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短編

とうちゃんのやきそば

作者: 遅刻しすぎた

とうちゃんは『シゴトニンゲン』だった


まいにち帰ってくるのが遅くて

帰ってきても、いつもフキゲンで

かあちゃんはいつもオロオロして

でもあんまりかあちゃんをオロオロさせたら

優しくほほえむところは、もってた


おやすみの日にはクタクタになってて

ぼくらと遊んでなんかくれなかった

ぼくも妹のみるくも

家でゲームばっかりしながら

ほんとうは外でとうちゃんと遊びたかった


ある日

いきなりとうちゃんが変わった


早く帰ってくるようになった

前にはクタクタのあいだに少しだけしか見せなかった笑顔を

いつでもいっぱい見せてくれるようになった

かあちゃんにもすごく優しくなった

かあちゃんもとうちゃんにすごく優しくなったけど

なんだかたまに泣きそうな顔をした


にちようびにみんなで山へいった

町にたまってた白くていやな暑さから逃げて

すずしい風のふく高原で

キャンプをした


「ようし、そっちを持ってくれ、てった」

まだ小二だったぼくを男としてたよってくれた

ぼくもスーパーヒーローのアイボウになったきぶんになって

おおきな鉄板は重たかったけど

笑顔で全力をだしてがんばった

みるくがダンスで応援してくれてた


石で作った台のうえに鉄板を乗せて

その下に入れた石炭に火をつけて

とうちゃんがやきそばを作った

豚肉とキャベツが豪快にけむりをあげて

そこに黄色いやきそばの麺を投げ入れて

ソースの香りを踊らせる

魔法使いみたいだった

映画に出てくるヒーローみたいに、とうちゃんがコテを振ると

やきそばのいい匂いが空のむこうまで広がっていった


最後の最期にとうちゃんは

ぼくらのヒーローになった

その時にはもう膵臓癌は治らないほどに進行してたらしくて

それからすぐに空のむこうにいってしまった


とうちゃんを思い出しながら文章を書くと

小二の自分に戻ったみたいになる

今、ぼくはもう大人になっていて

家族も二人の子供もいるけれど

とうちゃんを思い出しながらこうやって文章を書いていると

空のむこうのやきそばの香りが戻ってくるのを感じる


明日は日曜だ

家族を連れて山へ行こう

おおきな鉄板の片方を息子に持たせて

妹にダンスで応援してもらいながら

とうちゃんに教わったあのやきそばを焼こう

妻の玖瑠美くるみには楽をしてもらって

かあちゃんにはとうちゃんを思い出しながら

嬉しそうに、泣くように笑ってもらえるだろうか



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― 新着の感想 ―
とうちゃん、そんなになるまで働きづめだったのか。 膵臓癌は見つかりにくいし、自覚症状が出た時には手遅れというのはよくある話ではあるんだけど。 最期でこういう時間を過ごしたという事は、ワーカホリックだっ…
ハァー、私もこういう作品を書けるようになりたい。
とうちゃん。 人生の終わりに良い父親になれましたね。 それを見て育ったボクも素敵な父親になれてよかったです。 心温まるお話でした。
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