91話
そろそろ、逃げていてはいけないわ。
もうすぐハイシーズンの為に王都に移るし。結婚まで1ヶ月も無いわ・・・。話すなら今かしら? でも、リュドにどう切り出したら良いのかしら・・・。
「リリ?リリ?」
「どうかした?」
「それはこっちの台詞かなぁ・・・」
手元を指さされ視線を落とすと、ランチのお皿は食材が無意味に切り刻まれて、無惨な姿へと変わっていた。
「考え事は食べてからにしようね」
「そうね・・・シェフに悪い事をしたわ」
せっかく綺麗に盛り付けてくれていたのに、申し訳ないわ・・・。
「リリ、午後はソワールに乗って庭を散歩しようか」
「まだ仕事があるわ」
「急ぎのものは無いし、何かあればブレスレットで呼んでもらえば大丈夫だよ」
「でも・・・」
「そんな状態で仕事をしても効率も悪いからね」
確かリュドの言う通りね。午前中もあまり集中出来なかったわ。
*****
ソワールにリュドと乗り、のんびりと庭を散歩する。
「暖かくなってきたから、花が咲きはじめているわね」
「そうだね。こうやってゆっくり散歩もしばらく出来ないね」
「そうね」
話すなら2人きりの今かしら?なんて言って切り出したら良いのかしら・・・。
「リュド、あのね・・・」
「どうかした?」
「あの・・・・・・」
ずっと悩んできて、リュドに隠し事は嫌だと結論は出たのに、話す勇気が出ないわ・・・。
「リリ。何を悩んでいるのかは知らないけれど、無理に話さなくても良いんだよ」
「でも・・・・・・」
「結婚してからリリが話したいと思えば話せば良いし、そう思えないのなら話さなくても大丈夫だから。時間はこれからたくさんあるよ」
そうなのかしら?でも・・・私は前世で知ったわ。あると思っていた時間が、ある日突然終わってしまう事を。
ちゃんと前世の幕を自分で閉じたけれど、本当に悔いがなかったかと聞かれたら・・・きっとたくさんあったわ。色々なものから目を逸らして諦めて、覚悟を決めただけだと今ならわかるもの。
今世は前世より医療が遅れているし、寿命だって長いとは言えないわ。今世は悔いたくない・・・。
貴族として生まれたけれど政略ではなく、せっかく好きな人と結婚できる幸運に恵まれたんだもの。
「リュド、時間はあると思っていても、ある日突然無くなる事だってあるわ」
「リリ?」
振り返ると怪訝そうな顔のリュドの顔が目に入る。
「どこかでゆっくり話したいわ」
「じゃあ、小川の近くに行こう」
*****
リュドが布を敷いてくれて、そこへ並んで座る。
「さっきのは、どういう意味?」
「そのままの意味よ」
リュドの眉間に皺が寄るのを見て、つい笑みがこぼれる。
「別に病気とかじゃないわ。だから、そんな顔をしないで」
あんなに悩んでいたのに、今ならちゃんと話せそうだわ。
「リュドは前世ってわかる?」
「人は死ぬと女神様の元に帰り、また生まれ変わるから・・・生まれ変わる前って事だよね?」
「ええ。私にはその前世の記憶があるの。しかも、こことは別の世界の記憶」
リュドの顔を見ると真剣に聞いてくれている。
前世はどんな世界で生きていたか、そして・・・どうして死んだのかも全て話したわ。
「だから突然時間が無くなると・・・」
「前世はね。本当に突然だったの。多少は最後に時間があったから、悔いなく最後を迎えたと思っていたけれど・・・今なら違うとわかるわ。せっかく好きな人と結婚できるんだもの、今世は後悔したくないし、リュドに隠し事はしたくないの」
横から抱き寄せられリュドにもたれ掛かる。
「話してくれてありがとう、リリ」
「作り話だと思わないの?」
「思わないよ。それに、リリは自分で思っているより嘘が下手だからね」
え?私って嘘が下手なの?あまり嘘はつかないけれど・・・今後もリュドに隠し事は難しそうね。
「それとね、こっちが本題なんだけど・・・リュドはスキルって聞いた事ある?」
「すきる?」
「前世だとこうやって転生すると神様?とかから貰えたり、魔力とは別に持ってる特別な力みたいな感じね。前世の物語の中に出てきたから、私には転生したら本当に貰えるんだなぁ・・・という程度なんだけど」
「聞いた事ないな・・・魔法とは違うんだよね?」
「ええ。実際に見た方がわかるわね・・・コーヒーを出すわ」
普段飲んでいるカップに入ったコーヒーを思い浮かべて出す。
「えっ?」
「はい。どうぞ」
リュドに手渡すた恐る恐る口をつける。
「本当にコーヒーだ・・・」
「私のスキルだと、ほぼ何でも出せるわ」
「何でも?」
「食べ物や飲み物、前世の物も出せるし・・・金や宝石だって出せるわ」
金銀財宝も出してみる。リュドが固まってるのって珍しいわね。引かれてないかしら・・・。
「それに魔法もスキルで使えるわ。魔力は必要ないし、物語に出てくる実在しない魔法まで。私が想像出来たら使えちゃうの」
「魔法・・・・・・」
実在しない魔法まで使えるなんて怖いわよね。
「リリ、もしかして俺にスキルで回復魔法を使った事ある?」
「ええ。湖で魔物に遭遇した時に。ちゃんと治せるか不安でスキルで重ねて回復したわ」
「なるほど・・・」
どうかしたのかしら?
「スキルの回復だと古傷まで治るみたいだよ」
「え?どういう事?」
「俺、肩に剣術の稽古で負った古傷があったんだけど、あの後から痛まないんだよね。多分、スキルで治ったんじゃないかな?」
「スキルで治すとそうなのね・・・」
「知らなかったの?」
「スキルでどこまで出来るのかは、やってみないとわからないし・・・あまり使わないようにしているから」
「じゃあ、話さなくても良かったのに」
「隠し事はしたくないの・・・それに周りの人や領地のために使う日が来るかもしれないわ。リュドに話しておけば相談できるでしょう?」
話したらスッキリしたわ。
「話してくれてありがとう。でも、今まで通り隠す方向でいこう」
「ええ。スキルを使ったら多分国を滅ぼすのも、領地から金や宝石を採掘するのも簡単だもの」
「それも凄いね・・・」
「凄いより人に知られたら怖いわ・・・リュドと一緒に居られなくなるのは嫌よ」
「そうだね・・・他には誰が知ってるの?」
「リュドだけよ。誰にも話してこなかったもの・・・気持ち悪いとか怖いとか思わない?」
「そんな事思わないよ」
「良かった・・・リュドに嫌われるかもって、ずっと不安だったの・・・」
「リリ、大丈夫だよ。大事な秘密を教えてくれてありがとう」
リュドにギュッと抱きしめられると、凄く安心できて体の力が抜ける。
その後もリュドの質問に答えながら、ゆっくりとした時間を過ごせたわ。




