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24話

セリーヌと呼ばれた声につられてふと目を覚ませば、身体を起こされて誰かに抱きつかれている。


この黒髪は誰だったか。

混乱の中で記憶がまとまらないのは一瞬で、

先程声に出したように自然と名前は出てくる。


「……ルート?」

「ん」


長い夢を見ていたからか、まだふわふわとした意識の中、小さく震える彼の頭を撫でてやる。

違和感を感じる。彼の髪が少し長い。

どうやらまだ夢の中なのかもしれない。



「ここ……私の部屋……?」

「……そうだよ」

「いったい……私……」

「お嬢様〜!!!」


ドタドタとした足音とともに声を上げて部屋に入ってきたのは、私の大事な侍従、コーリン。


「コーリン……」

「ああ!!目が覚めて良かった!!本当に良かった!!」


淑女としての行動や敬語を気にする余裕もなく、感情を表に出しているコーリンは誰に咎められることも無く、和やかな雰囲気に溶け込んだ。

ルートを押しのけるように私を抱きしめれば、存在を確かめられる。


しばらくしたら落ち着きを取り戻したのか、パッと直立に立ち上がり数歩後ろに下がる。困ったような笑みを浮かべ私達へ頭を下げ謝罪を告げた。


「大変申し訳ございませんでした。取り乱したとは言え、数々の無礼とお見苦しいところをお見せしてしまうとは……」

「いいのよ、コーリン。たくさん迷惑をかけたのよね?心配かけてしまってこちらこそごめんなさい」

「お嬢様が謝られることなんてございません!!全てはあの罪人どものせいでございます!!」

「罪人……?そういえば私はどうして……」

「あら、ルート様……まだお話されてはいらっしゃらないのですね」

「ああ。今から話す」


それは驚きの連続であった。

どうやら私は階段から突き落とされたようで、半年過ぎても目覚めなかったらしい。

確かに薄らと階段の記憶はあるような気はするが、それ以上の事は何も思い出す事は出来なさそうだ。


だが、ルートはそれでいいと言う。

思い出さなくていいと。

気を使ってくれているのだろうか、頭を優しくポンポンと叩かれる。


主犯は子爵令嬢のクロエ・ブープルだと聞かされた。

その取り巻き達が暗躍していたそうだ。

だが、犯人や取り巻き達は侯爵家に手を出したとして罪に問われて貴族ではいられなくなったというのが、事の顛末との事だ。


「……そうなのね」

「……」

「……ありがとう、ルート。それにゼノ様、エレノア様、ライ様にも感謝じゃ足りないほどに迷惑を掛けてしまって……申し訳ないわ……」


眉を八の字にさせたセリーヌを見つめ、ルート・レーゲンは覚悟を決める。

セリーヌの肩を掴み、目線を合わせた。


「俺もお前に謝らなくちゃいけないな」

「?」

「お前が被害にあったのも、元はと言えば俺の責任だ。俺があんな別の顔を作らなければブープルのやつも勘違いなどしなかった。……それに俺はお前を守れなかった。全て俺の責任だよ」

「!!」

「すまなかった、セリーヌ」

「……えっ?」

「婚約破棄はしてやれないが、お前の言うことなら何でも聞く。今は学園でも他の女とは必要最低限しか話していないし、話すつもりもない。だからさ、俺から離れる事はしないでくれるかい?」


その顔は真剣で、どこか辛そうである。

何を心配しているのか分からないけれど、彼にしては珍しく手が震えていた。


「……どうしたのか知らないけれど……私はずっと一緒にいるつもりよ?」

「……」

「信用出来ない?」

「また君が俺の前から消えてしまったらと思うと……俺は……」


ルートの顔色がずいぶんと悪い。

ゆっくりと背中を撫でてやると、深呼吸を1回。

深く深く息をすれば、少しは落ち着いたようである。


「セリーヌ!!起きてるか!!」

「……あっ……お兄様」

「はぁぁ、良かった……」


今度はフレディお兄様がいきなり部屋に入ってきた。

従者から私が目覚めたと報告があったらしく、急ぎ戻ってきたようだ。

私の顔を見るなり、安堵のため息を吐く。


「ん?ルートまだいたのか……少しこちらへ」

「……はい」


お兄様はルートに向かって手招きをしている。

嫌そうな顔を隠しもしないルートがダルそうに立ち上がり、お兄様の元に向かう。

動き遅っ!!とツッコミを入れたくなるほどに遅い。


私から離れた2人が何を話しているかは分からないが、その間にやって来た医師とコーリンが色々用意してくれたようで、診断と飲み物やらを口に運ばれる。


「どうやら問題はなさそうですね」

「良かった……」


医師による診断では、回復魔法のおかげか衰弱も見られず、問題はないそうだ。後は体力回復に努めることを目標にする予定になった。


「ではお嬢様、お水です。少しずつですよ」

「ん」


優しく看病してくれる姿に目元が熱くなる。

前の私にはここまで親身になってくれる人なんていなかった。

今がどれだけ幸せなことなんだろうか。

幸せを噛み締めていれば、話し終えた2人が戻ってくる。


「セリーヌ、突然で悪いがこれからの事だ」

「はい」

「まだまだ体調が万全ではないだろうから、学園へ復学は3週間後くらいでいいか?」

「大丈夫……です」

「そうか、まあまずはしっかり体を休ませるべきだ。俺は色々報告があるからまた後でな」


フレディお兄様は優しく微笑むと、部屋から足早に去っていった。

これからの事。学園生活は私もいつの間にか2年に進級しているらしい。

勉学は出来るため、絶対についていける自信はあるが、普通に生活する事は少し心配ではある。


「本当に大丈夫かい?もし行きたくなければ言ってくれよ。俺がフレディ様に伝えておくからさ」

「!!……ふふ、ありがとう。でも大丈夫よ、早く復帰出来るように頑張るね」


顔に出てしまっていたのかルートに心配をかけてしまっていた。

別に心配されるような事でもない。それよりも早く元気になった姿を見せてやらなくては。

まずはリハビリということで、明日からは決まった時間に体を動かしていくらしい。


方針も決まったところで、そろそろ日が暮れる頃だ。

寂しくはなるが、これ以上ルートを引き止める事は出来ない。


「ありがとう、ルート。明日も学園でしょう?遅くならないうちに帰った方がいいわ」

「……そうだね。明日また来るよ」

「ええ。楽しみに待っているから」

「っ!!」


笑顔で手を振ると、ふいっと顔を背けられた。

だが、視線でちらちらっとこちらを窺っている姿に、吹き出しそうになる。

彼も気づいたのだろう。眉間に皺を寄せて一言「じゃあね」と残して帰って行った。

見送りは流石に難しく、彼もそれは分かっているだろう。


その後、疲れてしまったのか再び眠りへ誘われた私は、いつの間にか深い底へと意識を落としていった。

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