表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女は王の元に、俺は闇に──堕ちた英雄の復讐譚  作者: 雷覇


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/43

第18話:反乱の芽をつぶす

王城・謁見の間。

夕暮れの陽が、深紅のカーテン越しに射し込む。


ゼクスが静かに歩み寄り、膝をついた。


「陛下。ご命令の通り、王都近辺に不審な拠点を調査しましたが、痕跡はありませんでした。ですが……」


「何だ?」

エルヴァンは杯を揺らしながら、わずかに口元を歪めた。


「かつて処刑された者の親族、あるいは追放された騎士らが不審な動きをしているという報告が」


「……芽吹いているか。反逆の種が」


エルヴァンは静かに立ち上がり、階段を降りる。

玉座の影が彼の背に長く伸びた。


「……王都にはまだ、“処理し損ねた連中”がいる。街に隠れた者、地下牢で生かされている者、あるいは赦しを乞いながら生き延びた敗残者たち。探し出して徹底的に踏み潰せ」


ゼクスは目を伏せたまま、静かに問い返す。


「……王都監獄の囚人だけでなく、一般人もですか」


「当然だ」

エルヴァンの声に一切の揺らぎはなかった。


「お前の役目は、芽を摘むことではない。根を掘り起こし焼き払うことだ」


「……御意」


ゼクスはひとつ深く頭を垂れた。


「記録を洗い直し、命を与えるに値しない者すべてを選別せよ。今宵からでいい。街であろうと、牢の奥であろうと構わん。速やかに処分せよ。」


「となれば暗部……暗殺部隊を動かす許可を頂けますでしょうか」


「好きに使え。お前に任せる」


ゼクスは立ち上がり、影のようにその場から消えた。


「……後は転移対策だな。処分前に転移させられては困る。誰か聖女セリスをここに呼べ!」


しばらくした後、聖女セリスが白銀の装束をまとい玉座の間に呼び出される。


「……お呼びでしょうか、陛下」


エルヴァンはゆっくりと歩み寄った。


「セリス。この王都で転移の術が使われた可能性があると、報告を受けた。」


「……転移ですか?」


「そうだ。そして罪人ばかりを転移でどこかに飛ばしている。どこかで王国に反抗する勢力を集めている可能性がある。不届きにもな」


エルヴァンは冷えた笑みを浮かべる。


「これ以上の罪人の流出を防ぐため、王都全域に〈結界〉を張れ。すべての空間転移を遮断するのだ」


セリスの表情がわずかに曇る。


「……それほど強力な結界を……王都全域に、ですか?」


「できぬか?」


「……いえ。可能です。ただ、それほど大規模となると数日しかもちません」


「構わん」

エルヴァンの言葉に、ためらいはなかった。


「罪人は別の転移されない場所に隔離し、反乱の可能性をすべて潰しておく。これが、王都の平和を守るために必要なのだ」


セリスは小さく息を吸い、深く頭を下げる。


「承知しました。今夜より儀式に入ります」


「……頼むぞ、“聖女”よ」


エルヴァンはその背を見送りながら、ゆっくりと呟く。


「隔離などしない。反乱の芽はこの数日ですべて処分する。誰にも逃げ場はない。王都は私の掌の中にある」


その夜――

聖堂の鐘が沈黙し、空気が一変する。

王都全域に広がる不可視の結界。

それは、見えざる檻であり逃げ道を封じる鎖だった。


王都に結界が張られた夜――

空気が変わった。


〈暗部〉の影が、街のあちこちに動きだした。


黒装束に身を包み、声を持たず、痕跡を残さず。

その存在すら誰にも知られず、彼らは任務を遂行する。


標的:元騎士隊員、治療院の医者、辺境出身の魔導学者、黙して語らぬ吟遊詩人……。


罪は明記されていない。

ただ“陛下の指示に従わなかった可能性がある”、

あるいは“かつて問題ある者と親しかった”。


それだけで“消す”理由としては十分だった。


「……寝ている間に、静かに」


「この家の地下に記録を焼却。遺体は水路に」


「処理完了、次。移動開始だ」


結界が張られて以降、転移は不可能となった。

密告も、逃亡も、外部への連絡も。


この都市そのものが、ひとつの巨大な処刑場と化していた。


「八十二名、処分完了。問題の芽は、現段階でおおむね鎮圧されたかと」


エルヴァンは杯を揺らし、香りを楽しむように鼻を鳴らす。


「よろしい。……この王都には、沈黙と秩序こそがふさわしい」


彼の瞳はどこまでも冷たく、どこまでも鈍く輝いていた。


「さて――次は表だな」


「……表の排除にも着手を?」


「うむ。ついでだ。民が不安を抱く前に、不穏な者は公の場からも消しておけ」


王都は見せかけの平穏を取り戻した。

だが、誰もが知っていた。

言葉にできない“何か”が、すでに始まっていることを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