22話
ドンッという音が響き渡る。
階段から落ちたセリーヌは仰向けで倒れており、その状態は定かではないが無事ではない事は間違いない。
男は満足そうに頷くと、急ぎ足で来た道を戻って行った。
ライ・ドレインは血だらけの頭で意識を取り戻した。
かなり痛むであろう頭を抑えながら、ふらふらと立ち上がる。
確かセリーヌ様を護衛していたはずだがと思っていた矢先に気づく。
2人ともいない?
「くっ……どちらですか……セリーヌ様」
静まり返ったこの階段を見渡す。
ふと階段の下を見た。
見てしまった。
「……っあ、ああ……セ、セリーヌ……様」
瞬間的に頭では階段を降りようとするのだが、体がついていかない。
よたよたと手すりに掴まりながら急いで1階まで降りる。
彼女の前にしゃがみこみ、必死に呼びかけた。
「セリーヌ……様!!セリーヌ様!!誰か!誰かいませんか!!」
階段を使う貴族など滅多にいない為、周りには誰もいない。
こうなれば、1階の向こうにある医務室まで走るしかない。
彼女をここに置いておくのは心配ではあるが、下手に動かすよりはいいはずだ。
ライは走る。
痩せてはいるが全く運動などしてこなかった体には少々無理があったが、それでも走った。
医務室にノックをせずに入れば、驚いた先生に大丈夫かと問われる。
ライ・ドレインも頭から血を流しており、無事とは言えない状況である。
それでも、もっと優先すべき人間がいる。
医務室から先生を連れ出し、数人の生徒を連れてセリーヌ・シェーンの所へ案内をする。
階段にたどり着けば、1人の少女が倒れている。
顔は青白く、額からは血がじんわりと滲み出ていた。
先生は真っ青な顔で早く担架!!と他の生徒に呼びかけていた。
ライは先生にここを任せ、1番に伝えなければならない男のところまで行く。
3階のある教室では、未だにルートとゼノによるお話が続いていた。
だが、その話はある男の出現により終わる。
「ルート様!!今すぐに医務室に!!セリーヌ様が大変なんです!!」
扉を叩きつけるように開けてルートの存在を確認するなり大声を張り上げた男、ライ・ドレイン。
彼もまた血だらけの顔でやってきたため、周りの生徒から悲鳴が上がる。
その中で1人、口角を上げた女がいたがその事に誰も気づかない。
ルートは叫びのような声を聞いた瞬間に医務室へと走り出す。
この状況に嫌な予感しかしない。
「無事でいてくれ、頼む……」
走る間も息をすることを忘れたかのようにがむしゃらに走っていた。
ちょうどセリーヌが運び込まれたタイミングに医務室へとたどり着く。
「はぁっ、セリーヌ!!セリーヌ!!」
「ルート・レーゲン様、お静かに。お気持ちは分かりますが彼女は危険な状態です。少し離れて」
「はぁ……はぁ……セリーヌ……」
それからはライとゼノも合流し、ライは治療を受けることになる。
その後ゼノがエレノアを呼んだようで、彼女は魂が抜けたかのように小さくブツブツと何か呟いていた。
ルートはルートで、足で床をトントンと鳴らしたり、立って座ってを繰り返したりなど、普段とは違う落ち着きのなさを発揮している。
だが、この医務室で誰も話しかけるような者はおらず、ある意味では静まり返っていた。
この場は完全に地獄と化していた。
どれだけの時間が経っただろうか。
先生が汗を拭いながら、生徒たちの前に現れた。
「一命は取りとめました。ですが目をいつ覚ますかも分かりませんので、しばらくは自宅での療養になるかと思います」
「とりあえずは助かったってこと?セリーヌ様とまたお話出来る??」
「そうだ!!先生ありがとう!!」
「うう……!!良かった……良かったよぉ!!」
「先生……ありがとうございます」
先生に感謝を伝えつつ、セリーヌが無事で心から安堵した4人。
先生も泣きそうになりながら、事の顛末を聞く姿勢に入る。
「もう少し遅ければ、本当に厳しい状態でした。ライ・ドレイン様、貴方の怪我も軽傷ではないのです。何があったのですか?」
ライ・ドレインは難しい顔をしながら、先程あったことを分かりやすく順番通りに伝える。
普段は話すことが苦手でありモゴモゴと話す事も多いのだが、いざとなれば話せる事を彼自身気づいてはいないようだ。
そして浮かび上がった謎の男。
だが、ライ・ドレインは男の顔を覚えていた。
この話を聞いたルートはもう容赦などするつもりは無かった。徹底的に潰す。これだけである。
先生はセリーヌのこれからの事についてと、先程の男の件を上に話してくると席を外す。
ルートは愛しき婚約者の頬に手を当てると、決意を込めた瞳で彼女を見据える。
「必ず俺が復讐してやるから……安心して早く目を覚ましてくれ」
周りの3人は悲しそうな瞳でこの光景を眺めているが気持ちは大体同じであった。
ゼノは2人を引き裂こうとする者共に罰を与えたいと。
エレノアは自らが彼女の傍を離れたせいでもあると自分を責めつつ、犯人一派には地獄を見せなければと。
ライは元々セリーヌの事は苦手だと思っていたが、見つかった後もルートに従うことにより将来を約束されていたので、しぶしぶ続けていたのだ。
そのため特別に彼女に想いがあるわけではないが、僕が不甲斐ないせいで彼女がこんな目にあってしまった。
それに僕の事を殴ったやつは絶対に許せない。あの顔だけは絶対に忘れないと。
それからはセリーヌはタウンハウスにて療養をする事になった。
本邸まではかなり遠いため、セリーヌの体にも悪いと元から考えられてはいなかったようだ。
セリーヌの兄フレディやルートは学園が終われば彼女の見舞いへと訪れる。
ただ彼女は目が覚めない。
コーリンも日に日に覇気が無くなっているようだ。
そんな日々を暮らし続けて半年過ぎたであろう頃。
彼女の瞼は開かれたのだった。




