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できれば好きと、言ってみたい  作者: 漣眞
第1章 声。今君に
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    また、君を好きになる④

 その夜、惺玖は弟の部屋を訪ねた。


「入るよー」


 ノックをしてからドアを開けると、今年から中学生になった橋姫光陽はしひめ みはるがベットで横になり携帯をいじっていた。


「なに……」


 頭だけを上げてそう答えた。


「ちょっと聞きたいことがあって」


 光陽はゆっくりと起き上がった。その横に座った惺玖は光陽の顔を見た。


「もしも光陽が女の子と2人でお昼ご飯を食べるとするでしょ。 絶対ありえないけど」

「ん……」

「その時さ、女の子のお弁当がどんな物だったら印象がいい?」

「印象……?」

「印象」

「別にどんな物でも何とも思わないけど……。あ……、でも昆虫食だったらちょっと驚くかも……」


 聞く相手を間違えたなと思った。


「んー……。じゃあ、そのお弁当が夜ご飯の余り物とか冷凍物ばっかりだったらどう思う?」

「ていうか……、何でそんなこと聞くの……」


 惺玖の頬が少し赤くなった。


「ん……?」

「い、いいから、質問に答えて」

「だから……、なんとも思わないって……」

「本当に?」

「余り物とか……、冷凍物とか……、見ただけで分かるわけないし……」

「あー……。それは男の子全般に言えること?」

「主語がでかいな……」

「もう〜、なんとなくでいいから」


 ベットの上をぺしぺし叩いて光陽を急かした。


「はぁ〜……。メンタリストとかマジシャンの人なら気がつくかもね……。そうじゃない人は分からないんじゃない……。仮に分かったとして……、平民をよっぽど見下してるような富裕層か何かでもない限り……別に何も思わないよきっと……」

