27話
「セリーヌ、着いたようだよ」
「あ、ほんとね」
ルートにエスコートされ、馬車から降りる。
久しぶりに見た学園は、相も変わらず大きすぎる。
さらさらと草木が風にそよぐ。
セリーヌはなびいた髪をそっと押さえた。
何やら視線を感じる。
周りを軽く見渡せば、遠巻きに私たちの事を見ている者が多い。
なんというか、噂の的になった気分だ。
私と目が合えば、急いで目を逸らされる。
うーん、悲しい。
隣のルートを確認すれば、眉間に皺を寄せて不機嫌をあらわにしている。
そういえば、エレノア様たちも言っていたが、取り繕うのはやめたらしい。
「じゃあ私はこちらだから、また後でね」
「……はぁ」
「……え!!別に着いてこなくても……」
どうやらクラスの前まで送りたいらしい。
時間大丈夫かしら……。
クラスの前までたどり着くと、扉を開けなければならない。
いざその時となると緊張するものだ。
「ふぅー……」
深呼吸をして扉を開ける。
そうすれば、前と変わらないクラスメイトたちが私を見れば笑顔で集まってくる。
「お久しぶりです〜セリーヌさまっ!!」
「体調はもう大丈夫でいらして?心配でしたのよ」
「お元気そうで何よりですわ!!」
主に令嬢に囲まれた私は1人ずつに返答をしていく。
呆れた顔で私を一瞥したルートは、何も言わずにクラスに帰っていった。
その事でまた令嬢たちが騒ぎだす。
「あ!セリーヌ様!!おはようございます〜」
「あら、エレノア様ごきげんよう〜」
私よりも遅れてやってきたエレノア様は、朝から輝かしい笑顔で挨拶をしてくる。
その姿はなんとも可愛らしい。
「実はですね!今日はルート様に許可をいただいて私たちもお昼をご一緒する事になりました!!あの2人もお誘いしてます!!セリーヌ様のおかえりパーティーみたいなものですよ」
「ふふ、ありがとうございます。楽しみにしてますね」
そんなこんなで予鈴が鳴り響く。
皆が自分の席について、しっかりと準備を始めた。
この感じが懐かしい。
授業を受ける事すら楽しみで仕方がなかった。
こうして時間は過ぎていき、昼休憩。
ただ、今日は基本的に昼までの為、昼食を食べる者もいれば、そのまま帰る者もいる。
皆に挨拶をしてから、エレノア様に連れられて食堂に向かう。
どうやら食堂には大広間のような場所以外にも、高位貴族用に個室も何室か用意されているようでそこを借りているそうだ。
向かう途中で何やら集団が前から歩いてくる。
その真ん中を堂々と歩いている男は、誰もが知っているであろう第1王子のユリウス殿下である。
私が倒れる前からほとんど姿をお見かけしなかった為、久しぶりにお姿を拝見した事になる。
誰もを虜にするような美貌は変わらず健在で、麗しの王子と呼ばれることにも頷ける。
そんな殿下もこちらに気づいたらしく、片手を上げて挨拶してきた。
「やあ、久しぶりだね。セリーヌ嬢」
「お久しぶりです、殿下」
「事件の事は聞いたよ。体調は問題なさそうだね、良かった。それと……君とは初めましてかな?エレノア嬢」
「ひゃ、ひゃい……ごごごきげんよう、ユリウス殿下……」
「はは、そんなに緊張しなくても。君たちも今から昼食かな?」
「はい。待ち合わせ場所に向かうところでした」
「あー……そうか。それじゃあ、また」
「ごきげんよう」
「し、失礼しましゅ」
隣では緊張しすぎて真っ赤に茹で上がっているエレノア様。
思わず撫でたくなる衝動に駆られる。
「い、いきなりで頭真っ白になりました!!うわー、めちゃくちゃ噛んでしまいました……恥ずかしい……」
「ふふ、緊張していらしたものね。でも少し前までは私もそうだったのよ」
「ええ?セリーヌ様もですか!?先ほど殿下に対して結構淡々と話されていらっしゃったから少し意外です……」
目をまん丸とさせたエレノア様にまたもや口元がほころぶ。
殿下とは正直なところ関わり合いたくはない。
そんな気持ちが知らず知らずのうちに出ていたかもしれない。
気をつけなければ。
2人で笑い合いながら歩けば、目的地まですぐだ。
その頃にはもう殿下の事なんて、頭からすっ飛んでいった。
食堂の個室へと着けば、もうすでに3人が揃っていた。
「あら、お待たせいたしましたわ」
