25話
「うわぁぁん!!セリーヌ様が起きてるぅー!!」
「おい、エレノア嬢。それは迷惑だろう」
「エレノア嬢?セリーヌから離れてくれないかな?」
「……ほら……ルート様も言っている事だし……」
「良いんですよ。皆様来てくださってありがとうございます。エレノア様会いたかったですよ」
「セリーヌさまぁぁ」
次の日、今日の分のリハビリも終わりゆっくりと休んでいたところ、学園から帰宅したルートがエレノア様、ゼノ様、ライ様の3名を連れて来てくれた。
私は嬉しくなり、顔を見た瞬間に一瞬で抱きしめてきたエレノア様の頭を撫でていた。
鼻をズビズビと鳴らしている彼女の涙は止まらない。
「セリーヌ様ぁ……ぐすっ……ずっと待ってたんですよ」
「ふふ、ありがとうございます」
「まったく……」
撫でる手に擦り寄ってくるエレノア様は、小動物のような可愛さである。
周りの男達は、やれやれと肩をすくめたり、しょうがないものを見る目で2人を見据えた。
話は私が寝ていた間の出来事で盛り上がっている。
エレノア様の試験の点数が散々だったとか、殿下の婚約者がある伯爵家のご令嬢に決まったとか。
些細な話もあれば、あの日の事件についても簡単に教えてもらえる。
どうやらライ様がかなりご活躍されたようで、私の命の恩人でもあるようだ。
しっかりとライ様をはじめ、皆様にお礼を伝える。
そんな色々な話の中、私が眠っている間のルートの話になった。
「今日のルートの機嫌、本当にいいよな」
「は?」
「いや、分かりやすく昨日と大違いじゃないか」
「僕は普段なかなかお会いすることはございませんが……今にも人を殺しそうな雰囲気をしてました……」
「そ、そんなに?」
「はい!!それが本当に怖かったんです!!もう今までの優しい雰囲気なんか全く感じない凍てついたあの瞳……それに全然話さなくなって怖さ倍増でしたよ」
「別にお前たちと話すことなんて無かったからね」
3人がそれぞれ苦い顔をしている中、ルートは当たり前だろと言いたげな顔で3人を見ている。
「……変わってから思ってたんですけど、人をお前とか言うの良くないと思います」
「……はあ?」
「……まさか、セリーヌ様にも使ってないですよね?」
「……」
「えっ……?そこで目を逸らす?……ま、まじかぁ……」
「あ、あはは」
これには苦笑するしかない。視線を逸らしたルートはこちらをちらっと見てまた逸らす。
「セリーヌ様ももう少し怒ったほうがいいですよ!」
「そ、そう?」
「そうですよ!しかもあの事件の後、犯人達をそう「エレノア嬢?」……あ、ナンデモナイデス」
「??」
ルートはいきなり笑顔でエレノア様の名前を呼ぶ。
だが、その圧のある笑顔にエレノア様は顔を青ざめて目を逸らした。
「あ!そ、そういえば、時々お見舞いに行かせていただいたんですけど、本はご覧になりましたか?」
「そうでしたわ!小説ありがとうございます。まだ中は拝見していないのですが、表紙だけは目を通していますの」
「ふふふ!!この小説達は街で流行っていた物を私とゼノ様で厳選してお持ちしておりますから、是非期待していただいて構いませんよ!!」
「あら、それは楽しみだわ!」
この数冊ある小説は、エレノア様からの見舞い品と聞いていたけれど、ゼノ様まで関わっているとは……。
リハビリ以外は部屋で休んでいるこの状況に小説は有難い。
「はぁ……何だこれ。……『幼なじみの2人』……っ!?」
「ルート様?……あっ……こちらは……『貴族令嬢の私と平民の許されざる恋』……最近の流行りは……なかなか攻めていますね」
「は?」
ルートとライ様で貰った小説を確認していたようだが、いきなりルートのかなり低い声が部屋に響いた。
何か気に入らない小説でもあったのか、エレノア様とゼノ様に詰め寄っている。
ライ様はその様子を見ておろおろとしているだけだ。
わちゃわちゃしている4人を見れば自然と笑顔になる。
ルートもなんだかんだ仲良く出来ているじゃない。全く心配はいらなそう。
そうして楽しい時間は過ぎ、帰りの時間。
私はまだ見送りには行けないため、この部屋で挨拶をする。
「皆様、来てくださって本当にありがとうございました。大変嬉しかったです」
「セリーヌ様!!また来ますからね!早く良くなってください!!」
「セリーヌ嬢、目覚められて本当に良かった。また学園でお会い出来る時を楽しみにしております」
「あっ、え、え……と……これからもよろしくお願いします?…」
「ふふ、このようなお友達が出来て私は幸せ者ですね」
にこにこと嬉しそうなセリーヌを横目にルートは口を開いた。
「さあ、帰るよ。……セリーヌ、また明日」
「ええ、ルート。また明日ね」
エレノア様が手を振ってきたので、小さく手を振り返す。
何か両手で胸を抑えている気がするが、大丈夫だろうか?
