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鏡の城の魔導士 ~魔法が効かない少女と時空の謎~  作者: 宵町あかり


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第6話 新たなる脅威

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

鏡の城の魔導士第6話をお届けします。


今回は、アイリスの観測者能力がついに実戦で本格的に使われます。

フォルクスの新たな脅威に立ち向かう三人の連携をお楽しみください!


お楽しみください!

朝の光が客室の窓から差し込んできた時、アイリス・ノルヴェインは既に目を覚ましていた。ベッドに腰かけたまま、兄から受け継いだ懐中時計を静かに見つめている。針は相変わらず止まったままだが、もうそれが悲しくはなかった。


 止まった時間は、兄との永遠の絆の象徴。そして今、自分が生きているこの瞬間こそが大切なのだと、心の底から理解していた。


(兄さんの最期の言葉……『君らしく生きて』)


 昨夜、観測者の力で見た兄の最期の光景が蘇る。フォルクス・ノーグラムという男の冷酷さ、そして兄が最後まで自分を守ろうとしてくれた事実。胸の奥で複雑な感情が渦巻いているが、それでも前に進まなければならない。


 アイリスは懐中時計を胸に仕舞い、立ち上がった。鏡に映る自分の顔は、昨日までとは少し違って見える。まだ幼さの残る顔立ちだが、瞳の奥に確固たる意志が宿っていた。


「過去にとらわれるのではなく、今を大切にしていこう」


 呟いた言葉が、朝の静寂に小さく響いた。



 城の食堂では、ジークとレイナが既に朝食を取っていた。アイリスが姿を現すと、二人は安堵の表情を見せる。


「おはよう、アイリス」


 ジークが静かに声をかける。黒いローブに身を包んだ彼の表情は、いつもより温かく見えた。


「昨夜はよく眠れたか?」


「はい、ありがとうございます」


 アイリスが席に着くと、レイナが心配そうに覗き込む。


「大丈夫?昨日はすごく大変だったでしょう?」


「ええ、でも……」


 アイリスは静かに微笑んだ。


「私、もう過去にとらわれません。兄さんの想いを受け継いで、今を大切に生きていきます」


 その言葉に、レイナが感動で目を潤ませる。


「素晴らしい決意ね!アイリスさんは本当に強い人だわ」


「ありがとうございます。なので朝食のパンが昨日の残りでも全然気にしません」


 アイリスが無邪気に言うと、ジークが少し困ったような表情になる。


「……それは少し違う気がするが」


「あら、でも昨日のパンも美味しかったですよ?」


 天然な発言に、レイナがくすくすと笑う。緊張していた雰囲気が、一気に和やかになった。


 朝食を取りながら、三人は昨夜の出来事について話し合った。フォルクスの真の狙い、そして今後予想される脅威について。


「フォルクスは必ず再び行動を起こすはずだ」


 ジークが重い口調で言う。


「昨夜の敗北で、彼の計画は一時的に頓挫したかもしれない。しかし、諦めるような男ではない」


「私たちも準備を整えないといけませんね」


 レイナが杖を手に取り、魔法の調整を確認する。


「アイリスさんの観測者能力は確かに強力だけど、それに頼りすぎるのは危険よ」


 アイリスは二人の言葉を聞きながら、内心で静かな決意を固めていた。もう誰かを失いたくない。大切な仲間たちを守るためなら、自分の力を全て使うつもりだった。


「私も頑張ります」


 小さく呟いた言葉に、ジークとレイナが振り返る。


「無理をする必要はない」


 ジークが優しく言う。


「君は十分すぎるほど頑張っている」


「でも、私には観測者の力があります」


 アイリスが懐中時計に手を触れる。


「この力で、みんなを守りたいんです」


 その真剣な眼差しに、二人は深く頷いた。



   * * *



 朝食を終えて城内を歩き始めた時、異変が起こった。


 廊下を歩いていると、突然空気がぴりぴりと震え始める。まるで嵐の前のような、不穏な緊張感が辺りを包んだ。


「これは……」


 レイナが杖を構え、警戒の表情を見せる。


「時空の歪みよ。でも昨夜のものより、ずっと強力」


 その瞬間、廊下の向こうから悲鳴が聞こえてきた。城の住人たちが慌てて走ってくる。


「大変です!化け物が現れました!」


「魔法が全然効きません!」


 混乱する住人たちの向こうから、ゆらゆらと現れたのは——今までに見たことのない「時空の迷い子」だった。


 以前見たものより一回り大きく、体を覆う光の膜がより厚く、より不安定に揺らめいている。触手のような appendages が空中で蠢き、周囲の空間を歪ませていた。


「進化している……」


 ジークが呟く。


「フォルクスが何らかの手を加えたのか」


 レイナが分析を始める。


「魔力パターンが前回と全く違うわ。これは……まるで人工的に強化されたような」


 住人たちが次々に避難していく中、アイリスは冷静にその化け物を観察していた。観測者の眼で見ると、周囲の時空が激しく歪んでいるのが見える。まるで存在そのものが現実と相容れないかのように。


「あの光る虫みたいなの、前より大きくなってますね」


 アイリスが素朴に言うと、ジークが振り返る。


「虫?あれは高次元存在だが……」


「でも、虫の方が可愛いと思うんですが」


 その天然な発言に、レイナが思わず吹き出しそうになる。しかし、化け物の脅威は現実だった。


「とにかく、住人たちを安全な場所に」


 ジークが指示を出そうとした時、化け物がこちらに気づいた。複数の触手が三人に向かって伸びてくる。


「危ない!」


 レイナが防御魔法を展開する。しかし、魔法の障壁はまるで水のように触手に弾かれてしまった。


「効かない……」


「アイリス、下がって!」


 ジークが前に出るが、アイリスは動じていなかった。


 観測者の眼で化け物を見つめていると、その動きが手に取るように分かる。どの触手がどこに向かうか、どのタイミングで攻撃してくるか。まるで予め決められたプログラムを見ているかのように。


(この子の動きは……単純)


