6話
「で!なんで今日もここにいるの!?」
婚約の挨拶をした次の日。何故か今日もここに来ている婚約者。
なんなら応接間を我が物顔で寛いでいる始末。
一応ここの家、あなたの爵位より上ですけど……
「なに?行くって連絡はしておいたけど?来たら何か不味い事でもあるわけ?まさか浮気でもする気だったんじゃない?」
「いやいやいや、なぜそうなるの!?二日連続とか今まで無かったでしょ」
「ふ〜ん……別に?ただ今日は暇だったついでに来ただけだからもう帰るよ」
「えぇ……?」
気分屋?正直何がしたいのか分からない。
部屋から出て行こうとするルート様が机の上に何かを忘れている。
上質な羽根ペンのようだ。
「ちょっと忘れ物……」
「……ああ!それ要らないゴミだから捨てておいてくれる?」
「……」
触ってみると分かる。明らかに質が良く、全く使われていない物だ。
この黒い羽根は、誰かさんを彷彿させる。
このまま捨てるのは憚られた。
「それじゃあセリーヌ、また来るよ」
たくさんの使用人と共に彼を見送る。
ニコッとキラキラとした笑顔を見せて護衛と共に馬に乗って帰っていった。
他の人の目は気にするんだなぁ。
……というか呼び捨てにされた?
親密になったと捉えていいのだろうか……。
その日以降、先駆けが来たかと思えば、毎日ではないがなかなかの頻度で同じようにやって来た。
そして毎回忘れ物をして私に捨てさせようとする。
ネックレスにブレスレット、髪飾りに挙句の果てにはハンカチや帽子まで。
しかも全てに黒と紫のアクセント入りだ。
……流石の私でも気づく。これプレゼントじゃない?
ええ……分かりにくいって。あんな笑顔で捨てておいてなんて普通は言わないって……。
次来た時に聞いてみよう。
そして今日もいつものようにやって来て、いつものように寛いで、いつものように忘れ物をする。
よし、きた……!!
「ねぇ、この忘れ物今日も捨てるなら貰っていいの?」
「ええ!!セリーヌって人が捨てちゃう物も貰っていくんだ。もしかして今までの物も捨ててないとか言わないよね〜?」
「捨ててないよ。だって私へのプレゼントでしょ?」
「……っ!……へ、へぇ〜……随分と頭がお花畑なんじゃない?……ただのゴミだって言ったと思うんだけど?」
核心をついたのか明らかに挙動がおかしい。
視線を忙しなく左右に動かして少し汗をかいている。
なんだ、案外分かりやすく顔に出てる……ちょっと攻めてみてもいいかな?
「プレゼントだと思って受け取っていたんだけど……ゴミならこれ捨てないと駄目なの?」
「!!……まあ、気に入った物があったなら貰っておけばいいんじゃない?別に俺はどうでもいいし」
「なら、貰っておくね」
「ふ〜ん、そ。」
そう言った彼の耳は赤い。凄く面倒な性格はしているけれど、ただ素直じゃないだけと思えば私も心に余裕が生まれる。
そういえばもう1つ、今日は彼に聞かなければならない事があった。
「そうそう、殿下のパーティーが1ヶ月後に差し迫っているけど、ルートは招待状貰っているの?」
「……それはもちろん貰っているけど?」
「そうなんだ……良かった」
「?」
今回の殿下の誕生祭は、特別なものだ。
普段は年齢的にも社交界に参加出来ない貴族の子どもを集めて、殿下の側近候補や婚約者候補を探す為に開催される。
言わば子どもだけのパーティーという事で許されているのだ。
私とルートと殿下は今は11歳である。
ただ今年の5月、つい最近私は誕生日が来ているが、ルートは12月、殿下は8月の誕生日が来ていない為、2人は1歳年上なのである。
今回はルートがいるから、私は婚約者候補として不適格な存在になる。
その場合、これから一体どうなるんだろう……
「……なに?社交界デビューがまだだからって心配してるのか?……まあ、どうにかなるんじゃない?」
視線を横に逸らしながらも、勇気づけるかのような言葉を掛けてくる。
私の都合のいい解釈かもしれないけれど、彼の言葉を知れば知る度に、本当に伝えたい事が分かってくる。
それがとても嬉しかった。
「……うん、ありがとう」
「!!……何笑ってんの、気持ち悪〜。……やっぱりお前行くのやめろよ」
「流石にパーティー欠席は不味いでしょ。万が一殿下は納得しても、他の貴族からなんて言われるか……」
わざとらしく笑いながら悪口を返されたと思えば、真剣なぼぞぼそ声で行くのをやめろなんて言う。
気持ち悪いは酷くないか?だが、言葉の真意を探る事で前よりも落ち込む事は無くなった。
私もパーティーは欠席したいところなのだが、こうやって貴族の子どもが集まる以上は顔だけでも出しておかないと社交面で後々困る。
「ふ〜ん」
「ルートだって友人作ったり、殿下に気に入られるように頑張らないといけないでしょ〜」
過去のルートは、おそらくこのパーティーで殿下に気に入られて側近候補として選ばれていた。
「はあ?そんな面倒くさい事するかよ」
「そうなんだ……」
「大体、友人?も俺には必要ない。それに俺はいずれ伯爵家の当主になるのだから殿下に媚びも売らない。お前が嫁いでくるから女にも気を使わないで済む。俺がパーティーに行くのは美味い飯を食べるため。……分かった〜?」
「大丈夫かな……」
なんか凄い早口で色々言っていたが、結局王宮のシェフが作るご飯を楽しみにしてるって事……?
それ以外は自分に必要ないって?
かなりやばそうな匂いがプンプンしますが……。




