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9話

あの無礼者に言いたいことを言ったその後。

ルートの手を引き、風を浴びようとバルコニーに出る。

2人の間に言葉は無かったが、先程よりも雰囲気は柔らかくなったように感じる。

繋がれた手は離れる事はなく、お互いに優しく握っていた。


「「……」」


柔らかな優しい時間。

ところがそんな時間は唐突に終わる。

勇敢にもこの2人の空間に入りこんだ輩がいた。


「あ、お2人ともいらっしゃいましたか」

「おい!何を邪魔してんだ!!」


私たちに用があったのか、声を掛けに来たレオン・シュピレンハイム伯爵令息。

そして……どこから現れたか分からなかったが、過去に私を拘束したもう1人の男、ゼノ・メリング伯爵令息。

この2人はルートと同じく伯爵家のご令息である。

繋がれた手は自然と離れた。


「いや……そろそろ帰るので挨拶をと……」

「だからって何で話しかけるんだよ!」

「……というかゼノはなぜここにいたんだ?」

「う、うるさい!!」


何だか2人で盛り上がり始めたので、どう対応するか困ってしまう。

ルートにさり気なく視線を向ける。

いつもの不機嫌そうな顔に戻っていた。良かった!

腕を組み、ムッとした顔で一言告げる。


「なに?何か用?」


ルートが2人に問いかける。

やっと2人がこちらを向いて話し出した。


「そうだ!もう家路につくため挨拶に参りました!!ルートまた会おうぜ!セリーヌ様も失礼いたします!」

「そ。じゃあね」

「はい。ごきげんよう」


そう言ってレオン様は帰っていく。

残されたのはあのゼノ様である。


「それで?お前はなぜここにいるんだろうね?」

「そ、それは……」


ゼノ様は口ごもる。

何か1人で葛藤しているようだ。

だが意を決して彼は口を開いた。


「先程のピーター・ユングの1件を見た。あんなに想いあっている婚約者同士を見る事が出来たんだ。そりゃもっと見ていたくなるだろう」

「……は?」

「俺は純愛が好きなんだ。だからお前らを応援したい」


何を言い出すかと思えば、彼はどうやら好事家らしい。

令嬢を守るその姿に心を揺さぶられたやら、ピーターにズバッと言い切ったあの光景に魅せられたやらと感想をぐだぐだと語り続ける。


「――という事で、お前たちの恋路を邪魔するやつは俺がどうにかしてやるから言ってくれ!!」

「「……」」


ゼノ様は相当な変わり者で間違いないようだが、過去のゼノ様も同じだったんだと思う。

考えてみれば、殿下とメローナ嬢の恋路はゼノ様にとって大層好ましかったに違いない。

その邪魔者であった私を消す事は、彼にとっては相当喜ばしい事だったのだろう。


「おっと、こんなに話すつもりは無かった。それでは失礼する」

「ああ、はやく失礼してくれ」

「ご、ごきげんよう……」


話すだけ話して足早に去っていった彼を疲れた表情で見送る2人。

その後はまたどちらも言葉を発する事はなく、静かな空間が広がる。


数秒にも数十分にも感じられる時間の中、先に口を開いたのはルートであった。


「そういえばさぁ、言おうと思っていたんだけど」

「?」

「ピーターの野郎に美しいとか言われてたけど、まさかあれ本気にしてる?流石にしてないよね〜?世辞って丸わかりだし」

「うん、分かってるよ大丈夫」


私でも気づけたあの男の真意。

ピーターは上に登るためには何でもするタイプだ。

何を勘違いしていたのか、私に取り入れば侯爵家の権力が自分にも手に入るとでも思ったんだろう。

だから私に媚びていた。


「……そ。それならいいけど」


視線を外して先に会場に戻ろうとした彼は、何を思い出したのか苦虫を噛み潰したような難しい顔をしている。


ふと感じていた感覚。手が寂しい。

こんな事を今まで思う事は無かった。

殿下の気持ちが離れた時も、あの断罪劇の時にも。


政略結婚だからと愛される事は諦めていた。

ただ良き王妃になれるようにと笑顔を貼り付けて、偽りの私を作り上げて。

空っぽな私の心は他に何を考えて生きていたんだろう。


今、私はどうしたいのかと聞かれたら、貴方と手を繋ぎたいと答える。

他の誰でもなく、ルート……貴方と。

それならば、やはり私はルートの事を心の底から好きになってしまったんだろう。


勇気を出してルートの手を握る。

ピクっと手が震え、目を見開き驚いた顔をして私を見ている。

彼の息を呑む音が耳に響いた。


「一緒に帰ろう?」


私は会場に向かって、握った手を引いて歩く。

黙ったままの彼は大人しく着いてきた。


そのまま会場に戻ると、2人で殿下に帰りの挨拶をする。

ルートは必要最低限しか話さなかったが、殿下も何か察したのか深く追求はしてこなかった。


挨拶のために離した手を、私からまた繋ぐ。

そして帰りに用意してある馬車へと歩を進めた。

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