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種は芽吹かない 20

すみません。

とても嫌な感じのミミの成長期がしばらく続きます。

ミミは「女」という生き物が嫌いだった。


奴らは皆、こぞってミミに対して嫉妬し、意地の悪い行為を繰り返すのだ。産みの母でさえ、そうなのだったのだから、ミミは本当に可哀想な女の子であった。


母は言う。


「あんたね、親しくもない人から物を貰って来るもんじゃないよ。返しにいくよ」


村に来た行商の男は可愛らしいミミを見て、村人では買えないくらい高価で綺麗な服をくれたのだが、母はミミから服を取り上げると商人の男に返却してしまった。


「高い物をタダでくれるなんて親切な人はいないよ。世の中、甘く見るんじゃないよ」


母はミミから見ても、それなりに美しかった。しかし、若い頃に村を出たものの、嫌なこと事があったらしく故郷に戻り、ミミを産み、女で一人で自分を育てていた。


服を取り上げられて以降、ミミは目立つ物をもらう事はやめ、リボンや髪飾りなどの装飾品など、母に見つからないよう隠しておける物だけ貰う事にした。


母親をはじめとした大人の女達は、ミミに遊んでないで家の仕事をやれと命令するのだ。水汲みだの、縫い物だの、薪を集めろだの。


「あんた、怠け者だねぇ。そんなんじゃあ、お嫁にいけないよ」


ミミは女の次に、住んでいる村が嫌いだった。


小さな漁村であったそこは寂れていて小汚く、住んでいる人間達も貧しかった。家の中でさえ、気持ちの悪い虫やイモリなどの生き物が現れるし、漁港は生臭く、ヌメヌメとした魚の死骸が積み上がっている。


それでもミミは、その愛らしさで、村の男連中から可愛がられ、共同で行われる漁港の仕事の手伝いなど行わなくても、彼らから咎められる事はなく、意地悪な女連中から庇われていた。


しかし、それを妬む村の娘達はミミに嫌味を言ったり仲間はずれにしてくるのだ。特に憎たらしいのは同じくらいの年頃の村長の娘だった。ミミを気に入っている少し年上の少年に言って、海に突き落としてもらったが、運悪く漁船が通り掛かり、助けられてしまう。


だが、その後は少し大人しくなり、あまり家から出な

くなったので、少年達に言って、その娘の家に忍び込みリボンや綺麗なハンカチを盗ませ、代わりにムカデやイモリを部屋に置いておくよう命令した。


このように逆境に置かれたミミだったが挫けずに生きていた。ところが、ミミの心を打ち砕く出来事が起きる。


母親に連れられて神殿に行った時の事だ。その日は、海の神に祈りを捧げる特別な祭事が行われており、村人だけでなく外部から貴族も訪れていた。


その中に、一際目立つ家族がいた。村人はその中の男を「だいかん」様と言って崇めている。だいかんは妻とミミと同じくらいの年齢の娘を伴っていたが、その娘は淡い橙色のフリルの付いた服を着てヘラヘラと笑っており、非常に不快に感じた。いつか母に取り上げられた服よりも、ずっと美しいドレス。


「ミミの方がにあう」


村長の娘のように、どこに住んでいるのか分からないので、誰かに頼んでドレスを取って来させるのは難しい。仕方ないので、あの花とリボンの付いた髪飾りだけでも手に入れよう。ところが村の少年達に言っても、皆、だいかんの娘から取り上げるなんて無理だと断ってきた。


やはりこの村の人間は皆役立たずだ。


祭事が終わると、娘は両親から離れて村を散策し始めた。そばにいるのは年寄りが二人。付き添いがアレなら逃げ切れるだろう。


護衛らしき老人が少し離れた隙を付いて、ミミは付き添いの老婆を突き飛ばすと、娘の頭から髪飾りをむしり取った。


驚きと恐怖で歪む娘の顔を見ると、少しだけ胸がすっとする。どうせなら、引っ叩いて泣かせてやろうと手を振り上げたが、その手が娘に届くことはなかった。


「痛い!」


次の瞬間にはミミは護衛の老人に腕を掴まれ組み伏せられた。こんな仕打ちをされたのは初めてだった。ミミは堪えようしたが、涙が溢れて止まらない。


しかし、その後はもっと残酷な現実が待ち構えていた。


母は泣き喚きながらミミを殴り付け、這いつくばらせると、頭を掴み顔を地面に押し付ける。自分も這いつくばって、だいかん夫婦と娘に謝罪した。


「この子は善悪の判断もつかない愚か者です!家から出るなとおっしゃるなら、一生閉じ込めておきます!村から出て行けというなら出て行きます!」


母は何を言っているのか。

愚か者?閉じ込める?出て行く?


