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くびちょんぱの王子様 11

【お知らせ】

先代国王のもう一人の子供の母は、

元々先代国王と再婚予定だった、

先代王妃の秘書官の女性です。

(独身なので伯爵令嬢)

イェーツ王の元婚約者ではありません。

分かりにくいようなので、

前ページ、前々ページを修正しました。

夜の闇と月が去り、空に太陽が昇り始める頃。

森を走る一団があった。


「まさか、こんな所に居られるとは思いませんでした」

「ええ、()()()()国境警備を行っていたので」


レオンハートの言葉に答えたのは、深いグリーンの騎士服に身を包む青年であった。その深碧の騎士服はルヴァランの保護国の一つであるフェルマーレ騎士団のものだ。その青年は1年前、とある理由で公爵であった父から急ぎ爵位を継承したばかり。フェルマーレの王太子の婚約者である令嬢の兄である。


「公爵自ら深夜に警備ですか?」

「はい」

「中隊を率いて?」

「はい」


アルティリア達はフェルマーレにあるルヴァランの大使館に向かっていた。途中で()()夜間警備中だったフェルマーレ騎士団と出会い、彼らの半数は大使館までの護衛を担ってくれた。そして、その半数がレオンハート達の援護に訪れたという。


だが、フェルマーレ騎士団が到着した頃には、襲撃犯達はほぼ倒されていた。辛うじて息がある者は数名。30人の暗殺集団をたった三人で制圧するとは。さすがルヴァランの精鋭といったところか。


「ですが、我々は必要ではなかったようですね」

「いえ、襲撃者達の護送をお任せできて助かりました」


おかげで予想よりも早く、アルティリアの元へ到着できるだろう。


イェーツからルヴァランまで一週間以上はかかる。しかし、フェルマーレならば魔獣血統種の馬で半日で到着する。すでにフェルマーレにはルヴァラン騎士団が待機しており、皇族及びアイリス嬢の警護を万全な体制で行う準備がなされているはずだ。


フェルマーレには内密にその旨が通達されていた。しかし、まさか爵位を継承したばかりの若き公爵が迎えに来るとは予想していなかった。


「アルティリア皇女殿下は以前、我が家に長年巣食っていた害虫の駆除を手伝って頂いたことが御座います」


雑談と見せかけているが、その礼だと言っているのだろう。


「害虫ですか」

「はい、とてもしぶとい虫でした」


恐らくは人型の虫だ。レオンハートも1年前にアルティリアがフェルマーレで無礼な公爵親子を叩き潰したことを知っている。


「おかげで住みやすくなりました」


民への支援よりも、自らの豊かな暮らしを優先させる貴族が多かったと聞いているが、災害復興は着実に進んでいるようだ。


薄暗かった空に陽光がさす。

フェルマーレの木々の緑が輝き始めた。


夜明け前、アルティリア達はフェルマーレ王国にある皇国大使館へと到着した。馬車を降りると、レオンハートを含む三名の騎士の姿がない。


胸が締まるような不安感を覚えるが、アイリスやアレクサンドロスの前でナイトレイに問いただす事は出来ない。大丈夫、レン達は必ず後から来てくれる。そう自分に言い聞かせ、フェルディナンドからの連絡を待った。


大使館到着より、三時間後、兄から知らせが届く。


「イェーツ王の退位が決まったのね」

「はい」

「負傷者の数は?」

「おりません」


アルティリアはゆっくりと息を吐き出した。

クーデターは無血で成功した。

アイリスは愛する祖国(イェーツ)に戻れる。


「アイリス様。イェーツ王宮内が落ち着くまでに、時間がかかるかと思われます。しばらくの間、こちらでご辛抱ください」


すぐに帰国は難しいだろう。


「ありがとう御座います、殿下」

「お部屋をご用意致しましたので、ゆっくりお休み下さい」


その身を狙われながら、夜通し、馬車で駆け抜け、不安に襲われていたのだ。肉体的にも精神的にも負担は相当なものだ。


「あの、イェーツはどうなるのでしょうか?」


アイリスは皇女に尋ねた。


当事者にも関わらず、自分は何も知らずに、ただ守られていただけだった。アイリスは己れの無力さを痛感していた。これまでイェーツのためにと夢中で過ごしていたが、それは正しかったのか。


