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5話

「おい」

「……」

「ねぇ、無視しないでくれる?それともなに?俺とは話す価値すらないって?」


婚約が成立して数日後。

お互いに挨拶をする事になり、シェーン家にて集まっているところだ。

だが、2人になった途端に態度が豹変したこの男ルート・レーゲン。

え?だれ?知らないんだけどこんな人。

先ほどのニコニコしていた顔はどうした?


「いつもと違う……」

「……普段の猫被ってるほうがいいって?ふ〜ん」


薄ら笑いを浮かべる彼は、完全に別人のようになっている。

いや、どちらかといえば過去に戻ったと言ったほうが正しいのかもしれない。

過去のルート・レーゲンに限りなく似ている。

1つ違うのは、私とはこのように話すことは無かった事だ。


「でも残念だったね〜。お前、ユリウス殿下の誕生祭で殿下との婚約を狙ってたんだろ?俺と婚約してちゃそれも叶わないって訳だ。…それとも今からでも頑張ってみるかい?()()()()()()()()()()♡」

「……え?いや……。殿下との婚約はどうでもいいんだけど。……その話し方どうしたの?私との婚約が嫌すぎておかしくなっちゃった?」

「……あ〜、そうかも〜。こんなじゃじゃ馬娘の嫁ぎ先なんてないだろうから、俺が仕方なく貰ってやろうと思って申し込んだだけなんだよね〜」


なんだこいつは。さっきから上から目線で腹立つような言い方で返してくる。

何気に顔が良いのも腹立つ!!


「そんなに嫌なら今すぐにでも婚約やめたらいいじゃない!!まだ間に合うわよ、()()()()!」

「!!え〜、セリーヌ嬢ってそんな水を差すような事言うんだ?今婚約しないって言えば、全員どんな空気になるかって想像つかないかな?つかないかぁ〜」

「なによ!!」


眉を下げてやれやれとでも言いたげな顔でこちらを煽ってくる。

完全に翻弄されている。手のひらの上で踊らされてるみたいだ。

この人に何したらこうなるの?あんなに可愛かったのに。

腹が立ちすぎて、歯ぎしりしてしまいそう。いや、もうしてるかも……


「どうしておにいさまはそんないじわるなこと言ってるの?」

「「!?」」


いきなり子ども特有の高い声が、私たちの会話に入ってきた。

2人して声がした方を見てみると、背の低い赤髪の可愛らしい男の子がこちらを上目遣いで窺っている。

そうこの子は、ルート様の弟で名をアシェル・レーゲン。

今日お越し頂いた伯爵家の次男である。

どうやら扉を開けて入って来ていたようだが、私たちは口論ですっかり気づかなかったらしい。


「ア、アシェル……」

「おにいさまはいつもそんなこと言わないんです!セリーヌさま許してください!」

「お、おい…アシェルやめろ」


そう言って弟を捕まえようとするルート様は何故か焦っていたが、私は別のことが頭に過ぎる。


過去のルート様は騎士になっており、次期当主にはアシェル・レーゲン様が選ばれていたと記憶しているが何故だったのだろう。


「……さま」

「……」

「セリーヌさまっ」

「っひゃい!!」


いきなり名を呼ばれて、驚愕のあまり噛んでしまう。

そういえば先ほどの返事をしてあげていなかった。

怖がらせないようにと、目線を合わせて出来るだけ優しく見えるように微笑む。


「えっと……アシェル様とお呼びしてもよろしいかしら?」

「はっ、はい!!!」

「アシェル様、大丈夫です。許すも何も私は気にしていませんよ」

「そうですか!!よかったー!」


心底ホッとした様子のアシェル様に対して、ルート様に目を向けると耳を赤くしてぷるぷると震えている。

そんなに怒ることでもないでしょうに。


「あ!すみません!!セリーヌさまとお呼びしてもよかったですか?」

「ふふ、もちろん大丈夫よ」

「セリーヌさまありがとうございます!あの、セリーヌさま…おにいさまのこと捨てないでくださいね!」

「お、まえ……本当にいい加減に……」

「あはは……」


捨てられそうなのは私なんて言えない。

苦笑でとりあえず誤魔化しておく。

そんな時、部屋から出ていっていたシェーン家の侯爵、夫人とレーゲン家の伯爵、夫人の4人が戻ってくる。

色々と契約などをしてきたようで、女性陣はウキウキと男性陣は少し疲れた様子を見せていた。

その後は用意された食事を共にし、談笑しつつ2人の婚約を祝われる。


「それでは本日は失礼させていただきます」

「ああ。また来てくれ」


「サーラ!またお茶会しましょうね」

「ニア!もちろんよ〜」

「フレディさまに今度はあえるかな?」

「アシェル君、息子が学園から戻ってきたら相手してあげて!きっと喜ぶわー!」

「はい!たのしみです!!」


帰り際、各々が好きなように話しているのを少し離れた所で眺める。


とんとんと肩を人差し指でつつかれたので、振り向くとそこには紫の瞳でじっと見つめてくる彼がいた。

少し不満げな顔は過去と変わらないが、時折視線を上に上げて何かを考えている素振りを見せる。


私は何かを言う事はなく、ただひたすら彼を見つめ返していた。

ルート様の瞳は輝く宝石のように神秘的で美しい。

本人に伝えると、馬鹿にしたような顔をするから伝えないけども。


彼は視線をさ迷わせていたが、また私に視線を戻すと何か覚悟を決めたようにごくりと唾を飲み込み話し出した。


「手……出しなよ」

「手?」


両方の手を差し出すと、左手だけを取られる。

童話に出てくるお姫様を扱うような、丁重な手つきだった。


優しく薬指に指輪を付けられる。

シンプルなデザインだが、品がいい。

今のルート様にはお似合いの指輪であった。


「!!」

「……思っていたよりかは似合っているんじゃない?」


そう言った彼の耳や頬が赤く染まっていた事に気づいてしまった私はつられて恥ずかしくなる。

あれだけ色々言っていたくせに、指輪用意していたなんて……。


「ありがとう……ルート」

「!!」


私は自然と笑顔になっていた。

この時の私は顔が赤くなっていただろうか?

呼び捨てにしてしまったことにも気づかないほど嬉しさに舞い上がっていた。


視線を指輪に移す。キラキラと輝いている指輪をうっとりと見つめた。

ルート様がそんな私を食い入るように見つめていたとは知る由もない。

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