13話
その後、お開きという事で招待された客は挨拶をして帰っていく。
私はルートが1人になるのを待つことにした。
その間に例のプレゼントを用意しておく。
ドクンドクンと心臓が飛び出るんじゃないかと思うくらいにうるさい。
侯爵家からの山のようなプレゼントはもう使用人が渡している。
後はこのハンカチを渡すだけなのだ。
「お待たせ〜!じゃあこっちに行こうか」
「う、うん」
そう言われて連れてこられたのは、屋内庭園。
色とりどりの花が私たちを迎え入れてくれる。
その中にある1つの美しいベンチ。
そこから見渡せる光景が1番素晴らしく映るように作られているように感じる。
そのベンチに私を座らせると、彼もその隣に座った。
「はぁ゛〜。疲れた」
「ふふ。お疲れ様」
「お前も母上の相手は大変だっただろ」
「全然そんな事ないわよ。面白い話も聞けた事だし!」
にこにこと貼り付けたような笑顔は崩れ、疲労を顔に浮かべたルートが視線を送ってくる。
ルートのご家族との話が頭をよぎり思い出し笑いをすると、少し顔を近づけてきた。
「その話ってなに?」
「んふふ〜ひみつ〜♡」
「ふ〜ん」
そんな何気ない話が楽しい。
私はずっとニコニコ笑顔だ。
ルートも機嫌は悪くなさそうで更に嬉しい。
「……ところでさ」
「?」
「その手に持っているの何?」
「はっ!!」
とうとうこの時が来てしまった。
なんて言って渡したらいい!?
狼狽えてしまう私を見て、ルートは目を細めていく。
「え、えっと……これは……」
「……ねぇ、まさかとは思うけどさ。俺以外の男から貰ったプレゼントなら今すぐに捨てろよ」
「……え?いや!!違う、違うの!!」
「ならこれは何?」
私が変に反応したせいで、何故か疑われてしまってる。
もうこうなったらヤケだ!どうせ渡すつもりなんだから、どうにでもなれ!!
「私からのプレゼント!!!」
「……は?」
「こ、これは私が個人的に貴方に作ったプレゼントなの……だからそんな事言わないで」
「……!!……言い過ぎた。ごめん」
「うん」
はいこれ。と渡すと箱をまじまじと見つめている。
顔が熱い。私は今から恥を晒すのだ。
ゆっくりと開け始めるルートに言い訳を重ねる。
「期待しないでよ!!」
「あーうん」
「刺繍初めて頑張ったの。へ、下手くそだし、見られるものじゃないかもしれないけど……」
「へ〜」
「でも、ちゃんと気持ちは込めたから……受け取って欲しい……」
最後の語尾は聞こえているかも分からないほどに小さい。
もごもごと言い訳している最中も、一切手は止めずにリボンを解いている。
プレゼントを開き、中身を確認したルートがこちらを向いた。
「これをセリーヌが作ったの?」
「うん……」
「まあ……まあまあの出来かな」
だが、言葉とは裏腹にこちらを見るルートの顔は優しい。
そんな顔にドキッとしてしまう。
「貰っておくよ、ありがとう〜」
「棒読みじゃない!!」
「ところで、これって木?」
にこっと芝居がかったような話し方で礼を言ってくるのは、照れ隠しだと分かっている。
照れた時は大体黙り込むか誤魔化すのだ。
「これは木だよ」
「ならこっちは花か」
「そう、花」
「……この黒いのは何?」
「……羽根だけど?」
「羽根!?……っふふ……あっはははは」
「ちょっ!!笑わなくていいでしょー!!」
目に涙を浮かべ、大きく笑いだしたルート。
そんな珍しい彼を見て、私もつられて笑ってしまう。
花に囲まれた空間の中で2人笑い合う姿は、何気ない日常が幸せの形をした光景であった。
「……っはぁ〜。笑った笑った」
「も〜失礼なんだから」
「いや〜。あまりにも面白かったからさ〜つい」
「つい〜??」
じとりと物言いたげな目を向ける。
だが、こんな風に笑い合えるなら刺繍したかいがあったというものだ。
「膝貸してよ」
「?どうぞ……」
あ〜疲れたと言いながら、私の瞳を見つめてお願いをしてくる。
その真剣な表情に、首を傾げて返事をした。
そうすれば、ゆっくりと体を倒して頭をセリーヌの膝の上に乗せる。
足はベンチの上に乗せており、完全に寝る体勢になったようだ。
ただし、顔は外側に向けられている為に私には横顔しか見えない。
いきなりのルートの奇行に、セリーヌは混乱する。
誰もいないとはいえ、こんな行儀が悪い姿を誰かに見られては困る。
だが、ルートからこんなスキンシップを取ってくるなんて中々無いのだ。
それに今日はルートの誕生日。
お願いされた事は叶えてあげたい。
私が悶々と考えていると、ルートがポツリと呟いた。
「なあ……俺が学園に行った後も浮気はするなよ」
「えっ?しないよ……私を何だと思っているの?」
「まあ、そんな物好きはいないだろうけどね」
「……ここにはいるようだけど?」
和やかな雰囲気の中で軽口を叩き合う。
きっと私が寂しがるとでも思っているんだろうな。
ルートの頭を優しく撫でる。
時折、その黒い髪を手ぐしでとく。
サラサラの艶がある髪は女性も羨ましがる程だ。
私が撫で心地を堪能している間、彼はされるがままで動くことは無かった。
「長期休みには戻ってくる」
「うん」
それだけを言ったきり、彼は口を閉ざした。
ただただ、ゆったりとした時間が流れる。
「もうそろそろ帰るわね」
「……ふ〜ん。そう」
彼は体を起こして、先に立ち上がる。
私も立ち上がろうとすると、目の前には差し出された手が向けられている。
その姿はまるで王子様と言っても過言ではないだろう。
「ほら、手」
「ふふ。はい、ルート様」
丁寧にその手を合わせる。
まるで物語に出てくるシーンのように、2人は寄り添い歩いていくが、馬車までたどり着くその時まで、2人が顔を見合わせる事は無かった。
「送ってくれてありがとう、ではごきげんよう」
「あの刺繍さ……どうせなら来年も作りなよ」
「……うん!!」
大輪の花が咲くような笑顔を見せたセリーヌに心を奪われながらも、それを顔に出さないルート。
ルートの一言に心を動かされ続けているセリーヌ。
2人の恋路はまだまだ始まったばかりである。




