90話
少し暖かくなってきた頃、グリーズが無事に子馬を産んだわ。
昼食を食べていたら知らせが届いて、ビックリしすぎてグラスを倒しカトラリーは落とし、使用人の皆に余計な仕事を増やしてしまったわ。
「リリ、落ち着いて。一緒に会いに行こう」
歩かせると危ないと思われたのか、リュドに抱き抱えられて厩舎まで連れて行かれたわ。ちょっと慌てたけれど子供じゃないのよ?
厩舎の皆に、驚きすぎて腰が抜けたと勘違いをされたのは恥ずかしかったわ・・・。
「可愛いわ・・・」
「本当にすぐ立てるんだね」
産まれてから2時間も経っていないけれど普通に立っているわ。
「グリーズ、おめでとう。子馬はグリーズの色に似たわね」
「ソワールの色は鬣と尾だけだね」
グリーズは鬣と尻尾は濃いグレーだけれど、子馬は体はグリーズと同じ白っぽいグレーで鬣と尻尾は黒なのよ。もっと混ざると思っていたわ。
「お嬢様が名前をつけてあげて下さい」
「男の子かしら?女の子かしら?」
「男の子ですよ」
どうしましょう・・・前世のせいで競走馬しか思いつかないのよね・・・。あの馬は芦毛だったわよね?
ゴールドは何か違うわ・・・ルドシ・・・ドシップは可愛くないわ。でも、あの競走馬から名前をつけたら、やる気にムラのある子にならないかしら・・・不安だわ。止めましょう。
グリーズもソワールも色に関する名前だから・・・夜明け的な・・・。春の夜明け?春は曙?曙・・・。
「オロールはどうかしら?」
「良い名前だね」
「グリーズも良いかしら?」
スリスリしてくれるから良いって事かしら?というか・・・グリーズのスリスリが久しぶりで嬉しいわ!たくさん撫でて褒めて邸に戻ったわ。
*****
嬉しくて午後は凄く仕事にやる気が出たわ。子供が産まれて仕事にやる気が出る男の人って、こんな気持ちなのかしら?
途中でルゥに強制的に休憩を取らされたわ。
「お嬢様はわかりやすく張り切るタイプですね」
「だって、やっと産まれたんだもの」
「お気持ちはわかりますが少し落ち着きましょうね。今日はお嬢様の好きな洋酒のケーキがありますよ」
サロンで洋酒のケーキと焼菓子をお皿に取りコーヒーを入れる。
「グリーズの子でそれでは自分の時はどうするんですか?」
「自分の時・・・・・・」
前世おひとり様のせいで、子供を産むって想像出来ないわ・・・。
「どうしよう・・・想像出来ないわ・・・」
「え?まさか養子・・・?」
授からなければそうなるのだけれど・・・子供・・・。
ついお腹を撫でてしまうわ。まだ・・・していないから授かりようも無いのだけれど・・・。
「ちゃんと子供が出来るのかしら・・・」
何だか急に不安になってくるわね・・・。
「お嬢様は私とは立場が違いますが、あまり考えすぎず授かったらラッキーくらいでいないと、メンタルが持ちませんよ?」
「そうね。領地に帰ってきて薬湯を飲み始めたから」
「あれ飲んでいると出来ないことに焦りますからね。あくまで補助で後は運ですからね!まあ、リュドヴィック様くらい独占欲強かったら、すぐに授かりそうですけど・・・いや、逆に授からないのかな?子供にも嫉妬しそうですし」
「独占欲と関係があるの?」
「お嬢様・・・結婚したら多分、朝起きられませんよ?」
それは・・・寝かせて貰えない的な・・・・・・顔が熱いわ。
今は22時には寝て6時に起きているわ。乗馬をして8時頃から朝食。リュドも剣の鍛錬とかで朝はだいたい同じ感じよね?眠る時間は知らないけれど。
9時頃から昼食や休憩を取りながら晩餐まで仕事をして、サロンでゆっくりして21時前には部屋へ戻って湯浴みをして眠る生活だけれど・・・結婚したらどうなるのかしら・・・?
*****
あの後からずっと自分の子供の事を考えているわ。
どちらに似ても瞳はブルーなのかしら?リュドのお父様はグリーンの瞳だからグリーンの瞳も可能性はあるわよね?
髪色は金髪から明るいブラウンかしら?でも、お爺様はダークブラウンだから・・・そうなると結構幅広いわね。
「リリ、考え事?」
「考え事というか・・・グリーズの出産で仕事を張り切ってしまって、ルゥに自分の時どうするのかって聞かれて・・・」
「子供が出来たら仕事をどうするのか考えてたの?」
仕事がどうなるのかは考えていなかったわ・・・そっちも考えておかなければいけないのに。
「リリ?」
「リュドとの子供は・・・どちらに似るのかしらって・・・」
ちょっと恥ずかしいわ・・・。照れているとリュドの膝に乗せられ。
「俺はどっちに似てもリリに子供が出来たら嬉しいよ」
「私も嬉しいわ。でも・・・あまり想像が出来なくて・・・」
「そのうち自然と考えられるんじゃないかな?」
「そうなのかしら?」
「そういうものだと思うよ」
確かに結婚したら・・・する訳だから想像出来るのかしら?
「そうだわ。リュドと結婚したら・・・・・・朝は起きられないのかしら・・・?」
「それは・・・結婚したらわかるよ」
にっこりと微笑まれたけれど、何度聞いても教えてくれなかったわ。事前に覚悟を決めておきたかったのに・・・。
「朝起きれないと乗馬が出来ないわ・・・」
「乗馬ねぇ・・・必要なくなりそうだけど」
「必要なくなるの?だって執務で動かないのは体に良くないわよ?」
こてりと首を傾げると耳元で「一緒にたくさん運動するでしょう?」と言われたわ。
私は健全な運動の話をしているのよ!リュドの胸を叩くけれど笑われたわ。何故私には腕力がつかないの!
スキルで鉄アレイでも出してこっそり鍛えようかしら?