「死ねとおっしゃるなら、わたしが代わりに償います!」


娘が痛めつけられたというのに、何故戦わないのか。


「どうか、この子の命だけはお助けください!」


跪いて大声を張り上げるだけの母親に、ミミは失望した。母親ならば娘のために尽くすべきだろう。母親はミミを愛していないのだ。母親失格だ。


その後、ミミと母親は解放されたが、村に留まることは許されなかった。女性ばかりを集めた神殿へと親子で送られることになった。


「代官様とお嬢様に感謝するんだよ。心を入れ替えて真面目に過ごしてりゃ出られるらしいからね」


家に村長の妻の女が来て、母親に説明をしている。母は「ありがとうございます」と繰り返し頭を下げているが、どこに感謝することがあるのか。


「ミミが本当の娘だったらなあ」と繰り返し言っていた村長は姿を現さなかった。どいつもこいつも使えない。


神殿へと送られる日の前夜、ミミと母親は激しい口論をした。荷物の整理をしている時に、行商から貰った装飾品や村長の娘から奪った小物を見付けられてしまったのだ。


「こんな事をして。このままじゃ、あんた、真っ当に生きられないよ!」

「うるさい、お前なんか死んじゃえ!」


ミミは怒りのまま、勝手口に置かれていた水を桶ごと母親にぶちまけた。


「いい加減にしなさい!」

「キャア!」


母親はミミの頬を叩くと、外にある小さな物置にミミを閉じ込めてしまう。


「出発まで頭を冷やすんだよ」

「いやよ!ここから出して!」


泣きながら扉を叩き続ける。


どうして、自分ばかりがこんな酷い目に遭うのか。

どうして、母は自分を愛してくれないのか。

どうして、仲良くしてやった少年達は助けに来ないのか。

どうして、ミミを可愛がっていた男達は我関せずなのか。

どうして、どうして、どうして!


泣き疲れたミミは小さな天窓から見える月に祈った。

どうか、ミミを苦しめる奴らに罰が与えられますように。


翌日、物置の扉を開けたのは村長の妻だった。


「お母さん、亡くなったよ」


母はベッドで寝たまま冷たくなっていた。


出発の時間になっても現れない親子を村長の妻が様子を見に来て、発見したとのことだった。外傷もなく、毒を飲んだ形跡もない。自然死とみなされたが、村人は酷く不気味に思っていた。


何故なら、母親が死んだのに娘であるミミは薄ら笑いを浮かべている。


近隣の家の者は、昨夜、ミミ達親子の言い争う怒鳴り声を聞いていた。心配して、様子を見ていると母親がミミを物置小屋に閉じ込めるところを目撃していた。娘が母親を殺すことは不可能だということは間違いない。しかし、言いようのない恐ろしさを感じていた。


ミミは、母は罰せられたのだと狂喜した。

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― 新着の感想 ―
うわぁん、おかーさーん! お母さんも美人さんだったなら、色々とやらかしたり苦労したりしたんでしょう。 代わりに死ぬとまで言って庇ってくれる大きな愛に気づけなかったんですね。 これでみたされなかだたな…
サイコパス? としか言いようない まともな倫理観を母親は教えようとしてたらしいけど、意地悪だと取られた挙句、より悪い悪知恵の方を開花させていったと。 そして、母親が亡くなったのに、薄ら笑い えっ?…
うわぁ…。 あまりよろしくない環境ではあるけれど、ある意味周囲に順応して思考が曲がりまくって育った様が凄まじい。 こんな存在の中の聖女の力って危なすぎる…お清めに塩ふってふってふって除草したくなります…
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