 アイリスは自然に一歩前に出た。触手が彼女に向かって襲いかかる。


「アイリス!」


 二人の叫び声が響く中、触手がアイリスを直撃した——はずだった。


 しかし、アイリスはそこに立っていた。無傷で、まるで何も起こらなかったかのように。


「え……」


 レイナが目を見開く。


「なんで平然と……?」


「あ、何かしようとしてたんですか?」


 アイリスが振り返って、無邪気に首をかしげる。


「ちょっと風が強いような気がしましたが」


 その間に、化け物の触手は霧のように消散していた。アイリスの観測者能力が、無意識のうちに攻撃を無効化していたのだ。


「すごい……」


 ジークが感嘆の声を上げる。


「君の能力は、攻撃だけでなく防御にも使えるのか」


「そうなんですか?」


 アイリスがきょとんとした表情で振り返る。


「よくわからないんですが、あの子が可哀想に見えてきました」


 化け物を指差しながら言う。


「なんだか、迷子になって困ってるみたいで」


 その言葉に、レイナがはっとする。


「もしかして……これらの存在は、本来いるべき場所から迷い込んできただけなのかしら」


「それなら、元の場所に帰してあげれば」


 アイリスが歩み寄ろうとした時、化け物が再び攻撃態勢を取った。今度は複数の触手を同時に放ってくる。


「また来ますよ」


 アイリスが冷静に言う。


「ジークさん、レイナさん、私の後ろにいてください」


「しかし……」


「大丈夫です」


 その確信に満ちた声に、二人は従った。


 アイリスが化け物と向き合う。観測者の眼で見ると、周囲の時空の歪みがくっきりと見える。歪みの中に、化け物が本来いるべき「正しい場所」への道筋が見えていた。


「みんな、元の場所に帰りたいだけなんですね」


 アイリスが優しく微笑む。


「大丈夫。道を作ってあげます」


 その瞬間、観測者の力が発動した。



   * * *



 アイリスの周りに、淡い光の糸が現れ始めた。それらは空中で複雑に絡み合い、化け物を囲むように展開される。観測者の力が、時空の歪みを修正し始めたのだ。


「これは……」


 レイナが驚愕する。


「時空の歪みを直接操作してる」


 光の糸が化け物に触れると、その不安定だった輪郭が少しずつ安定していく。苦悶の表情を浮かべていた(ように見えた)化け物の顔が、次第に穏やかになっていく。


 そして、空中に小さな光の扉が現れた。


「あ、帰り道が見えました」


 アイリスが指を差す。


「あそこから帰れますよ」


 化け物は最初警戒していたが、やがて光の扉に気づくと、嬉しそうに(そう見えた)触手を振った。そして、ゆっくりと扉に向かって進んでいく。


「本当に帰っていく……」


 ジークが感動的な光景に見入る。


 化け物が扉をくぐると、光の扉は静かに閉じられた。後には平穏な廊下が残るだけだった。


「すごいわ、アイリス!」


 レイナが駆け寄る。


「観測者の力で、時空の歪みを根本的に解決するなんて」


「そうだったんですか?」


 アイリスがきょとんとしている。


「あの子が迷子だったから、お家への道を教えてあげただけなんですが」


 その天然な反応に、二人は改めてアイリスの力の凄まじさを実感した。