「すみません、お待たせして」
「ずいぶんと遅かったね?」
「おい!!ルートもさっき来たばかりだろ」
「全然……大丈夫……です」
まあ、相変わらず仲が良さそうで何より。
軽く雑談していれば、ちょうどタイミング良く食事が運び込まれてくる。
肉に魚、野菜、パン、デザートなどたくさんのメニューが揃っている。
「それでは、セリーヌ嬢の復学に」
「「「「かんぱーい」」」」
「皆様、ありがとうございます」
ゼノ様の掛け声でグラスを傾け合う。
「うわ〜!!美味しい〜」
「……え、食べ終わるの……はや」
ライ様がエレノア様がひと皿食べ終わる速度に引いている。
それを面白そうに見ているゼノ様と、黙々と食事を口に運ぶルート。
何だかんだ仲のいいメンバーになったとしみじみ思う。
最後にデザートのタルトを食べる際に、ふと見覚えのある果実を見つける。
小さな赤い果実がたくさん詰められたタルト。
名前も知らないこの果実がなっている木を見つけたら、護衛に気付かれないようにこっそりと取って食べていたのは懐かしい記憶だ。
タルトを1口サイズに切り、ゆっくりと口に運ぶ。
じゅわっと甘酸っぱさが口に広がる美味しさは、記憶の中の味と寸分の違いもない。
ふと、ルートと視線が合う。
そんなに食い入るように見つめられれば、さすがの私も恥ずかしくなる。
「ル、ルート……?どうしたの……??」
「……」
「もしかして、これ食べたいの?」
「別に」
分からない……どうしたのだろうか。
ふいっとそっぽ向いてしまったルートは、食事を再開したようだ。
「ん?セリーヌ嬢、そのタルト気に入ったのか?」
「……?ええ!とっても!!」
「良かったな、ルート。セリーヌ嬢は大層お喜びだぞ」
「は、はあ?」
「実はこのタルトだけはルートが手配していたの知っているんだぜ。きっと何かあると思っていたが、やはりセリーヌ嬢の好物だったのか〜なるほど」
赤くなったルートをからかうように話すゼノ様を前に私も顔が熱くなる。
「セリーヌ様の好物……ゴクッ……あの、私も頂いても……?」
「ぼ、僕も……」
「ど、どうぞ!!」
おずおずと尋ねてくる2人に、私が用意したわけでもないのに快諾の言葉を伝える。
「おいひぃ〜」
「……美味しい」
2人とも美味しそうに食べていて何よりだ。
「……ところでこれ……何のタルト何でしょうか……?あまり……見かけない果実……なんですが」
ライ様がふと疑問を口に出して、私に視線を移す。
私も知らないため、焦ってルートを見た。
「え、えっとぉ……」
「レッドベリー」
「……そう!レッドベリー!!」
救いの声が聞こえて、思わず復唱する。
流石に知らない果実とは言えなかった為、助かった。
「へぇ」
「レッドベリー……初めて聞きました」
「私もです!!ストロベリーやブルーベリーなら知ってるんですけど……あまり市場に出回ってないんですかね?」
「まあ……確かに出回ってはないな」
ルートがボソッと呟いた言葉に全員納得している。
私も食べたデザートでこの果実が乗っているのは見たことがなかった。
珍しい果実なのかもしれない。
そろそろ食べ終わった頃合いにお開きとする事になる。
今日は昼までの為、後は家に帰るだけだ。
「それではまた明日」
「はい!」
軽く挨拶を交わして、ルートと共に帰路に着く為馬車に乗り込む。
私は先ほどのフォローのお礼を伝えた。
「先ほどのレッドベリーの件助かったわ。それと本当に美味しかったし、嬉しかった!!」
「……そう」
「ありがとうね、ルート」
「まあ、喜んでもらえて良かったよ」
満更でもない顔をして返事が返ってくる。
今日は機嫌が良いようだ。
その後はいつも通りに雑談を始める。
「それにしても焦っちゃったよ、あの果実の名前知らないんだもん」
「セリーヌはそういうの気にならないよね、俺はすぐに調べたけど」
「むっ!!ま、まあ、そのおかげで助かったんだけど……」
「ふっ……あのままじゃ拾い食いしてたのがバレるのも時間の問題だったかもね」
「侯爵家の令嬢としてそれは良くない!!」
ツッコミながら笑うとルートも目を細めて笑う。
こんな幸せな日がずっと続けばいいのにと思うのだ。




