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拗らせ男の独白4

――このままでは駄目だ。


俺は自らの頭を感情のままに掻きむしる。


婚約の顔合わせの日から何日も経っているが、自分の気持ちを上手く伝えられていない。

セリーヌを前にすると、思っていた本心とは違う態度を示してしまう。

分かってはいるんだ。だが、どうしても反抗的になってしまう。

彼女を幸せにすると誓ったのに。

自分の感情を制御出来るまで、愛想をつかされないためにもプレゼント攻撃をしているが、渡し方が悪いのか状況は芳しくなさそうである。


だが、それ以上の問題はすぐそこに差し迫っている。

殿下の誕生日パーティーだ。

さあどうするか。セリーヌはこのパーティーを楽しみにしている節がある。

俺としてはパーティーを欠席して欲しいのだが、そうはいかない事も理解している。

いつの間にか、つい口をついて出たらしい。セリーヌの顔に影が差す。

ああ、だからそんな悲しそうな顔をするな。

そういう顔をさせたくて言ったわけじゃない。



今日も部屋で1人、セリーヌへの態度に反省する。

もっと素直にこう言えば良かったと何度悔やんだことか。


パーティーといえば殿下のことが気がかりではある。

元はと言えば、このパーティーは王家とシェーン侯爵家との縁談を上手く進める為の布石。

それが全て台無しになったとあっては王家の方も大層お怒りかもしれないな。


想像してはククッと不敵に笑う。

アイツらが何をしてこようと、俺が婚約を破棄することは絶対にない。

あんな未来になどさせるものか。


すでに侯爵様との話も済んでおり、当日はどうするかなどを決めてはいるが、侯爵様も察してはいるんだろう。

くれぐれも注意を怠るなと念を押されている。

粗探しをする連中だからな、何か少しでも隙を見せればそこをつつかれて難癖をつけてくるに違いない。


だが、嫌なことばかりではない。

今回は正式に婚約者のルート・レーゲンとしてプレゼントを贈る理由が出来る。

パーティー用に着るドレスだ。

ふと、まぶたの裏に浮かぶセリーヌのドレス姿。

確かにセリーヌは何色でも何を着ても似合う。

どの色も捨て難いが、色は紫で注文をしている。

俺がデザインまでしっかりとこだわりぬいたドレスだ。絶対に似合う。

理想のドレスを着たセリーヌを思い浮かべ、思わず口元を抑える。

んん、これ以上は良くない。かぶりを振り煩悩を消し去る努力をする。

当日は心臓が持つのだろうか……。




侯爵様にエスコートされたセリーヌは、やはり俺の天使であった。

あまりの美しさに惹き込まれてしまいそうだ。

侯爵様との話を終え、セリーヌの元に近づけば気づくことがある。

どうやら彼女は緊張しているようで、ただ会場に視線を向けていた。


出来るだけ優しく声を掛ける。

そう。外向けに口調を変えたのだ。

侯爵様や父上とも話をして、外面がいいように振る舞えと言われている。

そうする事で他の者に付け入る隙を与えるなと。


察しがいいセリーヌは、すぐにこの場に合うように振る舞える。

俺は元から決めていた事を成し遂げるために、ほらとセリーヌの右手を取った。

思わず緊張して手を強く握りしめてしまう。

不思議な顔をしているセリーヌに構わず、俺の元に手を引き寄せ、そして……


ちゅっ。


「!?」

「……なに?」

「え、ええ?いま……」

「……行こうか」


やってしまった。心の中では大暴れだが平静を装い、俺には余裕があるんだとセリーヌに見せつける。

目の前には真っ赤に染まったセリーヌの顔。

愛らしくてその色付いた唇にもキスをしたくなる。

流石にこの場ではしないけど。



セリーヌの手を引き会場へと入場すれば、どうでもいい連中が俺たちに視線を向けている。

こいつらに関わるのも面倒だと会場の端の方へと寄れば、ウェイターがグラスを持ってきた。

隣に視線を移せば、わくわくと目を輝かせている天使がいる。

ちょっとからかってやれば、可愛らしく文句をつける。


ニタニタと人から見れば気味の悪い笑みを浮かべていただろう俺に、オレンジ髪の男が声をかけてきた。

親しい間柄ではないのだが、同じ伯爵家として昔に顔を合わせてからは、あちらがしつこく馴れ馴れしい態度で接してくる。

そして今回もセリーヌの前だと言うのに、そのウザさを見せびらかすかのように絡んできたのだ。

