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聖女は王の元に、俺は闇に──堕ちた英雄の復讐譚  作者: 雷覇


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第46話:予想通りの展開

曇天の空に蹄の音が響いた。

それは、サルディナ軍の突撃部隊。

砂嵐の彼方から現れたのは、騎兵と歩兵を混成した機動戦部隊だった。


「突撃だァッ――!」

サルディナ軍の先鋒を務めるエルガスは、馬上から剛槍を掲げ、吼えるように叫んだ。その背後には、土煙を巻き上げて進む騎馬部隊。重装歩兵が続き、まるで鉄塊の奔流のように、峡谷を圧倒的な勢いで埋めていく。


砲台も魔導投射もない。

あるのは、刃と鋼と、力による正面突破の意志。


「……本気だな、サルディナ」


砦の上からそれを見下ろすカインの声には、皮肉めいた笑みが混じっていた。


「愚直だが、嫌いじゃない。来い。迎えてやる」


「全軍、迎撃態勢!」


カインの号令とともに、二十名ほどの漆黒の部隊が、峡谷へと降下していく。

黒の軍勢の中でも特に武勇と機動力に優れた者たち。奇襲と間引きを専門とする精鋭部隊である。


「正攻法で来るなら、正面から受け止めてやろう」


カインは一歩前に進み、部下たちを振り返る。


「だが忘れるな。この戦いは、ただの力勝負じゃない。我らの背には、命を預けた仲間たちがいる。砦がある。家族がある」


剣を抜き放ち、その切先を敵へと向ける。


「奪わせるな。踏ませるな。ここが我らの家だ」


そして、重なるように響いたのはリアナの叫び。


「側面部隊、展開完了! 峡谷に誘導せよ! 包囲網、閉じろ!」


峡谷に押し入っていたサルディナ軍の先鋒が、地形に誘われるまま入り込んだ刹那。

黒の軍勢が、両側面の崖上から一斉に雪崩れ込んだ。


――挟撃。


粉塵と怒声が混ざり合い、鉄と血がぶつかり合う地獄のような接近戦が幕を開ける。


「王国軍の動きはまだない……!」


アリアが結界陣の上で呟いた。


「なら、今のうちに……この波を、切り裂く!」


そう、これは前哨にして最大の試練。

ヴェル=グレイア――黒の軍勢が築き上げた砦の命運を賭けた、正面からの一撃に、今、答えを叩きつけようとしていた。


雲が低く垂れ込める中、セレファリア王国の砲台から、一斉に激しい砲撃が放たれた。轟音とともに、鋼鉄の破片が大地を震わせ、敵陣を標的に正確に迫る。だが、その音はカインにとって、待望の合図に過ぎなかった。


「砲弾が来るぞ!」


彼の眼差しは、砲弾がヴェル=グレイアの外郭に叩きつける瞬間を鋭く捉え、まるで舞台が整ったかのように、その一撃を歓迎するかのようであった。


「敵の前線は、これで二手に分断されるだろう。砲撃による混乱で、正面の突撃も弱まる」


隣で兵が状態を確認しながら声を上げる。


「砲弾の衝撃波が、あちらにも波及しています。王国軍の攻撃が、敵陣に亀裂を生じさせる。まさに、我々が予想していた通りの展開です!」


その発言に、カインは静かに微笑みながら全軍に呼びかける。


「全軍、迎撃態勢をさらに強化せよ! セレファリアの砲撃を盾に、敵の陣形を崩し、隙を作り出すのだ。今こそ、真の総力戦を奏でる時だ!」


砲台から発せられる破壊の轟音は、戦場に一瞬の混沌をもたらした。敵勢力は、王国軍と共に圧力に晒され、士気が揺らぎ、各部隊の連携に乱れが生じ始める。カインは、正面突入と隙間を狙った挟撃作戦の両輪が、今まさに動き出すのを感じ取りながら、すでに次の指示を練っていた。


「これこそ我々が待ち望んだ局面だ。敵が混乱に陥るその隙に、我々は両翼から叩き込む。さあ、全軍、行くぞ!」


セレファリア王国の砲撃を思いのままに利用し、カインの号令とともに、ヴェル=グレイアの守備は新たな局面へと突入した。絶え間なく降り注ぐ砲弾の音に応じ、彼の部下たちは一丸となって、激動の戦場に飛び込んでいった。全ては、敵にその自信と隙を思わせ、最終的な総撃破を狙うため。


砲声が、空を裂いた。


セレファリア王国軍の砲台から放たれた魔導砲弾が、ヴェル=グレイアの前線――いや、サルディナ軍の布陣にも容赦なく降り注いだ。


地が揺れる。爆風が騎兵ごと吹き飛ばす。

味方であるはずの軍勢ごと、何のためらいもなく焼き払う。それが王国の支配のやり方だった。


砦上からその光景を見下ろし、カインは目を細めた。


「……やはり、そう来たか」


静かに、だが確かな確信と冷笑が混ざった声だった。


「味方ごと撃ち抜くか……。非情だな、エルヴァン」


だがその非情さこそが、彼にとっては読みやすい。


「逆に、ありがたい」


アリアが苦々しく眉を寄せる。


「味方にも構わず砲撃って……正気じゃないわよ。サルディナと協調なんて、最初からする気ないのね」


カインはうなずき、結界図の一角に視線を落とす。


「エルヴァンのやり方はいつも同じだ。すべてを駒と見る。必要なのは結果、手段は選ばない。だがその分、やることは単純だ。己の都合でしか動けない奴は、想定しやすい」


視線を戦場へ戻しながら、カインは呟くように言葉を続ける。


「サルディナとの連携が崩れた今、王国軍は前に出ざるを得ない。でなければ、ただの無差別砲撃になるからな。……こちらの誘いに乗らざるを得なくなる」


その瞬間、砦の地下で待機していた舞台が、密かに地底通路を抜けて動き出した。


「ザイ。予定通り、敵の後衛を断て。砲台を撃ってくる奴らの背中を焼け」


「任せろ。敵の背を、焼き払ってやる」


ザイが静かに笑みを浮かべ、影の中へと消えていく。

カインは風に翻る戦旗を見上げた。

灰と黒の紋が、砦の上で静かに揺れている。


「歪んだ正義は、やがて自らを焼くだろう。……導火線はもう、火がついている」


曇天の空を背景に、彼の目は一切の迷いなく、次の一手を見据えていた。

エルヴァンの非情な砲撃がもたらした混沌。それすらも、カインは己の手札として、すでに掴み取っていた。




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