もし、帰国が可能となれば、今度こそ間違いたくはない。


「王弟殿下が継がれると思われます」


イェーツ王に兄弟はいないはずだ。


「秘匿されていたそうですが、間違いなく先代国王陛下のお子だそうです」

「そうですか……」


ハーレイやイェーツ王のように自分の欲に忠実な人間でなければいいが。


「アイリス様もお会いしたことがあると思いますよ。現在はコルトレインで領地の農地管理の業務を行なっている方で、クラウド・テス様と名乗っていらっしゃるそうです」

「クラウド様!?」


アイリスがルヴァランへ留学していた頃、コルトレインの縁者だと紹介された青年だった。自分よりも少し年上で、初めて訪れた皇国で不安を抱いていたアイリスを支えてくれた人物だ。ルヴァランの習慣から、学問に関してまで、様々な事を教えてくれた。


隙あらば貶めようとしてくるハーレイや、その側近達に心を削られていたアイリスにとって、クラウドと過ごす時間は、暖かで穏やかなものであった。


「どうかしました?」

「いえ、そうですか。クラウド様が……」


アイリスの初恋である。


動揺を見せるアイリスを見送り、アルティリアも部屋へと戻ろうとした時、ゆっくりと体が傾いた。自身も一睡もせず、アイリスに付き添っていたのだ。幼さの残る体には限界が来た。


だが、倒れると思った瞬間、体が浮き上がる。そばにいた騎士がアルティリアを抱き上げてくれたのだ。誰だろう?


見上げれば鮮やかなアクアマリンの瞳がアルティリアを見つめている。


「レン?」

「はい、俺です」


レオンハートが戻ってきたのだ。安心したためか、他国にいるにも関わらず、愛称で呼んでしまう。


「おかえりなさい」

「ただいま、戻りました」


だが、レオンハートの騎士服に赤黒いシミを見つけてしまった。レンは自分を守るために剣を振るってきたのだ。


姫君の視線に気付いたレオンハートは言った。


「申し訳ありません、泥が跳ねてしまったようです」


それはアルティリアを心配させないための嘘だ。


「そう」


ならば、その優しい嘘に騙されたふりをしよう。


「お疲れでしょう。お部屋までお運びしますから」

「うん、ありがとう、レン……」


アルティリアはレオンハートの腕の中で瞳を閉じた。小さな寝息を立てる姫君を見て、やっと呼吸が出来た気分になる。やはり自分が駆け付けられる場所にアルティリアがいないと落ち着かない。


だが、あの時は追手を叩きのめす必要があった。神聖魔法の類で2人、いや10人くらいに分裂できる技などないだろうか。


それにしても姫君は何と軽いのだろう。


12歳の時は、念の為、身体強化を使って抱き上げていたが、20歳になったレオンハートにその必要はない。きっとアルティリアが大人になっても軽々と抱き上げられる。


「それで、ダーシエ卿。いつまで、いるつもりなんだ?」


部屋に着き、アルティリアをベッドに寝かせると、ロゼッタ・ハリスに咎められた。


「護衛中だからな」


御守りするよ。お側にいるよ。騎士だし。


「いや、私が部屋に待機してるから大丈夫だ」


もう少し可愛らしい寝顔を眺めていてはダメだろうか。頑張ったし、数時間も離れてたし。


「阿呆。アルティリア様はお着替えなさるんだ。出てけ」

「あと、少しだけ!」

「ハリス卿、後は頼んだ。行くぞ、ダーシエ卿」

「あと、30秒だけ!」

「静かに!」


レオンハートはナイトレイに引きずり出され、ハリスは扉が締まる瞬間、レオンハートに向かって不敵に笑った。


「どうしてもと言うなら、ちょん切って来い」


何を!?


「隊長、あいつ、貴族令嬢ですよね!?なんてこと言うんだ!」

「はいはい、仲良くしようね。でもお前は姫君の寝室に入り浸るな」

「クッ……ちくしょう」

「切るか?」

「無理です!」

ロゼッタ・ハリス「伯爵令嬢デスワヨ。姫の寝室はワタクシがお守りイタシマスワ!」

ナイトレイ「何でカタコト?」

レン「挙動不審だなぁ」

ハリス「いきなり、切り替えられるか!」

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― 新着の感想 ―
レンくんアホやろwwww
アイリス様の初恋は実りますように。 幸せになりますように。 祈ってます。 それに比べて、レン君は··· もう、もいじゃう? ねぇねぇしちゃう? そうなったら、添い寝やお風呂もOKかもよ? どーする?…
え?ダメだよレオンくん。我等が皇女様の前に汚れた格好で出るなんて。 自分が早く会いたいからと、皇女様に要らぬ不安を抱かせるとは。血で汚れないように立ち回るか、その場で汚れを落とす手段を準備しなさいな。…
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