騎士達の親睦会
皆んなでワイワイ飲みニケーション
この度、ルヴァラン皇国第三皇女アルティリア殿下の専属護衛騎士が発表された。相当な数の希望者がいたと聞いたが、選考は終了し、御歳10歳の幼い姫君を御守りする騎士となる三名が発表された。
ウォルト・ナイトレイもその一人であり、このたった三名の親衛隊の隊長でもあった。任命を受けた際、互いに存在は知ってはいたが、全員別々の部隊に所属しており、話すのも初めてだ。
では酒でも交わすかと誘ってみた。ダーシエが皇都でよく顔を出す店があるというので、行ってみることにする。侯爵家出身の彼が出入りする店というので、上品な店を想像していたが、意外にも平民街にある店で、傭兵や冒険者のような者達の姿が多い。20歳頃に地方都市の基地に配属された頃、出入りしていた店を思い出した。
レオンハート・ダーシエは皇宮の侍女や女官に聞き齧った人物像では気難しいとのことだったが、まあ噂が全て正しい訳ではないなと思う。
「だからな、私は“可愛い”のために戦いたいのだ」
などとご高説を宣っているのは、我が極小親衛隊の紅一点ロゼッタ・ハリスだ。さらに意外だったのは、伯爵令嬢である彼女は、この店を気に入ったようで、先ほどから名物だというモツの煮込みをお代わりしている。
「お嬢様は“可愛い”の最高峰に居られるからな」
ロゼッタの話は止まらない。
また、不特定多数の前ではアルティリア姫をお嬢様とお呼びするようになった。ロゼッタが酔っ払っているにも関わらず、ちゃんとお嬢様と呼んでいる様子を見てると、選抜されるだけあるなと感心した。
「隊長、コイツ変ですよ。お嬢様のそばに置いて大丈夫ですか?」
だがレオンハートはロゼッタの可愛い談義に不信感を覚えたようだ。そしてコソコソしているようで、声が大きい。
「失礼な。知ってるんだぞ、このロリコンめ。お前こそ、お嬢様に近づくな」
「俺はお前と違ってお嬢様一筋だ!」
「隊長、ロリコン討伐の許可を求めます!」
「隊長、変人討伐の許可を求めます!」
おかしいな。若手の男女で最上位の実力の持ち主って聞いてたんだけどな。こいつら、俺が面倒みなきゃいけないのか。
ロゼッタは酒瓶を掲げると叫んだ。
「いいか!“可愛い”は“正義”のみにあらず!“真理”にして“救済”なのだ!」
「ああ、救済は分かるな」
レオンハートは12歳まで、世の中クソったればっかりだと思っていたが、今はアルティリアが存在してるだけで世界は素晴らしいと思っている。
「なんだ、話せるじゃないか、ダーシエ。ほら、飲め」
「モツ煮は飲み物じゃねえ」
「私のモツ煮が飲めないと言うのか!」
ロゼッタは酒乱だった。
「分かったから、ちゃんと噛もうね」
モツ煮をこぼしそうなので、ナイトレイは皿をとりあげた。
ロゼッタ・ハリスも男装の麗人のようだと、若いご令嬢から人気だと聞いていたのだが、紳士らしさはどこにいった?
いや、そういえば以前の上司が言っていた。
「実力がある奴ほど癖が強いんだよな……」
なんてこった。大出世だというのに、ド派手な容姿を持った部下達はロリコンと変人だ。
「まあ、いっか」
酒とつまみが旨いのでよしとした。
ロゼッタが得意げに小さな蓋付きの額縁を取り出した。
「私の婚約者だ」
可愛いに固執している彼女には婚約者がいるとのことだ。もしかして女性なのだろうかと思ったが、姿絵にはふわりとした巻き毛の金髪で眼鏡をかけた青年が微笑んでいる。
「……趣味が徹底しているな」
男性にしては恐ろしく可愛らしい。
「隊長、いくら私の婚約者が可愛いからって、手を出さないでくださいよ」
「安心しろ。俺の恋愛対象も結婚対象も女性だ」
ナイトレイが答えるとレオンハートも言った。
「俺も他人の婚約者に興味はない」
婚約者や恋人がどうかというよりも、レオンハートはアルティリア皇女以外は眼中にない。
「ダーシエ、お嬢様がご結婚されたらどうするんだ?」
ナイトレイはふと疑問に思い聞いてみた。するとレオンハートは事もなげに言う。
「俺はお嬢様の花嫁道具になるつもりですよ」
「……お前も徹底してるな」
ナイトレイ達が何だかんだと、親睦を深めていると、夜もふけていく。
「さて、そろそろ……」
もうお開きにしようかと思ったその時、店の扉が勢いよく開かれる。
「者ども!」
よく通る声に自然と目がいく。
「余の顔を見忘れたかー!」
背の高い男が入って来た。
歳は40代半ばだろう。精悍な顔立ち、漆黒の髪、深いアメジストの瞳の偉丈夫。
「おお!アレックスじゃねえか」
「久しぶりだなぁ、オイ」
「こっちこいよー」
顔馴染みのようで、店にいた男達に声をかけられている。
ナイトレイもロゼッタもレオンハートも、その男の顔を見忘れることなどない。
何故って。
「隊長!」
レオンハートとロゼッタがナイトレイの腕を掴む。
「あの方……」
三人全員の酔いは完全に覚めた。
何故って、その男はどっからどうみても、ナイトレイ達が忠誠を誓っている人物だ。
他人のそら似ではない。
その体にまとう魔力も間違いなく……
ルヴァラン皇国皇帝アレクサンドロスであった。
「なんで?」
「か、帰りますか?」
「むしろ、帰っていいのか?」
「護衛はいるのか?」
三人がこそこそと話していると、テーブルにドンッと店で一番良いワインが三本置かれた。
酒瓶を置いた男は言った。
「私的な時間である」
「……はい」
三人の騎士達はそう答える他なく。
店のオッサン達は盛り上がっていたが、騎士達はすみっこで始終居た堪れない気持ちでいたという。
ノアール「久しぶり!俺らもいたよ!」
ブル、ヴィオレ「また長に怒られるー」
影はちゃんと仕事してます。
安くて旨い居酒屋で飲んでたら、いきなりボスがきた!という話。




