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青の呪い 06

念のためお知らせですが、作者は恋愛小説が好きです。恋愛小説を貶める意図はありません(これでもラブコメディを書いていた時期もあるんですよ)


ただしアルティリアの恋愛偏差値は3です。

 ヒルデガルドをはじめ、多くの令嬢達が毎月楽しみにしている少女向け月刊小説雑誌ビジュー。まさかの性格醜女(ブス)のヒロイン登場に戦慄が走る。


「その、これは物語ですから、本当にただの失敗かもしれませんよ?」


 エンジュリーは、こんな侍女は自分の家では採用にならないし、嫁入り先にいたら頭を抱えるだろうなとダフネに同情しつつ、本当に僅かな可能性を述べた。


「だとしたら彼女を侍女にする理由は何かしら?」


 己の力量以上の役職に就けられてしまうなど、本人にとっても辛いだろうと、アルティリアは優秀というレッテルを貼られた侍女を心配する。


 それに対して答えたのはヒルデガルドだ。


「この侍女の生家も困窮してると描かれています、そのため伯爵との婚姻が認められなかったはずです。表向きは、そうと分からないように元恋人への援助をする事が目的なのではないでしょうか」


 作中のヒロインの働きぶりをみると、下働き程度だ。侍女となるには遠く及ばない。しかし下働きと侍女のような上級使用人とでは給金の差は大きい。


 ヒルデガルドの胸に不快感が広がっていく。ただでさえ妻の実家から支援を受けているのに、元恋人に能力に見合っていない金銭を与えるなど。いや、この二人は未だ密会しているシーンがあった。完璧に愛人ではないか。正妻に気付かれないよう、愛人への手当てを渡すなんて不誠実極まりない。


「ヒロインだけでなくヒーローまで人間性に問題があるだなんて……!」


  ビジューを愛読する一人としてヒルデガルドは憤慨した。


「あの」


 ずっと考え混んでいたケイトが口を開いた。彼女もビジューを毎月購入している読者だ。


「親の代からの負債があったとしても、ここまで伯爵領を困窮させてしまった男です。彼はただ無能なだけかもしれません。ポンコツはポンコツを見抜けませんから」


 少女達から様々な意見が出たが、どう考察しても、伯爵は屑か馬鹿。侍女は性悪か間抜け。ダフネ夫人ではなく、この男と女が一応は主人公と説明されたアルティリアは困惑した。


「恋愛小説って、必ずしも魅力的な人物が登場するのではないのね……」

「アルティリア様、素晴らしい小説は、もっと切なくてドキドキして、それはもうキラキラとしているのです!」


 恋愛小説をこよなく愛するヒルデガルド。このままでは終われない。天上に輝く我らがルヴァランの星、第三皇女アルティリア様のために。


「このヒルデガルド・レザン。必ずや殿下のそのお胸をキュンとさせる物語をご紹介させて頂きます!」


 ヒルデガルドの剣幕に驚きつつもアルティリアはニコリと微笑む。本の取り替えっこ、とっても楽しい。


「ありがとう、ヒルデ。楽しみにしてるわね」

「お任せを!」


 当初の目的とは相当ずれてしまったが、皇女とご令嬢達の読書会は定番の行事となる。


「ヒルデ、この本、面白かったわ。特に戦の描写が詳しくて。でも、何故、ヒロインとお相手の令息は想いを伝え合わなかったのかしら?両思いだと感じさせる場面は沢山あったのに」

「気持ちを伝えてしまったら、幼い頃からの関係が変わってしまう事を恐れていたのだと思われます」

「“ジレジレ”だったかしら?その関係を崩すきっかけが戦争だったと言うのは皮肉ね」


 アルティリアの紹介した女性冒険者の手記はエンジュリーも気に入ったようで続編を貸した。フェルナンドからの贈り物だと伝えたら「ひょえ」という音が聞こえたが気のせいだろう。


「皆様、先月のビジューに登場した茉莉花のお茶が手に入りました!」


 また、時折ケイトは珍しい物を紹介してくれるのだ。


「良い香りのお茶ね」


 窓の外に視線を移せば、くっきりとした雲が浮かんでいた。夏が近づいているのだと感じる。


 夏季休暇に入る前に全学年交流会が予定されている。それには休暇明けから、学園に通う予定の留学生達も参加するのだ。


「あのね、皆。交流会で紹介したいお友達がいるの」


 昨年から文通を続けていたメールブール王国王太女となったテティス王女。彼女がルヴァランへと来る。


 さて、順風満帆な学生生活を送るアルティリアであったが、彼女が心配で胸が張り裂けんばかりの妹狂い(シスコン)がいた。


 妹に関してはフェルナンドは大人しくはしていられない男だ。だが昨今の妹の動向を省みると、本人にしつこくする事は悪手だと、やっと気が付いた。


「あんまり、しつこいと嫌がられるって、僕が散々注意していたじゃないですかぁ」


 などとライルに小馬鹿にされているが、最近は一歩引いて、理解ある兄を気取っている。しかし、自分が贈った書籍が妹の友人に評判が良かったと聞けば、すぐに続編を手に入れた。


「この手記、エンジュリー嬢も気に入ってくれたのですが、わたくしも続きを読みたかったのです!ありがとうございます、お兄様」


 地道に抜かりなくアルティリアの好感度を上げていく。また、フェルナンドは妹と同性の友人関係には寛容だ。新たにできた友達の話を無邪気に話す妹の愛らしさと言ったらない。そんな時はこっそり膝に乗せても怒らない。くぅ、幸せだ。


