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19話

10月に入り涼しくなってきた頃。

あれから事態は変わりなく、穏やかな日々を過ごしていた。


噂は全く聞こえなくなったが、1人での行動は許されなかった。

エレノア様が言うには、どうやら犯人は分かったが仲間が分からないらしい。

こそこそ裏で見つけるつもりだったが、少し作戦が変わったせいで何も活動しなくなり停滞状態だそうだ。

名探偵エレノア様も大変である。

高等部にいるお兄様にも噂が届いていたようで、ルートに詰め寄っていたのはヒヤヒヤした。


ルートとは相変わらず行き帰りと昼食を共にしている。

最近は私の話をよく聞きたがる。

まあ、いつもふーんと返されるのだけどね。


犯人は退学寸前まで追い込んでいるらしい。

詳しくは知らないけれど、ルートとゼノ様が関わっているとかなんとか。

どんな手を使ったのかは知らないけど、怖いものだ。

というかゼノ様は殿下の側近では?

殿下をあまりお見かけしないせいで、ゼノ様がサボっているように見える。


昼食のお迎えが来たら、手を繋いでいつものベンチへと向かう。

あれからも未だに優等生振ってはいるようで、笑顔を貼り付けている。

だが2人になれば、その仮面はすぐに壊れた。


「ほんと散々さ」

「ん?どうしたの?」

「それが――」


笑い混じりな愚痴を聞く。

そういえば私も言いたい事があったのだ。


「ルート、あのね」

「ん?なに?」

「12月の音楽祭の日なんだけど、街では花祭りというのがあるらしいのよ。終わったら一緒に行きたいのだけれど」

「……まあ、そんなに俺と行きたいんならしょうがないな」

「ふふふ。約束ね!!」

「はいはい」


デートの約束を取り付けてやった。

何だかんだ義理堅い男なので、約束は守るだろう。


教室に戻るとエレノア様がにこにこと話しかけてくる。

ほんと可愛くて癒しの存在だ〜!!


「エレノア様〜!!無事誘えましたわ!!」

「ね!ちゃんと了承して貰えたでしょう?あの人がセリーヌ様の誘いを断るわけないんですよ」

「勇気貰えました、ありがとうございます!あ、そうだ!!明日いつものカフェで新作のパフェを食べに行きませんか?」

「ええ〜!!やったー♡行きます行きます!!」


彼女とは、定期的にあのカフェでお茶会(エレノア様が仰るには女子会?)をしている。

その時は事前にルートにも伝えている為、変に待たせる事もないのだ。

いや、ルートが同席して邪魔をしてくる事も時々はあるが……。


帰りの時間になれば、ルートが迎えに来るまで教室で待機している。

この日のルートはいつもよりも遅く、クラスメイトも段々と少なくなってきた。


「うーん、遅いですね」

「エレノア様申し訳ありません。一緒に待って頂いて」

「いえ、いいんです!役得ってやつなので」

「??」


2人で話していると、どこからかじっと見つめられているような気がした。

周りを見渡すが誰もいない。


「どうされたんです?」

「え?あ、いいえ……勘違いだったみたいです……」


恥ずかしさで顔を少し俯かせる。

だが何故だろう。未だに見つめられている感覚がする。

少し気味が悪い。


「お待たせ〜遅れてすまないね」

「あ、ルート!!……様」

「やっと来られましたか……それでは私は寮に帰りますね!!」

「エレノア様、寮の前までお見送りさせて下さいな」

「え!!いいんですか!?えへへ、お願いします!!」

「いいですよね、ルート様?」

「もちろんだとも。さあ暗くなる前に行こうか」


そうしてエレノア様をお見送りした後、馬車で家にまで帰る。

そういえば先ほどの約束を伝えなければ。


「明日の放課後にエレノア様とパフェを食べてくるね」

「……どこで?」

「いつものカフェ」

「そ。好きなようにしたらいいんじゃない?」

「また迎えに来てくれるまで待ってるね」


大体いい時間になったら迎えに来てくれるため、最近はルートが来たらお開きって事になってる。

その間何をしているかは知らないけど、文句を言わず待ってくれるところは、かなりいい婚約者に違いない。

特に殿下と比べてしまうと、天と地の差だ。


「また明日ね。送ってくれてありがとう、ルート」

「寝坊するなよ」


むすっとした顔で帰っていく。

不器用すぎて笑ってしまうけど、そんなところも愛しい。

明日はどんな顔を見せてくれるのかしら。


確か過去の今ぐらいの頃は王妃教育を受けていたはずで、こんな風に友達と仲良くカフェに行ったり、恋にうつつを抜かしたりなどをする事がなかった。


ただ殿下に見合うようにとマナーを徹底し、殿下を支えるために学問を学んだ。

成績だってTOP3に入らなければ駄目だが、殿下を立てるためには殿下より下の順位にいなければならないという難問を突きつけられた。


意味が分からなかった。

何故私が殿下の婚約者に選ばれたからと言って、自分を制限しなければならないのか。

そう両親に訴えても事態が好転する事はなく、教育係に言えば頭がおかしくなったのかと笑われた。

王妃になるもの誰もが通ってきた道なのだと言われれば、もう黙って従うしかなかった。


学園で殿下を見かければ、王妃教育で学んだ通りの笑顔で挨拶をする。

殿下もこの時はまだ笑顔で挨拶を返してくれていた。

その時は、ただそれだけで頑張れた。

それしか私には無かったから。


でも今は違う。

こんなに何もかもを手にして幸せすぎる。

何か悪いことが起こるのかと思うほどに、順風満帆であるのだ。

これ以上は何も望まないから、だからどうか今のままでいさせてください。


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