「そうか〜……」

「うん……」


 弁当1つで印象が変わるというのは考えすぎなのかなと惺玖は思った。


「お姉ちゃん……、大金持ちのマジシャンと友達だったんだ……」

「違うに決まってるでしょ」

「じゃあ誰とお弁当食べるからってそんなに気にしてるの……」

「それはー私の……」


 そこまで言ってはっとした。


「光陽……あんたはめようとしたね……」

「いや自分が勝手に……」


 惺玖はむすっとした表情で光陽に軽くデコピンをした。


 そのでこを擦りながら光陽は言った。


「でも……、手作りの物なら……勘づくかも……」

「え?」

「手作りの物は……これ手作りなのかな……って……なる人はなると思う……」

「……それが本当に手作りだと分かったら?」

「僕は……好印象……かな……。めちゃめちゃ偉そうだけど……」


 惺玖の顔がぱあっと明るくなり、光陽の頭を激しくなでた。


「聞いてよかった!」


 勢いよく立ち上がりドアの前で振り返った。


「ありがとうね。光陽」


 光陽はぼさぼさの頭で静かに手を振った。


 惺玖はリビングにいた母親のもとに向かった。


「お母さん」

「ん?」


 橋姫糸恵はしひめ いとえは、ソファでテレビを見ながら返事をした。


「明日は夜ご飯多めに作らなくて大丈夫だから」


 その言葉に糸恵は惺玖の方を振り返った。


「大丈夫って、お弁当どうするの?」

「自分で作ってみる」

「そう……」


 糸恵の返事を聞いて、惺玖は部屋に戻ろうとしたが


「惺玖」


 呼び止められて振り返った。


「今ちょっと練習してみる?」


 その提案に、惺玖は悩んでいるようだった。


「でも、もう遅いし」

「いいよそんな。惺玖、早起き得意でしょ」

「私じゃなくてお母さんが……」


 申し訳ないと思っていたが、その優しい視線に甘えたくなった。


「……じゃあする」


 惺玖は頬を緩めながら嬉しそうに言った。


 約束の日、星鏡町はいつもと何も変わらなかった。


 景色も人も、どんな思いを持ってそこにいて、どんな思いを持ってそれを見ても、何も変わっていない。


 もし、いつもと何か違って見える、違って感じる、いつもと何か違う自分がいるとしたら。


 それはきっと嬉しいとか、楽しいとか、悲しいとか、あるいは今日は特別な日だから緊張するとか。そんな忙しなく動き回る心の仕業である。


「淳月君?」

「……え?」

「大丈夫?」

「な、何が?」

「う〜ん……、何か表情かたいよ」

「そ、そうかな……」

「大丈夫ならいいんだけど」


「な、何で今日だったの?」

「何が?」

「明後日でもいい?って言って今日になったから」

「いつも波夏と八宵と食べてるから、急に他の人と食べるからって言うのも悪いなって」

「ごめんね、いきなり誘ったりして」

「ううん。嬉しかったよ」


「逆に淳月君はさ、何で誘ってくれたの?」

「何で……。何でか……」

「うん」

「それは、まあ、その……」

「あ、もしかして本当は悩み事があったとか?」

「違う違う。この前話したやつ以来悩んでないよ」

「よかった」

「悩んだ末、どっちをリアタイで見るかも決められたし」

「面白かった?」

「うん。面白かったよ」

「淳月君、どんなテレビ見るの?」

「バラエティとかお笑い系ばっかりだよ。あとドラマ」

「へぇ〜、お笑い好きなんだ」

「うん」

「ちょっと意外かも」

「そう?」

「うん。芸人さんは誰が好きなの?」

「それお笑い好きって言ったら絶対聞かれる」

「ごめんなさいね、在り来りな質問で」

「あ、いやそういう意味じゃ……」

「誰が好きなの?」

「それが、この人っていう人はいないんだよね」

「どういうこと?」

「何かこう、見すぎてさ。お笑いという概念が好きというか」

「何それずるい」

「ずるいとかないでしょ」

「人にはつまらない質問するなって言っといて、自分はそんな答えだなんてずるいよ」

「捏造がすごい……」

「じゃあ、ドラマもこれといって好きなものとかないの?」

「そうだねー……。お笑いほどは見てないから1周まわってって訳じゃないけど」

「そうなんだ」

「でも、恋愛系はあんまり見ない」

「え、私恋愛ものばっかり見てる」

「そうなんだ」

「なんでちょっと笑ってるの」

「意外だったから」

「恋愛ものじゃないなら、刑事ものとか?」

「あー、そうだね。でも、ものによる」

「分かる」

「そうそう」


「……で、誘った理由は?」

「はい?」

「私をお昼に誘ってくれた理由」

「あー……」

「忘れてると思ってたでしょ」

「そ、それは……」

「はい、教えてください」

「姿勢よくこちらを見られても……」

「はやくっ」

「別に、一緒にお昼食べたかったからっていう、それだけだよ……」

「えー本当かなー?」

「……橋姫さんってそんな感じだっけ?」

「そんな感じ?」

「なんかこう、元気というか何と言うか……」

「いつも不機嫌そうでごめんなさいね」

「ほら、そんな冗談っぽいことあんまり言わないじゃん」

「冗談じゃないもん。本当に謝ってるもん。ひどい。」

「え……、あ、いや……」


「楽しいもん」


「え? 何て?」

「ん? 何が?」

「今なにか言わなかった?」

「言ってないよ。淳月君、本当大丈夫?」

「だ、大丈夫……なはず……」

「お弁当食べて回復しなきゃだね」

「うん」


「橋姫さん、それ手作り?」

「……え、分かる?」

「うん」

「まさか、下手くそだからとかそういう理由で……」

「違うって」

「うそうそ。そう、作ってみたんだ。お母さんにも教えてもらいながら」

「へぇ〜、美味しそうだね」

「ありがとう……」


「淳月君、時計持ってる?」

「持ってない」

「時計時計……」

「ちょっと見てこようか」

「あ、私も行く」


「わあ、もうすぐお昼休み終わるじゃん」

「本当だ」

「淳月君ありがとうね。誘ってくれて」

「こちらこそ、ありがとう」

「また一緒に食べようね」

「うん。今度は橋姫さんがよろしく」

「何を?」

「誘うの」

「え?? 淳月君が誘ってよ」

「今回誘ったじゃん」

「関係ないです。それに、こういうのは男の子が誘わなくちゃなんだよ?」

「何それずるい」

「ずるくない」


 ずっと体が熱いのも、きっと心の仕業である。

あけましておめでとうございます。

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