 しかし、安堵したのも束の間だった。城の別の場所から、新たな悲鳴が聞こえてきたのだ。


「まだいるようだね」


 ジークが腰の剣に手をかける。


「今度は、三人で連携して対処しよう」


「いいアイデアね」


 レイナが杖を構える。


「アイリスさんの能力を中心に、私たちがサポートする形で」


 アイリスは二人を見回した。昨日までは一人で全てを背負わなければと思っていたが、今は違う。信頼できる仲間がいる。


「お願いします」


 小さく頷く。


「みんなで力を合わせましょう」


 三人は連れ立って、次の脅威に向かっていった。



 城の中央ホールでは、より大きな混乱が起きていた。先ほどより遥かに巨大な化け物が暴れまわり、城の住人たちが必死に避難している。


「あれは……」


 レイナが青ざめる。


「時空の迷い子の群体よ。複数の個体が融合して巨大化している」


 巨大化した化け物は、無数の触手で周囲を破壊していた。石の柱が歪み、床が波打つように変形している。時空そのものが不安定になっているのだ。


「通常の攻撃では歯が立たない」


 ジークが状況を分析する。


「しかし、放置すれば城全体が崩壊する」


「アイリスさん」


 レイナが振り返る。


「あなたの力でなら……」


「やってみます」


 アイリスが前に出る。しかし、今度は一人ではなかった。


「ジークさんは左から、レイナさんは右からお願いします」


「分かった」


「任せて」


 三人は息を合わせて動き始めた。


 ジークが左方向から注意を引きつけ、レイナが右から魔法で牽制する。その隙に、アイリスが中央から観測者の力を発動させる。


「みんな、きっと故郷に帰りたいんですよね」


 アイリスが化け物に向かって話しかける。


「大丈夫。ちゃんと道を作ってあげますから」


 観測者の力が放射状に展開される。先ほどより遥かに強力で、複雑な光の糸が空中に幾何学模様を描いていく。


「左から敵の触手が来る!」


 ジークが叫ぶ。


「レイナ、右の援護を!」


「了解!」


 レイナが防御魔法を展開する。


 その時、アイリスが何気なく上を見上げた。


「あ、上からも来てますね」


「上?!」


 二人が慌てて見上げると、確かに天井から新たな触手が伸びてきている。しかし——


「でも、もう消えましたよ」


 アイリスが無邪気に言う。気がつくと、天井の触手は光の粒子となって散っていた。


「無意識に浄化を……」


 ジークが感嘆する。


「君の力は、もはや意識せずとも発動するのか」


「そうなんですか?」


 アイリスが首をかしげる間に、巨大な化け物の周りに光の扉が複数現れた。それぞれが異なる時空へと続く帰り道だった。


 化け物たちは最初困惑していたが、やがて自分の帰るべき場所を見つけると、次々と光の扉に向かっていく。


「完璧な連携だった」


 ジークが満足そうに言う。


「君たちのおかげで、被害を最小限に抑えることができた」


「私たち、いいチームね」


 レイナが嬉しそうに微笑む。


 アイリスも、心の底から安堵していた。一人ではできなかったことが、仲間と力を合わせることで実現できた。兄が最期に言った『君らしく生きて』という言葉の意味が、今ようやく理解できた気がする。


