拗らせ男の独白 2
俺は結局、誕生祭にて彼女に話しかける事は出来なかった。
ほとんどの人が殿下へ覚えてもらおうと、近くに寄る。
その取り巻きの1人に彼女はいたのだ。
そんな彼女に一声もかけることが出来ずに、ただ壁へと寄りかかる。
ずっと彼女を見ていれば分かる。
作り笑顔。彼女の笑顔は太陽のように眩しいのに。
話し言葉。彼女はとても優しくて正直者なのに。
振る舞い。彼女は何にも縛られず自由が似合うのに。
あの日に助けてもらった思い出が、彼女はこうではないと証明している。
きっと今も必死にあの場に残っているのは、侯爵家から殿下と仲良くしろと言われているのだろう。
彼女を見つめていると、殿下と視線が合ってしまう。
殿下は優しく笑みを返して下さるが、その笑顔の下に何か隠しているような気がしてならない。
そんな不安は命中する事になる。
俺は絶望した。
殿下の誕生祭の次の日に、殿下とシェーン侯爵令嬢との婚約が発表されたのだ。
どうやらこの誕生祭は殿下の婚約者や側近を見つける為と言う意味合いを持っていたらしい。
元々王家は婚約者をセリーヌに決めていたようだが、体裁のために誕生祭にて決めるということにしていたのだ。
王国の中でも最強の軍事力を誇るシェーン侯爵領との繋がりを強固にするチャンスだとでも考えたのだろうか。
彼女はそれを知っていたのか……?
いや、きっと何も知らされていないに違いない。
知っていたらきっと顔に出てしまうだろうから……。
どちらにしろ、王命は覆せない。
どうやら俺のところには側近に認められたとの報告があった。
あの男、俺に嫌がらせをしてきたに違いない。
ただ伯爵家の中でも筆頭と呼ばれるくらいに権力を持っているからという訳ではないはずだ。
あいつは俺の想いに気づいている。
だからこそ、俺をわざと側近にしたのだ。
俺の心は捻くれた。
自分でも分かる。俺は性根が腐っているんだろう。
俺は家を継ぐ事を辞め、弟に譲った。
側近という自分の役割は一応こなすが、それ以外はどうでもいい。
何か話しかけられたら、人を嘲笑うようにしていれば次は近寄ってこない。
表では人を愚弄し、裏では人を陥れる事を考える。
それは学園に入ってからも同じであった。
中等部2年になって、再び出会う。
髪が伸びたセリーヌはそれはとても美しかった。
彼女は昼休みには1人で、校内にあるカフェのテラスでお茶をする。
それを遠くから眺めるだけではあるが、俺の唯一の至福の時間になった。
だが、そんな俺の行動を知ってか知らずか、殿下は俺の前で見せつけるようにセリーヌに触れる。
俺は殿下の数歩後ろで、ただ手を強く握りしめるだけだ。
それから時が経ち、俺が高等部2年、セリーヌが高等部1年になった頃に転機が訪れる。
メローナ・ユングという女が高等部から入学してきたのだ。
俺やセリーヌは魔術が使えない為、騎士科や文学科に進んでいるが、ユングは魔術が使えた。
その為、魔術学科に進んだようだがそこで同じ学科の殿下と親密になっていく。
俺はいまだ、セリーヌの事を諦めきれていなかった。
ただ、別にどうこうなろうなどとは思っていない。
この初恋だけは手放せなかっただけだ。
だが、殿下とユングが親密になっていく姿を見て、かすかな希望が見えてしまった。
このままコイツらが一緒になれば、セリーヌは解放されるのでは?
そう考えてしまえば、行動は早かった。
2人が親密になっていった事に対して、自分の立場を危ぶんだセリーヌは小さな嫌がらせを始める。
嫌がらせと言っても、事実を述べた上での嫌がらせの為、セリーヌの取り巻きも自信満々である。
香水が強いから少しは落とせと言った次の日にも全く変わらなかったからセリーヌ自ら水をかける。
確かに臭かったからな。よくやったセリーヌ!