 だが、フェルナンドが危惧している事が起きた。


 アルティリアの周辺に虫ケラが湧いた。複数の令息達が天使との接点をつくろうと画策しているらしい。


「……どうしてくれようか」

「殿下、冷静におなり下さい」


 第二皇子の親衛隊隊長である騎士がフェルナンドを嗜めた。皇族が学園に入学すると、浮き足立つ者はどうしても現れる。かと言って、大きな問題を起こしてもいない若者、もしくは準成人にも満たない子供を処罰する事は難しい。


「令息達は、直接、第三皇女殿下のお手を煩わせてもおりません」

「今はな」


 妹狂い(シスコン)はアルティリアの友人を利用しようとしているのも気に食わない。天使は友人ができたと喜んでいるのだ。


 令息に付き纏われているケイト・ボルドーは彼らの要求を呑む素振りをいっさい見せていない。アルティリアの友人として非常に評価出来る。


「彼らの迷惑行為について、レザン侯爵令嬢とオーガスタス伯爵令嬢が生徒会に報告をしたそうです」


 隊長は学園内で収束されるだろうと付け加えた。


「生徒会か……今の役員には何名か見知った者がいるな」


 フェルナンドは学園時代に生徒会長を担っていた。


「殿下、皇家からの発言は事が大きくなる恐れがございますよ」


 主人の考えを予想した騎士はため息交じりの声を出した。だが、止めても無駄だろう。まったく、実の親である両陛下よりも心配症なのはどうしたものか。妹の事になると絶対に譲らない若き皇子。


「今に始まった事ではないがな……」


 また、これまでも絶妙な匙加減で対応しており、大きな問題には発展させていないので、強固に反対しにくいのだ。


 ルヴァラン皇国立学園生徒会は、行事の企画運営をはじめ、生徒達の学園生活をより良い形に改善するための自治的組織である。その活動は多岐に渡り、学園内の問題解決もその一つ。


 生徒会役員の一人から、今年入学した皇女殿下と懇意になるべく、姫君の友人に付き纏いを行っている生徒が複数名いると報告を受けた。


「それは看過できないな」


 彼らは問題の令息達が、ケイト・ボルドーに詰め寄る姿を確認した上で、指導のために生徒会室へと連れて来た。


 見たところ、全員、不満げな様子だ。入学したばかりの新入生の中には、己に対して妙な特別感を持っている者がいるのだ。彼らも当てはまるのだろう。でなければ安易に皇族に近付こうなど不遜な行為はしない。


 皇女の信奉者の一人チェンバレン伯爵令息は、公爵令息をはじめとした高位貴族の令息達に囲まれて、生徒会室に向かっていたが、苛立たしい気持ちを隠せなかった。他の生徒が注意を受けるのは理解出来る、皇女に侍るに相応しい爵位と能力を持っているのは自分だけだ。やはり、こんな低次元な者達と行動をすべきではなかった。後悔してもし足りない。


「入りなさい」


 促されて生徒会室へ入る。この部屋を出たら、馬鹿共とは縁を切って別の手段を考えよう。あの美しくも可愛らしい姫君を手に入れる方法を……


 生徒会室のソファに驚く程の美貌を持った男が座っていた。


「久しぶりだな」


 次の瞬間、生徒会役員は全員が最上位の礼を取る。


 チェンバレン達はその男が誰か、生徒会長に教えてもらうまで、気が付かなかった。この差が、厳選された若者の中のさらに選ばれた人間との違いだ。


 チェンバレン達はこの後。


「ははは。ここには卒業生の一人として来ているからね。私の事は気にしないで良いよ。後輩達の活動を邪魔する気はないんだ。大人しく見学しているからね。さあ、話を続けるといい」


 運悪く、()()()()学園を訪れた愛しの姫君の兄の前で、しこたま叱られるという辱めを受ける。

アルティリア達が考察してい小説の作者は、大人向けロマンス作家の男性。最近、不調なので、別名義で少女向け雑誌で書いてみた。あわよくば、ファンになった若い令嬢達をパトロンに……なんて、甘い考えをしたたら、とある侯爵令嬢ヒルデからボロクソな感想の手紙が届く。


編集者「いや、先生。だから、設定が悪いって言ったじゃないですか。てか、不倫ものですよね、コレ」

作家「違う!これは純愛だ!」

編集者「それに、この手紙にも“家を建て直す甲斐性もないのに浮気する男がヒーローなんてありえない”って書いてますよ」

作家「ぐうう」

編集者「ビジューの読者は、ダメ男に惹かれないんですよ」

作家「好きな男を支えようという純粋なヒロインが……」

編集者「ヒロインは全然シゴデキじゃないですし、ダメ男とドジっ子の組み合わせで、どうやってハッピーエンドになるんです?」

作家「ダフネが事故死して遺産が入る」

編集者「先生、向いてないですよ、少女向け恋愛小説」


評判悪過ぎて打ち切りになりました。

※編集者も男性です。


【お知らせ】次の更新は2月28日(土)予定です。

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― 新着の感想 ―
編集さんがダフネに転生したりしないことを祈ろう……w
甘い恋愛物も、見方を変えると全然違う物になりますねwてか、作者さんは甘いつもりが読者視点はポンコツ浮気者男とドジ(もしくは性悪)女の不倫劇w お兄さんのシスコンが相変わらず!これで静かになりますね!w…
なるほど、大人向けのロマンスなら不倫関係がむしろスパイス的な役目を…でも不調なんですよね。職業、向いてないのでは
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