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4話

それからの私たちは、1ヶ月に数回遊ぶ仲になった。

あのお茶会の日、どちらの母親も初めての友達が出来たと泣いて喜びあい、お互い家に遊びに行けるようにと話をしたそうだ。


シェーン侯爵家とレーゲン伯爵家は距離が近い。

領地が隣同士で家の距離がお互いに寄っている為に非常に近く、本邸に馬車で半日かかるかどうかという驚きの近さという事もあるが、貴族同士の繋がりは昨今では1番と言ってもいいほどに仲が良い。


さて。遊ぶ内容といえば、お茶会ではなく虫取りや木登り、乗馬など外で遊ぶ事が多い。

これは確実に幼い頃にお兄様に着いて回った事が要因と考えられる。


はしたないとは思われるだろうけれど、どうせ将来婚約破棄されるんなら今遊びたい事をしたいと開き直っていた。

今のところ、家族は誰も何も言わない。

初めて友達が出来たのが嬉しい私に対して、水を差すような事が出来ないようだった。


そして今日もルート様が家に遊びに来る日の為、用意をしていると……


「お嬢様、侯爵様がお呼びでございます」

「へっ?お父様が?」


コーリンが私に声を掛けてきた。

珍しくお父様からの呼び出しだった。

もうすぐルート様が遊びに来るのになぁ……と思っていると、察したコーリンが案内しておくと言ってくれたので安心してお父様の元に向かう。


「失礼します!」

「入れ」


ノックをして返事を貰うと、お父様の執務室に入る。

久しぶりに入った執務室は、過去の記憶と変わっておらずそこまで居心地は悪くない。

だが、普段から忙しくされていらっしゃるからなかなかお会いする事が出来ず、常にコミュニケーション不足だ。


「セリーヌ。3ヶ月後にあるユリウス殿下の誕生祭への招待状が届いた。その日は特別に子どもだけの場を設けるとの事でな。私と共に向かうから、その日までに礼儀作法をしっかりと身につけなさい」

「!!……はい」

「?聞き分けがいいな。てっきり行きたくないと言い出すかと思っていたが……。まさか……殿下にお目にかかりたいとかか?」

「っいや、本当は行きたくないです……でも行かないといけないのは分かってるから……」

「そうか……ならいい」

「……はい……戻ります」


そう言って部屋から出たが、気分はどん底であった。

なぜなら、ユリウス殿下の誕生祭……この次の日に私の婚約が決まった。

そこから私の地獄が始まったのだ。


どうにかして婚約から逃れたいけど、招待状が来ているからには行かなければならない。

まあ私に婚約をどうにか出来るという選択肢はそもそもないのだけど。

悩みながら部屋に戻っていると、コーリンと出会う。


「あ!お嬢様!つい先程ルート様をご案内いたしましたよ」

「ありがとう!今から向かうわ」


まだ憂鬱な気持ちは晴れないが、ルート様に会えば少しは気持ちは軽くなるかもと思えるほどに心を許していた。


「ごめんなさい、お待たせ!」

「いいよ、でも遅いからクッキー全部食べちゃった」

「うわ!本当に全部無くなっている……」


最初に出会った時の印象では考えられないほどに、軽口をたたけるような仲にまで進展していた。

もう友達というよりかは親友と呼んでもおかしくないかもしれない。


「ん?なんかちょっと暗くない?」

「え?」

「なに?何かあったの?」

「えっと、それがね……殿下の誕生祭の招待状を貰ってしまって」


心配しているルート様に、ユリウス殿下の誕生祭に行くことになった事を伝える。

不敬ではあるが、行きたくないとまで愚痴を漏らしたところでふとルート様を見る。


ルート様は固まっていた。口を開けて心ここに在らずといった様子で動かない。

一体どうしたんだと思うが、とりあえず目の前で手を振ってやった。


「おーい!ルート様〜!」

「……」

「おーいってば!」

「……っ」


やっと放心状態から戻ってきたと思ったら、表情が一変し驚愕している表情のままこちらを見てきた。

その目は大きく見開かれており、時が経つにつれ目を細めていく。

うーん、流石に行きたくないは駄目だったか……


「さっきのは殿下に不敬だったね。気をつけます……」

「……?……ああ」

「じゃあ、今日は何して遊ぶ?私は今日は」

「いや、今日は帰る……」

「へ?」


そう言ってガタッと椅子から立ち上がり、部屋から出ていく。

待ってよ!との静止を聞かずにルート様はそのまま帰ってしまった。

何かしてしまったのだろうか……。

こんな事は今まで無かった為、どんよりと落ち込む。

その日のご飯は、いつもより喉を通らなかった。



1ヶ月後。

あれからルート様とは会っていない。

というのも、遊ぼうにもお互いに時間が取れなかったと言い訳しておく。

家庭教師から礼儀作法、マナーを学ぶのに私は忙しかったのだ。

決してルート様から避けられてるとかでは断じてない。


「お嬢様、今日もしっかり学ばれて偉いです。という事で、ご褒美にクッキーを焼いてまいりました!」

「やったー!コーリンのクッキー大好き!!」


今日も今日とて家庭教師のマナーの授業が終われば、コーリンが甘やかしてくれる。

そのおかげで、元気を取り戻せた。

お母様も落ち込んでいた私を街に連れていったりと、何かと気を使ってくれる。

私は周りに恵まれていた。

過去には思う事は無かったが、今は非常に感謝している。


「セリーヌちゃん!セリーヌちゃんはどこなの〜!!」


何やら騒がしい。お母様が私を呼んでいるようだ。

口についたクッキーの食べカスをさっと拭き取り、お母様に声を掛ける。


「お母様!セリーヌはここです!」

「ああ〜ここにいたのね」


珍しく走ってきたのだろうか、少し髪が乱れている。

一体そんなに焦ってどうしたのかと思っていると


「貴方に縁談が来たみたいなの!!」

「……え?」

「しかも相手はあのルート・レーゲン伯爵令息!」

「……ええっ!?」


お母様は私をはやくお父様のところへと連れて行ってるようだが、私はうわの空であった。

過去に縁談とかそんな事は無かったし、そもそもルート様は別人のようだったし。


執務室の前につくと、お母様はノックもなしに私を連れて入る。


「連れてきたわよ!」

「……あぁ」


「セリーヌ、お前宛に縁談が届いた。相手はレーゲン伯爵家の長男、ルート・レーゲン卿だ。相手は悪くない。お前も仲良くしていると耳に挟んだ。」

「はい……」

「それで、どうする?」

「……えっと、どうするとは」

「相手は損得など関係なく、お前の意思を尊重して欲しいとの考えだ。お前が決めていい」

「私が……」


婚約の事に関して、私が意見する事は絶対にないと思っていた。

いや、普通なら家が決めた相手と結ばれるのが当たり前であって、こうして確認される事もない。

あの殿下との婚約の時みたいに。


「本当に私が意見を言っても……」

「ああ、構わん」

「わ、私は……。ルート様と婚約したいです」

「そうか。ならそう返事しておく」

「っセリーヌちゃん!」


考えても考えても。私には……一緒にいたいと思える方はルート様しかいなかった。

なんだかんだ、楽しかったから。これからもこの先もずっと笑い合いたかった。

お母様は目に涙を浮かべて微笑んでいる。

そんなお母様を横目で見ているお父様は、困ったような顔をしているが口角は少しだけ上がっていた。


それから、部屋に戻ったが……何を考えていたか全く覚えていない。

ただ、ルート様に会いたいと我ながらちょっとした恋心みたいな物を燻らせながら眠りについた。

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