第48話:連合軍撃破
砦の地下回廊を抜け出したザイ率いる暗殺部隊は、月光も届かぬ湿った地を無音で駆け抜けていた。遠くでは王国軍の魔導砲撃が絶え間なく轟き、爆発の振動が土の壁を揺らす。
「……派手に暴れてくれる」
ザイは薄く笑みを浮かべた。
視界の先には王国軍の後方陣地が広がっていた。そこには魔導炉を背負った大型砲塔が整然と並び、眩い光を帯びて唸りを上げている。
しかし、守りは驚くほど薄い。己らの砲撃力を過信し、後背の警戒を怠っていたのだ。
「間抜けだな。背後をとられた時点で詰んでる」
ザイは短剣を静かに抜き、指先で合図を送った。
瞬間、黒衣の部隊が闇に溶けるように散開し、陣地へ殺到した。
「な、なに――ぐぁっ!」
王国兵が振り向いた時にはすでに遅い。
喉を切り裂く音と血の飛沫が夜気に紛れ、悲鳴さえも断ち切られて消える。
「砲塔を掌握しろ! 動く敵は一人も残すな!」
精鋭たちは制御盤へ突入し、次々と砲手を葬った。
数分後、砲塔の制御権が奪取されると同時に、ザイは迷いなく全砲身の向きを戦場へと反転させた。
「……お返しだ」
轟音。
王国軍の後方から放たれた砲弾が、前線の背を次々と打ち抜いた。
味方同士で撃ち合う形となり、王国軍の陣形は一瞬で瓦解。
砦からその光景を見下ろしたカインは、わずかに目を細めた。
王国軍の前線が自らの砲撃で潰され、混乱の渦に沈んでいく。
「……さすがだ、ザイ」
一方、サルディナ軍は王国軍の無差別砲撃で恐怖に駆られ、士気は崩壊寸前だった。
そこへ黒の軍勢が圧をかけるように進撃し、峡谷の両端を完全に封鎖した。
「た、退却だ――!」
「もう終わりだ……!」
混乱の声を断ち切るように、カインの号令が響く。
「総攻撃だ! 敵を逃すな、全て制圧しろ!」
崖上から、側面から、正面から――漆黒の軍勢が一斉に襲いかかる。
退路を断たれたサルディナ軍は次々と武器を投げ捨て、降伏していった。
カインはその光景を冷徹な眼差しで見つめる。
「……これでサルディナの前線は終わった」
だが彼の表情には安堵はない。
すでに次の一手を見据えていた。
王国軍殲滅の命
「カイン様、サルディナ軍、制圧完了しました!」
「捕虜は拘束しろ。だが――王国軍には情けは不要だ」
カインは通信石を手に取り、低い声で命じた。
「ザイ、王国軍を一人残らず消し去れ」
間を置かず、楽しげな声が返ってくる。
『ああ……残党狩りは性に合ってる。骨も残さないぞ』
直後、砲塔が再び火を噴き、王国軍の混乱は決定的になった。
退却も叶わず後衛を奪われた彼らは、ただ絶望の中で切り伏せられていく。
精鋭部隊が陣地に流れ込み、悲鳴と血煙が戦場を覆った。
しばらくして通信が入る。
『カイン、王国軍は全滅だ。生き残りは一人もいない』
「よくやった」
『砲塔はまだ使える。このまま攻めるか?』
カインは短く考え、静かに答えた。
「いや、今は急ぐな。サルディナの民心を揺らす方が早い」
「王国軍が味方を撃った事実を流せ。降伏兵を使って首都に伝えさせろ」
『……なるほど、内側から崩すわけだ。いい趣味だな』
「それでも抗えば、その時は容赦なく吹き飛ばす」
ザイがくつくつと笑った。
『承知した。恐怖でサルディナを黙らせてやる』
サルディナ侵攻の決断
降伏兵たちの呻きが響く峡谷を背に、カインは戦場を見下ろしたまま剣を納めた。
その表情は静かだが、眼差しは揺らぎがない。
「サルディナは今、王国軍に裏切られて混乱している。この機を逃せば再び立ち直るだろう。……なら、叩くのは今だ」
アリアが険しい表情で問う。
「本国に攻め入るつもりなの?」
「そうだ。息の根を止めるには一瞬の隙を突くしかない」
カインは降伏兵の中から高官を呼び寄せ、静かに告げた。
「降伏を受け入れる条件は一つだ。首都までの道を開け。拒めば、ここで全員処刑する」
高官は蒼白になり、唇を震わせる。
「む・・・無理だ。首都にはまだ主力が……」
「それを潰すために言っているんだ」
カインの声が戦場に響き渡ると、降伏兵たちは沈黙し、うつむいたまま頷いた。
そして黒の旗は、サルディナ領内へと向けられた。
「全軍、進軍――サルディナを陥とすぞ!」
峡谷の制圧が完了し、黒の軍勢が進軍の準備を整え始めた頃、カインは通信石を手に取りザイに声を飛ばした。
「ザイ、聞こえるか?」
『ああ、こっちは片付いた。次の命令は?』
「王国の後続部隊が追ってくる可能性がある。お前は奪い取った砲塔を使って本拠地の前の峡谷に防衛線を敷け」
『防衛線、だと? この砲塔でか?』
「そうだ。峡谷の入り口に火力を集中させ、王国軍の増援が踏み込めない状況を作れ」
ザイは低く笑った。
『いいな、それ。ここを墓場にしてやれば王国軍も不用意に踏み込めなくなる』
「手段は問わん。俺たちがサルディナを落とすまで、ここに鉄壁の陣を固めろ」
『任せとけ。獲物が来るたびに焼き尽くしてやるさ』
通信が切れた直後、峡谷全体に轟音が響き渡った。
ザイの部隊が砲塔を巧みに配置し直し、峡谷の出入り口を挟むように巨大な火力網を形成していく。
奪い取った魔導砲が次々と地形を削り、天然の要塞を築き上げていた。




