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3話

コンコンっとドアを叩く音で目が覚める。


「失礼いたします。レーゲン伯爵夫人とご令息がいらっしゃいましたので、お声がけいたしました。」

「!?」


どれだけ時間が経ったのだろうか、すっかり眠りについてしまった。

慌ててコーリンに返事をして部屋に入ってもらい、髪を整えてもらう。


「ふふ、お嬢様。今日も素敵ですよ」

「そうかな……?ありがと」


今の髪の長さは、肩につかないくらいのショートボブである。そんなプラチナブロンドの髪を少し編み込み、髪飾りを付けてもらった。


「さぁ、もう既に奥様がご挨拶をされていらっしゃると思いますから、お嬢様も早く行きましょうか」

「うん」


そういえば、話し方が今の年齢に引きずられている気がする。

でももうそれでも良いかもしれない。

どうせ妃教育だって無駄になるんだから……。


少し暗い気持ちになりながらも通路を歩いていたら、すぐに応接間に着いてしまう。

コーリンを見ると、こちらを心配そうな顔で窺っていた。

緊張が顔に出ていたのだろう。

1つ唾をごくりと飲み込むと、コーリンに向かい頷く。


「失礼いたします、セリーヌ様をお連れいたしました」


コーリンがノックをして私を中へと促す。


「し、失礼いたします……」


部屋へと入って挨拶をしないとと思っていたら、消え入りそうな声になってしまった。

どうしよう!もの凄く緊張してる!!


「待っていたわよ、セリーヌちゃん!」

「ごきげんよう!セリーヌちゃんお久しぶりね〜」


お母様とレーゲン伯爵夫人が待っていましたとばかりに私に構ってくる。


「申し訳ありません、お待たせいたしました。ごきげんよう、レーゲン伯爵夫人」

「やだ!口調がしっかりしてる!昔みたいにサーラさんでいいのに〜!お願い〜」

「公の場では厳しいかもしれないけど、私的な時は読んであげて、セリーヌちゃん」

「え、え……わかりました?」

「もう〜敬語も取っちゃっていいのに〜」

「あはは……それはさすがに」


少し乾いた笑いになってしまったが、無理もない。

レーゲン伯爵夫人には娘がおらず、昔から私を娘のように可愛がっていた。

だから過去の私は夫人との距離感を見誤っていた。

あまりにも図々しい私に、夫人は少しずつ距離を取っていたのだ。

そんなこんなで、前回と同じように敬語まで取る訳にはいかない。


「あ、セリーヌちゃんはここに座りなさい」

「……失礼いたします」


横に座るようにお母様に促される。

先程からずっと気になる存在が、私の目の前に入っているのだが、どう反応していいか分からず目を逸らした。

サーラさんの横に座っている、この私の目の前の男の子はずっと下を向いている。


この状況に覚えがある。あるんだけど……。

1つ確実に違うのは、このルート・レーゲンであろう人物の髪の色が――黒!!

いや、なんで赤じゃなくて黒??


「そうそう〜!セリーヌちゃんはこの子の事あまり知らないわよね?ルート、自己紹介なさい」

「!?……あっ…はい……ルート・レーゲンです……」

「えっと……セリーヌ・シェーンです……」

「ちょっとルート!恥ずかしがってないでちゃんと挨拶しなさいな〜。ごめんなさいね〜、この前セリーヌちゃんに木から降りられなくなった所を助けられたからお礼がしたいってこの子が言ってたのよ」

「は、母上……ちょっと……」

「ルートが言わないからじゃない〜」


サーラさんとルート様が何か言い合いを始めたので、私はお母様と顔を見合わせる。

お母様は何か考えついたのか、2人に話を振った。


「とりあえず、セリーヌちゃんとルートくんはそこでお茶会してて!私はサーラに話すことがあるから!!」

「「えっ」」

「分かったわ〜、じゃあいい子にしててね〜」


そう言って2人で部屋を出ていった。

残された私たちの間に会話はない。


ふと思い出される過去の記憶。

あの時私は彼に――


『ねーなんか喋ってよ』

『……あっ……えっと……』

『……なんかあなたと話してもつまんなーい』

『……!?……ご、ごめ』


―――そんな事を言った気がする!!

ひどい…過去の私最悪すぎる……。

これは流石にいけない。

どうにか私が会話を広げないと。

なにか……なにか……


「ね、ねぇ!ルート様の髪はどうして黒になっているの?」

「……」


やってしまったー!!

気になりすぎて、口に出してしまった!

多分これ聞いちゃいけなかったやつかも。

どうする……?どうしたらいい?


「あ、ごめんね……。前に見た時とは色が違ったから気になって……言いたくなかったいいよ!」

「……助けてもらった次の日、起きたら……この色…に……なってた」

「!!」

「医師に……問題ない……って……言われたから……予定通りに来ました」

「そ、そうだったのね」

「うん……」


なぜか普通に話してくれた。

話せたのが嬉しかった私は、緊張していた事も忘れて次々に話を振っていく。


「――じゃああの時は、蝶を追って木に登っていたんだね」

「うん……でも降りられなくなっちゃって……そんな時にセリーヌ様が……来てくれたんだ」

「そうだったんだー」

「……あ、の……セリーヌ様、あの日助けてくれてありがとうございました」

「!!いいよー気にしないで!」

「何か……お礼を……」


話してみると凄くいい子だ。

他人にこんなに気張らないで話すことなんて本当に久しぶりだった。

話していて楽しいなんて思えたのはどれだけ昔だっただろう。

お礼かぁ……こんな事許してもらえるかなぁ……


「嫌だったら立場とか考えず全然断って貰っていいんだけど……またこうやって話せたらなって……」

「!!」

「と、友達?になれたらいいなって……」

「……おれでいいんですか?」

「……うん、ルート様がいい!」


そう勇気を持って言ってみると、真っ赤な顔でうんうんと頷いているルート様がいた。

ほっと息をつくと、気が抜ける。


「お友達として改めてよろしくね」

「よろしく……お願いします」

「友達だから敬語もなしね!」

「!!……うん」


少し目を泳がせながらも返事をしてくれた。

初めての友達……!過去には取り巻きはいても、本当の意味での友達はいなかった。

嬉しいと顔に出ていたのだろうか、ルート様が私の顔を見ると恥ずかしそうに笑った。

過去のルート・レーゲンとは似ても似つかないその姿に、私はルート様がこのまま笑っていて欲しいと切実に願った。


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