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10話

外へと出ると、馬車の待機所にはたくさんの馬車が御者と共に待機している。

一際目立つ場所には、レーゲン伯爵家の紋章付きの馬車が待っていた。


馬車は箱の形をしたキャリッジと呼ばれる馬車である。

主に黒と金で彩られたフォルムにしなやかな曲線が美しい。侯爵家の馬車にも負けてはいないだろう。


そんな侯爵家の馬車はどこにも見当たらず、私は頭にハテナを浮かべる。


「あれ?私の馬車は一体……」

「……着いてこい」

「えっ、ちょっと!」


手を繋いだまま伯爵家の馬車の方に連れていかれる。

御者と護衛はお待ちしておりましたと頭を垂れた。


「シェーン侯爵にお前を送れと言われていたからな」

「お父様に?」


1つ頷くと、そのまま御者が開けたドアまでエスコートをしてくれる。

そしてステップを踏み、馬車の中に座る。

ルートは真向かいではなく、私の隣へと座った。


2人きりの馬車の中、隣同士に座るその手は握られたままである。

緊張して手に汗をかいていないだろうか……。


「ねえ、聞いてもいい?」

「……なに?」

「今日の私はどうだった?似合ってた……?」

「……」

「……」


ひとたびの沈黙が訪れる。

どうしても聞きたかったドレスの感想。

だけど聞いた私が馬鹿だった。答えてくれるわけもないのに。

自惚れてしまっていたかも……恥ずかしい。


「や、やっぱり何でも――」

「……似合ってた…んじゃない?」

「!!」


私とは目を合わせずに、窓の方を見てそう一言呟く。

その一言だけで私は舞い上がりそうなほどの喜びが込み上げてくるのだ。


「ふふっ、ありがとう!」

「っ!!」


嬉しさのあまり腕に抱きつく。

細く見える彼のその腕は、やはり男性のもので。

途端に恥ずかしくなってしまうが、離してしまうのも惜しかった。


「お、まえは本当に……そういう」

「ごごごごめんなさい!!」


瞬間的にパッと抱きついていた腕を離す。

こういう時は文句を言われる前に素直に謝らないと。


「……はぁ〜」


ルートは自分の顔を片手の手のひらで包み込むと溜息をこぼす。


私はいたたまれない気持ちになり、何か他の話題がないかと脳を働かせた。


「あ!そうだ!」

「?」

「王都って言ったら王立学園があるのよね!」


頭の中にぽんっと出てきた言葉、王立学園。

両手を合わせてそう言うと、横目で視線を送ってくる。


「まあ……そうだね。それで?」

「ルートも来年には入学でしょ?寂しくなるなぁって」


王立学園とは、主に貴族が13歳になる年から通う学園である。

13歳から15歳までが中等部。

16歳から18歳までが高等部。

この合計6年間が学園で学ぶ期間にあたる。


そして、高等部から分かれる学科は3種類。

文官や領地を治めるために文学を学ぶ文学科。

騎士を目指す者が入り、己の腕を磨く騎士科。

非常に数少ない魔術を扱える者が入る魔術学科。

高等部に進学するにあたって、筆記試験や剣術・魔術の才能があるかを見極められる。

また平民も試験にて優秀な成績を収めたり、魔術を扱える者は無償で入学をする事が出来るため、学園では貴族と平民がお互いに切磋琢磨している姿を見ることが出来る。


過去の私は文学科に入っており、休みの日には妃教育を受けていた。

ルートはどうだっただろう。

騎士科に入っていたのは知っているが、それ以外は殿下の近くにいた事しか知らない。


「あ〜……学園に入るからか」

「そうそう。お兄様と一緒で長期の休みしか戻れないだろうし」

「……ていうか寂しいんだ?」

「そりゃね……寂しいよ」

「……ふ〜ん」


シェーン侯爵家やレーゲン伯爵家のように王都から遠い貴族のために学園は寮を用意してている。

