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青の呪い 08

 キアンヒュドリオンはルヴァランとは公的な関わりは少ないため大使館はない。ネファリオがルヴァランに滞在するのは約半年程。国立学園には寮もあるが、皇都にあるホテルに宿泊する事にした。


「まるで宮殿のようだな」


 高位貴族向けの大型宿泊施設は内装、食事、接客から設備や警備に至るまで完璧だった。このホテルはルヴァランの子爵家の商団が経営しているという。他国の高位貴族の家に招かれた時よりも配慮が行き届いている。下級貴族がここまでの施設を運営可能だとは、驚きを隠せない。


 皇都の状況を調査してきた騎士によると、中央には貴族や裕福な平民向けの商店やカフェ、レストラン、劇場や百貨店などの娯楽施設が建ち並び、夜でも治安が良いという。窓から望む、無数の街灯からも皇国の経済力を感じる事が出来た。また、皇都には所謂、貧民街が見当たらない。低所得者層と思われる地域はあるが、それは、あくまで貴族家と比較した場合であり、彼の身なりは決して見窄らしくはなく、職業は平民向けの商いをしている者や、職人や冒険者など。


「一人だけ浮浪者を見つけましたが」


 騎士が用水路の付近を歩いていると、自分は伯爵なのだとブツブツ呟いている小汚い男がおり、それを憐れんだ少年が小銭を与えていたという。しかし、何を思ったのか、浮浪者は少年に向かって「よし、召し抱えてやろう。家に案内せよ」と言って、ついて行こうとしたところを警邏の騎士に捕縛されていた。少年は他の騎士に菓子をもらって慰めてもらい、自宅まで送られていったらしい。


「何なんだ、それは?」

「軽犯罪の一つかと」


 珍妙な事件だが、他国と比べれば格段に犯罪率は低い。平民、貴族問わず利用可能な図書館や皇都の民の憩いの場となっている広場や庭園。神殿には孤児院や病院が併設されており、公共施設も充実している。


「我が国が勝っているものなど皆無だな」

「殿下、そのような事は仰いますな」


 ネファリオが自嘲気味に笑えば、側仕え達は労しげに否定する。母親似の儚げな美貌のせいか、周囲は良いように解釈するのだった。愚かしいが、それはネファリオにとっては仕方のない事でもあったので受け入れてきた。


 ネファリオの不幸は生まれた時から始まっていた。毎年氾濫する大河に囲まれた祖国キアンヒュドリオンは、希望もなく陰鬱で正しく呪われた国と言える。物心付いた時から息苦しく溺れているような日常が続いているなか、12歳の頃、無理を行って視察に出向いた隣国で思いもよらぬ歓迎を受けた。


「可哀想に可哀想に」

「幼い身でありながら、祖国のために尽くすなど」

「何とご立派なのでしょう」


 それは同情と哀れみだったが、酷く心地よく。

 ネファリオの心を癒してゆく。


 キアンヒュドリオンとは比べられない程の煌びやかな屋敷、繊細で贅を凝らした食事、美しく着飾った貴婦人達。祖国では体験出来なかったボードゲームやトランプなどの遊戯、観劇や演奏会などの娯楽。準成人を迎えてからはギャンブルも嗜んだ。別世界の華やかな暮らし。その中で、ネファリオを気に入った貴族達はキアンヒュドリオンに資金を提供するようになる。


 水に呪われた国、キアンヒュドリオン。


「私は祖国を救いたいのです」


 国を憂う悲劇の王子ネファリオが、そう言えば誰しも彼を支援しようと動く。


 だが、それも16歳を迎えると芳しくなくなる。他国の貴族達は見返りのない慈善事業に見切りを付け始めたのだ。ネファリオは見目の良い王族であるが、キアンヒュドリオンは災害の多い貧困国。縁を繋いだとしても何の理もない。


