28話
今日は待ちに待ったデートの日。
ただ今タウンハウスにて準備中です。
コーリンは気合い十分のようで、今は私の髪を可愛く結ってくれている。
ドキドキと緊張で胸が高鳴るそんな時。
侍女から到着の知らせを受けて、逸る気持ちを抑えて令嬢らしく優雅に彼を出迎えた。
「おはよう、セリーヌ」
「おは……へ?」
そう。出迎えたはいいが、驚きのあまりポカンとしてしまう。
それもそのはず、ルートの姿は街によくいそうな平民の姿なのだ。
帽子と服のおかげで、いつものキラキラとした貴族さは影を潜めている。
気合いの入ったドレス姿の私と平民姿の彼はあまりにもアンバランスだった。
「ルート?どういう……」
「これに着替えなよ」
有無を言わさずに渡されたそれは、コーリンが素早く受け取り中を確認している。
コーリンはコクリと頷くと、私を部屋の中に戻した。
「コーリン……これは一体」
「お嬢様!!着替えますからね」
あれよあれよという間に、私の服装は変化する。
ドレスを脱ぎ捨て、ルートから手渡された服に着替えさせられる。
とても軽くて動きやすい。
そして髪も少し変えられて、控えめな髪飾りを付けられた。
「うーん、ルート様!!センスはバッチリですわ」
「こ、これって平民の服よね……?」
その問いにコーリンは返すことなく、またルートの元にと連れられる。
「お待たせいたしましたわ、ルート様。お嬢様をお連れいたしました」
「へえ……なかなか似合ってんじゃん」
「褒められて……いるのよね?」
いい返しが思いつかず、とりあえずありがとうと言っておく。
ルートはさりげなく私の手を握ると、恋人繋ぎをしてきた。
途端に私の顔は沸騰したようになる。
分かった!!これ小説で見たやつだ!!
「じゃあ行ってくるよ」
「では、私共は約束通り遠くから見守らせて頂きますので」
「分かってる」
そのまま手を引かれて街へと繰り出す。
私は緊張したまま、ルートへと確認した。
「ルート……これ小説で……」
「君ってこういうのが好きなんだろ?」
「うっ」
普段とは違うルートってだけでも胸の高鳴りが凄いのに、そんなニヤって笑われたらもう爆発してしまいそうだ。
顔から火が出るほどに紅潮した顔を伏せる。
ぎゅっと繋がれた手に導かれながら目的地へと歩く。
どこに向かっているかは知らないが、近くに護衛や従者も付けずに2人で街の中を歩くなんて、なかなか出来ることではない。
きっと遠くからは着いてきているのだろうけど、スムーズにこんな事が出来ているのも事前にルートが準備してくれていたのだろう。
「着いたよ」
「ここは……雑貨屋!!」
2人で店の中に入れば、他国の文化も混じっているような不思議な空間が広がる。
見たことがないようなデザインのアクセサリーや、かなり奇抜な服など色々な商品が置いてある。
私はきっと目を輝かせているだろう。
「凄い!!あ!これ見て!!」
「はいはい」
あれもこれもと見てしまう。
手作りであろう手編みのぬいぐるみや、キーホルダー。
紐で編んだネックレスや、羽の耳飾り、貝殻の指輪やペンダント。
普段はお目にかかれない珍しい物も多く、貴族社会では宝石やらで着飾っているが、こういう物も悪くないと思うのだ。
「これ!!」
「欲しいものでもあったのかい?」
「これにする!!」
セリーヌが指した先には、ガラス玉がワンポイントの髪紐である。
様々な色合いのガラス玉があり、その中でも美しい紫のガラス玉に指先は向いている。
ルートは予想外の愛らしさに声が出そうになるが、余裕がある振りで必死に取り繕う。
「ふ〜ん……なに?俺の事意識し「あっ!!ルートはこれね!!」おい!話の途中……っ!!」