4人が帰った後は少し寂しい。
静かになった部屋で1人考える。
このまま成長していったとして、殿下を巡るあの出来事は起こるのだろうか。
殿下の婚約者ではなくなった身ではあるが、何故か怖いという気持ちは私の中に確実にある。
「セリーヌ様、皆様をお見送りして参りました。……あら?少しお疲れですか?」
「あ、コーリン。……大丈夫よ。私、楽しかったの!!」
「ふふふ、それは良かったです」
「あ、これ見て!!セリーヌ様から頂いた物なんだけど」
「!!よく見たら、巷で噂の恋愛小説ではありませんか!!」
実はコーリンは小説を読むのが好きらしく、なかなかに詳しいらしい。
この本たちもおすすめらしく、話の内容には触れない程度に良さを力説された。
まだ読んではいないが、依然楽しみである。
そうしてリハビリや勉学の復習に予習、夕方になればルートや時々エレノア様とお話をして、空いた時間には小説を読み進める。
充実した時間に私の心は満たされた。
かなり動けるようになれば、行動範囲も広がる。
庭園の散歩や外でのティータイムなど、色々な事を出来るようになった。
「ふふ、それでここまで読みましたよ。非常に面白い展開になってきました」
「あ、このシーンですね!!主人公は謎が多い人物ですからね、私はネタバレしないように口を閉じておきます!!」
「ね、ねたばれ?」
「あ、ああ!内容をバラすって意味なんですよ〜、あはは……」
時々、私の知らない言葉を話すエレノア様は物知りだ。
街で流行っている物だったり言葉を知っている方が近くにいることで、自分も流行に乗れている気になる。
「それより!そろそろ学園に復学する日が近づいて来ましたね!!」
「そうね、楽しみにしていたわ」
「はぁ〜、やっと学園でもセリーヌ様に会える〜。また一緒にカフェに行ってくださいますか!?あれから新商品がたくさんあるんです!」
「あらあら、それならご一緒させていただこうかしら。ルート、放課後はエレノア様とカフェで過ごすからね」
「はいはい、勝手にすれば〜?」
呆れ顔のルートときゃっきゃと笑い合う女の子2人。
だが、そのルートも口角は少しばかり上がっている。
やはり婚約者が元気になった事が嬉しいのだろうか。
「では今日はお先に失礼いたしますね!セリーヌ様、ごきげんよう〜!!」
「はい、エレノア様。ごきげんよう!」
帰る際にタウンハウスの外に出て挨拶を交わす。
大きく手を振って馬車に乗り込むエレノア様を笑顔で見送った。
後ろから私の隣に並び立ったルートは、相変わらずの厳しい言葉を言い放つ。
「……あの子、騒がしすぎない?」
「元気なところも可愛らしくて魅力的ですよ」
「ふ〜ん」
興味がなさそうな返事をしたわりに、何故か納得しているような顔である。
まあ不満げな顔からは少ししか変わっていないのだけれど。
「……」
「……」
「……そうだわ、ルート。貴方にお願いがあるの」
「へぇ〜、セリーヌが俺にお願いねぇ……。何?言ってみなよ」
「えっと……実はエレノア様からいただいた小説に……その……街中で好きなように歩き回ってデートをしてて……羨ましいなと」
「……そう」
彼は視線を斜め上にして呟いた。
「セリーヌが復学する次の休息日に迎えに行く」
「!!」
「……なに?」
「えへへ……ありがと」
「別に」
やっと私を真正面から見てくれたかと思えば、別にとすぐに逸らされる。
変わらず素直ではない彼に安心しつつ、楽しみな予定が増えた事に口元が緩んでしまう。
「その小説見せなよ」
「えっ?……ちょっと待ってて……。これなんだけど」
「うっわ……出た。この前の恋愛小説じゃん。……これ少し借りるから」
「あ、うん……いいけど」
「じゃあ……また明日」
これはまた珍しい。
彼が好んで恋愛小説を読むなんて意外である。
見送りをした後は、ご飯を食べて眠りにつく。
復学まであと数日。
早く皆に会いたいと、楽しみが抑えられないのであった。