 一人で全てを背負うのではなく、信頼できる仲間と共に歩んでいく。それが、自分らしい生き方なのだろう。



   * * *



 夕暮れ時、三人はクラティアの部屋を訪れていた。城の最上階にある彼女の私室は、いつもと変わらず神秘的な雰囲気に包まれている。


「今日の出来事、ご苦労だった」


 クラティアが三人を迎える。


「フォルクスの新たな手段だったが、君たちは見事に対処した」


「あの化け物たちは」


 アイリスが尋ねる。


「人工的に作られたものだったんですか?」


「そうだ」


 クラティアが重々しく頷く。


「本来、時空の迷い子は自然現象として発生するもの。しかし今回のものは、明らかに何者かの手が加えられていた」


 ジークが表情を険しくする。


「フォルクスの仕業か」


「間違いないだろう。彼は君たちの力を試していたのだ」


 レイナが不安そうに眉をひそめる。


「試すって……まだ何か計画があるということですか?」


「恐らくは」


 クラティアの瞳に、深い憂いが宿る。


「しかし、今日の君たちの連携は素晴らしかった。特にアイリス」


 視線がアイリスに向けられる。


「君の成長は目覚ましいものがある」


「そうですか?」


 アイリスが首をかしげる。


「でも今日は疲れました」


「……疲労を感じるのは人間らしくて良いことだ」


 クラティアが苦笑する。


「君が特別な力を持っていても、心は普通の少女のままだということだからな」


「魔法を使うとお腹が空くんですね」


 アイリスが素朴に言う。


「それは普通の反応よ……」


 レイナが温かく微笑む。


 夕日が部屋に差し込み、四人の影を長く伸ばしていた。平和な瞬間だったが、全員が感じていた。これは嵐の前の静けさなのだと。


「フォルクスは必ず再び現れる」


 クラティアが静かに言う。


「今度はより強大な力を携えて。君たちも、それに備えなければならない」


「私たちなら大丈夫です」


 アイリスが確信を込めて答える。


「一人じゃできないことも、みんなでなら」


 その言葉に、ジークとレイナが深く頷く。


「ああ、そうだな」


 ジークが穏やかに微笑む。


「私たちは、最高のチームだ」


「次に何が来ても、負けません」


 レイナが力強く宣言する。


 窓の外では、鏡の城の庭園が夕日に照らされて美しく輝いている。鏡花の花弁が風に舞い、星屑のような光を散らしていた。


 平和な光景の中で、アイリスは心に誓った。この美しい世界を、大切な仲間たちを、必ず守り抜くと。


 懐中時計が胸の奥で静かに脈打っている。止まった針は、兄との永遠の絆。そして今を生きる自分の心臓の鼓動は、未来への希望だった。


 新たな脅威が迫っているかもしれないが、アイリスはもう恐れていなかった。


 信頼できる仲間と、確かに成長した自分の力があれば、どんな困難も乗り越えられる。


 観測者として、そして一人の少女として、アイリス・ノルヴェインの新たな冒険が続いていく。

第6話、いかがでしたでしょうか?


アイリスの観測者能力が実戦で発揮され、ジーク・レイナとのチームワークも完璧に機能しました。

化け物を「迷子を帰してあげる」という優しい方法で解決するアイリスらしさも表現できたと思います。


フォルクスの次なる計画も動き始めており、より大きな脅威が迫っていることが示唆されました。

次回は、城の守護者バルドとの関係も描かれる予定です。


感想やご意見、いつでもお待ちしております。

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