最後に残ったのは、白髪の老人一人だけだった。


 老人は何かを操作し、巨大な装置を動かしている。その瞬間、映像は激しく光り、やがて暗闇に包まれた。


「最後の観測者が......システムを停止させたのか?」レイナが推測する。


 再び文字が現れた。アイリスが読み上げる。


「『我らの世代で、この重荷を終わらせよう』......『未来の子どもたちには、普通の人生を歩ませてやりたい』......『しかし、世界はいずれ新たな観測者を必要とするだろう』」


 アイリスの目に涙が浮かんだ。


「みんな、私と同じだったんですね......一人で重たいものを背負って」


「だが、君には仲間がいる」ジークが力強く言った。「過去の観測者たちとは違う」


「そうです」レイナも頷く。「一人で何でも解決する必要はありません」


 その時、新たな警告文が現れた。


「『封印は既に弱まっている』......『破壊者が近づいている』......『新たな観測者よ、準備せよ』」


 アイリスの表情が強張る。「破壊者......それってフォルクスさんのことでしょうか?」


 ジークの顔も厳しくなった。「恐らくそうだ。彼の目的が観測者の排除なら......」


 その瞬間、聖域全体が震動し始めた。壁の結晶が不安定に明滅する。


「何か来る!」レイナが叫んだ。


   * * *


 震動は次第に激しくなり、天井から小石が落ち始めた。古代の装置も不規則に光り始める。


「緊急事態のようですね」アイリスが妙に冷静に言った。「でも、どうすればいいんでしょう?」


 光の文字が再び現れるが、今度は以前よりも激しく点滅している。


「『緊急プロトコル発動』......『聖域封印開始』......『観測者は直ちに退避せよ』」


「聖域が封印される?」ジークが慌てる。「それじゃあ、この情報は......」


「大丈夫です」アイリスが不思議と確信に満ちた声で言った。「必要な情報は、ちゃんと覚えています」


 彼女の言葉と同時に、最後の文字列が現れた。


「『記録は観測者の記憶に刻まれた』......『真実の時まで、大切に守れ』」


 そして、光の柱は消え、古代の装置も静寂に戻った。しかし、震動は止まらない。


「急いで出よう!」ジークが促す。


 三人は急いで扉に向かった。アイリスが最後に振り返ると、聖域の光がゆっくりと弱くなっていくのが見えた。


 扉を通り抜けた瞬間、後ろで重い石音が響いた。振り返ると、扉は完全に閉じられ、表面の文様も光を失っていた。


「もう二度と開かないのかもしれませんね」アイリスが少し寂しそうにつぶやく。


「でも、君が必要な情報を記憶している」ジークが励ます。「それで十分だ」


 レイナが首を振る。「私には古代語なんて一文字も読めませんでした。アイリスだからこそ、あの情報を受け取れたんです」


   * * *


 地上に戻る途中、アイリスは考えていた。


 過去の観測者たちの重荷。世界の秘密。そして、迫り来る脅威。


 すべてが自分の肩にかかっているのだと実感し、不安が心の中で渦巻く。


「アイリス」ジークが声をかけた。「無理をする必要はない。君のペースで大丈夫だ」


「そうです」レイナも同調する。「私たちも一緒に考えます」


 アイリスは二人を見回し、小さく微笑んだ。


「ありがとうございます。一人だったら、きっと怖くて逃げ出していました」


 彼女の中で、何かが変わり始めていた。これまでは受動的に状況に流されるだけだったが、今は自分の意志で前に進もうとしている。


「お兄さんも、こんな気持ちだったのかもしれませんね」アイリスがつぶやく。「重いけれど、大切なものを守りたいという気持ち」


 ジークは彼女の成長を感じ、胸が熱くなった。


「リオが君のことを信じていた理由が分かる」


   * * *


 鏡の城の地上階に戻ると、クラティアが待っていた。彼女の表情はいつになく深刻だった。


「聖域に行ったのですね」クラティアが静かに言う。「震動を感じました」


「はい」アイリスが頷く。「色々な記録を見ました。過去の観測者たちのことも」


 クラティアの目に、複雑な感情が浮かんだ。


「では、あなたも知ったのですね。観測者の宿命を」


「重たいものだということは分かりました」アイリスが素直に答える。「でも、逃げるつもりはありません」


 クラティアは意外そうな表情を見せた。


「なぜです? 普通の人生を選ぶこともできるのに」


 アイリスは少し考えてから答えた。


「お兄さんが守ろうとしたものを、私も守りたいからです。それに......」


 彼女は仲間たちを見回した。


「一人じゃないから」


 その言葉に、ジークとレイナは温かい笑顔を浮かべた。


 クラティアも、久しぶりに心からの笑みを見せる。


「そうですね。あなたには、過去の観測者たちにはなかったものがある」


「何ですか?」


「信頼できる仲間です」クラティアが答えた。「一人で背負う必要はありません」


   * * *


 その夜、アイリスは一人で城の屋上に立っていた。


 星空を見上げながら、聖域で見た記録のことを思い返している。過去の観測者たちの孤独な戦い。そして、自分に託された使命。


「怖い」彼女は正直な気持ちをつぶやいた。「失敗したら、世界が消えてしまうなんて」