俺とは気づかれないように、あいつが臭い日は俺が水をかけてやった。
廊下にユングとその取り巻きがたむろっていた時も、誰も言えない中しっかりと怒っていた。
俺だったら蹴り飛ばしていたかも!と笑う。
優しいね〜セリーヌは。
とりあえず、セリーヌを目の敵にしていた取り巻きたちを裏庭に連れ込み、制裁を加えた。
そんな風に色々と積み重ねていった結果が、殿下や俺の卒業パーティーでの婚約破棄である。
ユングは殿下に自分が有利になるように話をしていたようだが、完全な笑い話だ。
まあ俺からすれば、お前たちがくっついてセリーヌを手放してくれればいいだけの話だけどさ。
だが驚いた。こいつらは毒殺未遂をでっち上げるほどの馬鹿なレベルに達していたとは。
必死に無実を訴えるセリーヌを抱きしめてやりたいが、あと少しの辛抱だ。
彼女を同じ側近のゼノと共に拘束をすると、牢獄へと連れ込み鍵をかける。
ゼノが帰った後も彼女をその目に焼きつける。
お前は婚約破棄されたが、俺の元に来てくれるのか?
俺は口を開いたが、尋ねる勇気が無くまた口を閉ざした。
彼女がどうなるかが分からない。
とりあえず、罪が決まれば対処の仕様がある。
それまではまだ……。そうして俺は踵を返した。
地獄のような毎日がゆっくりと過ぎていく。
彼女に関しての音沙汰が全くない事が、俺を不安にさせていた。
会いに行こうにも、殿下からの命令なのか面会は出来ないの1点ばり。
何事も上手くいかずに焦燥に駆られる。
1週間後、罪が決まったとゼノから聞かされた。
セリーヌは平民へと落ちたようで、すでに街へと連れていかれたらしい。
平民落ち?有り得ないだろうが!彼女は侯爵家の令嬢だぞ!謹慎ぐらいが妥当だろう!!
俺は急いで街へ向かう。
あのセリーヌが街で生きていけるとは思えない。
早く俺が助けに向かわなければ!!
街へつくと一先ず周りを見渡す。
やけに騒々しい。反吐が出る。
とりあえず、そこで慌てている男に尋ねる。
「おい、プラチナブロンドの髪をした女を見なかったか?」
「えっ?その人ってまさか……」
そう指さした先には、たくさんの人の壁が立ちはだかっている。
嫌な予感がする。
小さく聞こえる笑い声や子どもの暴言が耳に入る。
背筋に冷たいものが走るのを感じながら、1歩ずつ歩みを進めた。
人をかき分けて見えたものは。
「……っ!!おい!セリーヌっ!!」
「……」
駆け寄り、血だらけのセリーヌの体を起こす。
だらんと垂れた腕に力はない。
頭からは血をだらだらと流しており、見えている足や腕は所々青く染まり、それはおそらく見えていないところにも広がっているのだろう。
「おい!医師を呼べ!はやく!!」
「あ!はい!!」
「……っほら、目を覚ませ!セリーヌ!」
「何をしているんだこのガキは?この平民の仲間か?」
「お前……」
「……ひぃっ!!この赤髪はまさかレーゲン伯爵家の!!」
必死に呼びかけている俺に、場違いな言動をしたこの貴族。
この現状を見るに、こいつが馬車でセリーヌを轢いたに違いない。
それにこの周り。石がたくさん転がっているのを見るにこいつらが投げていた可能性がある。
真っ青になっているこの平民達も同罪だ。
俺は全てを許すことが出来ない。
「お待たせいたしました!!」
そう駆け寄ってきた医師が、セリーヌの状態を見て目を見開く。
そして診断を始めたが、すぐに終わった。
「レーゲン様……申し訳ありません。もうこの方は助からないかと……」
「っ……そうか」
そう言ってセリーヌを横抱きにして立ち上がる。
彼女の手足は重力に逆らうことなく、ぶらっと揺れている。
「おい、お前。元からセリーヌが狙いだな?誰から依頼された?」
「そ、そんな私は」
「言え。それが出来ないなら、お前諸共消してやる」
「っ!!ユング男爵家です……」
「そ。それじゃあ、また。ファラド男爵」
「私の事を知ってて……!」
そう言って顔を青ざめた男を置いて、ゆっくりと俺の馬車へと進む。御者も顔を青ざめさせたが、有無を言わさずにタウンハウスへと帰るのだった。




