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拗らせ男の独白

「殿下の誕生祭の招待状を貰ってしまって」


この一言で俺は全てを思い出した。


今生きている11歳までの記憶に、俺の今まで生きていた記憶が混ざり合う。

吐き気がしそうなほどに記憶が混濁している。

俺の頭の中は、まるで処理が出来ていないデータのせいでパンク寸前で、グルグルと世界が回るような感覚である。

だがやがて落ち着いてくると、物事を考える事が出来るようになってきた。


誰かが呼んでいる。

俺がもう一度聞きたいと望んだ声が、耳に届く。

その瞬間に俺は覚醒した。

まだ理解出来ていないこの状況だが、まさか!と声を発した人物に視線を合わせる。


ああ、俺はあの時自分の一生を使った賭けに勝ったのだ。





――あれは一目惚れだった。


レーゲン伯爵領とシェーン侯爵領の境目には非常に大きな広場がある。

その周りには沢山の緑がある事から、緑の広場と呼ばれており、沢山の人が集う憩いの場であった。


その日は、母上が緑の広場でお茶をしたいとの提案で俺も着いて行った。

だがそのお茶会にすぐに飽きてしまった俺は、こっそりと抜け出して少し離れたところで蝶を追い、木登りを始めたのだ。

今にしてみればなんとも間抜けで滑稽だ。

自分で登った木から降りられなくなったのだから。


「だ、だれかっ!!」


助けを呼んでも誰も来やしない。

大粒の涙を流しながら、必死に木にしがみつくしか出来なかった。

そんな時に彼女は現れた。


「君、大丈夫?」


髪を後ろで1つに結んでいる子どもがこちらを見上げていた。

プラチナブロンドの髪に空を映したかのような青の瞳を持った少女は、まるで天使かと錯覚してしまうほどに光り輝いていた。


それは偶然だった。

たまたま緑の広場に遊びに来ていた彼女は、木登りをしようとここを通っただけだったのだ。


「木から降りられないの?」

「ぐすっ……う、うん……」

「うーん、ちょっと待ってて」


そう言って周りに助けを求めに行くのかと思いきや、何故か同じ木に登り始めたではないか!

かなり大きな木だが、振動で揺れているため怖くて仕方がない。


「ああ!!危ないよっ……」

「よいしょっと。ほらこっちにおいで」


そう言って俺の近くの下にある太い枝からこちらへと手を伸ばしてくる。

その手に引き寄せられるように彼女の方へ体を移した。

そんなこんなでなんとか下に降りることが出来た俺は、彼女にお礼を伝えようと真っ直ぐに顔を上げる。


よくよく彼女を見てみると、顔や声は少女のものなのに服は少年向けの乗馬服を着用していた。

何ともアンバランスではあるが、そんな事は気にならないくらいに俺には彼女が美しい天使に見えていた。

俺の人生には彼女が必要であり、他では代用出来ないただ唯一の存在なのだと直感したのだ。


「怪我は無い?」

「ズズッ……っ……うん」

「良かったぁ!」


太陽のような笑顔を見せる。

俺には眩しかった。


「あれ?泣き止んでる!!」

「へ?」

「んふふ、よーし!これを上げよう」


そう言って彼女は、腰に下げていた袋に手を入れると、ハンカチに包まれた何かを取り出す。

開けばそこには、小さな赤い果実が5つほどが転がっていた。

その果実を俺の手のひらに2つ乗せる。


「美味しいよ、食べてみて!!」

「えっ、……んっ!甘酸っぱくて美味しい」

「でしょ〜、私が見つけたんだ!!」

「こ、これ、なんて言う果実なの……?」

「……?知らないよ」

「えっ」


ぽかんとしている俺は目を丸くする。

そんな俺に構わず、彼女はこう続けた。


「そっちの木にたくさんなってたよー。あ、でもこれは2人だけの秘密ね!!皆が知ったらすぐ無くなっちゃうんだもん!!」


これは食べても大丈夫なんだろうか。と頭をよぎるが、目の前でニコニコと笑う彼女を見ればすぐに視線が釘付けになる。

だが、その笑顔も雑音によりすぐに消えてしまった。


「セリーヌさまー!!」

「どちらにおいでですか、セリーヌさま」

「あ、しまった。じゃあまたね」


どうやら彼女を探している声が、周辺に響いている。

何も伝えずに来ていたのか、急いで彼女は戻っていく。

俺はその後ろ姿が見えなくなるまで、ただジッと見つめていた。

1つの果実を潰れないように優しく握りしめながら。


母上のところに戻ると俺を探していたんだろうか、泣きながら抱きしめられる。

帰り際、馬車の中で今日起こったことを話した。

そして伝える。もう一度あの子に会いたいと。


プラチナブロンドの髪に青色の瞳、髪は肩につかないくらいの長さ、極めつけは名をセリーヌと呼ばれていた事。

サーラ・レーゲンは目を丸くする。

そんな条件に合う人物など1人しかいない。

サーラは、可愛がっている親友の娘を思い描く。


「なら今度のお茶会に一緒に行きましょうか」

「?お茶会ですか?」

「ええ。きっとそこに貴方の探し人はいるわ。そこでお礼を言いなさいな」

「はい!!」


そうして待ちに待ったお茶会の日。

俺はとてつもなく緊張していた。

今までになく外見にも気合を入れ、何度も彼女へのお礼を伝える練習をした。

父上から受け継いだ赤髪は、俺を明るそうな性格へと導いてくれる。


母上と俺、シェーン侯爵夫人が揃い、夫人同士で話を始める。

そこに遅れた彼女が、部屋へと入ってきた。


「失礼いたします」


間違いなくあの日見た天使だ。

直視出来ずに下を向く。

心臓がバクバクとうるさい。

それからお互い自己紹介をしたが、緊張しすぎて全く覚えていなかった。

そして何故かいつの間にか、2人きりにされる。

2人の間には長い沈黙の時間が過ぎていく。

突如彼女は口を開く。


「ねーなんか喋ってよ」

「……あっ……えっと……」

「……なんかあなたと話してもつまんなーい」

「……!?……ご、ごめ」


虫の居所が悪いのか、そう言って彼女は立ち上がり、俺を置いて部屋から出ていく。

顔面蒼白になり、部屋に1人残された俺。

立ち上がる勇気すらなく、椅子へと縛り付けられているかのようだ。


こんなはずではなかった。

もっと話せるはずなんだ。

あの赤い果実だって図鑑で確認して説明まで覚えたんだから、話そうと思えば出来たはずなのに。

その日の帰り、母上に慰められて帰路についた。


どうにかイメージ回復を図りたい俺は色々と計画を立てるが、実行は出来ずに時は過ぎていく。


そんな時、殿下の誕生祭が開かれると聞いた。

招待状も貰っている。そして彼女も。

これはチャンスである。

その日、彼女にアピールをしよう。


だがこの時の俺は、誕生祭が何のために開かれるのかを理解していなかった。

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