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翠の魔女 08

レオンハートが倒した魔獣種の熊であるが、毛皮はもちろん、骨も魔道具などの加工品に使用できるし、肉も食べられる。全身、余す事なく利用可能だ。


領主邸で引き取って下さいと木こり達からは言われたが、なんせ5.7mある巨大熊だ。領主邸では処理しきれない。なので肉などはレイフルの人達に可能な限り分けた。


「レン、記念に毛皮を持っていく?」

「いえ、似たようなものは、沢山あるのでレイフィットで活用して下さい」


ダーシエ家には一族の者達が狩った魔獣の毛皮や剥製などが、邪魔になる程あるというので、毛皮と骨はギルドにて引き取ってもらう事にした。


領主邸でも熊肉は振る舞われた。熊肉の脂のたっぷり溶け込んだスープで作ったポトフは非常に美味しい。


「領主邸のスープの方が旨いです」


レンは以前にも熊を食べた事があるらしく、懐かしいと言っていた。


また魔獣出没はレイフルの街を驚かせたが、アルティリアの騎士があっという間に討伐した事も驚かせた。それから怪我人はいない事も広まっているはずなのだが、領主邸に見舞いの品々が多数届いた。果物や野菜、木の実などのナッツ類など。


翌日には可愛いお見舞い客も来てくれた。


「おひめさま、だいじょうぶ?」


3歳になるリバリウス工房の跡取り娘アナベルと祖父であるアントン親方だ。丁度、執務の休憩の時間になる頃だったので、お茶にお誘いした。


「アナの散歩のついでに楽器の調子を確認しようと思ってな」


親方はそう言っているが、先日、工房で整備をしてもらったばかりだ。アルティリアが不思議に思っているとアナベルが叫んだ。


「うそよ!ジイジ、おひめさま、けがしたかもしれないって、しんぱいちてたのよ!」

「まあ、親方、ご心配ありがとう。わたくしに怪我はないわ」

「だから、アナがジイジをつれてきてあげたの!」


お姫様に会えたら安心するでしょうと、得意げに胸を張る孫娘に親方は何も言い返せず、硬く目を閉じて口の端を下げる。一見怒ったように見えるが、アナベルはもちろん、アルティリアも困ってるだけだと分かっている。


「……邪魔をしたな。そろそろ、失礼する」

「えー!アナ、おひめさまと、もっとあそびたい!」

「肩車してやるぞ」

「かえる!」


アナベルはぴょんとソファから飛び降りた。その素直な姿に自然と笑いが溢れる。


「お土産を用意するわね」

「アナ、くっちーがすき!」


アナベルのお菓子と工房の職人達への差し入れをお願いしようと、レネに声を掛けようとしたら、既に準備されていた。バスケットには、ちゃんとアナベルのお気に入りのクッキーも入っている。


「ありがと!」


バスケットを渡すと、アナベルは嬉しそうに手を振って帰っていく。


頑固なお爺さんは孫娘が可愛くて仕方ないようだ。アントン親方曰く、工房の中でアナベルが一番筋が良いそうだ。また、娘の工具の取り扱い方を見たクレオも「カーラ!大変だ!アナベルは天才だよ!」と大騒ぎしているらしい。


そんなアナベルは弦楽器を作れるようになったら「アナもおひめさまに、けんじょーするからね!やくそくよ!」と言ってくれている。


アルティリアが無傷である事がやっと周知されると、今度は一躍有名人となったレオンハートを一目見たいという者も現れ始めた。よく少年達の姿を見かけている。特に11歳くらいの男の子三人が領主邸の周りをウロウロしているらしい。


「ダーシエ卿は「熊殺し」と言われているらしいですよ」


ロゼッタが教えてくれた。


「勇ましい呼び名ね」

「いえ、魔獣討伐はよく駆り出されてましたし。俺だけじゃなくルヴァラン騎士団は熊殺しばかりですよ」


姫君の上の兄君も熊殺しですとは言えず、レオンハートは困ったように答える。


「また、あの子達来てますよ」


レネは執務室にお茶を持ってくると言った。レネがいう「あの子達」とは、木こりの息子達で、あの熊が現れた作業場にもいた三人の少年達だ。


アルティリアが領主邸のメイドに尋ねると「顔見知りの職員を見つけては、ダーシエ卿の事を聞いて回ってるようです」と言う。


「レンはあの子達を救った英雄ですものね」


きっと憧れているだろう。


「いえ、そんな可愛い理由ではないと思いますが」


あの時、やたら絡んできた悪餓鬼共だったので、レオンハートは子供同士の度胸試しか何かに利用しようとしているのではないかと思っている。


高所から川に飛び込んだり、時にミツバチの巣を木から落としたり、もしくはどこかの番犬に石を投げたりして、勇敢さを競うのだ。レオンハートが邸から出て来たら、石を投げ付けるか、先日のように煽ってくるに違いない。


