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聖女は王の元に、俺は闇に──堕ちた英雄の復讐譚  作者: 雷覇


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第12話:カイン捜索

分厚い扉が閉まり、重苦しい沈黙が室内に流れていた。

楕円形の円卓に集められたのは、騎士団幹部の十数名。


ゼクスが最奥に立ち、冷ややかな声音で口を開いた。


「――カインの行方は、依然として不明。

 処刑時に発動した転移術式の性質から、空間座標の再特定は困難と判断される」


フィリアが眉をひそめながら、資料をめくる。


「あの術式……座標が記録されないよう構成されていた。

 とても高度なものよ。つまり、転移先の特定は不可能」


ガレスがテーブルを拳で叩いた。


「だったら、どうするってんだ!」


ロイが静かに言った。


「つまり――現状、手詰まりということだな」


ゼクスは一度だけ軽く頷く。


「ああ。現時点では、騎士団単独での直接的な追跡行動は不可能だ。

 だが、王都に戻ってくる可能性は十分にある。復讐という形でな」


短い沈黙。

それは“誰も否定できない現実”として、全員の心にのしかかる。



その言葉に、ミリアムの表情がわずかに揺れた。


誰よりもカインの剣を、声を、背中を知っていた自分。

だが、今ここで何も言えず、彼女は黙して座るしかなかった。


(カイン……どこに行ってしまったの?)


ゼクスが会議を締めくくる。


「以上だ。各班、警戒態勢を維持し、動きがあれば即報告。

 ……情は捨てろ。これは“任務”だ」


扉が重く開かれ、幹部たちは次々と立ち上がっていく。


ロイは最後に一度だけ振り返り、まだ動かぬミリアムに目を向けた。

だが彼女は何も言わず、ただ拳を握りしめていた。


幹部たちが去った後、重く閉じられた扉の中には、二人だけが残っていた。


ロイは資料をまとめながらちらりと視線を向ける。

円卓の隅――そこにミリアムは、まるで時間が止まったかのように、身じろぎもせず座っていた。


ロイは溜息混じりに声をかける。


「……ミリアム」


反応はない。


彼はゆっくりと歩み寄り少し距離を保ったまま、もう一度呼んだ。


「お前、ここ最近ずっと顔を出してなかったな。

 ……大丈夫か?」


ミリアムはわずかに肩を震わせ、顔を伏せたまま答える。


「……ごめんなさい。大丈夫じゃないかも」


ロイは首を横に振る。


「いいさ。無理に元気なふりをされるほうが困る」


「……でも、俺は聞きたかっただけだ。

 “お前はまだ、剣を持つ気があるのか”ってな」


ミリアムは、机の端に置かれたままの剣を見つめる。

いつもは手入れが行き届いていたその刃は、今は微かに曇っていた。


「……私は何もできなかった。

 あの日、カインさんに何も……だから、私は……」


ロイが静かに言葉を挟む。


「責めるな。あの日、お前だけじゃなかった。

 誰もが“正しいこと”から目を背けた。

 ……俺も、そうだ」


ミリアムはようやく顔を上げた。


その目には、深い迷いと、わずかな光が宿っていた。


「でも、もし……もし、まだ間に合うなら。

 今度は……私の手で、あの人に“向き合いたい”んです」


ロイはそれを聞いて、静かに頷く。


「なら、立て。剣を磨け。

 お前の剣が向く先が、敵か、味方か――それはこれから決めればいい」


「ただ一つだけ言えるのは……お前が剣を捨てたら、あの人の“信じたもの”は、本当に失われる」


(カインの……行方を追う?

 今さら……私に、何ができる?)


(でも……それでも。もし、まだどこかで生きているのなら)


涙に濡れた瞳に、微かに灯る光。


(今度こそ……あなたに、手を伸ばさなきゃ)


ミリアムは静かに剣を持って部屋を出た。


冷たい静寂が、重厚な空間に満ちていた。

白銀の柱に囲まれた玉座の前でゼクスが一礼して立っていた。


王エルヴァンは玉座に座したまま、目を細めて報告を待っていた。


「……進捗はどうだ、ゼクス」


ゼクスは、わずかな間も置かず口を開いた。


「陛下。現在、周辺の観測は続けておりますが、

 カインの転移先については――未だ座標の特定には至っておりません」


王の瞳が、わずかに揺れる。


ゼクスは続ける。


「発動された術式は通常の転移魔法ではなく、

 術式そのものが“記録を残さない”よう設計されておりました。 魔術探査による後追いも封じられた形です」


「……申し上げにくいことではありますが、現時点で追跡は――不可能です」


沈黙。


王の指が、肘掛けを“コツ、コツ”と打つ音だけが響いた。


やがて、王は低く呟いた。


「……逃れられたか。ふさわしき終わりを与える前に」

王は低く吐き捨てるように言った。


「そのまま消え去ればよいものを――

 だが、あやつは必ず“戻ってくる”。聖女であるセリスが儂の側にいる限りな」


間を置き、王は静かに手をかざした。


「ゼクス。

 騎士団、魔法団員――すべての団の警戒レベルをあげろ」


ゼクスは恭しく一礼した。


「承知いたしました。直ちに動かします」


王は冷たい笑みを浮かべる。


「逃げられた代償は、死では足りぬ。

 私の王としての安寧を脅かした、その罪――この王国のすべてをもって、裁いてみせよう」


玉座の上で、その声は誰にも届かぬよう、深く沈んでいた。

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