「キアンヒュドリオンは呪われているのでしょう」

「怖しいこと」

「本当にお姿は美しいのですけれどねぇ」


 他国の貴族達が去ってゆく中、王太子である兄からも、帰国し公務に取り組むよう何度となく文が届く。しかし、ネファリオは逃げるようにルヴァランへの留学を決めた。


 大陸最大の国力を誇るルヴァラン皇国。


 この国は貴族家でさえ、小規模国家よりも富を持つ。経済力のある皇国貴族との繋がりを得れば、これまでのように祖国に戻らずともキアンヒュドリオンを支援出来る。


「明日の交流会には第三皇女殿下も出席なさるそうです。是非とも縁を繋ぐべきです」

「だが、まだ幼いのだろう」

「4歳程度でしたら、お歳が離れ過ぎるとは言えません」


 側仕え達は皇国の姫君をネファリオの相手にと考えているようだが、気乗りはしない。大国の皇女などを嫁に迎える事になれば、自分をキアンヒュドリオンの王にせよと、圧力を掛けられる可能性がある。ネファリオは争い事は苦手だ。


「私は兄上を敬愛しているのだ。継承権争いなど本意ではないよ」

「ご立派で御座います」


 透明度の高い硝子窓には、やや女性的で品の良い顔立ちの青年が映っていた。ネファリオは己が美しく女性の目を惹くことを知っている。その容姿は多くの貴婦人や年若い令嬢達からも熱い視線を集めていた。皇帝の掌中の珠と言われる末姫が在籍しているのは運が悪い。皇女が自分に熱を上る事がなければ良いが。


 これまで祖国に送った資金は民への援助に使われているため、ネファリオは「慈悲の君」として支持が高い。自分を担ぎ上げようとする動きがないとは言い切れないのだ。


 しかし、それまでのネファリオの考え全て覆す、奇跡のような出会いが訪れるのだった。


***


 学園は試験が終了した採点期間の数日は講義が休講となる。その間、毎年の恒例行事として生徒会主催による全学年交流会が開催されている。今年は、学園の敷地内にある中央庭園を会場とした野外開催となった。1年から6年までの在学生と卒業生、そして後期から留学生として通う予定の子女達が参加する。


 この日のアルティリアの装いは、母やフェルディナンド、侍女達が張り切って誂えた制服の一つ。園遊会に相応しく、華やかに裾が広がるシルエットのドレスのような一体型、金のボタンには時計草が描かれ、襟にも白い布と同色の糸で夏の花々が刺繍されている。襟元にはアクアブルーのスカーフに細かいクリスタルが施されたブローチが控えめに輝き、また袖口にはブローチと揃いのカフスがきらりと光る。


「画家を呼べ」

「お父様、フェル兄様みたいな事を仰らないで下さい」


 出発の前に会った父の冗談を躱したアルティリアは、久々の友人との再会に胸を躍らせていた。メール・ブールの王太女となったテティス王女。可能ならば交流会の前に会って、ゆっくり話たかったが、入学の準備が忙しいらしく、王女は数週間前にルヴァランに入国してはいたが、それは叶わなかった。


 今日の交流会ではヒルデガルド達を紹介して、テティス達とゆっくりお喋りをしたいところだが、他の生徒達との親交もあるので、彼女達とばかり会話を楽しむ事は難しいだろう。


「準備が整ったそうです」


 皇族専用の控室でお茶を飲んでいると、侍従が呼びに来たと伝えられた。カウチから立ち上がり、レネに服と髪を整えてもらう。


「緊張していますか?」


 控室を出る前にレオンハートに尋ねられた。そう言えば、こういった親善の場には、今までは常にフェルディナンドが側にいてくれた。


「レン達がいてくれるから、心配していないわ」


 アルティリアはレオンハートの手に自分の手を添えると、アクアマリンの瞳が細められた。


「では、参りましょう、姫君」

ジャージャン!クイズです。

作中登場した浮浪者の正体は以下のどれでしょう?

1カマドウマ伯爵

2便所男

3真実の自己愛野郎

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― 新着の感想 ―
カマドウマとトイレに失礼なので3で! というかまだ帝都うろついてたんかおまえ…… 味を占めちゃったのね…… 半分はその金を投げ与えた方が悪いけど、 そこでとどまってその金を有意義に使えればまだよかっ…
お父様がだんだんと、フェルディナンドに似てきているという···触発されたのか?! 元から親バカではあったし? それにつけても顔だけ王子、一応これでも自国の事は思ってはいるのだろうけど、何だかなー。 …
後書きがw笑わせないでくださいw 慈悲深い王子は中身が残念さんですね(汗)どうも、育ちのせいみたいですが…うぬぼれがあるし、祖国から逃げてるみたいだし、ギャンブル…強いならギャンブルで、金稼いで祖国に…
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