話の途中に割り込んでしまったがしょうがない。
何か言いたげだったが、視線を私の手の中に移す。
青い色のガラス玉を見つけたから、これで彼とお揃いである。
小説でもお揃いの髪飾りをしていたし、小説を読んだであろうルートなら察してくれるだろう。
笑顔で彼を見つめて断りづらくしておこう。
案の定、何も言わずに会計をしている。
今日のデートではお小遣いという形で、決められたお金をコーリンから渡されている。
この中から考えてお金を使いなさいとのことらしい。
これも平民らしいデートなのだとか。
「ほら後ろ向いて」
「あ、ルートありがとう!」
買った髪紐で髪を結ってもらう。
ガラス玉がキラリと光った。
「どう?可愛いかしら〜??」
「それなりに様にはなってるんじゃない?」
「ふふん!私も結んであげましょう!」
「別にいいよ」
「え?もう結んでる!?はやっ」
手慣れた手つきで自分の髪を1つにくくったルートは、これまたかなりかっこいい。
少し雑ではあるが、そこがまたいいのだ。
「ほら次いくよ」
「はぁーい」
2人でまた手を繋ぎ次の場所へ。
どこへ行くかと思えば、お次は街で流行りのカフェである。
どうやらお昼時のようで列が出来ている。
普段は予約をしているのか、それとも貴族だからなのか、サッと通してもらう事しかなかった。
そのため、カフェの列に並ぶなんて初めての事だ。
そんな初めて並ぶ事にドキドキしていた私とは反対に、不満そうな表情をした彼はどうやら待つのが予想外だったようだ。
「ほら並ぼうよ」
「……ああ」
「なーに不満そうな顔してるの」
私と一緒にいる時間がつまらないのかとほっぺたを膨らまして抗議する。
ルートはその顔を見てふっと笑った。
少し子どもぽかっただろうか……まあ機嫌が戻ったようで何よりだ。
少しずつ列は進んでいき、やっと私たちの番になった。
「お待たせいたしました。次のお客様どうぞ〜」
「順番来た!!」
「そうだね」
席に案内されれば、店の中はどこの席も満員でここが有名な事が窺える。
「お食事はお決まりでしょうか?」
「はい、この季節のフルーツタルトとアッサムで!!」
「特製サンドとショートケーキとダージリン」
「かしこまりました」
このお店での1番のおすすめは季節のフルーツタルトとの事なので、そちらを頼むことにした。
「そんなに楽しみ?」
「もちろん!」
向かいの席から頬杖をついて笑いながら聞いてくる彼に頷く。
彼とのデートなら何でも楽しみに決まってるじゃないの。
「お待たせいたしました〜」
目の前に置かれたフルーツタルトは、まるで宝石のように輝いている。
これは行列が出来るのも頷ける。
ルートの前に置かれているのは結構量があるサンドと可愛らしいフォルムのケーキである。
そちらも随分と美味しそうだ。
「みてみてルート!!凄く美味しそう!」
「良かったね」
「う〜ん!美味し〜!!」
頬に手を当て、味を楽しむ。
見た目だけじゃなくて、中のクリームの程よい甘さと果物の酸味と甘さが口の中で絶妙に混ざり合う。
「これルートも食べてみてよ」
「ん?……うまっ」
「ね〜美味しいよね」
「……え?俺のはあげないけど?」
「むっ!!」
「……ほら」
「ありがと!!美味しい〜」
ルートがくれたショートケーキの見た目もクリームはドレスのように豪華で可愛らしい。
てっぺんに輝く苺は赤く綺麗なワンポイントである。
味も絶品でこちらが1番のおすすめでも全くおかしくない。
そして、紅茶もいい茶葉を使っているのかかなり美味しい。
いつもは辛口のルートもこの店の味は高評価のようで、また来ようと一緒になって笑った。
そして2人とも満足したところで、店を後にしたのだった。