それに加えて最終的に涙まで流すとは。ありえないだろ。

レオンの奴が去ってからも少し気まずい空気が漂っている気がする。

何よりアイツと友人と思われた事がキツすぎる。



セリーヌと軽口を叩き合いながら時間を潰す。

殿下の挨拶が終わってからもそれは続き、今は2人で食事をしているが、そんな俺たちの元にまたもや邪魔者は現れる。


「やぁ、2人とも楽しんでくれているかな?」


俺への当てつけのように笑みを浮かべる王太子のユリウスに、こちらも貴族スマイルをお見舞いしてやる。


先にセリーヌが殿下へ挨拶をしていたが……くそっ、喜ぶ殿下の顔が気にくわない。

嬉しそうな顔しやがって。

ひくついた口角を隠すように簡素な祝いの言葉を述べれば、もう用はないだろと言わんばかりに他の貴族も殿下の事を待っていると催促する。

もちろん失礼に当たらないようにしっかりと気持ちを込めてね!


殿下とその集団が離れたら俺の笑顔は剥がれ落ちる。

あんな奴らの相手などくそくらえだ。

ああ゛ー!!腹立たしい!!ため息も出るに決まってる。

かなり不機嫌になっている自覚はある。

だが、それ以上に俺の機嫌を損ねる人物が現れるなど思いもしていなかった。



「お初にお目にかかります。私この度男爵家にて養子に入りましたピーター・ユングと申します。ルート様とセリーヌ様にご挨拶出来るなんて私はなんと運がいい!是非とも今後お付き合いして頂けると幸いです!ところでご一緒してもよろしいですか?」

「「……」」


は?何言ってんだこいつ。

ご一緒しても?冗談も大概にしろよ。

遠回しにどっか行けと伝えたが、全く意に介さない。

見かねたセリーヌが話しかけたところで、このピーターという男が許し難い行為をしたことにより、俺の怒りは頂点に達した。


セリーヌの右手にキスを落とされる前に、強く手を叩き落とす。

怒りで身をわなわなと震わせながら、鋭く睨んだ。

もうこれ以上コイツと関わりたくない一心でセリーヌを連れてこの場を離れるが、後ろでは神経を逆なでするような言葉をしきりに語りかけてきている。


そんな中でセリーヌが待ってと頼んできたかと思うと、周囲を味方につけながら有無を言わせない言い方でユングのやつを黙らせたのだ。


正直に言ってかっこよかった。

俺の怒りは静かに掻き消えていった。


その後は2人でゆっくりと時間を過ごし、邪魔者はいたがまあそれなりにいい時間であった。


帰りの馬車でもドレスは似合うかだか学園のことやらを話していればあっという間にセリーヌのタウンハウス前だ。



今日は忘れ物なんて扱いではなくて、手渡しで渡したい物があった。

何回も渡し方とセリフを考えて練習して……。

そう、俺はセリーヌの喜ぶ顔が見たかった。

だが、いざという時に緊張をする。

セリーヌが俺を見つめている事に気づけば、俺は渡し方もセリフも吹き飛んで、箱を前に出してしまった。


「そういや、忘れてた。これあげるよ」

「ありがとう!!開けていい?」

「いいよ、別に期待させるような物じゃないし?」

「何かな〜!……わぁ!!」


嬉しそうに箱を開け中身を確認すれば、瞳はきらきらと輝きを増して口元を綻ばせる。


「凄い綺麗だね!素敵!!」

「……侯爵家のご令嬢ともあろう人がそんな物で気に入るんだ〜」

「うん!このアクセサリーが素敵だと言うのもあるけど、貴方から貰ったプレゼントだから気に入ったのよ!!これ今からつけたいの、手伝ってよ」

「……っあ、ああ」


ああ、駄目だ。俺には刺激が強すぎる。

セリーヌの笑みだけで俺は満たされていたのにそんな言葉を貰えるなんて昇天してしまいそうだ。


だが、真に試される時は次の言葉であった。



「ねえ、ルート。ちょっとだけ顔貸して」

「?……っ!!」

「じゃあ、またね。大好きよ」



セリーヌが俺の頬に……キス……?

夢?これは都合のいい夢なのか?だって今、大好きって……頬に……?


セリーヌの赤く染まった顔が魅せる恥じらう笑顔が脳裏を掠める。


すでにセリーヌは扉の向こうではあるが、俺は御者が話しかけてくるまで、心ここに在らずという状態であった。

それからは領地に帰り忙しい日々を過ごす。

ただふとこの事を思い出してはニヤけていた為、家族や使用人からどう思われていたかは想像に容易いだろう。

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