 しかし、同時に確信もあった。自分には仲間がいる。一人で何でも解決する必要はない。


「お兄さん」アイリスが夜空に向かって語りかけた。「私、頑張ってみます」


 風が優しく頬を撫でていく。まるで兄が応援してくれているかのように感じられた。


 その時、階段を登ってくる足音が聞こえた。振り返ると、ジークとレイナが顔を出す。


「眠れないのか?」ジークが心配そうに尋ねる。


「少し考え事をしていました」アイリスが素直に答える。


「私も同じです」レイナが隣に立つ。「聖域での出来事は衝撃的でした」


 三人は並んで星空を見上げた。


「でも、怖いのは私だけじゃないんですね」アイリスが安心したように言う。


「当たり前だ」ジークが笑う。「こんな大変なことになるなんて、想像もしていなかった」


「でも、後悔はしていません」レイナが言った。「この謎を解くことは、魔導士としても貴重な経験です」


 アイリスは二人を見て、心が軽くなるのを感じた。


「明日からも、よろしくお願いします」


「こちらこそ」ジークとレイナが同時に答えた。


   * * *


 翌朝、三人は新たな計画を立てていた。


「聖域の記録によると、破壊者の脅威が近づいているという」ジークが整理する。「おそらくフォルクスのことだ」


「では、彼の動きを調べる必要がありますね」レイナが提案する。


 アイリスは記憶に刻まれた古代の記録を思い返していた。


「あの記録には、他にも重要なことが書いてありました」彼女が言う。「観測者の力を制御する方法や、危険な状況での対処法も」


「それは心強い」ジークが安堵する。


 クラティアが部屋に入ってきた。


「皆さん、重要な報告があります」彼女の表情は深刻だった。「城の監視システムが、異常なエネルギー反応を検知しました」


「どこで?」レイナが尋ねる。


「南の森です。フォルクスの研究所があった場所の近くです」


 アイリスは立ち上がった。


「調べに行きましょう」


「危険かもしれない」ジークが心配する。


「だからこそ、確認が必要です」アイリスの声には、これまでにない強さがあった。「聖域で学んだことを、実際に役立てる時が来たのかもしれません」


 レイナとジークは顔を見合わせ、頷いた。


「分かった。でも、絶対に無理はしないという約束で」


「はい」アイリスが微笑む。「一人で何でもやろうとはしません」


   * * *


 準備を整えた三人は、南の森に向かった。


 森は以前よりも薄暗く、不気味な静寂に包まれていた。鳥の鳴き声も虫の音も聞こえない。


「魔素の流れが乱れています」レイナが分析する。「明らかに人為的な干渉です」


 ジークが警戒を強める。「フォルクスの仕業の可能性が高い」


 アイリスは聖域で得た知識を活用しようとしていた。記憶の中の古代文字が、現在の状況について何らかの手がかりを与えてくれるかもしれない。


「あの記録に、『力の乱用は現実の歪みを生む』と書いてありました」彼女が言う。「もしかすると、この森の異常も......」


 その時、前方の木々の間から、青白い光が漏れているのが見えた。


「あれは......」ジークが身構える。


 光の源に近づくと、そこには見たこともない光景が広がっていた。


 空間が歪み、複数の現実が重なり合っている。過去と現在、そして未来らしき映像が同時に存在していた。


「時空の歪み......」アイリスが息を呑む。「聖域で見た警告の通りです」


 歪んだ空間の中心には、フォルクスの姿があった。彼は何かの装置を操作し、歪みをさらに拡大させようとしている。


「彼は何をしようとしているんでしょう?」レイナが不安そうに尋ねる。


 アイリスは古代の記録を思い出していた。


「もしかすると......観測者の力を人工的に再現しようとしているのかもしれません」


 その推測が正しいとすれば、フォルクスの行動は世界そのものを危険にさらす可能性がある。


「止めなければ」アイリスが決意を込めて言った。


「でも、どうやって?」ジークが問う。


 アイリスは深呼吸をした。聖域で学んだ知識、そして仲間への信頼を胸に。


「私たち三人で、力を合わせるんです」


 彼女の声には、もはや迷いはなかった。過去の観測者たちとは違う。彼女には仲間がいる。


 新たな戦いが、今始まろうとしていた。

第9話、いかがでしたでしょうか?


聖域で明かされた観測者の真実。アイリスが古代の記録を読み解き、過去の観測者たちの孤独な戦いを知る重要な回でした。

そして何より、これまで受動的だったアイリスが「私たち三人で、力を合わせる」と能動的に決断する成長の瞬間を描きました。


フォルクスによる時空の歪み、迫り来る脅威。第10話からは、アイリスたちの本格的な戦いが始まります。


次回もお楽しみに。観測者として覚醒したアイリスの活躍をお見逃しなく!


感想やご意見、いつでもお待ちしております。

評価・ブックマークもとても励みになります!


次回もお楽しみに!


Xアカウント: https://x.com/yoimachi_akari

note: https://note.com/yoimachi_akari

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