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聖女は王の元に、俺は闇に──堕ちた英雄の復讐譚  作者: 雷覇


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絶望の瞬間

処刑を数時間後に控えた夜明け前。

独房の空気はいつにも増して重く、冷たかった。


カインは鉄格子の奥に腰掛け、目を閉じていた。

しかしその沈黙を破るように、足音がひとつ、近づいてくる。


現れたのは戦友――ロイ。

副団長だった男は、目に見えるほど疲弊していた。


「……来てくれたのか」


カインが静かに呟く。

ロイは口を開くのに時間を要した。


「……すまない」


その言葉で、すべてを察した。


「もう、誰も……来ないんだな?」


ロイは俯きながら、重い声で答えた。


「俺たちは……裏切り者の処分という命令を受けた。

 黙っていれば、連座で処刑されると。

 ガレスも、フィリアも、他の者たちも……

 皆、苦しんだ……だが、逆らえなかった」


その言葉に、カインはわずかに笑った。

乾いた、力の抜けた笑いだった。


ロイは、否定も肯定もできなかった。

ただ黙って俯く。

カインの拳が、鎖の鳴る音とともに震えた。


その声には怒りではなく、

ただ静かな、深い絶望が滲んでいた。


「仲間だと思っていた。

 背中を預けられる存在だと、本気で信じていた。

 なのに、誰ひとり……誰も、俺を選ばなかったんだな」


「カイン……」


「いい。もう、分かった」


カインは立ち上がる。

鎖が重く鳴り響いた。


「信じるものなんて、何もない。

 この国も、仲間も、正義も、神の光すらも……すべて嘘だった」


その瞳は、深く濁っていた。

かつての英雄の澄んだ瞳はもうそこにはなかった。


「これが、“俺を捨てた国”の選んだ結末か……

 ならば今度は俺が――この国そのものを裏切ってやる」


ロイが思わず一歩後ずさった。


その背に、王命による処刑命令の使者が現れる。

太陽が地平に昇り始める。


鐘の音が響く中、王都の中央広場には異様なほどの人々が集まっていた。

騎士団の誇り、国を救った英雄カインの「処刑」を見届けるためだ。


民衆の顔には困惑と戸惑いが混ざっていた。

「本当に反逆者なのか?」

「魔族と通じているというのは本当なのか?」


信じたい者は少なくなかった。

だが、“国が決めた罪”に逆らえる者は、ひとりもいなかった。


中央の台に立たされたカインは、両手を後ろに縛られ、首に縄をかけられていた。

鎧は剥がされ、衣も粗末な囚人服に替えられている。

まるで“英雄の終わり”を見せつけるための演出のようだった。


その様子を、王エルヴァンは玉座から見下ろしていた。

傍らには、聖女セリスが座している。


「見るがいい。セリス。

 かつてお前が信じた男は、民に背を向け、己の欲で神の光を汚した」


セリスは顔を伏せていた。

何も見ないように、何も聞こえないように。


「(……こんな終わり方、カインが……)」


その姿を見て、王は満足げに笑っていた。


そして、処刑人が進み出た。

「罪人カイン。反逆を企てた罪により、死刑を執行する!」


民のざわめきが広がる。

一斉に、視線がカインに注がれる。


だが、カインは静かに顔を上げた。

目は冷たく、澄み切っていた。


処刑場を囲むように、銀の鎧をまとった騎士団が列を成していた。

だが、騎士たちの表情はすでに重く沈んでいた。


副団長ロイは剣を腰に下げ、無言のまま陣形の確認を行っていた。

その背後に立つガレスとフィリアも、緊張に包まれたまま動かない。


「……全周囲、封鎖完了。弓兵を屋根上に配置、魔術班は後衛。

 逃走の可能性は、限りなくゼロだ」


ガレスの声は硬く乾いていた。

それでも彼の手は、柄を握りしめる力で白くなっていた。



首に縄をかけられ、腕を縛られたカインは、地に膝をつきながらも、顔を上げていた。

その視線の先に――いた。


聖女セリス。

神の衣をまとい、白銀の微笑を浮かべ、王の隣に立つ姿が。


その美しさは、今や“象徴”として完璧だった。

だが、カインの目はその微笑の奥に、一滴の涙を見逃さなかった。


王が何かを囁き、彼女に視線を向けさせた。

セリスは気づかぬふりをして祈りを続けていたが、

その瞳の奥に浮かんだ震えと、滲んだ光は――確かに、カインに届いていた。


(……お前……泣いて……)


その一瞬で、すべてを悟った。


セリスは自ら望んで王の側に立っているのではない。

抗えず、拒めず、ただ“生かされるために”そこにいる。


カインの胸に、黒く重たい感情が燃え上がる。


(俺は……この国を、王を、信じた者たちを……すべて、護ろうとしていた)


(それなのに、セリスは奪われ、信頼は裏切られ、仲間は沈黙した)


心の中で深い闇が広がっていく。


「国家に背き、魔族と通じた罪により、これよりカインの刑を執行する!」

処刑官の声が響きわたる。


すると次の瞬間。

風が止まったように、時間が凍った。


そして――

処刑台の床下から、突如として強烈な爆破の閃光が走った。


台が揺れ、処刑官が吹き飛び、縄が千切れ、木片が四方に飛び散る。

民衆が悲鳴を上げて逃げ惑い、騎士たちが制止の声を張り上げる。


「爆発だ――!!」

「結界は!?何が起こった!!」


爆煙の中で、処刑台の中心部にいたはずの男

カインの姿は、跡形もなく消えていた。

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