防犯の面からも基本的に全ての生徒は寮生活となっているが、王族やどうしてもタウンハウスで過ごしたい貴族はその限りでは無いらしい。

まあ私やお兄様はこだわりは無い方なので寮暮らしでしたけど。


「ルートも寮に入るの?」

「?入るわけないに決まってるだろ。誰が好き好んであんな所に入るかよ。……まさかお前!!ルートもって事は寮に入るつもりか!?」

「えっ……うん。お兄様と同じでそのつもりだけど……」

「はぁ〜!?ふざけんな!やめちまえ!!」


いきなり怒り出したルートに意味がわからない。

きょとんとした私に対して、駄目だの危険だのとくどくど口にする。

まるで説教されているようだ……。

えー、実は寮生活のほうが気を使わなくてすむのになぁ。


「大体お前は俺の婚約者だろう?同じタウンハウスでいいだろうが」

「……え?」

「っ!!……え〜、なに?真に受けてんの?冗談に決まってるだろう?」

「あっ……そうだよね!!」


今まで機嫌悪かったのにいきなり冗談を言い出して笑みを浮かべるってどういう事よ。

あの流れなら勘違いしてもおかしくないでしょうが!!

2人とも沈黙してしまい、変な空気になってしまった。


シーンとした空気の中、突如馬車は止まる。

どうやら侯爵家のタウンハウスという目的地に着いたようだ!

護衛の方が着いたと知らせてくれ、ドアを開けてもらう。


ゆっくりと握っていた手を離す。

お礼を言って降りようとするが、先にルートが降りていった。

続いて私の番だと馬車から出れば、待っていたのは差し伸べられたルートの手。


思わず口元が綻ぶ。

彼の手に私の手を添えて優雅に降りていく。


私は気づいている。

彼は無愛想だし2人きりの時に口を開けば馬鹿にするような態度を見せるけど、本当は不器用なだけで優しいのだ。


「ありがとう」

「まあ仮にも俺の婚約者だからさ……。こんな姿は見せておかないとだろ?」

「ふふ。そうだね」

「ほら、もう帰りなよ。どうせ明日には王都を出るんだろうし」

「よく分かったね!!」

「侯爵様が言ってたからさ……」


少し染まった頬をかきながら目を逸らしている彼は、どうやら何か後ろに隠し持っているようだ。

私がジッと見てしまったせいか、慌てて隠していた小さな箱を前に出す。


「そういや、忘れてた。これあげるよ」

「ありがとう!!開けていい?」

「いいよ、別に期待させるような物じゃないし?」

「何かな〜!……わぁ!!」


箱を開けると中に入っていたのは綺麗な耳飾り。

黒と紫の美しい宝石の輝きは、シンプルなデザインにも関わらず見る人を圧倒させる。


「凄い綺麗だね!素敵!!」

「……侯爵家のご令嬢ともあろう人がそんな物で気に入るんだ〜」

「うん!このアクセサリーが素敵だと言うのもあるけど、貴方から貰ったプレゼントだから気に入ったのよ!!これ今からつけたいの、手伝ってよ」

「……っあ、ああ」


感極まって嬉しさのあまり本音をぶつける。

無意識のうちに見せていたのは、はにかんだ笑顔。

このダブルコンボの攻撃はルートにクリーンヒットしており、平静を装う事に必死であるが、その事にセリーヌは気づかない。


「どうかな?」

「!!……年頃の女性らしくなったかもね」

「んふふ〜、ありがとう!!」


素っ気ない返しでも、きっと彼は褒めてくれている。

恋は盲目と言うのは本当かもしれない。

そして彼にも私と同じくらい意識して欲しいと思うほどに強欲なのだ。


「ねえ、ルート。ちょっとだけ顔貸して」

「?……っ!!」


ちゅっと彼の頬に口付けをする。

石のように固まって動かなくなった彼に向かって手を振り挨拶をする。


「じゃあ、またね。大好きよ」


セリーヌは顔を真っ赤に染めて、太陽のように笑っている。

そのまま扉の奥に消えていくのをルートはただ呆然と見送るしかなかった。

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