「会ってあげたら?」


アルティリアはそんな悪餓鬼に関わった事がないので、彼らが純粋にレオンハートに憧れて来ているのだと思っているのだろう。あまりにも姫君がニコニコしてるので、そうしてやっても良いかという気になってきた。それに、あまり領主邸周辺を彷徨いていて、何か悪さでもされたら、職員も困るだろう。


「では、少しシメてきます(話をしてきます)

「いってらっしゃい」


執務室を出たレオンハートは、領主邸の裏手に回り込み、人知れず邸を出る。わざわざ、正面から現れ「やあ、こんにちは、諸君。ご機嫌いかがかな?」などと爽やかな微笑みを浮かべる紳士になるつもりはない。


レオンハートは士官学校を経て特殊訓練部隊へと配属、騎士として実社会で経験を積んできた。アルティリアの遊び相手として皇宮に上がり、姫君と出会った頃より着実に精神的、肉体的、能力的にも大人へと成長していったのだが、彼は少年の心を失っていない。


少年レオンハートは相手が大人だろうが、自分と同じ子供だろうが、販売中の喧嘩は漏れなく購入していた。現在、二十歳になるレオンハートの中にいるダーシエの悪童、悪餓鬼レオンと呼ばれた11歳の少年は元気溌剌だ。


レオンハートの生家ダーシエ家は初代が平民の傭兵だった事もあり、代々、民草との距離が近い。幼い頃、ダーシエ領では領民の子供達と親しくしてい過去もある。きっかけは領地の腕白小僧達が、女の子のような顔をした少年時代のレオンハートをからかい、一対複数人にも関わらず、彼らは袋叩きにされ、以後、レオンハートの子分となった事がきっかけだ。そんな彼らも今では領地を支える人材となっている。


「さて、悪餓鬼共と遊んでやるかあ」


懐かしい思い出に浸りつつ、レオンハートは子供達へと近付いた。


林業業者の息子達、ロイ、ウェス、エドの三人は今日も領主邸に来ていた。ただし「お邪魔しまーす!」という訳にもいかないので、邸の周りを彷徨いていた。


領主邸は高い塀に囲まれ、敷地内へと続く門は分厚い鉄で造られている。


「あの金髪出て来ねぇかな」


ウェスは門の壁の細い隙間から、中を覗いているが、誰かが出てくる気配はない。


「俺にも見せろよ」


横からエドはウェスを押し除けるようにして、隙間に顔を近付ける。


あの事件以来、ウェスとエドは興奮しっぱなしだ。学校で自慢げに金髪の騎士がいかに強かったかを話し、休み時間には空中に向かって無意味に足を蹴り上げ、先生に叱られた。


「ウェス、エド。危ないから止めなさい」


そして学校が終われば、その辺の木の枝を振り回している。


そんな二人をロイは不機嫌そうに見ていた。とは言え、ロイもあの騎士の動きに衝撃を受け、冷めやらぬ気持ちが続いている。だが、奴がいけすかない男であることは変わらない。


騎士ってみんな、あんなに強いのか。


熊が絶命した後、街の住民達は大騒ぎだったが、アルティリアを守る騎士達は平然としたものだった。魔獣を倒した本人でさえ、なんて事ない普通の顔をしていた。それがまた、ロイを苛立たせた。自分だったら、もっと喜ぶ。それだけの事をしたんだぞ。本当に……


「嫌な奴だなぁ」

「誰が?」

「あいつだよ、お姫様の近くにべったり張り付いた金髪の騎士……」


突然背後から声をかけられて、思わず返事してしまったけど、こんな声、聞き覚えがない。街の奴らじゃない。


誰だ?


「よお」


ロイ達が振り向くと、そこにはアルティリアの専属護衛騎士の金髪の男が自分達を見下ろしていた。


あの「熊殺し」の男だ。


「お姫様を守れそうにないくらい、弱っちそうで、魔獣より女追いかけてそうな騎士に会いに来たんだって?」


精神年齢を一気に下げ、中身は11歳となって現れた男は、意地の悪い笑みを浮かべている。


「ああ、そう言えば知ってるか?」


レオンハートはアルティリアの執務室に「大人気(おとなげ)」を丸ごとを置いてきたのだ。


「どっかのガキは俺に勝てるらしいぜ」

【プチ情報】

ジイジもクッチーが好き。

でも本人はバレてないと思ってる。

アナ「ジイジ、はんぶんこしよ!」

ジイジ「む」

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― 新着の感想 ―
身分制度バリバリの国でこの悪ガキどもの行いは大分変ですよね。江戸時代に悪ガキどもが武士に現代日本のノリで絡んだかというと、絶対そんなことはしてない、というより同じ生き物だと思ってないし思いつきもしない…
大人気を置いてきたレンも良いですが、アナに転がされてるジイジも良いものです。
ガキども「ジョバァッ」 よくよく考えたら、皇族の護衛なんて、実力トップクラスの上に立場上必ず貴階級族なんだから、おそらく皇族側がそれを許していないだろうだけで、このガキども、本人達は切り捨てられるし…
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